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聖王伝  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第162話

アーネスト達が商店の前に到着した時、そこは既に修羅場と化していた

店先には人が吹き飛んで来て、そのまま気を失っていた

見れば一撃で殴り飛ばされて、そのまま店先まで飛んで来ている様子だった

顔には大きな跡が残っており、白目を剥いて倒れている

外に3人が倒れていて、店の中では騒音が続いていた

ギルバートは、ドアを開けると素早く部屋に躍り込んだ

ドアが開いた音に、扉の近くの男が振り返る

ギルバートはその男の顔を、手に持った棒で思いっきり殴り付けた

男が呻いて倒れる隙に、すぐに次の男の前に踏み込む

部屋は小さな倉庫の様になっていて、籠や木箱が積まれている


「何だ、貴様は…ぐふっ」


男は棒で殴られて、そのまま白目を剥いて倒れる。

ギルバートはそのまま扉を蹴り上げて、次の部屋に向かった。


そこに出ると、周囲の雰囲気は変わっていた。

その部屋はカウンターに荷物が並んでいて、商店の様だった。

そのカウンターの向こう側に、荒くれ者といった感じの男達が8人、席に座っていた。

どうやら酒盛りをしていた様で、酔った顔でドアの方を向いていた。


「何だ?」

「小僧…

 どうしてここに?」


男達が気が付いて、一気に酔いが冷めた様子だった。

男達に囲まれる前に、ギルバートは一気にカウンターに飛び乗り、店の入り口に向かった。

先ずは入り口に近付いて、退路を確保する事が重要だからだ。


「貴様!」

「逃がすか!」


男が二人、慌てて入り口の前に立ちはだかった。

しかしギルバートは、先ずは左の男の顔を殴り付けた。

男は殴られた衝撃でドアに当たり、そのまま外へ投げ出された。


「ぐはっ」

「くそお!」


右の男が手斧を振り被り、ギルバートは思わず棒で弾こうとした。

しかし棒は折れてしまい、慌てて攻撃を避ける。

そこへ後ろから、他の男が殴りかかって来た。


「この野郎!」

「ふん」


ギルバートは躱し様に胸倉を掴んで、そのまま入り口に叩き付けた。

ドアが壊れて、その男も気を失った。


手斧を持った男が、再び斧を振り翳す。

それを受ける前に、ギルバートは踏み込んで鳩尾に打ち込んだ。


「ぐぇほっ」

「ふう」


振り返ると、残りの男達は手に武器を持って身構えていた。

先の戦闘の様子を見て、これは手強いと確信したからだ。


「かかって来い」


ギルバートは挑発するが、男達は身構えてゆっくり近付く。

武器を手にしているので、素手のギルバートよりは有利だと思っているのだ。

そこでギルバートは、一気に踏み込んで右の男に近付く。


「くっ!」


男が剣を振り上げるよりも早く、ギルバートは男の顔を殴り付ける。


「ぐはっ」

「それっ!」


ギルバートは男の胸倉を掴んで、隣の男に投げ付ける。


「おわっ!」


男が怯んだ隙に、そのまま殴り飛ばす。


「げぼっ」

「うわあ」


男が殴られた拍子に、そのまま隣の男に叩き付けられた。

そのまま二人は倒れて、すぐには起き上がれなかった。


「くそっ」

「こいつ、手馴れていやがる」


残る二人の男が、剣を振り被って向かって来た。

それを躱しながら、左の男を殴り付けた。

男はそのまま飛んで、入り口から外へ投げ出された。


そこで外が騒がしくなり、集団が入り口から入って来た。


「ギル

 大丈夫か?」


アーネストの声がして、救援が来たと分った。

ギルバートも叫び返して、無事を相手に伝えた。


「大丈夫だ

 先ずはこいつ等を倒そう」

「分かりました

 我々にお任せを」


騎士達が前に出て、残る一人の男に切り掛かった。

男は右手を切り飛ばされて、その場に蹲った。


「ぎゃあ!」

「そっちも押さえろ

 一人はまだ気絶していないぞ」


倒れた男の下敷きになった男が、騎士達に囲まれる。

男は観念したのか、剣を手放して素直に立ち上がった。


「他の男達も拘束します」

「奥に向かってくれ

 カウンターの奥に、地下への階段がある」

「はい」


騎士は頷いて、そのまま地下へと向かって行った。

程なくして、騎士が男達を拘束して戻って来る。

その顔には、無念そうな顔色が浮かんでいた。


「ギルバート殿

 牢屋は確認しましたか?」

「いや

 詳しくは見ていないけど?」

「そうですか…」


ギルバートは騎士達の様子を見て、腑に落ちなかった。


「何かあったんですか?」

「ええっと…

 奥の牢屋の中の、布に包まれた物ですが」

「ああ

 そういえば、布に包まれた物が幾つか…

 え?」

「見ていないなら良いんです

 報告は我々でしておきます」


ギルバートが尚も、理解出来ずに佇んでいると、アーネストが小声で告げた。


「亡くなった者がいたんだろう」

「え?

