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聖王伝  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第149話

出発を控えて、ギルバートは兵士達を集めた

宿の一室を借りて、兵士達と集まって相談する

これから向かう先で、身分は伏せて行く事になる

そうした際に、有事には自分達で何とかしなければならない

その為には、事前にどんな状況か確認しておく必要がある

ギルバートはアーネストから聞いた、野盗や奴隷商人達の事を話した

兵士達は真剣になって聞き、ダーナと王都側での違いに驚いていた

ダブラスの件で予想をしていたが、事態は思った以上に良くない様だった

ダーナとは違って、こっちでは奴隷を目的に襲って来る者まで居る

そうなれば、貴族の紋章がある馬車は、狙われやすい的になるかも知れなかった


「どうしますか?」

「紋章を外されますか?」

「そうだなあ…」


ギルバートは兵士に提案されて、馬車に着けられた紋章を隠すか悩んでいた。


「いや

 それはマズいと思うんだ」


しかしアーネストがそれに反対する。


「何でだ?

 身分を隠す様に言ったのはアーネストだろ?」

「そうなんだが…」


確かに紋章を隠して、お忍びで通る貴族も多い。

しかし、あからさまに隠していては、逆に不信感を与えかねない。


「どうだろう?

 隠していると叛意を持っていると勘繰られる可能性がある

 あくまで紋章は出したままで、そのまま行こうと思うんだが」

「叛意か…」


「そうですね」

「変に勘繰られるよりは、堂々としている方が良さそうですね」


兵士もその意見に賛同して、結局紋章はそのままとなった。


「聞かれた時に、急ぐ旅なので領主に面会にお伺い出来ないと伝えよう

 それで何か言って来るなら、その時は従うしか無いだろう」

「そうだな

 無理に逆らうのは心象も悪いだろう

 あくまでも急ぐ要件が有るので、今回はお伺いが出来ないと伝えよう」


意見が纏まったので、兵士にはその様に答える様にお願いする。

そうしながらも、ギルバートは兵士達に注意はしておく。


「恐らくは道中には、もう危険な魔物も野盗も居ないかも知れない

 だからと言って、町では羽目を外さない様にな」

「は、はい」

「分かっていますって」

「そうですよ

 王都に着くまでが仕事です」


兵士達も分かっているので、任せてくださいと返事をする。

冒険者達と違って、彼等は公務で来ているのだ。

仕事だと割り切っているので、その辺はしっかりとしていた。


「まったく

 おじさんもこれぐらい、しっかりとしていてくれたらな」

「将軍はしっかりしてますよ?」

「そうでもないよ

 すぐに酒に手が出るから…」

「そ、それは…」

「そのう…」


兵士達も、将軍の酒癖の悪さは知っている。

それで左遷されかけたり、昇進がなかなか出来ないと言われていたぐらいだ。

最近は結婚したお蔭か?少しは控え目になっている。

それでもエレンに見付かって、よく怒られているらしい。


「まあ、将軍の酒好きは付き合いもありますし」

「そうそう

 夜の誘いは断る様になったんですよ」


兵士達は将軍を庇って、何とかフォローしようとする。


「まあねえ

 変な店には行かなくなったよな

 エレンさんにベタ惚れだもんな」

「そうそう」

「アーネストも惚れた女が出来たら…

 分かる事さ」


「分かりたく無いんだけど」


兵士が大人ぶって答えるが、アーネストはジト目で彼等を見る。

アーネストからすれば、一夜の恋を求めて酒場に向かう気持ちは理解出来なかった。

それは、まだ初恋すら自覚をしていないからだろう。

恋に理想を求める辺りは、まだまだ子供なのだ。


「ま、まあ

 オレ達はそんな事はしないさ」

「そうそう

 王都までは、真面目に仕事をするぜ」


兵士は必死に取り繕うが、王都までと言った事に気が付かない。

王都に着いたなら、どんな店があるのか期待しているからだろう。

無意識に、王都に着いて休暇を貰えたら、ゆっくり遊ぼうと考えているのだ。


ギルバートはその事に気付かずに、兵士達への注意も十分だろうと判断していた。

これ以上の注意は不要と考えて、出発の準備に掛かる様に告げる。


「それでは、そろそろ出立しようか」

「はい」

「そうですね」


兵士達はうんうんと頷くと、すぐさま準備に掛かった。

それをまだジト目で見ながら、アーネストは頭を振った。


「ん?

