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聖王伝  作者: 竜人
プロローグ
12/800

第12話

魔物は次々と現れた

それはノルドの泉の如く

絶望を突き付けるかの様に

無尽蔵に湧き続けた

夜の訪れと共に始まった奇襲は、2時間ほど続いた

三度の突撃を休みも無く行い、騎兵達も流石に疲弊していた

騎兵の数も数騎減っている

背後からの矢に倒れたか

或いは、馬が潰れて落馬したか

少しずつだが、守備隊に焦りが見え始める

長い夜はまだまだ続く


大隊長は、このままでは不味いと判断し、一旦門を閉めさせた。

ここで籠城に切り替えるのは下策だとは分かっている。

分かってはいるが、このままでは騎馬が保たないのだ。


弓兵も疲弊していた。

副隊長が機転を利かせ、警備兵達が投石を行い、その間に休憩を取らせる。


まだ第5部隊が無傷で控えてはいるが、彼らはどうしようも無い時の最後の一手だ。

そう安々とは出せない。


開戦前はあんなに上がっていた士気が、今ではすっかり下がっていた。


「不味いですね」


魔物の血と汗、泥に塗れた第3部隊の隊長が呟く。


「うちのが2騎、第3のが1騎やられました」


第2部隊長も返り血で汚れた兜を脱いで、汗や泥を叩き落としながら呟く。


「さいわい、うちも第1も被害はありませんが

 いかんせん数が多すぎる」

「このまま消耗戦では、先が見えない分不利ですな」


第4、第1部隊長も汗をぬぐいながら続ける。


魔物の個々の能力はそんなに高くはない。

寧ろこちらの戦力の方が高い。

1000匹でも十分に倒せる自信はある。

あるのだが、相手の数が脅威だ。

まるで底なしであるかの様に、次から次へと湧いてくる。


「もう…

 500以上は狩りましたよね?」

「ああ

 何ならその倍の1000でもいけるぞ?」

「1000か…」

「実際どうなんだ?

 1000ならまだ望みはあるんだが…」


部隊長達も黙り込んでしまう。


「どうしたん、ですか?」


不意に声が聞こえ、フラフラと杖を突きながら少年が現れる。


「まさか、臆したん、じゃないでしょうね」


少年の憎まれ口に部隊長達は答える。


「ふざけるな!」

「俺達があんなちびっ子に負けるか!」

「これからオレが、どうやって華麗に倒すか話していたところだ!」

「いや、格好よく決めるのはオレの方だから」


負けじと威勢よく返す。

その目はさっきまでの弱気な眼差しではなく、負けるもんかと決意も新たな力強い者だった。


「それで、こそ

 ダーナ騎兵団

 と、っと」


ヨロヨロしながらも 少年は頼もしい兵士達を見て微笑む。


「いいから、病人は休んでろ」

「そうだぜ」

「まったく、ひ弱いんだから」


「オジサン達みたいに、脳まで筋肉と一緒に、しないで、ください」


「ほら、無理するな」


大隊長に支えられ、近くの木へもたれ掛かる。


「だって、煩くて寝てらんないんだもん

 さっさと倒してくださいよ」


少年の減らず口に、思わず吹き出す。

知らぬ間に、場の雰囲気が明るくなっていた。


「だとよ

 部隊長諸君」

「これは、おちおちへばってられませんな」

「同感」


第2、第3部隊長が兜を被り直して部隊の元へ向かう。


「我々も負けていられんな」

「入り口は任せろ

 上の死守は頼んだぞ」


第1、第4部隊長も身支度を整えて門へと向かう。


「で?

 大隊長殿は何か秘策でも?」


だが、大隊長は悲し気に頭を振った。


「せっかく、お前が魔法であいつらを嗾けてくれたが

 正直なところ何も無い」

「そう…ですか」


少年が小さく溜息を吐く。


「その萎びた頭を揺すっても、何も出ませんか?」

「そう挑発してくれても、無いもんは無いよ」


大隊長は肩を竦め、悲しそうに頭を振る。

後は決死で突撃を繰り返し、少しでも生き残れる様に賭けるしかない。


オレってギャンブルは苦手なんだよな

勝った試しが無いし

このまま結婚も出来ずに死ぬのか…トホホ


大隊長がそう暗く沈んでいると、少年が呟いた。


「いよいよとなると、あれを使うしかありませんね」


大隊長は、少年がまだ諦めていないと感心すると同時に、少年の様子からその決心を使わせるワケに

はいかないと直感した。


少年が命を賭してなんてさせてはダメだ

オレ達、大人が死力を尽くして守らなくてどうする


大隊長は愛剣を引き抜き、天へ向けて掲げる。

ダーナ領主、アルベルトより授かった細身の長剣。

無銘ながらもその切れ味と絶妙な長さでバランスも良い。

大隊長ヘンディーは、2度の狼の襲撃に帯剣して挑み、2度とも見事無傷で打ち克ってきた。

その後、この剣はヴォルフ・スレイヤーと呼ばれていた。

大隊長の自慢の愛剣だ。


この剣に賭けて、必ず皆を生きて連れ帰る

必ずだ!


