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聖王伝  作者: 竜人
第五章 魔王との戦い
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第122話

アモンが向けた魔物を退けて、決着が着こうとした時

不意に魔力の奔流が起こり、見知らぬ魔物が現れた

魔物は雪の様な真っ白な熊の魔物で、その咆哮は吹雪を起こして襲って来た

その吹雪に苦しめられて、ギルバート達は苦戦を強いられたのだが、アーネストがそれを救った

ミリアルドと魔法を放ち、何とか魔物の力を封じ込めたのだが…

ミリアルドが魔力枯渇で倒れ、いよいよ魔法の維持が困難になっていた

将軍は意を決して突っ込み、ギルバートが止めを刺そうと飛び掛かった

しかし魔物は、苦し紛れに反撃を行い、その爪がギルバートに向けて振り下ろされたのだ

宙を舞うギルバートには成す術が無く、もろに頭に振り下ろされた爪を受けた


「殿下!」

「殿下…」


将軍も騎士達も、吹っ飛んだギルバートの方を見ていた。

そこへ熊が、再び立ち上がって爪を振りかざす。


「将軍!」

「はっ」


ゴアアア

ガキン!


「ぐ、くう」


将軍は何とか剣を構えて、正面から爪を受ける事は防げた。

しかし衝撃で大きく後退して、魔物の周囲が無防備になる。


ゴガアアアア

ブンブン!


「ぎゃああ…」

「ぐわあ…」


3名の騎士が切り裂かれて、血を迸らせながら飛んだ。

胸や腕を切り裂かれて、夥しい出血で地面を真っ赤に染める。


「魔物が…」

「回復している?」


炎が弱まるにつれて、周囲の気温が再び下がってくる。

それに合わせるかの様に、再び魔物の力が強まってきていた。


「最早…これまでなのか…」


ギルバートも倒れ、アーネストの魔力も間もなく尽きるだろう。

そうなっては、もう勝てる見込みは無い。

このまま魔物に蹂躙されて、ダーナの街は滅ぼされるだろう。


将軍が諦めかけた時、不意に騎馬の掛ける音が聞こえた。


こんな時に誰が?


将軍がそう考えていた時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「うおおおお」


声は真っ直ぐに炎に向かい、そのまま炎を突っ切ってきた。

炎を飛び越えた騎馬武者は、そのまま熊に向かって突っ込んで行った。

馬には目と耳に覆いがされており、怯えさせない様にしていた。

それでもこんな無茶をすれば、馬は暴走してしまう。

馬はそのまま、熊に向かって突っ込んだ。


「フランドール様、無茶だ!」


将軍は叫んだが、既に遅かった。

熊は右手を振り上げて、馬ごとフランドールを狙って振り下ろした。


ガアアア

ザシュッ!

ブヒヒーン


しかしフランドールは、直前に腕力で無理矢理鞍から飛んでいた。

馬は首を切り裂かれて、無残に死んでしまった。

しかし魔物は、馬の首を狙っていた。

そのままフランドールも切り裂くつもりだったが、上手く躱されたのだ。


「せりゃああ」

ズザン!

ゴアアア


宙で身体を捻りつつ、器用に腕を切り付ける。

それは深手では無かったが、魔物を警戒させるには十分だった。


「何て無茶を!」

「将軍

 左をお願いします」


フランドールの参戦に、諦めかけていた騎士達も息を吹き返す。


「オレ達も負けていられないぞ」

「おう」


騎士達が魔物の右に回り、フランドールのサポートしようとする。

それを見て、騎兵達は左へ回る。


「将軍

 我々も」

「あ、ああ」


ゴアアアア


熊が立ち上がり、力任せに両腕を広げて打ち掛かって来る。

それを数人掛かりで何とか押さえる。


ゴガン!ガギン!


「ぐ、うう」

「ぬおおお」

「これはあああ」


熊は両腕の攻撃を防がれて、正面が無防備になっていた。


「い、今です

 ギル、バート」


「うわああああ」


将軍が視線を動かすと、額から血を流しながらギルバートが走って来ていた。

先の一撃で吹っ飛んでいたが、致命傷では無かったのだ。

熊の攻撃を封じる為に、騎士や騎兵も一心になって、身体強化で腕を抑え込む。

熊は腕を振ろうとするが、数人で剣で押さえられて動かせなかった。

これが体重が乗った一撃なら強力なのだが、立ち上がっていてはそう上手く行かない。

元々が四足歩行の魔物なので、立ち上がった状態では力が入り難いのだ。


「だりゃあああ

 スラッシュ!!」


ギルバートは大きく跳躍すると、熊の首に目掛けて剣を一閃した。

熊は何とか避けようとして仰け反ったが、首元を深々と切り裂かれた。


ザシュッ!

