表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
156/800

第156話

ギルバートはバルトフェルドに、竜の背骨山脈であった出来事を語った

隊商に出会い、いきなり攻撃されそうになった事

その隊商の主であるダブラス共々、ならず者都と化した兵士達を殺した事

その死体や荷物を焼いて、その場に埋めて証拠を隠した事

他の隊商に出会って、行方不明になった隊商がいる事を知った事

そういった事を報告して、国王にも同様の報告をして相談すると伝えた

バルトフェルドは全てを聞いた上で、国王から話があるまでは黙っていると告げた

また、同様な野盗行為をしている者が居ると判断して、その辺も調べてみると約束してくれた

それでギルバートも安心して、バルトフェルドに任せる事にした

残る問題は、その原因になっているであろうガモンと、その後ろ盾になっているであろう貴族だ


「もう一つ問題があります」

「もう一つ?

 砦の内乱か?」

「はい」


これは既に報告が上がっており、兵士も知っていた。


「砦の指揮者であるダモンですが…」

「ああ

 そういえば、奴はガモンの息子の一人だったな」


バルトフェルドは、苦虫を嚙み潰した様な顔をする。

先の話にもあった様に、ガモンの一族は善くない噂ばかり聞く。

これもきっとそうだろうと予測して、バルトフェルドは溜息を吐く。


「砦に町が出来た経緯は、ご存知でしょうか?」

「ああ

 君も聞いたのかね?」

「はい

 父上は仰りませんでしたが、アーネストが知っていましたので」

「そうか」


「なら話は早い

 奴は勝手に町を作り、そこを自治領として治めると言い出した

 勿論、国王様はお怒りになり、反対する貴族も多数居た

 しかし…」

「有力貴族達が賛成した」

「そうだ」


「その貴族達が、ガモン商会の後ろ盾でしょうか?」

「そうだ

 奴等が着いているから、国王様も困っている」


バルトフェルドは苛立った様子を見せ、拳を握り締める。


「ワシも貴族の一人ではあるが、奴らの様な誇りも無い様な事は許せん

 奴等は金品を受け取り、ガモンに媚を売っている

 中には既に、ガモンによって領地を売っているいる者まで居る」

「所領を売る?

 そんな事が許されるのですか?」


「ああ

 実際に売るわけでは無い

 ただ、ガモンの息の掛った連中に、好き勝手させているだけだ

 それでも、住んでいる住民には良い迷惑だがな」


バルトフェルドは、実際にガモンの息子が治める領地を示して、そこがどうなっているか説明をしてくれた。


「王都の東にあるムーロだが、ここは男爵が治めていた

 しかし今では、ガモンの息子のラモンが治めていると言って良い」

「ラモンですか」


また似た様な名前が出て来て、ギルバートは混乱しそうになる。

考えてみれば、ダブラスも似た様な名前だ。

もしかしたら親族かも知れない。


「そこではガモン商会が牛耳っていて、他の商人は苦しい生活をしている」


「また、逆らう者は不当な逮捕をされて、碌に調べずに裁かれているそうだ」

「そんな

 そんな勝手な事が、許されるのでしょうか?」

「ああ

 普通は許されないだろう

 しかしあそこでは、それがまかり通っていると聞く」


「他の貴族の方は、何も仰らないんでしょうか?

 それに国王様も…」

「そうだな

 再三注意や警告は出されているが、今のところ改善はされていない」


「あとな、他の貴族だが…

 有力貴族に睨まれては、自領の存続にも関わってくる

 迂闊な事は言えないのだ」

「黙って指を咥えている

 そういう事ですか?」

「いや

 既に調べている

 しかし証拠が上がらなければ、勝手な事は出来ないだろう

 それは国王様でも同じだ」


要は証拠が上がれば良いのだ。

そうすれば堂々と、表立ってラモンを処罰出来る。


「証拠ですか」

「ああ

 だが、中々に手強い

 ウチの連中も密偵に入っているが、思ったような証拠が見付からない」


バルトフェルドは渋面を作って、事が進まない事を悔しがっていた。


「なら、ノルドの砦の事を話しても…」

「それは違うぞ」


ギルバートはノルドの町の事も、有耶無耶にされると思っていた。

しかしバルトフェルドは、そうならないと断言した。


「確かに、今までは無理だったさ

 町は表向き、上手く統治されていたからな」

「だったら何故?」

「領地の主である、ダーナに反旗を翻したからさ」


これまでは、なんだかんだと言っても、ダーナの指示に従って来た。

しかし今回は、公然とダーナに侵攻すると言ったのだ。

こうなれば、ダーナも黙ってはいない。

それは国王が、王国の軍を動かす口実にもなる。


「ガモンは何とか、自分の息子だけでも助けようとするだろうな

 しかし今回は無理だろう

 何せダモンが先に軍を起こしたのだ、言い訳は出来まい」


バルトフェルドの言葉に、ギルバートは納得して頷いた。

しかしアーネストは、何かを考え込んでいた。


「そうなれば、フランドール殿が軍を出しています

 このまま制圧でしょうね」

「ああ

 あいつなら、そこいらの軍にも引けを取らない」

「そうでしょうか」


そこでアーネストが発言して、バルトフェルドが顔を赤くした。


「フランドールでは駄目と申すか」

「いえ

 そのダモンがどれほどの物か知りませんが、事が簡単過ぎます」

「ん?」


「ダモンとやらの力量は知りませんが、簡単に軍を挙げるのでしょうか?」

「そうか?」

「ダモンは父上に反発していたんだろ?

