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聖王伝  作者: 竜人
第五章 魔王との戦い
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第116話

東の門では、魔物に襲われる事も無く、無事に冒険者達が帰還していた

時刻は夕刻に迫り、慌てて帰って来る冒険者達も多く居た

ギリギリまで採取をして、少しでも多く稼ぎたかったからだ

今回の採取は領主からの依頼で、報酬も普段よりも割高となっている

この際に少しでも多く稼ぎ、良い装備に変えたかったのだ

そうすれば侵攻が終わった後に、魔物を狩りに出れるかも知れないからだ

冒険者達は籠や荷車に一杯の素材を抱えて、意気揚々と帰還してきた

その事で後に、ハリスとギルドマスターが頭を抱える事となるが、それはまた別の話だった

夕刻を過ぎても、城門の前では作業が続けられていた

突貫工事の柵と防壁は出来たが、そこへ罠を仕掛けていたのだ

罠には守備側からだけ分かる様に、目印を付けられていた

しかしおっちょこちょいな冒険者が、それに掛かって邪魔をしていた


「おわっ!」

「こら!

 そこっ、何をしている」


「助けてくれ~」

「まったく…」


脚にロープが絡み、吊り下げられた冒険者の男が叫んでいる。

それを支えながらロープを切り、数人掛かりで助け出す。

それだけで数人の作業が中断して、また罠も張り直さなくてはならない。


「また作り直しだ…」

「いい加減にしろよ」

「だってよ…」


「だってじゃない!

 お前、何度目だ

 次やったら朝まで放置だからな」

「そんな

 魔物に食われちまうよ」

「お前みたいな役立たず、魔物に食われてしまえ」

「うう…」


男は罠の作り方は詳しかったが、肝心の罠にすぐに掛かってしまう。

だから折角作った罠が、すぐに無駄になってしまう。

既に3回引っ掛かり、それだけ罠の優秀さが分かるが、男の情けなさも露呈されていた。


「どうする?

 もう1つ2つ作っておきたかったが…」

「仕方が無いだろう

 ギリギリまで粘ろう

 まだ魔物は来ていない」

「はい」

「やれやれ…」


早速壊れた罠にロープを張り直され、新たな目印が付けられる。


「もう掛かるなよ?」

「え?

 う、うん」


男を促して、冒険者達は次の罠を作りに向かう。

その作業中に、不意に兵士が叫ぶ。


「魔物だ!

 魔物が現れたぞ!」

「何!

 くそっ」

「後少しだ

 ここだけは仕上げるぞ」


冒険者達が作業を続ける中、兵士は上司を呼びに向かった。

他の罠を作っている冒険者達も、作業を中断するか続けていた。

中断する者は足場を直して、通行に問題が無い様にする。

下手に足場が崩れたままでは、逆に兵士の通行の邪魔になるからだ。


現れた魔物はオークが2匹で、立派な鎧を着ていた。

まるで騎士の様に鎧を身に着けて、長柄の斧を構えて立っていた。

その様子を見た冒険者が、思わず声に出す。


「おい、アレ…」

「まるで騎士だな」


「そうだな

 こっちの騎士より立派だぜ」

「おい

 止せって」


「でも…そうだろう?

