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聖王伝  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
165/800

第165話

ギルバートは謁見の間で、昨日の拉致事件の顛末を話す

それは事前に執事と相談して、どの様な事を話すかは決めてあった

それに伴って、犯人である貴族やガモンも捕らえられていた

そうした下準備をして、一芝居まで打ってこうした場で話す事になっていた

それはガモンを糾弾する為でもあり、同時に問題のある貴族を捕らえる為でもあった

ギルバートが話を始めると、数人の貴族は顔色を変えていた

それはガモンが関わっている事もあり、自分達も巻き込まれる可能性があるからだ

自身の保身の為に、貴族達は真剣に話を聞いていた

それは迂闊な事を言って、巻き込まれたくなかったからだ


貴族の視線を一身に受けながら、ギルバートは語った。


「先ず、私達が王都に向かう時の話からになります」

「昨晩の件は?」

「それも話しますが、先ずはこちらが先になります」

「うむ

 先ずは聞こうか」


国王の言葉に頷き、ギルバートは話し始めた。


「私達がダーナを発つに当たり、フランドール殿が領主代行に入りました

 これは国王様もご存知かと思います」

「ああ

 報告は受けておる」


「私の出立に当たり、代行にはなりましたが…

 こう申してはなんですが、フランドール殿は大き過ぎる野心を抱えているご様子です」

「と、申すと?」

「はい

 先ずは私の命を狙っていた様な動きが見られています」

「それは…

 本当か?」


ここは予定されていた筋書きと違うので、国王は本気で狼狽えていた。

それはそうだろう。

領主代行は頼んだが、その人物が先代の領主の子息の命を狙うとは想定していなかったのだ。


「まだ確証は得ていませんが、フランドール殿は私を疎んでいました

 そして…

 王都へ向けての伝令も阻止されて、使い魔も処分されている様子です」

「うーむ」


確かに使い魔が届いていないし、伝令も届いていなかった。

ギルバートが王都に向かうのなら、後に残ったフランドールが伝令を出さないのはおかしい。

それが当の本人が到着した今も、連絡の一つも届いていない。


「確かにおかしな話ではあるが、向こうは向こうで、今は大変な時ではないのか?」

「はい

 ダモンが反乱を企てていた事、私からも使い魔を飛ばしておりました

 それも届いていなかった事は、些か残念でありましたが」


ギルバートの言葉に、国王は驚いていた。


「そなたも知っておったのか?」

「はい

 砦に入った際に、ダモンが自慢げに話しておりました

 ダーナはワシの物になるべきだと…」

「ううむ」


国王は低く唸ると、城壁の警備を調べる様に伝えた。

使い魔が届いていたのに、それを無断に処分した者が居るのなら、それは防備の面でも問題になるからだ。


「すぐに手配をして、城壁の警備に当たる者の素性を調べよ」

「はい」


宰相が頷き、文官の一人が慌ててその場から立ち去った。

それからギルバートは、さらに話を続ける。


「ダモンはまた、こうも申しておりました

 私が廃嫡になった事と、フランドール殿が領主代行になった事です」

「うん?」

「私が廃嫡になった事は、王都ではまだ話していませんよね?」

「ああ」


「ダモンがそれを知っていたとなると、王都から情報を得た事になりますよね?」

「そうなるな」

「王都で公表されていないとなれば、王城から情報が洩れていた事になります」

「うーむ…」


国王は渋い顔をして、唸っていた。


「この話をお伝えした上で、昨日の話になります」

「うむ」


ここでギルバートは、昨晩の話を始めた。


「私が王都に向かっている話は、使い魔が届いていない以上、知る者は居ませんでした」

「そうだな」


「その上で

 私はバルトフェルド様の元にお伺いして、早馬を出していただきました

 その返信として、王城からの迎えの兵士が来ました」

「それなんだがな

 ワシはその話を聞いておらん」

「そうです

 私も手配はしておりません」


国王と宰相が知らないと言い、ギルバートも頷いていた。


「はい

 兵士は確かに宰相様からの指示と言っておりましたが、直接の指示ではありません

 どこから指示が出ていたのか、それは調べなければなりませんね」


ギルバートの言葉に、文官がメモを取る。

今回の件は、王城にも内通者が多く居る様子だ。

それを踏まえて、詳しく調べる必要があった。


「それで王都には入れたのですが、そこで問題が起きました」


ここでアーネストが話を引き継ぐ。


「ここからは私が話させていただきます」

「うむ

 頼むぞ」


「ギルバートが王都に着いた時、王城から宰相様に命じられたと言う兵士が来ました

 彼等はエストブルク卿の兵士だと名乗り、貴族の命だと言ってギルバートを連れ去りました」

「それは本当か?」


国王が貴族の方を向くと、一人の気の弱そうな男が慌てて首を振った。


「そんな話は聞いていません

 私は昨日登城していましたが、兵士は連れていませんでした

 それに、もし連れていたとしても、いかな宰相の命とは言え兵士を使いに出すなど…」


国王は、今度はアーネストの方を向いて、静かに尋ねる。


「だそうだが?」

「はい

 私もエストブルク卿の兵士が今回の件に、関わっているとは思っていません」


「しかしそうなると、賊は貴族の名を騙った事になるが?」


国王の言葉に、アーネストは頷く。


「昨夕登城の方はお知りだと思いますが、私達はすぐに兵士達を追いました

 しかし見付ける事が出来ずに、王城へ向かいました」

「うむ」


「そこで宰相様にお力を借りて、騎士を動かしていただきました」

「そこからは昨日の、登城していた者も知らない話になるな」

「はい」


ここで国王は言葉を切り、改めて貴族達の様子を見てみる。

案の定、ほとんどの貴族は話の続きを期待して見ていたが、数人の貴族は不満そうにしていた。

その貴族達こそ、ガモン商会に繋がりがある貴族達であった。


「私は策を用いて、今回の拉致に関わった兵士達を誘き寄せる事に成功しました」

「うむ」

「その兵士達は、ベルモンド卿の兵士だと名乗っていました」


アーネストがそう伝えたところ、数人の騎士が声を上げた。


「何だって?」

「ベルモンド卿が関わっていたのか?」


数人の貴族は、全く知らなかったという態度であった。

しかし一人の貴族は、全く違う態度を示していた。


「そんな話は出鱈目だ!