ゴア…ゴボゴボ


しかし熊は、なおも抵抗を続ける。

最期の一暴れと、両腕を無理矢理動かそうとした。

押さえていた騎士や騎兵が飛ばされて、再び両腕を振り上げる。

しかし首から出血しているからか、動きは緩慢だった。

将軍とフランドールは目で合図を送ると、頷いてから剣を構えた。


「せりゃああああ

 スラッシュ」

「うおおおお

 スラッシュ」


二人が同時に、熊の脚に一閃をして、見事に脚を両断した。

熊は腕を振り上げたまま倒れて、そのまま数回腕を振るう。

しかし、やがて力尽きて、大人しくなった。


「やった…のか?」

「勝てたんだな?」


エリックがよろよろと進み出て、魔物を剣で突いてみる。


「動かない…」


「次に動き出したら、さすがにもう…」


フランドールが力なく座り込む。

将軍も膝を着いて、剣を支えに呆然としていた。


「もう…限界…」


ギルバートもよろよろと倒れそうになる。

それを慌てて、アレンとハウエルが支える。


「殿下」

「殿下

 大丈夫ですか?」


「ああ

 何とか…な」

バキン!


ギルバートが剣を支えにしようとすると、剣の一部が音を立てて欠けた。

見ると大剣の一部が欠けており、片側はヒビが入っていた。


「咄嗟に剣で弾いたが、そのせいでこの様さ」

「それでご無事で…」

「ああ

 危なかったよ

 剣で受けても、暫く痺れて動けなかったから」


「何にせよ倒せて良かった

 その剣では、もう戦えなかったでしょう」


最後の一撃に堪えれたのは奇跡に近かった。

魔物の毛皮の頑丈さを考えれば、あそこで決められないと無理だっただろう。


一同が疲れて、倒れたり座り込んで居ると、不意に拍手が聞こえて来た。

振り返ると、アモンが拍手をしながら近づいて来ていた。


「おめでとう

 よくぞ倒してくれた」


「な、何を」

「白々しい」


しかし騎士達が不満を言うのを、ギルバートが制した。


「止せ

 これは彼の落ち度ではあるが、仕込んだのは別だ

 そうだろう?」

「ふっ、察しが良いな」

「ああ

 あんなに驚いていたからな

 あれで演技なら、あんたは役者になれるよ」

「役者か…

 ふむ、それならそれも、面白いのかもな」


アモンは一人で納得しながら頷く。

彼が何しに来たのか、それが気になってギルバートが質問する。


「それで

 これで侵攻は終わりで良いんだな」

「ああ

 本当はその前に終わるつもりだったんだが…」

「こいつか」


ギルバートが熊を見ると、アモンも頷いた。


「それは本当に、ワシが仕込んだのでは無い

 だから止め様も無く、勝手に殺す事も出来なかった。

「ん?

 殺す事も…出来ない?」

「そうだ

 子供らは女神様から頂いた兵士達だ

 ワシの一存では、勝手な事は出来ない」

「それも女神様の…

 なら、この事も女神様が仕組んだ事なのか?」

「そう思うだろうな

 だが…」

「だが?」


「ワシには腑に落ちん」

「どうして?」

「女神様がするには手が込んでいるし

 それに…意味が分からない」

「意味が分からないって

 そもそも人間を襲うのも意味が分からないが?」

「ああ

 その事か」


アモンは何か言いたげだったが、周りの騎士達の方を見る。


「この事は…

 公にしても大丈夫なのか?」

「と、言うと?」


「彼等に聞かせても、大丈夫何か?」


アモンは、これから語る事が人間達に伝えられておらず、その事が伝えても大丈夫なのかを心配していた。


「大丈夫だろう

 どの道知らないといけない事だろうし

 何でそうなったかも問題だろう」

「そうか

 なら話そう」


「そもそも

 魔物が人間を襲ったのではない、人間が魔物を襲ったのだ」

「え?」

「なんだって?」


「人間は平和に暮らしていた魔物を、まるで家畜の様に扱った

 いや、魔物だけではない

 他の多くの亜人種達もだ」

「それは…」

「恐らく事実でしょう

 実際に、帝国が始める前から、亜人種を奴隷として扱っていた記録があります

 それも女神様がそう勧めたという記録と共に」

「何だって

 それは本当なのか?」


「殿下は子供なので、まだ奴隷については詳しくは教わっていないでしょう

 ですが、昔から亜人種の奴隷の話はあります

 これはまごう事無い事実です」

「知らなかった…」


将軍の説明に、ギルバートは衝撃を受けていた。

奴隷という言葉は聞いていた。

それは帝国の悪習で、他国の人間を奴隷として働かせていたと習った。

しかし実情は、もっと昔からある悪習で、他の亜人種を奴隷にしていたというのだ。

それも亜人種だけではなく、アモンの話が本当なら、魔物も同じ扱いだったのだろう。

まともな生活も送れず、死ぬまで働かせる。

そうして死んだら、ゴミ屑を捨てる様に処分していたと聞いている。


「続けて良いか?」

「ん?

 ああ」


「人間の行いは傲慢で、自分達が女神様に選ばれた種族と言っていた

 そして、それ以外の生き物は奴隷として扱っていたのだ」


「そうして数百年が経ち、人間と他の生き物との間に…子供も生まれた

 それが魔物や亜人の始まりだ」

「え!」

「ちょっと待って

 そもそも亜人は?」


「ん?