 それじゃあ…」

「ああ

 その包が全て、殺された者達だろう」


布の包は5つ転がっていた。

そうなると、5人は死んでいる事になる。


「良かったよ

 お前がそうならなくて」

「アーネスト…」


「まあ

 お前なら大丈夫だとは思っていたがな」


アーネストは明るく話していたが、内心は焦っていたのだ。

それが証拠に、騎士達が止めるのも聞かずに商店に飛び込んだのだ。


既にギルバートが暴れていて、ならず者が少なくなっていたから良かったが、一歩間違えればアーネストが人質になっていたかも知れない。

それもあって、現場に飛び込んだ騎士達も、そこが制圧間近であった事で安堵していた。


「何はともあれ、無事で良かったです」

「さあ、王城に急ぎましょう」


「それは良いんだが…

 こいつ等は何者なんだ?」

「ガモン商会が雇った、ギルを拉致して殺す為の者達だ」

「ガモン商会?

 それならば、そのガモンを捕らえなければ…」


ギルバートは心配していたが、アーネストは安心する様に言った。


「大丈夫だ

 そっちにも兵士が向かっている

 今頃は捕まえている頃だろう」


アーネストの言葉を聞いて、ようやくギルバートも安心した。


「そうか

 それなら大丈夫そうだな」

「ああ

 だから今は、王城へ向かう事にする」


アーネストがそう言っていると、一人の兵士が走って来た。


「大変です

 ガモン商会を見張っていたんですが、応援の兵士が襲って来ました」

「何だと?

 どこの兵士だ?」

「分かりません

 しかし貴族の私兵だとは思います」


兵士の報告を聞いて、騎士は険しい顔をする。


「くそっ

 こんな時に…」

「それで?