 どうせその小僧が、ベルモンド卿を貶めようと画策したんだろう」

「アルザス卿

 止しなさい」

「陛下の御前ですよ」


先の貴族の件もあって、周りの貴族が止めようと窘める。

しかしアルザス卿は、それでも止めなかった。


「何が拉致だ

 そんな証拠が何処にある?」

「ベルモンド卿の邸宅で、証拠は差し押さえました」

「はあ?」


アーネストの答えに、アルザス卿は間の抜けた顔で驚いていた。


「騎士の協力を得て、私はベルモンド卿の屋敷に捜索に入りました」

「何の権限が有って…」

「国王様の命です」

「な…」


国王からの命と聞いて、さすがにアルザス卿も文句は言えなかった。

悔しそうに唇を噛むが、それ以上の文句は言えなかった。


「それでは続けますね」

「うむ」


「ベルモンド卿をの屋敷に入った私は、数々の証拠を押さえました

 それはギルバートの拉致もですが、貴族の子息の誘拐の件でもありました」

「何だと!!」


これにはさすがに、アルザス卿も驚いていた。

周りの貴族も驚き、数人の貴族は顔を青くしていた。


「そこにはガモン商会からの書類もあり、誘拐した貴族の子息を、奴隷として授与すると…」

「そんな馬鹿な!」


一人の貴族が取り乱して、周りの貴族が押さえる。


「ワシの、ワシの息子が…

 奴隷にだと?」


どうやら子息が攫われた貴族の様で、数人の兵士に連れられて退出した。


「度々すまないな」

「いえ

 これは陛下の落ち度では無く、知らぬとは言え、私の配慮が足りませんでした」


アーネストが頭を下げて、謁見の間に居る全ての者に、謝罪の言葉を述べた。


「続けてくれ」

「はい」


「ベルモンド卿でございますが、以前から貴族の子息の誘拐に加担していた模様です

 その件については、証拠は騎士に預けました」

「はい

 確かに受け取っています」


宰相が答えて、証拠を受け取った事を示す。

これでガモン商会と、ベルモンド卿が誘拐を起こしていた事が暴かれた。


「ワシも話のあらましは聞いておるが、由々しき事態であるな」


国王はそう言って、先ほどのアルザス卿をもう一度見た。

アルザス卿は顔を青くしており、彼がガモン商会と関りがある事が目に見えて分かった。


「ガモン商会にも兵は回しておる

 今日の謁見は、その事も関係がある」


国王のその言葉に、数人の貴族が顔色を変えた。

先ほどからギルバートやアーネストに対して、反発する様な発言をしていた貴族達だ。


「私からの話は、以上になります」

「うむ」


国王は頷き、再びギルバートの方を見た。


「他に報告はあるか?」

「はい」


再びギルバートに視線が集まり、今度はどんな話が出るのか興味津々であった。


「その拉致についてですが…

 そこで聞いた情報と、そのう…」

「何だ?」

「ご家族の方には残念なんですが…」

「そうか…」


国王は察して、深い悲しみを顔に浮かべた。


「その事は別に報告してくれ

 今は情報の方が重要であろう」

「はい」


「私が捕まっていた牢では、私を殺す様に指示が出ていた様です」

「それは?」

「どうやら、私を殺して、ダモンがダーナを攻め取り、新たな領主になるという筋書きだったみたいです」


ギルバートの報告を聞いて、国王は溜息を吐いていた。

もしそれが、上手く行ったとしても、ダモンがダーナの領主になる事はあり得ない。

それどころか、ダーナを攻める意思を見せた時点で、彼は反逆者となるのだ。

王国軍が攻めて来る事はあっても、領主に認める事などあり得ないのだ。

その有り得ない事を、出来ると思って事を起こしていたのだ。

国王がため息を吐きたくなるのも分かるだろう。


