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聖王伝  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
148/800

第148話

その砦のある町から、王都までは後3日の予定であった

本来なら5日から1週間は掛かるのだが、身体強化で馬の脚も早いので、最初の予定よりも早く着きそうであった

それでも、まだ3日は掛かるのだ

道中で立ち寄る町によっては、何か騒動に巻き込まれる可能性も十分にある

各自の行動を注意しつつ、ギルバートは出立の準備を進めていた

ナンディとは分かれていたので、宿ではギルバート達だけとなっていた

ダーナから来た兵士は8名だが、これからは同行する隊商は居ない

本来なら、ここで王都から迎えの兵士でも来るのだが、未だにその様子も無かった

相変わらず、王都との連絡は途絶えたままなのだ


アーネストが地図を開き、ここからの行程を説明する。


「今居るのがボルという町で、そこから3つの町を越えて行く事になる」

「方角としては南東に向かうんだな?」

「ああ」


「次がノフカ、トスノ、そしてリュバンニと通って、最後が王都のクリサリスとなる」

「町が3つか」

「そうだ

 そこまで大きくはないが、交易路として栄えている

 そこで補給と休息を取りながら、王都へ向かう事になる」


「その町には、立ち寄らないといけないのか?」

「と言うと?」

「素通りは出来ないのか?」


ギルバートは急ぐ事を考えて、少しでも早く行けないかと考えたのだ。


「それは出来なくも無いが、お勧めは出来ないな」

「何でだ?」


「第一に

 ここは慣れたダーナとは違うという事だ」

「どういう事だ?」


「魔物は居ないだろうが、野盗や物取り、奴隷商人が居る可能性がある」

「奴隷商人?」


「野盗や物取りは分かるな」

「ああ

 それはダーナでも居る可能性はあるからな」


これまでの道中では遭遇しなかったが、軍やギルドから逃げ出して、犯罪に身を窶した者が居る。

そうした者が集まって、公道で待ち伏せして襲って来るのが野盗。

野盗はそこそこの規模で集まり、集団で襲っては皆殺しにして物品を奪って行く。

軍からの討伐対象にもなり、冒険者が対処する事もある。

こちらは魔物が出て以来、その数を減らしていた。

指名手配される事が多いので、町に入れないからだ。

魔物が多い森や平原で、生きて行くのは厳しいからだ。


それに対して、そこまで集まれなくて、数人で襲って来るのが物取りである。

こちらはいつでも増えやすい傾向で、仕事が嫌で逃げ出した者がなっていた。

なのですぐに捕まるのだが、再び犯罪に手を染める者も多く、また増えやすくもあった。

今のダーナの様な状況では、再び増える可能性は高かった。

何せ魔物の侵攻を阻止したので、暫くは魔物の出現が少なくなる。

そうすれば、備える備蓄の為の納品も減るし、楽な解体作業も少なくなるだろう。


それに政情不安もあるだろう。

侵攻後の極端な増税や、徴兵といった不満が上がっていた。

上手く対策が成されていないと、反抗した若者が蜂起するだろう。


「ボク達は出会っていないが、野盗や物取りが増えてきているらしい」

「そうなのか?」

「ああ

 ダーナでも増えていたが、こちらでも増えている

 それは王都への不満ではなく、公道の封鎖や魔物の噂からだと思うんだ」


王都への政情不審や、増税が行われたわけでは無く、先の公道の封鎖で税収が落ちた事と、こちらにも魔物が出ないかといった不安がそうさせている様であった。


「魔物は出ていないのか?」

「いや、正確には出ている筈なんだ

 すぐに軍が動いて、鎮圧に成功しているからだろう」

「軍がか?」

「ああ

 相手はゴブリンやコボルト程度だから、簡単に鎮圧しているらしい

 しかしオークやオーガが出たら…」

「そういう事か」


こちらには、いまのところ大きな被害が出ていない。

しかし、いつ大型の魔物が出るか分からないので、逆に不安になっているのだ。


「ノフカやトスノは男爵領でもある

 それなりに治められているが、魔物に対する備えは不十分だろう」

「そうなのか

 それは住民も不安だろう」


「リュバンニはそこそこ大きく、ここは子爵が治めている

 そこまで行けば安心なんだが」

「そうなのか…」


ギルバートは地図を睨みながら、そこまでの距離も十分にある事を確認する。

無理して進んで、野宿をしている時に襲われたら、人数が少ない分苦戦するだろう。


「で?