 それなら後に着いた、フランドール殿にも何か思うところが…」

「それだけかい?」


アーネストの言葉に、二人は首を傾げる。


「今まで従順なふりをしていたのは、ダーナに勝てないと思っていたからじゃないのか?」

「そりゃあそうだろう

 森の小さな町と、辺境とはいえ領主を持った街だ

 敵いっこ無いだろう」

「だからだろう

 なんでダモンは、このタイミングで挙兵したんだ?」


アーネストの問いに、二人は即答出来なかった。

散々悩んで、ギルバートは一つの言葉を思い出した。


「そう言えば、奴はこう言っていたな

 フランドール殿が町を寄越せと言っていたとか」

「それだな」


アーネストはそう言うと、ガモンの思惑を想定してみた。


「フランドール殿に町を寄越せと脅されて、止む無く挙兵した

 こう話せば、同情を得られると踏んでいるんだろう

 あわよくば、ダーナもせしめると」

「え?

 そんな理由で」

「そうだぞ

 そいつは一警備隊長で、本来は自治領の権限も無い

 それが領主に逆らって、赦されると思うのか?」

「思いませんが、奴等は思っているんでしょう」


アーネストの言葉に、改めてギルバートは呆れていた。

その統治理由や行動もそうだが、考えがあまりにも自分勝手過ぎる。

そんな理屈が通ると、本当に思っているのだろうか?


「それに…」


アーネストは一旦言葉を濁し、ギルバートの方を見た。

それから意を決して、言葉を続ける。


「バルトフェルド様には申し訳ありませんが

 今のフランドール殿は、些か領主には向かないかと思います」

「アーネスト!」

「フランドールが?

 何故そう思うのだ?」


バルトフェルドは険しい表情をするが、何とか堪えて言葉を待った。

それを確認してから、アーネストは言い難い事を告げた。


「フランドール殿ですが、どうやら…

 ギルに嫉妬しています」

「嫉妬?」

「ええ

 それも執着するほどに」

「がはははは」


バルトフェルドは笑っていたが、アーネストはの眼は笑っていなかった。


「本当…なのか?」

「ええ

 もしかしたら、殺そうとまで思っているかも…」

「アーネスト!

 もう止せ!」

「良い

 話してくれ」


ギルバートは止めようとするが、バルトフェルドはそれを制して話を促す。


「先ず

 フランドール殿と魔物との戦いの事になります」

「うむ」


ギルバートは、はらはらしながら二人が話すのを見ている。

それを意識しながらも、アーネストはバルトフェルドに全てを話そうとしていた。


「フランドール殿ですが、魔物に対してはそこまでは戦えませんでした」

「当然であろう

 あ奴は騎士ではあるが、魔物との戦闘はそこまで経験が無かった」


「しかしダーナには強力な魔物が多く居たと聞いておる

 そこで修練を積めば…」

「ええ

 確かに強くはなっています

 強くは…」

「何だ?

 その歯に衣着せる様な発言は」


「ギルは…

 ギルバートはまだ11歳です」

「うむ」

「フランドール殿は23歳でしたよね?」

「ああ」


「その半分にも満たない年齢の子供が、自分が敵わない魔物を狩るんです

 バルトフェルド様ならどうしますか?」

「うん?

 どういう事だ?」


「プライドが…傷付きませんか?」

「…」


「アルベルト様や国王様の様に、同期の仲間ではありません

 自分が全盛期の頃に、その半分にも満たない年齢の子供が…魔物を狩っているんです

 悔しくありませんか?」

「それは…」


ここでアーネストは一旦言葉を切り、バルトフェルドに考える時間を与える。

バルトフェルドは暫く黙考してから、頷いて言葉を促す。


「それは分かった

 だが、それだけで殺そうとするのか?」

「はい

 確かにそれだけでは、殺意は沸かないでしょう」


「しかし、今のフランドール殿は選民思想に毒されています」

「何!