「浅はかな考えだ」

「ええ

 ですが、その浅はかな考えを、本気で実行していたんです」


国王はそれを聞いて、宰相の方を向いた。

宰相は頷き、文官の一人に合図を送った。

文官が小走りに入り口に向かい、騎士が扉を開ける。

そこには派手な服を着た、小柄な老人が縛られて連れて来られていた。


「ガモンを連れて参りました」


宰相の言葉に、国王は頷く。


「国王様

 これは何の冗談ですか?」


ガモンは一介の商人とは思えぬ、堂々とした態度をしていた。

国王を前にしても、跪く事もせず、罪人として縛られている事を非難していた。


「ワシにこんな事をして

 いくら国王と言えども、許されん事じゃぞ」


ガモンは苛立ちながら、強気な発言をしていた。

その様子から、もしかして彼は無関係では?と思う貴族も居た。

しかし国王は、静かに告げた。


「ガモンよ

 今日は罪人として召喚した

 ワシの決定に不服かな?」

「不服も何も、何でワシが犯罪者などと…」

「ベルモンドが白状したぞ」


一瞬、国王の言葉にガモンは詰まった。

しかしガモンは、尚も関係無い振りをした。


「それとワシが、何の関係があると?」


国王は溜息を吐くと、静かに告げた。


「既に貴様の屋敷は調べて、証拠は押さえておる

 貴族の子女を誘拐しては、他の貴族に奴隷として与えておったな?」

「な!」


ガモンは答えに窮した。

それを見て、国王は更に畳みかける。


「既にアルザスやダルベルトの屋敷にも、捜査の手は入っておる」

「国王!」

「そんな!」


数人の貴族達が顔色を変えて、国王の方を向いた。

彼等も誘拐に加担していて、それで奴隷を得ていたのだ。

捜査の手が自分達にも向けられていると知り、絶望的な顔をしていた。


「捏造だ!

 そんな証拠など、幾らでもでっち上げれるだろう」

「ギルバートも無事に、こちらに来ておる」


国王がそう言って、ギルバートの方を見た。

それでガモンは気が付き、ギルバートを鋭く睨み付けた。


「この小僧が…」


ギルバートもガモンの方を見たが、興味が無いのですぐに視線を戻した。


「国王よ

 こんな小僧の為に、ワシを切るつもりか」

「元より、貴様のしていた事には気が付いていた

 それが今回の事で、逮捕が早まっただけの事」


国王は冷たく言い放ち、ガモンを汚い物を見る様に見た。


「おのれ…

 ワシが居らんと、王都の財政は破綻するぞ」

「貴様の様な罪人に支えられる様な、脆弱な財政では無いわ」


国王は一喝すると、貴族とガモンを見ながら指示を出した。


「こ奴等を縛り上げて、連行しろ!

 念入りに調べて、行方不明の者の所在を吐かせるんだ」

「はい」


騎士と兵士が出て来て、貴族とガモンを連れて行った。

それらの騒ぎが収まってから、国王は再びギルバートの方を向いた。


「せっかくの再会であったのに、つまらぬ事に巻き込んですまなかった」

「いえ

 私も当事者でしたので、陛下の差配で助かりました」


ギルバートの言葉に、国王は満足そうに頷いた。


「それでは、改めて謁見に入ろう」


「ようこそ

 アルベルトが息子、ギルバートよ」


国王の言葉に、ギルバートは丁寧なお辞儀をしてから応える。


「アルベルトが息子、ギルバート・クリサリス

 只今参りました」


貴族達が拍手をして、歓迎の挨拶が交わされた。


「ようこそ、クリサリスへ」

「よくぞ参られた」

「我々は貴殿を、歓迎致しますぞ」


こうして報告も無事に済まされて、謁見は無事に終了した。

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