 奴隷商人ってのは?」

「あ…」

「誤魔化すなよ」


アーネストは言い難そうにする。

奴隷のざっくりとした説明をしたが、何故需要が高いかは説明してない。

というか、説明したく無かった。


「山脈で出会った、あのデブを覚えているか?」

「ああ

 あいつも野盗になるな」

「いや

 ああいうのが奴隷商人と言うんだ」

「ん?」


「そもそも

 奴隷には3種類がある

 肉体的労働の鉱山や施設での奴隷

 これは犯罪者などが懲役で働くのと同じだ」

「なるほど」

「違う点は、それが犯罪では無く、金銭的な問題でも起こる点だろう」

「と言うと?」


「経営に失敗したり、何かで借金をして、それを支払えなくて奴隷になる場合がある

 これを奴隷落ちって言うんだ」

「奴隷落ちか」


「だけど、故意に謝金を背負わせて、支払えなくさせる者も居る

 そうして負債を負わせて、無理矢理奴隷に落とさせるんだ」

「なんだそれは?

 犯罪じゃないのか?」


「犯罪じゃないのさ

 少なくとも、表に証拠が見えなくては、犯罪とは証明出来ないだろう?」


アーネストは幾つか例を挙げて、奴隷落ちの恐ろしさを説いた。


「何か旨い儲け話があると吹き込み、高利で金を貸す

 そうして実はそんな旨い話じゃ無ければ…

 払えないと謝金は増えるよな」

「ああ」

「そうすれば支払えなければ、担保として働かせるわけだ」


「しかしそれだと、違法じゃ無いのか?」

「違法に見えないから、謝金を払えない者は困るんだ」

「それでも、クリサリスでは奴隷は…」

「奴隷という身分は無い

 だから実質奴隷でも、謝金で働かされているだけで、違法とは言えないんだ」

「こじつけだな…」


「他にもある」

「まだあるのか?」


「夫を亡くした未亡人や、家族を失った孤児も恰好の標的だ」

「なんだか…想像出来るな」

「ああ

 金が無いから、借りても返せない

 それを見越して、親切なふりをして貸すんだ」


アーネストの説明を聞きながら、ギルバートはうんざりした様な顔をする。


「まだ聞くか?」

「ああ

 正直、もう聞きたくは無いんだが、それでも聞かないといけない様な気がする」

「なら続けよう」


「次は犯罪奴隷だ」

「それは予想が着くな」

「ああ」


「だが、問題は方法だ」


こちらも犯罪に近い事が絡んでいて、気分が良い物では無かった。


「先の孤児や未亡人にも関わるんだが…

 そもそも、何で孤児や未亡人になると思う?」

「そりゃあ家族に不幸があって…」

「それが仕組まれた事であったら?」

「まさか?」


「そのまさかさ

 犯罪者を使って、狙った家族や子供の親を殺させるんだ

 そうすれば家族や金を失い、奴隷落ちになる」

「そんな…」

「それでも逃げ出す者もいるだろう

 そうした者は、払えない事から犯罪者になったり、孤児として浮浪者にでもなるだろう」

「そうして何か…

 パンか果物でも盗むのか」


それは悲しい事であった。

ダーナではそうした、孤児に対する施設や資金も用意されていた。

しかしそれでも、浮浪者や犯罪に手を染める者は後を絶たなかった。

ダーナでそうなのだ、ここではそうした者への施設は無さそうだし、もっと多いだろう。


「どうにかならない物なのか?」

「ああ

 狙って仕組む者が居る以上、どうしようも無いだろう」


「しかし、だからと言って奴隷は…」

「勿論、さっき言った様に奴隷は認められていない

 だから保護していると称して、実質は奴隷にしているんだ」


「ボクはアルベルト様に頼まれて、そうした事に手を染めている犯罪者を、捕らえる仕事もしていた

 これはハリスも協力してくれていて、なるべく穏便に済まされていた」

「え?」

「何だ?