誓いも新たに、気合を入れて正門へ向かう。


時刻は間もなく夜中の零時になろうとしていた。


「かいもーん!」

『かいもーん!』


第2、第3部隊が突撃の態勢で待ち構える。

防壁の上では、第4部隊が矢を防ぎ、掛け声に合わせて弓兵が火矢を放つ。


「構えー!

 撃てー!」

『おおおお!』


次々と号令に合わせて射掛けられる火矢。


ギャピイイ

ギャワアア


魔物の悲鳴が上がり、再び火達磨になった数匹が地面を転がる。

それを見て、ゴブリンの戦意が下がる。

壁をよじ登ろうと近付いていたゴブリンには、容赦なく投石が行われる。


ギャワワア

グギャアア


その間に門が開き、騎馬部隊が姿を現す。


「とつげきー!」

『とつげきー!』


ギャアアア

ギャピイイ


一気に駆け抜けて行く騎馬武者。

魔物の群れを、騎馬の蹄が、鎌が、圧倒的暴力で蹂躙していく。

しかし、今回は先の物より倍近い長さに伸びている。

犇めき合う魔物の群れを、力任せに駆け抜けて行くが、やがて1騎、また1騎と取り付かれて倒される。

ようやく駆け抜けた時には7騎も落とされていた。

2人は何とか、味方の援護射撃の間に逃げ戻ったが、残りの5人は魔物の群れの中に消えていった。


「逃げろ、逃げろ」

「こっちだ!」


第1部隊と大隊長が前へ出て、魔物を切り払って行く。

大隊長は一刀の下に切り裂き、切り飛ばし、一人の腕を掴んで引き込む。

そこへしつこく向かって来る魔物に向けて、強閃一撃、3匹まとめて叩き切った。


アギャアア

ブギャアア

グジュウウ


3匹の胴と下半身が無造作に千切れて宙を舞う。

それを見た魔物がその場から退がる。


再び、ワラワラとゴブリンが出て来る。

遥か先では騎馬部隊が回頭して態勢を立て直そうとしている。

切りが無いな、と思いながら大隊長は刃に付いた血を振り払い、後ろへ下がろうとした。


その時、不意に轟音の様な唸り声が聞こえた。


ウガアアア!!


ビリビリと気勢に大気が震える。

その唸り声に、恐れをなしたか魔物が逃げ惑う。


なんだ?

何が出て来た?


ゴブリンの群れが、森から別れて道を作る。

そこをゆっくりと歩く人影。

人影?

そう、それは人と同じぐらいの大きさをしていた。

大きなゴブリン、それが周りを睥睨しながら、ノシノシと歩いて出て来た。


この群れのボスか?


グルルル、グワアア!


一睨みすると、ボスは唸り声を上げた。

それが命令だったのだろう、魔物共は死体を抱えて次々に森へと去って行く。


ここでこいつらを逃すのは不味い。

直感で大隊長は剣を構えて前へ出ようとする。

そこへ魔物のボスが顔を向け、ニヤリと顔を歪める。

瞬間、背筋に悪寒が走る。


ダメだ

こいつには敵わない

今突っ込んでも、事態が悪化するだけだ


大隊長は瞬時に悟った。

その様子を満足そうに眺め、馬鹿にした様な笑い声を残してボスは去って行った。


グホホホホ


魔物の姿が見えなくなってから数秒?或るいは数分立っただろうか?

大隊長は膝から崩れた。


助かった…

いや

見逃されたのか?


少し離れた場所では、アーネストも肩で息をしていた。

その顔は涙でぐしゃぐしゃになり、歯はガチガチ噛み鳴らされ、足はガクガクと震えていた。


大隊長が構えた時、アーネストも咄嗟に構えていた。

本能的に敵わないのは分かっていた。

それでも、みなを守る為には死んでも良いと、その瞬間は考えていた。

しかし少年はすぐに足元から崩れた。

大隊長でさえ、敵わないと身をもって思い知らされ、身動きも取れなかったのだ。

何の実戦も積んでいない少年が耐えれる気勢では無かった。

頭からムシャムシャと食べられた様な気分だ。

冷や汗と吐き気、震えが止まらない。


魔物が居ないのを確認しながら、ゆっくりと騎馬隊が戻って来る。

その顔は蒼白になり、トボトボと肩を落として、まるで敗戦の逃亡兵の様であった。


騎馬部隊が横を通った事で、大隊長が正気を取り戻す。

まだ恐怖で身体がガチガチだが、必死に気力を振り絞って門の中へと向かう。

周りの兵士達もそれに続く。


門の中へみなが戻ったのを見て、合図を送って門を閉めさせた。


「終わった…」


そこで気力が尽きたのか、大隊長は膝をつく。

それに合わせて兵士達が声を上げて泣き始める。

それは生き残った安堵の涙か?

はたまた恐怖に耐え兼ねたからか?

砦の入り口は、暫し通夜の様な状態になった。


こうして、第1次、第1砦攻防戦は終わった。

これにて、砦攻防戦は終わりです

魔物は一時退きました

しかし、彼らは逃げ切れるのでしょうか

少し短くなりますが、切りがいいのでここで終わります

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