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聖王伝  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第158話

夕方前に、王都からの迎えの馬車が着いた

馬車はリュバンニの町の入り口に到着して、そこで待っていた

ギルバートはアーネスト共に向かい、馬車に乗り込む為に町を出る手配をする

そこにはバルトフェルドも来て、出立の見送りをしてくれた

バルトフェルドの横にはフランツも来ていて、不満そうな顔をしていた

ギルバートが乗って来た馬車は、後ろに着いて一緒に向かう事になる

馬車は出発前に点検していて、氷もしっかり確認されていた

いよいよ出発するという時に、フランツが前に出て来た

何か言いたそうにして、ギルバートの顔を見る


「さあ

 フランツ」


バルトフェルドに促されて、フランツは意を決して声を出す。


「王都で待っていろ

 必ずボクも行くから

 その時は…」

「フランツ」


予定していた言葉と違って、未だにフランツは好戦的な言葉を投げ掛ける。


「次に会った時は

 必ずお前に勝ってやる」

「ああ

 楽しみにしているよ」


ギルバートは微笑んで、小さな挑戦者の言葉を受け取った。


「そしたら…友達になってやる」


フランツは恥ずかしそうに、小声でボソリと呟く。

それはギルバートには聞こえていたが、敢えて聞こえなかった振りをした。


「え?

 何だって?」

「何でも無い」


フランツはそう言うと、顔を赤くして引っ込んだ。

バルトフェルドはやれやれといった感じに手を挙げて、首を振っていた。


「それでは、行って参ります」

「ああ

 気を付けてな」


それは旅の事ではなく、王都に潜む危険な者達の事であった。

いくらなんでも、王城からの迎えの馬車には何もしないだろう。

しかし王城に着いてから、何か仕掛けて来る可能性はあった。

それがガモンの手の者か、それとも息が掛かった貴族の配下かは分からない。

しかし分からないからこそ、油断は出来なかった。


「はい」

「無事に戻って来て、また話を聞かせてくれ」


バルトフェルドと固く握手を交わして、ギルバートは馬車に乗った。

あまり長引かせると出立しにくくなるし、仕事を代わりにしているマーリンが可哀想だからだ。

バルトフェルドと門番達は、去り行く馬車に手を振っていた。


「ねえ、父上

 あいつ…あの人は、本当に強いの?」

「うん?」

「父上の剣を、ボクは見えなかった」

「そうだな」


バルトフェルドは、実は結構本気で振っていた。

大人気ないと思われるだろうが、簡単に避けられてムキになっていたのだ。

それでもギルバートは、まだ余裕がある様に見えていた。


「ワシの本気の剣を、あれだけ躱せる

 フランドールでも無理だろう」

「本当に?」

「ああ」


「ボクが本気で頑張ったら…

 あんな風になれるかな?」

「そうだな

 彼が出来たんだ、きっとお前も…」


バルトフェルドはそう言いながらも、息子には無理かも知れないと思った。

あれだけの動きをしていたのは、帝国でも腕利きの将兵ぐらいだろう。

そこまでの腕となると、努力だけではなれないだろう。

才能があって、それで努力をする。

そうしてやっと、あそこまでの技術が身に着くんだろう。


「彼は魔物と戦い、あそこまで強くなったと言っていた

 人間相手では、あそこまでは強くなれないのかも知れないな」

「なら

 ボクも魔物と戦いたい」

「はははは

 しかしそれには、ここが魔物に襲われる事になるぞ

 ワシはそれを望まんがな」

「う…」


意気消沈するフランツを見て、バルトフェルドはダーナに修行に出そうかと考えていた。

フランドールが内乱を片付けたら、彼の元で修行させるのだ。

兄と慕うフランドールの言う事なら、フランツも素直に聞くだろう。


しかしそれには、先ずは眼前の問題を解決しなければならないな

内乱もそうだが、ギルバート殿との確執もある

問題は山積みだな


バルトフェルドは、これから片付けなければならない問題を考えて、溜息を吐いていた。

そんな父の心情も知らずに、フランツは魔物を倒す自分を想像して、胸を躍らせていた。


ギルバートを乗せた馬車は、何事も無く王都へと着いた。

些か拍子抜けだったが、先ずは無事に着いた事で安堵していた。


王都の城門は大きく、高さは3mもあった。

その城門を囲む様に、4mほどの高い城壁が遠くまで伸びている。

聞いた話では、全長で2㎞はあるそうだ。


王都の城門に着くと、兵士達が引継ぎの話をしていた。

ここから交代して、他の兵士が城まで案内してくれるそうだ。


「ここからは我々が案内します」

「待ってくれ、我々が頼まれた仕事だぞ?」

「聞いていないのか?