 ダーナには無いと思っていたのか?」

「あ…」


居ないのでは無い。

目立たない様に処理されていたのだ。

ここで初めて、ギルバートは事実を知らされた。


「お前がもっと積極的に、領主の仕事を手伝っていれば…

 こうした後ろ暗い事件も知っていただろう

 だからお前は甘いんだ」

「う…」


まあ、その甘さがまた好ましいとは思うんだが


アーネストはそうこっそりと思い、にやけるのを押さえていた。


「最後が…

 一番問題があるんだ」

「へ?」


「それが違法奴隷だ」

「いや!

 そもそも奴隷も違法だろ!」


「違法奴隷とは、奴隷制を認めている国でも、違法だと認める奴隷の集め方をするんだ

 これは彼の帝国でも、違法だと認めていた」

「帝国が?」


「犯罪者を使って、欲しい相手を無理矢理攫って来るんだ」

「はあ?」

「そうして奴隷として働かせるんだ」

「それって…無理だろ?」

「何でだ?」

「そもそも攫って来るんだろ?

 働かせていたらバレて…」

「バレなきゃ良いだろ?」


アーネストの言葉に、ギルバートは絶句した。


「そりゃあバレなきゃ…

 でも、そもそもそれなら…」

「無理矢理攫って来て、人目に付かない様に働かせる

 それは夜の如何わしい店や、下女として働かせるから問題は無いんだ」

「そんな…」


「下女と言っても、メイドの様な使用人としてではないぞ

 好色な貴族等に売り払って、慰み者にするんだからな」

「あ!

 その慰み者ってのは何だ?」

「い!

 う…」


「それは…

 夜の…ごにょごにょ…」

「え?

 何だって?」


「兎に角

 言う事を無理矢理聞かせて、逆らったら激しい体罰で苦しめる

 そうした姿を見て、愉悦に浸るんだ」

「え?」

「貴族の間では、平民を下僕と思っている者も多い

 そうした奴等は、使用人を物の様に扱うんだ」


アーネストは興奮してまくしたてる様に言うと、鼻息を荒くする。

しかし内容を聞かれても、実はあまり詳しく無いのだ。

メイド達に吹き込まれた事と、好色一代男という本からの知識しか無いのだから。


「詳しい内容は王都に着いてからだ

 それまでは教えられない」

「何でだよ?」

「人前で話すには、憚られる事だからだ」

「人前って…

 ここは宿の一室だぞ?」

「それでもだ!」


興奮して鼻息の荒いアーネストを見て、ギルバートもこれ以上は聞いてはいけないんだと判断した。

そこで話題を変える事にした。


「それで?

 その違法?奴隷がどう関わってくるんだ?」

「あ!

 そうだった」


「違法な奴隷の集め方は分かるな」

「ああ

 無理矢理攫うんだろ?」

「それで集められたのが、あのデブが従えていた子供達だよ」

「え?」


「見た目が可愛い男の子や女の子ばかりだっただろ」

「そういえば…」


可愛い服を着せられた、女の子が数人乗っていたが?


「男の子?」

「あ…

 まあ良い

 あの中には男の子も居たんだ」


居たのか?


