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聖王伝  作者: 竜人
第五章 魔王との戦い
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第119話

遂に戦闘が始まり、ダーナの北の城門の前で、両軍が入り乱れる

先ずは騎兵が突進して、オークの部隊の正面に突っ込む

しかしオークは長柄の斧を構えて、その突進を受け止める

数頭の馬が、突進の衝撃に耐えられずに倒れる

そのままオークに首を狩られて、騎兵の数人は脚を失った

最初の突撃の勢いを殺されて、騎兵達はその場で鎌を振り回す

しかしオークも長柄の斧なので、しっかりとそれを受け止める

馬上の優位がある筈なのに、オークは臆する事も無く、それを正面から受け止めた

そして膂力の差を活かして、次第に押し返し始める。


「くそっ

 私も出るぞ」

「駄目です

 フランドール殿」

「そうですぞ

 まだ騎兵が戦っています」


「しかし、正面は既に、幾人かやられているぞ」


騎兵はオーガを倒せるほどの猛者が集まっている。

身体強化も使ってオークの一撃をいなしていた。

しかしオークは集団戦にも慣れている様子で、器用に斧を振り回しては騎兵を打ち倒す。

既に10名以上が犠牲になり、馬やオークにその死体が踏み潰されていた。


「このままでは…」

「いえ

 部隊長は伊達ではありませんよ」


見ればアレンやエリックが奮戦して、オークの1体を切り倒した。

ダナンとハウエルも鎌を振り回して、味方が押されない様に支える。

一進一退の攻防を続けて、正面は乱戦になっていた。


「右翼が抜けるぞ」

「弓部隊、撃てー!」

「おう」


「左翼は任せろ

 ファイヤーボール」


弓の唸りに矢が飛び、右翼から出たオークの頭に突き刺さる。

深手では無かったが、視界を奪われたオークは苦悶の声を上げた。

それを見逃さず、騎兵が向かって止めを刺した。


左翼では火球が唸りを上げて飛び、着弾の衝撃で火の粉を飛び散らす。

近くに居た騎兵は何を逃れたが、オークは炎に巻かれて悲鳴を上げる。


プギイイイ…

「危ねえ…」


「よっしゃ!

 狙い通り」


ミリアルドはガッツポーズを決める。

しかし少し離れた場所から、ミスティの叱責が飛ぶ。


「あんたねえ

 もっと気を付けなさい

 騎兵さんが驚いてるでしょう」

「そうは言っても、しっかり狙ったぜ?

 ちゃんとオークだけを燃やしただろう」

「そういうもんじゃあ…」


ミスティは呆れていたが、ミリアルドは内心安堵していた。

思ったより飛んだので、着弾が騎兵に近かったのだ。

次はもっとよく狙って、味方を困らせない様にしようと思っていた。


「どうです?」

「ううむ」

「味方は意外と頑張っています

 まだフランドール殿の出番ではありませんよ」


ギルバート言われて、フランドールは返答に困っていた。

早く魔物に向かって行きたいが、領主という手前、そうそう簡単には出れないのだ。


戦闘は膠着状態だったが、少しずつだが死者は増えていた。

それは両軍とも同じで、互いに相手の攻撃を押さえるのに必死になっていた。


「ふはははは

 やるではないか」


アモンは上機嫌で戦場を見回す。

それは本当に戦いが好きで、戦場を生きる場所とする戦いの魔王らしい言葉だった。


「これならば、次の一手を掛けても良かろう」

「むむ

 奴も何かする気だぞ」

「気を付けろ!」


アモンの言葉に、ギルバート達は警戒した。


「それでは伏兵を出させてもらおうか

 これには対処出来るかな?」


ズガーン!