 ここからは、我々エストブルク様の兵が案内する事になっている」

「そんな話は聞いていないな」


「どうしました?」


何やら揉めている様子なので、ギルバートが窓から顔を覗かした。


「いえ、どうやら手配違いの様で

 ここからは我々が案内します」


城門で待ち構えていた兵士が、そう言って押し切る。

最初の兵士達も何か言いたそうだったが、諦めたのかそのまま引き下がった。


「手配違いって大丈夫なんですか?」

「ええ

 我々はエストブルク卿の兵士です

 安心してお任せください」


そのエストブルク卿というのが誰か分からず、ギルバートは首を捻っていた。

この時、アーネストが横に居れば良かったのだが、アーネスト後ろの馬車に移っていた。

もうすぐ到着するので、もう一度氷の様子を確認しに行ったのだ。


そうこうする間に、ギルバートの乗った馬車は急に走り出した。


「うわっ」


何とか体制を立て直すが、馬車は速度を上げて進んだ。


「で?

 こりゃあどういう事なのかな?」


ギルバートは檻に入れられて、途方に暮れていた。

馬車が着いた先で、武装した騎士に囲まれていた。

武器は後ろの馬車に乗せていたし、騎士の人数も多かったので、一先ずは黙って従っていた。

そうしていたら、そのまま牢屋へと入れられてしまった。

ここがどこなのか?

何で牢屋に入れられたのか分からない。

しかし確実に言える事は、何某かの陰謀に巻き込まれたという事だろう。


「弱ったなあ」


ギルバートは独りぼやくが、今のところは情報が少なかった。

迂闊に動く事が出来ない以上は、事情が分かるまでは待つしか無かった。


兵士達も、急な馬車の移送に驚いていた。

後を追おうにも町中の追跡では、馬で追うわけには行かなかった。

すぐにアーネストは、交代した兵士達に詰問した。


「どういう事ですか」

「さ、さあ?

 我々も詳しくは…」

「そうです

 エストブルク卿の兵士だとしか…」

「エストブルク卿?」


「この王都の東にある、小さな町の領主です」

「その領主が、何でギルを

 ギルバートを連れて行くんです?」

「さあ?」


兵士達にも分からなかった。

しかし相手が貴族である以上、迂闊には逆らえなかったのだ。


「相手は小さな町の領主様ですが、貴族なんです

 私達では…」

「そうですか…」


アーネストは止む無く、王城へ向かう事にした。

先ずは事態を報告して、どうしてこうなったかを確認する必要がある。


「兎に角、王城へ急ぎましょう

 あなた達が案内を頼まれていたんですよね?」

「それはそうですが…」

「ここで交代と…」

「交代?

 誰と?

 その交代と言った奴等は、ギルを連れて逃げたんですよ?」

「それはそうなんですが…」


まだ口籠る兵士達を急かして、アーネストは王城へと急がせた。


「あの兵士達が本物なら、ギルは王城へいるでしょう

 しかし偽物なら…」

「偽物なら?」

「それを知る為にも、急ぐんです

 さあ、早く!」

「は、はい」


兵士を先導させて、アーネストは馬車で町中を急いで進んだ。

しかし町中なので、思うようには進めない。


「くそっ

 人が多過ぎる」

「奴等は何故?

 どうやって進んだんでしょうか?」

「分からん

 分からんが、相当危険な行為をしてでも進んだんだろう

 でなければ、これだけの人を避けさせて進むのは難しい」


しかし理由は簡単だった。

向こうは王家の紋章が着いた馬車だ。

その馬車が怒鳴りながら走って来れば、一大事だと思って人波も別れて進めた。

しかしこちらは、貴族の紋章と言っても地方の貴族だ。

住民達は興味は持っても、わざわざ道を空けようとはしなかった。

馬車はゆっくりと、人波を避ける様に進む。


「くそっ

 どうしてこんなに混雑…」

「アーネスト

 ここは王都だ、ダーナじゃないんだ

 今は我慢しろ」

「そうだぞ

 無理して押し通れば、今度はこっちの身が危なくなる」


心配した王都の兵士達が、住民達に聞き込みをしてくる。

しかし入って来るのは、馬車がどけどけと怒鳴りながら走ったという情報だけだった。

肝心の馬車の行方は、王城の方へ向かったとしか分からなかった。


「王城の方向と言っても、こっちには貴族街もあるだろ」

「ええ、そうです」

「あのお…

 もしかして、以前にも王都へ?」

「ああ

 住んでいたから、その辺は分かっている」


「それなら、貴族街ではこの時間帯は…」

「ああ

 人通りも少ないから、目撃情報は無いだろう」

「ええ

 あの馬車が何処へ向かったのか?