ギルバートは怪訝な顔をするが、アーネストはメイドに変な知識を仕込まれていたので、それが何なのかを知っていた。

知っていたが、それを親友に教えれないので、それ以上は踏み込むのを止めた。


「見た目の良いは分かった

 確かに綺麗な服を着せられていたな

 フィオーナやイーセリアに負けないぐらいの可愛い子達ばかりだった」

「お前…

 まあ良い」


アーネストは愛玩奴隷とフィオーナを同列に扱うなと思ったが、言葉に出来ないで溜息を吐いた。

ここで愛玩奴隷や性奴隷を説明するのは、アーネストには無理だったからだ。


「あれがどうやって集められたのか…

 分かるか?」

「そりゃあ…

 え?」


「町や村からもだろうが、恐らく隊商に女子供が同行していたら…」

「そんな!」

「奴等にとっては格好の餌食だろうな」


ここに来て、ギルバートはダブラス達の言葉を思い出した。

自分やアーネストを見て、舌なめずりをしながら言っていた。


『顔は好さそうだから、小姓にでも使うってよ』


「奴等、そんな事を…」

「落ち着け

 だから皆殺しにしたんだ

 奴等を引っ立てても、奴等に弱みを握られた貴族たちが庇い立てるんだ」

「貴族が?」

「だって、貴族たちも当然そのお零れを貰っているだろう?

 その中に違法な奴隷が居れば」

「そうか!

 自分達も…」


アーネストがその場で皆殺しにしたのは、何も面倒なだけでは無かった。

もし、王都に犯罪者として連れて行っても、貴族が庇うからだ。

下手をすれば、こちらが犯罪者に仕立て上げられる可能性も考えて、危険を避けたのだ。


「何て事だ…

 王都の貴族は、そこまで腐っているのか」

「ああ

 全員じゃないが、そういった貴族が多いのは間違いはない

 だからアルベルト様は、お前やジェニファー様を守る為に引き籠ったんだ」


あんな違法なならず者が商人として横行しているのなら、王都はさぞ危険だろう。


「そうなると…」

「ああ

 あのデブだすだけじゃあ…無いと思うんだ」

「そうだよな」


アーネストは町長に面会して、ある書類を預かっていた。

そこにはここ数ヶ月の、行方不明者の名前と年齢、性別が記されている。

その半数が未成年の子供で、中には5歳の女の子まで入っていた。


「そんな奴等が彷徨いているんだ

 昼間は兎も角、暗くなってから町の外に居るのは危険だ」

「だが、こっちは精鋭揃いだぞ?

 逆に捕まえて捕縛すれば…」

「あのなあ…」


「さっきも言っただろ

 下手に捕縛しても、後ろ盾が居たらマズいんだよ

 こっちが犯罪者として捕まるぞ」

「あ…」


「ここはダーナじゃあ無いんだ

 お前はただの、貴族の息子というだけなんだ」

「分かったよ…」


落ち込むギルバートを見て、アーネストは溜息を吐いた。


「分かってくれたなら良い」


そう言って、もう一度地図を広げると、町を指差しながら説明する。


「ノフカは近いから、ちょうど昼過ぎには着くだろう

 問題はトスノとリュバンニだ」

「何でだ?」

「トスノとリュバンニには急いでも夕刻に到着の予定だ

 それから領主に面会したりすると時間が掛かる」

「あ…」


「本来は、公式に面会するのが筋だが、今回は急ぐ旅になる

 身分は明かさずに、宿に滞在しようと思う」


ボルの町でも、町長には面会はしなかった。

すれば滞在を求められて、時間が掛かってしまうからだ。

領主に面会をする必要はあったが、そんな時間を使う暇は無さそうだ。


「身分を隠して滞在すれば、厄介事が起こった時が大変だ」

「そうだな

 助けを求めるには、身分を明かさなくてはならない

 そうすれば引き止められて、要らぬ時間が掛かるか」

「ああ

 だから兵士達には、ここからは気を付ける様に伝えてはいる

 お前からも、彼等にはそれとなく言っておいてくれ」


アーネストに促されて、ギルバートは出立前に兵士達に集まってもらう事にした。

これから急ぐ旅に、何事も無ければ良いが、何かあったら困る事になるだろう。

事前に注意をして、備えなければならないだろう。

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