 元は人間と妖精、それと…竜が居たかな?

 兎に角、それ以外は生き物は動物や植物だけだ

 亜人や魔物…取り分け魔族は人間が生み出した物だ」

「そんな…」


「でも、どういう事だ?

 人間以外の生き物?

 それでどうして…子供が出来るの?」

「え!」

「それはその…」

「殿下にはまだ、お早い事で…」

「??」


「お前等、まさか!

 まだこの小僧には子供のつ…」

「黙れ!

 それ以上は言うな」

「あ…

 分かった」


アモンも気を使ったのか、それ以上は言わなかった。

しかし気まずいのか、チラチラとギルバートを見ていた。


「兎に角

 亜人種や魔物が人間との混血は分かった

 それでなんで、魔物と人間は別れたのか?」

「あ、ああ

 そうだな」


「人間は…先に言った様に、他の者を奴隷にしていた

 しかし、次第に他の種族が増えて来て、人間に対して反抗を起こした

 それが第1次、聖魔戦争だ」

「聖魔戦争?」

「それすらも伝わって無いのか…」


アモンは呆れた様な顔をする。

しかし、何分大昔の出来事だ。

記録が残っていないので仕方が無い。


「人間と魔族、それから亜人が自由を求めて戦ったのだ

 それで人間は滅びかけて、幾つかの保護区に匿われた

 それから500年ぐらいは、お互いに干渉も無く静かに暮らしていた」

「500年…」

「長いな」


「しかし、いつしか領土を広げて行き、再び人間は亜人や魔族を奴隷にしていった。

 今度は亜人や魔族も反抗したが、スキルを身に着けた人間の敵では無かった」


「あー…

 人間の持つスキルと、魔族や亜人が持つスキルは違う

 それで人間達は強かったんだが…

 女神様は再度の人間の傲慢な行いに、酷く悲しまれた」

「そりゃあそうだろうな」


「女神様は、今度こそは人間を滅ぼそうと、魔族や亜人に力を与えて勇者を作られた

 勇者は人間に対抗して戦い、人間を絶滅の手前まで追い詰めた」

「でも、オレ達は生きている」

「絶滅はしてないな」


「女神様は最後の機会を与えるとして、人間を結界の中に封じ込めた

 そうして他の地に亜人や魔族を移住させて、人間との接触を絶ったのだ

 これが第2次聖魔戦争だ」

「知らなかった…」

「過去にそんな戦争があったなんて」


「でも、そうなると悪いのは人間なんだよね」

「そうですね」


ギルバートの疑問に、将軍も素直に頷く。

勿論、祖先がそんな非道な行いをしていたなんて信じたくは無いが、それでも帝国の例がある。

帝国の至上主義は行き過ぎており、他民族に非道な行いをしていた記録も残っている。

その記録を知る者からすれば、十分にあり得ると言えた。


「そうすると

 結界は元々、人間を守る物では無く…」

「人間を出さない為の物であった」


「それがいつの間にか、他の者が入れなくなる結界に変わっていた

 恐らくは、お前らが魔導王国と呼ぶ国の仕業だろう」

「え?」

「あの国は伝説の…」

「何を言ってるんだ?

 まだ存在するだろう」

「いえ

 あの国があったとされるのは500年は昔です

 実在しても…」

「そうなのか?

 てっきりあの国がそうかと思ったが」


「それは恐らく、別の国でしょう」

「そうか

 なら滅ぼしても…」

「え?」

「滅ぼす?」

「ああ

 今頃はベヘモットが滅ぼしているだろう

 あそこに危険な者が居るという報告は聞いていない」


「魔物に襲われているのは、ここだけでは無いのか?」

「ああ、そうだぞ

 我々使徒にはそれぞれの役割があるが、そのうちの半数に当たる6人が魔王をしている

 他の4名の魔王も、今頃国を落としているだろう」

「魔王

 滅ぼす…

 それがあなた達の使命なんですか?」


「そうだなあ

 簡単に滅びるなら見込み無し

 そのまま消えてもらう」


「ただし生き残れるなら…」

「なら?」

「暫しの猶予を与える」


「その猶予の中で、改善が認められれば赦されるだろう」

「改善…ですか」

「赦されなければ?」

「再びワシの様な魔王が来るであろう

 次に来るのが…ワシみたいに優しい者なら良いのだがな」

「優しい?」

「ええ…と?」


「何だと?

 優しいだろ

 お前らの勝利を認めて、素直に引き上げると言っているだろ」

「そりゃあそうだけど」

「事前に自分で宣言していたからな」


「何だとう

 騙し討ちや引き上げたフリとかしてないだろ」

「そんな事する魔王も居るのか?」

「ああ

 居るぞ」


「それに…

 こんなに親切に教えてやっただろう」

「そりゃあそうだけど…」

「自分で言っちゃあ…」


自称優しい魔王様は、白い目で見られながら胸を張っていた。

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