爆音が鳴り、戦場の左右に煙が立ち上がる。


「え?」

「伏兵の…意味…」


考えてみれば、わざわざ向こうの陣地のギルバート達に聞こえるぐらい大きな声で宣言している。

それに宣言したり、爆発や煙の演出で伏せている意味が微妙になっていた。

煙の中では1組のオークがワイルド・ボアに乗っており、それが左右に現れていた。

しかし彼等は煙に咽ていて、暫く動けなかった。


「何を考えているんだ?」

「分からん…」


「さあ、オークライダーよ

 左右から進軍して攻めるのだ」


呆気に取られていたが、アモンの言葉にフランドールが反応した。


「今度こそ私が…」

「いえ

 ここは歩兵に任せましょう」

「そうですね

 幸い防壁がありますから

 負傷しても中で手当てが出来ます」

「え?」


やる気に満ちたフランドールを他所に、歩兵達に声が掛かる。


「お前達

 しっかりと押さえるんだぞ」

「おう!」

「任せてください」


「なあに

 奴等が出来たんだ

 オレ達も奴等の突進を押さえるぞ」

「おう!」


歩兵達が防壁の前に出て、オークライダーの突進に備える。

そこは未知数の敵ではあったが、オーガとの戦闘で自信を着けている。

歩兵達は気合を入れて待ち構えた。


「大丈夫なんですか?」

「…」

「厳しいでしょうね」


「あいつ等はオーガとも戦った

 しかしワイルド・ボアに乗った騎兵など初めてだ

 どこまでやれるのか…」

「それなら!」

「それでも…ですよ」


「彼らにも歩兵の意地があります

 少なくとも、簡単には抜けさせませんよ」


フランドールの心配は分かるが、ここで簡単には出させられない。

少しでも戦力を温存して、歩兵で押さえさせないと、アモンが何をして来るか分からないのだ。


「いざとなれば私達も居ます」

「そうです」

「足止めなら任せてください」


魔術師達も参戦する意思を見せて、呪文を唱え始める。


「ミスティさん…」

「フランドール様

 御安心してください

 私達が魔物を、この先には行かせません」


ミスティは自身を持って言い切り、フランドールはそれに頷いた。


「分かりました

 兵士の身をまもってください」

「はい

 お任せください」


ミスティはそう言うと、さっそく呪文を唱えた。

ミスティの紡ぐ言葉に従って、彼女の周囲に魔力が集まる。

それは微かに発光を繰り返して、周囲に網目の様な模様を浮かび上がらせた。


ブモオオオ

プギイイイ


オークライダー達が鳴き声を上げながら、器用にワイルド・ボアを操って向かって来る。

豚人間が猪に乗って突進してくる。

絵面は凄く滑稽だが、それは実に恐ろしい部隊だ。

その突進力もさる事ながら、膂力の強いオークが乗っている。

振り回す長柄の斧も、十分な脅威だろう。


「構えろ!」

「おう!」


ドドドドドド!

ガシーン!

グワッシャーン!


「ぐおお」

「ふぬぬぬ…」

プギャアア

ブギイイイ


ほとんどの兵士が突進に耐えて、オークの突撃を押さえる。

オークはワイルド・ボアを止められて、慌てて斧を振り回した。

兵士も必死に応戦して、剣で斧を受け止める。

しかし馬上?猪上の優位から、膂力のある斧を受け切れずに、兵士は次々と倒される。

ワイルド・ボアもその場から突進して、衝撃で吹き飛ばされる者も居た。


「くそっ」

「なかなか手強いぞ」


「ソーン・バインド」

「マッド・グラップ」

「スネア―」


「駄目だ」

「ソーン・バインドは効くが、それほど長くは拘束出来ないぞ」

「くそお、マッド・グラップでは無理か」

「スネア―でもすぐに抜けられます」


魔術師達は必死に呪文を唱えるが、茨の拘束以外は効果が薄かった。

それに集団で入り乱れているので、下手な攻撃魔法は唱えられなかった。

マジックアローがある程度は狙えるものの、それでも誤射の危険があるのだ。

混戦に兵士が苦戦していると、後方から声が届いた。


「お待たせ

 そこは魔法に気を付けてね

 ライトニング・バインド」


ミスティが魔法を発動させると、稲光が走り、魔物を数体纏めて包んだ。


バシュッ!