 フランドールがか?」

「はい」


「ダーナの領主に選ばれた自分ではなく、住民はギルに信頼を寄せています

 そして魔物に対しても、自分が敵わなかった魔物を、ギルが倒してしまいました」

「それは…」

「そういった事が重なり、徐々に嫉妬は憎しみに膨らみ、やがてそれは殺意に育って行きました」

「うーむ…」


バルトフェルドはそれを聞き、黙って唸っていた。

ギルバートはそれを心配して、フランドールをフォローしようとした。


「あのう

 私はフランドール殿の事を嫌ってはいません

 寧ろ兄が出来た様に感じて…」

「そうか」


バルトフェルドはそれを途中で制して、予想外の言葉を告げた。


「確かに

 これならフランドールも、敵わないと嫉妬するだろうな」

「ええ」

「??」


二人は妙に納得したが、ギルバートは分からなかった。

困惑しながら二人を交互に見ていた。


「それでは、フランドールは上手くやれていないのか?」

「はい

 住民からも不満が上がっていました

 それなら恐らく、ガモンの主張も通り易くなるでしょう」

「そうだな

 それは確かに、マズいかも知れん」


住民の掌握も出来ない内に、所領の中で反乱が起きている。

そこを突付かれれば、今回の内乱の原因もフランドールの原因にされかねない。


「知らせてくれてありがとう

 直ちにフランドールには伝えて、対策を取らせよう」

「そう簡単に行くでしょうか?」

「うむ

 事は思ったよりも、マズい状況かも知れない

 しかし黙って見ているワケにもいかんだろう?」


バルトフェルドはそう言って、ベルを鳴らして兵士を呼ぶ。

すぐに羊皮紙にメモを取り、それを渡して届ける様に手配する。

ここから伝書鳩を飛ばせば、3日ぐらいでダーナには届くだろう。

それが無事に、フランドールの元へ届けば良いのだが。


「色々報せてくれて、助かったよ」

「いえ

 こちらも思惑が無い訳ではありませんから」

「ふむ

 それもそうだな」


二人はニヤリと笑って、不気味な笑いをする。


「ふふふふ

 お主も色々考えている様だな」

「いえいえ

 バルトフェルド様ほどでは

 ふふふふ」


「何か…

 二人共怖いんですが」

「ん?」

「ああ

 ギルにはこういうのは、無理だからな」


「ガモン商会とダモンの件は報告しますが、フランドール殿の事はお任せします」

「ああ

 こちらで何とかしよう」


それで話は済んだので、後は最近の王都の話などを肴に、宴席の料理を楽しむ事になった。

最初に干し肉と新鮮な野菜のサラダや、豚のステーキが出ていた。

野菜と鶏肉のスープが出たところで、フランツと奥方は下がってしまった。


その後に出て来たのは、香辛料で下味を付けた燻製肉と、去年取れた葡萄で造った葡萄酒であった。

それが出た後に、地元で採れた木の実や干した果物が出た。

ギルバートは酒が苦手だったので、木の実や干した果物を喜んで食べていた。


それを横目に、アーネストは子供だなと首を振る。


「アーネスト殿は酒も強いのだな」

「ええ

 アルベルト様に付き合わされていましたから」

「え?」


ギルバートがそれを聞いて、驚いた顔をする。


「ああ、そうか

 ギルはボクの、裏の顔を知らないからな」

「それはどういう…」

「よく呼び出されては、領地経営の話を聞かされていたんだ

 その席で、葡萄酒は必然だからな」

「そうだな

 難しい話をするには、酒でも飲まんとな」


二人は高笑いをしながら、楽しそうに酒を飲む。

それを見ながら、ギルバートは不満そうに呟く。


「こんな苦い物を飲んで、何が楽しいんだか」

「それはまだ、ギルが子供だからさ」

「そうだな

 苦さも楽しめる様にならんと、大人にはなれんだろう」

「いや、アーネストの方が子供だろう」


ギルバートはポツリと呟くが、それを聞いて二人は再び大きな声で笑った。

それから宴席も暫く続いたが、ギルバートは途中で抜ける事にした。

酒が苦手な事もあったが、それ以上に眠くなったのだ。

それは思った以上に、まだまだギルバートが子供である証拠であった。


翌日、9時を回った頃に食堂に集まる。

兵士達も浮かれて飲んでいたのか、朝が遅かったのだ。

既に領主であるバルトフェルド達は食事を済ませて、各々の仕事に着いていた。

食堂には兵士とギルバート、それと青い顔をしたアーネストが座っていた。


「う…」

「大丈夫か?」


久しぶりに飲んだので、アーネストはすっかり二日酔いになっていた。

青い顔で頷き、頭が痛いだけだと告げる。

それを見ながら、やはり酒は嫌だとギルバートは思っていた。


そこへ、食堂へ向けて走る足音が近づいて来た。

兵士達は足音の主に気付き、慌てて押さえようと走り出す。

しかし間に合わず、その者は大声で食堂に乱入して来た。


「ここに居たか!

 正々堂々と勝負しろ!!」

「フランツ様、いけません」

「お父上に叱られますよ」


「頭が痛い…」


アーネストは、二重の意味で頭が痛いとポツリと呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