 どうした?」

「何でも無い」


ギルバートの質問に、何でも無いと答えてから、アーネストも準備に向かった。

準備と言っても荷物は少ないので、重要なのは魔物を凍らせている氷だ。

馬車に乗り込むと、さっそく氷を確かめる。


「うん

 まだまだ十分に凍っている

 これなら…って問題はこっちかな?」


言いながら床板が軋むのを見て顔を顰める。

まだ割れてはいなかったが、水を含んだ床板が歪んできてそろそろ限界を迎えそうだった。

王都までもつかは、微妙なところであった。

しかし替えの馬車も無く、荷車に載せるわけにも行かない。

このまま無事に着ける事を祈って、慎重に進むしか無いのだ。


思わず、試しに踏んで強度を確かめたくなるのをぐっと堪える。

下手にやってみて、床が抜けたら修理に時間が掛かるからだ。


「大丈夫…だよな?」


誰に聞く事も無く、独り言を呟く。

答えは無いのは分かっているので、溜息を吐きながら呪文を唱える。

氷の強度を増してから、足元の水を集めて掻き出す。


「これで良し」


満足したのか?座席に腰掛けると、書物を開いて調べ物を始めた。

そのままギルバートが乗って来ても、生返事で書物から顔を上げる事も無かった。

たまに顔を上げるのは、索敵に魔力反応があった時か、昼や到着で馬車が停まる時だけだった。


それから用意が出来次第出発して、再び一行は公道へと向かった。

魔物も野盗も出る事は無く、そのまま昼過ぎに野営をした後、3時頃にはノフカの町に到着した。


ノフカも田舎の町らしく長閑な場所で、小高い丘の上に城壁が広がっていた。

外周は半径700mほどの円形に近い形で、ぐるりと町を囲んでいる。

高さも2mぐらいで、ここも魔物よりは人間に攻められた時を想定して作られていた。


「ここもそんなに大きな町じゃあないんだな」

「そうだな

 次のトスノとリュバンニは大きいが、ここは子爵が治める小さな町だ

 主要な産業も小麦と野菜になる」


アーネストが顔を上げずに答える。

あまり町には興味が無いらしく、そのまま城門を潜るまで書籍を見詰めていた。


「さて

 ここからは、ボクは別行動だ」

「どうしてだ?」


「ギル達は宿で待機してもらうが、ボクはギルドに用事がある」

「魔術師ギルドか?」

「それもあるが、冒険者ギルドにも用事がある」


その用事が気になったが、アーネストは何も語らない。

仕方なくギルバートは、兵士と一緒に宿屋に入った。

宿には田舎の貴族の息子で、急ぎ王都に向かう途中だとだけ告げた。

詳しい内容は言えないとして、それ以上は話さない。

宿屋の主人も慣れていたのか、それ以上は追及しなかった。

ただ、領主には挨拶はしないのかとだけ聞いて来た。


「挨拶はしたいんですが、そうすると滞在が長くなりそうなので」

「はあ」

「急ぎますんで、領主様へのご挨拶は、帰りにでも伺います」

「そうですか」


宿屋の主人も、それ以上は失礼に当たると考えたのだろう。

貴族の子息が滞在している事は、内緒にしておくと告げて引き下がった。


「これで安心だな」

「ええ」

「顔ぐらいは出したいでしょうが、今はマズいですね」


湯浴み用のお湯をタライで受け取ると、各自部屋で汗と埃を落とす。

大きな町ではないので、公共の浴場といった施設も無いのだ。


ギルバートが汗を拭きとって、スッキリした頃にアーネストが戻って来た。

その顔は思わしく無く、良くない報せを持って来た様子だった。


「何か報告がありそうだが、先ずは汗を流して来い」

「ああ、そうだな」


アーネストは何か言いたそうだったが、諦めてお湯を貰いに向かった。

その背中を見送りながら、ギルバートは何か良くない事が起きそうだと思っていた。


その報告は夕食の後に行われた。

アーネストとしても、心の整理を着けたかったのだろう。

溜息を吐きながら、言いたく無さそうに始める。


「良くない報せがある」

「ああ

 その顔を見れば、予想は着く」

「ああ

 だが、内容は最悪だ」


「フランドール殿が

 ダーナが兵を上げた」

「え?」

「早く無いですか?」

「ああ

 思ったより早かったな」


ダーナが挙兵したらしいという情報が、冒険者ギルドを通して入って来ていた。

詳細は不明だが、どうやら内乱があったらしいという話だった。


「詳細は不明となっていたが、先ず間違い無いだろう」

「そうだな

 ノルドの砦だな」


みなが頷き、間違い無いだろうと確信していた。


「今、王都でも兵を集めているらしい

 王都に入るまでには、軍とすれ違うだろう」

「そんなにか?

 早いな」

「そうだな

 ダーナとはいえ、内乱は早めに鎮静化したいだろう

 フランドール殿を疑うわけでは無いが、王都としても軍は出しておきたいだろう」


それは内乱の早期鎮静化というよりは、王都の面子を守る為だ。

辺境とはいえ、領主だけに任せて国が何もしないのはマズいからだ。


「そうなると、フランドール殿も慌ててるだろうな」

「ああ

 国王様が軍を出すのだ

 失敗は許されないだろう」

「それに

 統治の問題も追及されるだろうな」


「そこは大丈夫だろう

 フランドール殿はまだ代行でしかない

 責められるなら、アルベルト様の落ち度という事になるだろうな」

「父上の?