プギャアアア

ブモオオオ


魔物の悲鳴が上がり、6組のオークライダーが光に包まれていた。

それは雷の魔法の拘束で、強烈な電流が魔物を包む。

茨の様な雷の鞭が、魔物に絡みついて拘束する。

断続的な電流が流れて、その動きも塞いでくれる。


「すごい…」

「一気に6体も止めたぞ」

「良い…から

 早く…止めを」

「あ、はい!」


ミスティは魔法を行使し続けるのも辛いらしく、切れ切れに言葉を口にする。

それを聞いた兵士が、慌てて止めを刺しに向かった。


「まったく、無茶を…」

「ア、アーネスト…さん…」


「あなたの魔力では、発動でも精一杯でしょう

 魔力切れを起こしますよ」


アーネストはマジックポーションの瓶を空けて、ミスティに飲ませてやる。

ミスティはハアハアと荒い息をしながらも、何とか魔法を維持しながら飲み干す。


「終わりました!」


兵士の声がして、やっとミスティは魔法を解いた。

そのまま、その場で座り込み、呼吸は荒くなっていた。


「はあ、はあ…」

「ほら、もう一本」


ミスティは何とか瓶を受け取ると、不満を漏らさずに一気に呷った。

それほどまでに切迫していて、今飲まなければ昏倒するところであった。


一気に6体倒せた事で、そこは少しづつだが持ち直し始めた。

他の場所でも何とか維持して、少しづつだが魔物は倒されて行く。

しかし歩兵の犠牲も多くて、既に30名以上が死んでいた。

今も怪我人が出ていて、他の兵士が支えながら、何とか担いで運ばれて行く。


「無茶、でも

 ここで、何とか…

 フラン、ドール様に…」

「良いから

 良いから、分かったから

 少し休んでください」


アーネストはそうミスティに声を掛けて、さらに数本のマジックポーションを持って来させた。


「ミスティさん

 大丈夫ですか?」


そこへミスティを心配して、フランドールが駆け寄る。


「よく言ってあげてください

 彼女は魔力切れの先の魔力枯渇を起こしています」

「そ、そうか」

「あのまま無理をしていたら、命にも係わっていたでしょう…」

「え?」


アーネストの警告に、フランドールは硬直する。


「フランドール殿からよく言ってください

 いくらあなたの為とは言え、危険ですから」

「あ、ああ…」


「他ならぬあなたの言葉なら

 彼女も聞くでしょう」

「え?