 お前はどうしてここに?」

「はい

 宰相様からの伝言で

 このままガモン商会に向かって欲しいんです」


「宰相からか…」

「はい」

「合言葉は?」

「サルザートの口は臭い、です」


騎士はニヤリと笑うと、兵士に近付いて腕を締め上げた。


「ぐっ

 何をするんですか」

「何をするのかは、こっちが聞きたいな」


騎士の言葉に、兵士は驚いた顔をした。


「さあ

 どこを通って案内する気だったんだ?」


兵士は青ざめながら、必死に顔を逸らそうとする。

しかし眼が向いた先を見て、騎士は指示を出した。


「あそこの路地に待ち伏せしている様だ

 他の路地から回って、奇襲を掛けるぞ」

「ぐふっ」


騎士は男を殴り付けて、気絶させてから縛らせた。

それから仲間を数名連れて、男が見ていた路地の向こうに向かった。


その間に残った騎士達は、男達を一ヶ所に集めて縛った。


「これでよし」

「後は警備の兵が来るので、そちらに任せましょう」


騎士達が男達を縛っている間に、ギルバートはアーネストに確認していた。


「さっきの合言葉は?」

「ああ

 会話を聞かれている可能性があったからな

 偽の合言葉をわざと言ったのさ」

「なるほど」


「連中はまんまと引っ掛かって、こちらの策に掛かったのさ」


アーネストはそう言うが、ギルバートは気になっていた事があった。


「しかしそうなると、国王様のそばに敵が潜んで居る事になるのでは?」

「そうだな」

「そうだなって…」

「これが伝わった事で、聞き耳を立てていた者は分かる」


アーネストは罠を仕掛けた事で、掛かった者から特定が出来ると思っていた。

だからこの事も含めて、国王に報告する必要があった。


「そうなると、国王様の身にも…」

「大丈夫だ

 あちらにも騎士は控えている

 今はそれよりも、一刻も早く無事な姿を見せて、国王様を安心さてあげてくれ」


「分かったよ…」


アーネストがそう言うので、ギルバートはそれ以上は問わなかった。

それに国王が心配しているとなれば、早く顔を見せて安心させた方が良いだろう。

何せ彼が、ギルバートの本当の父親なのだから。


少し待っていると、奇襲に向かった騎士達が戻って来た。


「無事に済んだ様だな」


アーネストの言葉に、騎士達は笑顔で応えた。


「アーネスト殿の策が、見事に当たりました」

「あちらに20名ほど集まっていましたが、奇襲して制圧出来ましたよ」

「おかげでガモン商会に向かった兵士達も、背後からの奇襲を受けずに済みました

 あちらも無事に片付きそうです」


騎士はそれだけ言うと、縛り上げた男達を睨み付けた。


「こいつ等をここで、殺す事は簡単です」

「しかし証拠を集めるには、こんな奴等でも生かしておかなければなりません」


「さあ、後は警備兵に任せて、我々は王城に向かいましょう」


騎士がそう言っている間に、騒ぎを聞きつけた警備兵達が集まって来た。


「これは…一体?」

「こいつ等は、先の貴族の子息の誘拐の犯人達だ

 王城に連れて行ってくれ」

「こいつ等が…」


「頼んだぞ」

「はい」


騎士に頼まれたので、警備兵達はすぐさま馬車を取りに向かった。

これだけの人数だ、引き連れて歩く事は難しいだろう。

それに引き連れるだけなら、騎士がやっても良かったのだ。

そうしなかったのは、まだ襲撃される危険性があったからだ。

如何に騎士の腕が立とうとも、男達を連れながら襲撃者と戦うのには無理があった。


幸いにも道中では、それ以上の襲撃は無かった。

こうしてようやく、ギルバートは王都クリサリスの王城の城門を潜った。


そこはリュバンニの砦よりも大きくて、豪華に飾り付けられていた。

大きなホールから入ると、正面に大きな通路が伸びていた。

その両脇には扉があり、そこには兵士や騎士が控えていた。

ホールの両脇にも通路があり、そこには貴族達が控える部屋や、文官が仕事をする部屋もある。

そのまま通路を進んで、大きな階段を登って行く。


階段を登ると、再び大きなホールがあった。

その奥に大きな扉があり、その扉には王家の紋章が刻まれていた。


「さあ、どうぞ」


騎士が両脇に立ち、扉がゆっくりと開かれる。

時刻は間もなく夜中の零時なろうとしていて、そこには二人の男性が待っていた。

一人は玉座に座っていて、もう一人はその傍らに立っていた。

立っている男性は若くて、まだ中年といった感じであった。


男性は短く刈った金髪で、掘りの深い顔をしていた。

眼は強い意思を宿しており、鋭い眼差しをしていた。

彼がどうやら宰相のサルザートであるらしい。


玉座に座っているのが国王である、ハルバートであろう。

アルベルトよりも年が上であるらしく、金色であったろう髪は、既に銀に近い色になっていた。

顔には皺が多く刻まれていて、その表情は深い悲しみを示していた。


「国王様

 無事にギルバート殿を発見致しました」

「何!」


国王は顔を上げると、その顔から悲しみの色が消えて行く。


「おお…」

「ギルバート・クリサリス

 只今登城致しました」


「お前が…

 さあ、もう少し近くに」

「はい」


ギルバートは一旦、謁見の間の入り口で跪いていた。

しかし国王に促されて、少し前へ出た。

その顔が燭台の明かりに照らされて、ハルバートの眼に映った。


「おお…

 まこと、アルベルトによく似ておる」

「はい」


「そんな他人行儀にせず、もう少し前に来ておくれ

 お前は…」

「陛下!」


宰相が鋭く短く告げて、国王は正気を取り戻した。


「あ…」

「ギルバート殿

 こちらへお越しください」


宰相が促すが、ギルバートは躊躇っていた。

相手は叔父に当たるが、それでも一国の王なのだ。

迂闊な事は出来なかった。


「良いのだ

 もう少し前に出て、その顔をよく見せておくれ」

「はい」


国王にも促されて、ギルバートは止む無く前へ出る。

そうして玉座の前に来て、跪いてから顔を上げた。


「誠に…

 若い頃に見た、アルベルトにそっくりじゃ」


ハルバートはニッコリと微笑み、その目には涙が浮かんでいた。


「陛下

 今宵はもう、遅うございます

 謁見は明日に、改めて行いましょう」

「しかしサルザート

 ワシはもう少しこの子と話して…」

「陛下

 ギルバート殿もお疲れでしょうし、改めて、明日にしましょう」

「そ、それは…」


ハルバートは尚も何か言いたそうであったが、諦めて断念した。

ここで無理をするより、明日から時間を作れば良い。

そう考え直して、国王は頷いた。


「分かった」


国王はそう言うと、静かに玉座から下りた。


「明日は10時に謁見を行う

 それまではゆっくりと休んで、旅の疲れを取ると良い」


ハルバートはそう言って、玉座の奥の部屋に向かった。

そこが国王の居室であり、その奥に寝室があった。


「さて

 ギルバート殿もお疲れの様ですが

 先ずは湯浴みをされて、旅の埃を落としてください」


サルザートがそう言って、手を叩いて合図をする。

奥から執事が現れて、畏まって挨拶をする。


「私はドニスと申します

 ご逗留中は、私に何でもお申し付けください」

「分かったよ

 それではドニス、浴場に案内してくれ

 それと…」

「はい

 食事の準備も出来ております」


さすがは王家の執事であった。

事情を聞いていたので、こんな時間でも食事の用意をしていた。


「それではアーネスト殿も

 こちらで一緒に休んでください」

「分かりました

 よろしくお願いします」


アーネストは丁寧に、ドニスに向かって頭を下げた。

アーネストはまだ、叙爵もしていないし、ここではギルバートのおまけであった。

それを理解しているので、ここまでへりくだった態度をしているのだ。


実際は王家にとっては、ギルバートを救ってくれた恩人になる。

それに貴族の子息を救った功績もあるので、賓客として扱っても良いのだ。


しかし、物事には何事も順番がある。

褒賞や叙爵の件も含めて、謁見してからでないとマズいのだ。

そうしなければ、貴族達が黙っていないからだ。

アーネストもそれが分かっているので、大人しくおまけとして振舞っていた。

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