 王城へ入ったのかも分かりません」


「くそっ

 どうしたら良いんだ」

「しかし、こんな堂々とした連れ去りは初めてで…」

「ん?」


「ですから、確かに貴族の令嬢やご子息が行方不明にはなっていますが、こんな堂々とは…」

「今、何と言った」

「え?」

「貴族の令嬢や子息が行方不明になっているのか?」

「は、はあ」


「そんな事件が起こっているのに、お前達は奴等に、ギルを預けたのか?」

「え?」

「それは…」

「相手は貴族の兵士を名乗ったんですよ?」

「本物ならな」

「あ…」


アーネストは頭を抱えていた。

これがその、連れ去りの犯行なら簡単だろう。

いざとなれば、ギルバートが自力で何とか出来るだろう。

何せ身体強化を使えるのだ、並みの大人なら敵わないだろう。

しかし、相手が連れ去りに見せかけた別勢力だと問題だ。

相手が何者で、何を考えて行動したのかが分からないからだ。


数百mの街路を進み、町中を抜けて貴族街に入る。

予想通り、ここには人気がほとんどなく、馬車の姿も見えなかった。


「やはり、王城に入ったんでしょうか?」

「それなら良いんだが」

「急ぎましょう」


貴族街は人通りも無いので、急いで走っても問題は無い。

もし、呼び止めて苦情を言われても、こちらは国王に呼ばれているのだ。

それを告げれば、貴族も文句は言い難いだろう。


貴族街はすんなり抜けれたが、既に連れ去られてから1時間ぐらいの時間が経っていた。

町中で進めなかったのが、思った以上に時間を掛けていた。

既に日は傾き、そろそろ夕日が沈む時間になっていた。


王城の門は、跳ね橋を渡った先にある。

王城の周囲には堀が掘られていて、簡単には忍び込めない様になっているのだ。

その跳ね橋の前に詰所があり、兵士が見張りをしていた。


「こんな時間に、何用だ?」

「はい

 ダーナ領主アルベルト様のご子息、ギルバート様をお連れしまして…」

「うん?

 ダーナ?」

「はい

 辺境伯のダーナです」

「そんな話は…

 聞いていないな」

「え?」


王都の兵士は、驚いて絶句していた。

これは王命として下されており、兵士もそれで出ていたのだ。


「そんな筈は無い

 私達は王命で、リュバンニの町までお出向かいに出ていたのだ」

「それは…

 誰の指示なんだ?」

「それが宰相殿からだと…」

「本当か?

 確認をする」


番兵は詰所に入り、暫くしてから兵士が、慌てて王城へ向かって行った。


「今、確認をしている

 悪いが暫く、このまま待ってくれ」

「それは良いが、他に馬車は来ていないか?」


番兵の態度に苛つきながら、アーネストが馬車から顔を覗かせた。


「このお方が、辺境伯のご子息か?」


番兵はアーネストの恰好に、不審そうな眼を向けていた。

それはそうだろう。

アーネストの恰好はローブで、魔術師らしい恰好をしていたからだ。

およそ貴族の子息の恰好には見えないだろう。

しかし、兵士の返答を聞いて納得した。


「いえ

 この方はお連れの方で…」

「そんな事はどうでも良い

 ここに馬車が来たのか、来なかったのか?」

「アーネスト殿

 落ち着いてください」

「一体どうしたと言うんだい?」


番兵は、今度は別な理由で訝しんで見ていた。


「実は…」

「そのご子息様が乗られた馬車が奪われて…」

「こちらに向かったとは思われるのだが、見ていないか?

 王家のお迎え用の馬車なんだが」

「何だと!

 それは問題ではないか

 しかし…」


兵士が事情を説明して、それらしい馬車が通らなかったか確認する。

しかし残念ながら、馬車はここを通っていなかった。


「今日はそういった話は出ていないし、見てはいないぞ

 いつ頃の話だ?」

「つい1時間ほど前の話だ

 我々は人波に飲まれてしまい、追跡が出来なかった」

「うーむ

 それなら私が入る前になるな

 幸い昼の者がまだ残っている

 事情を聞いてくる」


番兵はそう言って、再び詰所に向かった。

程なく他の番兵を連れて戻り、話を聞く事が出来た。


「ええ

 確かに王家の馬車は出ました

 しかし…お迎えの話は聞いていませんよ」

「何だって?

 それじゃあ、我々が受けた命は?」

「それもだが、問題は馬車が何処へ向かったかだ

 王家の紋章がある馬車だ、目立つ筈なんだが…」


馬車は戻っておらず、その行方も分からなかった。

それを踏まえて、直ちに確認をする必要があった。

そこへ確認に向かった番兵が戻って来て、数名の兵士と走って来た。


「あなたがダーナのギルバート様ですか?」

「いえ

 私はアーネストと申しまして、ギルバートは…」

「え?

 何があったんです?」

「実は…」


アーネストと兵士達は、再び事情を説明する。


「それは大変だ!

 すぐに捜索の手配を」

「ああ

 警邏の兵士達にも伝達してくれ」

「それと、アーネスト様ですね

 国王様がお呼びです

 すぐに来て下さい」

「国王様が?」


事情は分からなかったが、アーネストは馬車を兵士達に預けて、直ちに王城へと向かった。

いよいよ国王との面談になるのだが、問題はギルバートが居ない事であった。

果たしてどうなるのか?

アーネストは覚悟を決めて、兵士の後に着いて王城の門を潜った。

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