 それは…」


アーネストの含ませる様な言葉に、ミスティはほんのりと頬を染めた。

何か言いたかっただろうが、息が上がっていて言葉が上手く出せない。


「ア、アーネ…スト」

「はいはい

 邪魔者は去りますよ」


アーネストはウインクをして、手を振りながら離れる。

後に残された二人は、気まずそうに見詰め合う。


「おい…

 あれ…」

「言うな

 今は戦闘に集中しろ」

「くそう」

「オレの憧れのフランドール様が…」

「え??」


変な事を言う者も居たが、兵士達は再び戦闘に向かった。

フランドールは黙ってミスティを抱きかかえると、そのまま運ぼうとした。

ミスティは真っ赤になりながら、顔を覆って呟く。


「フ、フランドール様…」

「しっ

 何も言わなくて良い

 暫く向こうで休んでいなさい」

「は、はい…」

「良いね

 これは命令だ」


フランドールはそう言って、ミスティを抱きかかえて運んだ。

それは世の女性が憧れそうな、所謂お姫様抱っこという物であった。

行き遅れたミスティとしては、こんな凛々しい領主様にされて、恥ずかしくて死にそうになっていた。

いつかは愛する男にされたいと思っていたが、現実を見て諦めていた。

それが思わぬ事から、意識し始めた男性にされたのだ。

この事が原因で、ミスティは恋に落ちていた。

フランドールは意識していたものの、そこまでは思っていなかったのだが…。


ミスティがフランドールに、お姫様抱っこで運ばれたのを見て、魔術師達は奮起していた。


「おい

 見たか?」

「ああ

 遂にあの娘も…」


「そうとなりゃあ、ワシ等も頑張らんとなあ」

「おう」


「ミスティが幸せになる為にも…」

「邪魔なこいつ等を片付けんとな」


「ワシもやるぞおお

 アース・バインド」

「おい!

 それは…」


地面が不意に隆起して、魔物の1体の足元から鋭い岩が飛び出す。

それはワイルド・ボアを貫き、その上に乗ったオークにも刺さった。


「どうじゃ、はあはあ」

「お前、魔力が…」

「そうじゃぞ

 無理をするな」


「なあに、ポーションはたんまりある」


男はそう言うと、ポーションを呷った。


「なんじゃ

 抱っこが目的じゃないんか」

「あほう

 そんなわけあるか」


「まだまだ元気じゃのう

 それならワシも、ストーン・バレット」


ズガガガ!


地面から小石が浮き上がり、魔物目掛けて撃ち出された。


「ほおう」

「これは…」


「どうじゃ?」

「しかし兵士に当たるじゃろう」

「そこは考えとるわい」


「ならオレは

 ライトニング・ウイップ」


今度は電撃が走って、魔物に絡みついた。

先ほどのライトニング・バインドの下位魔法で、単体に電撃の鞭を当てて縛る。

威力はそこそこあるが、対象が単体に限る。

それでも魔力の消費が少なくなるので、覚えれば応用が利く。


「ふう

 これなら何発か打てる」

「お前はそれを覚えたんかい」


魔術師達が色々試していると、拘束されたオークを倒した兵士が声を掛けた。


「おい

 真面目にやってくれよ」

「なんじゃと?」

「ワシ等は至って真面目じゃぞ」


「そうじゃ

 真面目に魔法を試しておる」

「誰の魔法が一番効くかをな」


いつの間にか、魔法の披露の場になっているが、彼等は真面目にやっているつもりだった。


「おい…

 頼むから真面目に戦ってくれよ」


兵士は溜息を吐きながら、次の魔物に向かって行った。

同僚が倒されて、切られそうになっていたからだ。


それを見て、また魔術師が呪文を唱える。


「ほれ

 これでどうじゃ?

 ライトニング・ウイップ」

「お?

 お前さんも覚えたんか」

「ああ

 まだ試していなかったが、これは使えそうだな」


オークは振り上げたままの態勢で、そのまま痺れて固まっていた。

兵士はそれに切り掛かり、倒れていた同僚も下からワイルド・ボアに止めを刺した。


「最初からそうやってくれよ…」

「何にせよ助かった

 次に向かうぞ」


助け起こした同僚と共に、兵士は次の魔物に向かって行った。

オークライダーもその数は減っており、残る魔物は少なくなっていた。

中央で戦う騎兵達も、オークの兵士をほとんど倒していた。

それを見て、アモンはニヤリと笑った。


「これも退けるか

 面白い」


「気を付けろ

 いよいよ本命が出るみたいだ」

「騎兵部隊を下がらせろ」

「一旦体制を立て直すんだ」


アモンが再び魔物を出すと見て、ギルバートが警告を発する。

将軍も指示を出して、奇襲に備えて体制を整えに掛かった。

いよいよワイルド・ベアが出て来るのだ。

万全な体制で無いと、一気に崩されるだろう。

騎兵達が号令を聞いて、一気に踵を返した。

それを合図に、轟音が鳴り響く。


ドガーン!


それは今まで以上の音を立てて、煙がもうもうと立ち上った。

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