 そりゃあまあ、そうだろうけど…」


ギルバートは不満そうだったが、実際にアルベルトの見通しが甘かったのだ。

その為にダモンが増長して、今回の結果になっている。


「一番悪いのは、部を弁えないダモンだろう?」

「そうなんだが、それを事前に察知出来なかった、アルベルト様も責を問われるだろう」


そんなものなのか?と思いながらも、ギルバートも思うところはあった。

もっとしっかりと見張っていれば、あんな不法な事も防げたのだから。

しかし当時は、ダーナも魔物の侵攻で大変であった。

その状況で、森の向こうにある砦を見張る事など、当時のダーナには無理であった。


「まあ、色々思う事はあるだろうが、今は急ぐしかない

 国王様に報告はしなければならないからな」

「ああ」


アーネストは、不満そうな顔をするギルバートを見て、一応フォローする様に言葉を掛けた。

それが分かっているので、ギルバートもそれ以上は何も言わなかった。


「ギルドでの用事とは、その事か?」

「ん?

 いや、それは序でだ」


アーネストがギルドに向かったのは、周辺の警備体制を知りたかったからだ。

ここから警備も強化されるだろうが、それでも野盗等が出る可能性はある。

最近の様子を聞いて、被害が出ていないか確認したかったのだ。

だが、結果として問題も無かったので、その事については触れなかった。

代わりに、魔術師ギルドで魔法書の一部を公開してきた事を話す。


「魔法書の一部?」

「ああ

 一般的に知られている、ファイヤーボール以外の魔法についてだ」


アーネストはマジックボルトやフレイムピラー等の呪文を公開して、指導する様に促したのだ。

これから魔物が増えるかも知れないので、その対策として魔術師も強化する必要があるのだ。

既に伝わっている魔法もあったが、ほとんどが知られていない魔法ばかりだった。

アーネストはそれを指導して、魔物との戦いに備える様にお願いしてきた。


「そんな事して大丈夫なのか?」

「大丈夫かどうかと言えば、ダーナからは文句が来そうだな」

「ダーナから?」


「フランドール殿なら、ダーナで発見された魔法だから、ダーナだけで秘匿すべきだと言うだろう」

「あー…

 そりゃあ言いそうだな」

「だが、ダーナで秘匿すれば、叛意があるとしか思えないだろう?」


アーネストはそれも考えて、他のギルドにも情報を公開する事にしたのだ。

そうすれば、少なくともダーナの魔術師達は、王都への叛意が無いと示せるからだ。


「なるほどね

 それで?

 冒険者ギルドへは?」

「そっちも同じだ

 スキルの説明と、魔物との戦闘が一番の訓練だと教えて来た」

「そうか」


アーネストはアーネストなりに考えて、こうして行動していたのだ。


「だが、それなら

 何でオレには黙っていたんだ」

「え?」

「それならそうと、行く前に言えば良いだろう?」

「いや

 行く前にお前に言ったら、反対しただろう?」

「オレがか?」

「ああ

 ギルの事だから、フランドール殿に遠慮しただろう?」


そうだろうか?


ギルバートはそう思っていたが、そこは自信が持てなかった。

確かにまだ、フランドールに対して贔屓しているかも知れない。

アーネスト以外で、初めて気が合う友人が出来たと思っていたからだ。


しかしそんなフランドールも、先の魔物の侵攻以来態度が急変していた。

それが元からの性格なのか、それとも何か原因があるのかは分からなかった。

それでも忙しいからだと、半ば強引に納得しようとしていたが、先の挙兵の話を聞く限りではそうでも無さそうであった。


「確かにそうなのかも…知れないな

 以前のフランドール殿なら、挙兵の前にもう少し話し合いをしていたのではと思ってしまう

 そういう意味では、まだあの人の事を信じたいんだろうな」

「ああ

 気持ちは分かるよ

 どういう心境の変化か分からないが、今のフランドール殿は危険だ」


選民思想を危険だと言っていたのに、今は彼も似た様な思考をしている。

自分が選ばれなかったのが納得出来ない。

そういった感情を表に出して、他の者を見下しているのだ。


「内乱が起こる前に、上手く鎮静出来れば良いんだが…」


そう思ってはみるが、それは無理だろうと分かっていた。

恐らく、フランドールもあの砦は、自分が持つに相応しいと考えているだろう。

そうなれば、砦をめぐって両者がぶつかる事になる。

いや、王都から軍も出るので、三者で取り合いになるかも知れない。

嫌な予感を胸に、一行は翌日も朝が早いので、早目に休む事にした。

王都に早く着かなければならないのだ。

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