 向こうの方が筋骨隆々としていて…

 強そうだぜ?」

「そりゃあそうだが

 怒られるぞ」


オークは人間とあまり変わらない身長だが、人間よりも筋肉が発達していた。

肩や腕も太く大きく、脚もがっしりと筋肉に覆われている。

それが金属の部分鎧を身に着けて、不動の構えで立っている。

顔が豚でなければ、屈強の騎士と勘違いしただろう。


「良いから、さっさと作業を終わらせろ

 痕跡を残すなよ」


近くで警戒していた兵士が、気まずそうに注意した。

彼もオークに何か感じていたが、それを言う訳にはいかない。

それよりも、冒険者達に作業を早く終わらせて、安全な場所に避難させたかった。

彼らを守って戦う事になれば、厄介な事になるだろう。


しかしオークは動く事も無く、まるで誰かを待っている様子だった。

間もなく兵士に呼ばれたのか、ギルバート達がやって来た。


「魔物が現れたって?」

「はい

 あちらです」


兵士が前に立って、ギルバート達を案内する。

ギルバート達にアーネスト、フランドールと将軍も来ていた。

フランドールはオークの姿に反応し、悔しそうに歯軋りをする。

将軍も兵士を倒したオークを前に、厳しい表情を浮かべる。

こちらはオークの技量を見抜いて、これが集団で向かって来ては危険だと判断していた。


オークはギルバート達をトップと判断したのか、一礼をして森の中へと向かって行った。

まるで誰かの元へと案内するかの様に。


オークに案内されて森の中を進むと、そこには天幕が貼られて、簡単な陣が作られていた。

そこの真ん中に立派な椅子が置かれており、そこに長身の男が座っていた。


「ふはははは

 よく来た、人間の代表者よ」


「あれが…アモン?」

「ああ

 昨日会った男だ」


「ふむ

 昨日の子供か」


アモンはそう言って、眼を細めて邪悪な笑みを浮かべた。


「私はアーネストと申します

 こちらがギルバート

 あなたが探していた者です」

「ほう

 この子供が…」

「アーネスト?」


「女神が何を求めているのか分からないが…

 どうやら、お前をご指名の様子だ」

「オレを?」


「そうだ」


アモンは呟くと、ゆっくりと席を立った。

2mはあろうかという長身が、一行を見下ろす。


「ワシもベヘモットも、女神様が何を求めているのかは…

 分からない」

「分からない?」

「ああ

 申し訳ないが、詳細は知らされていない」


「ただ、この街に居るであろう少年が、選ばれた者であるかも知れない

 だからそれを見極める為にも、ここを攻める様にと仰せつかった」

「選ばれた…者?」

「ああ

 それしか聞いていない

 それが何を示しているかは…」

「分からない?」

「ああ」


アモンはそう言いながらも、ギルバートを凝視していた。


「ベヘモットも言っていたけど、覇王の卵ってやつか?」

「え?

 あいつ、そんな事を言ってたのか?」

「ああ

 よく意味は分からなかったけど、知っているのは死んだアルベルト様とベヘモットだけだろう

 他は分からない…」


「そうか…

 まさかな…」


「何なんだよ

 その覇王の卵って?」


将軍が気になって聞いたが、アモンは答えなかった。


「それはワシの口からは言えない

 ただ、それなら納得だ

 この子は危険だ」

「危険?」


「ああ

 神にも悪魔にもなれる逸材だ」

「え?」

「神?」


「あ…

 あくまでも比喩だぞ

 それだけの能力を秘めた可能性の…卵だ」

「卵?」

「ああ

 どうなるかは、そいつ次第だ

 だがベヘモットが気に掛けていたとなると、もしかしてがもしかかもな」


「それで…女神に狙われていると?」

「女神様な!」


アモンは怒気を孕んだ目で、アーネストを睨んだ。


「言っておくが、不敬罪で今、ここでお前達を殺して良いんだぞ

 あくまで女神様からお願いされたから生かしておいている

 その気になったら、こいつ等で…

 明日の日が出る前にでも滅ぼせる」

「させるか!」


フランドールはそう叫ぶと、剣を構えてアモンを睨んだ。

その眼はアモンを睨んでいたが、構えた剣は震えていた。


「何だ?

 昨日の兵士だな」

「兵士では無い」

「フランドール殿はダーナの領主になる方です」


「ん?

 ダーナ?」

「お前が攻め込もうとしている街だ」

「ああ

 ダーナって言うのか」

「知らずに攻める気だったのか?」

「そうだ

 女神様のお願いだからな」

「くっ」

「それだけの事で…」


「それだけ?

 女神様の仰る事は絶対だ

 それがなんであれな」

「言っても無駄だろう

 我々とは考えが違うんだ」


「しかし、これが領主ねえ…

 はははは

 弱いわけだ」

「くそっ!!」

「止しなさい」


フランドールが堪えきれずに、思わず剣を振りかぶって前に出る。

しかし将軍が後ろから、羽交い絞めで押さえる。


「ふん

 事実だろう」

「うう…

 離せ、離してくれ」

「駄目ですよ

 ここで向かって行っても、昨日と変わりませんよ

 今は押さえてください」

「しかし…」


「ふん

 小僧の方が分かっている様だな」

「ええ

 あなたの部下には勝てそうですが、あなたには…

 正直自信がありません」

「はははは

 そうだろう

 しかしこいつ等を見て、まだ勝てると言うとは随分と自信過剰だな」

「いいえ

 勝てる根拠がありますから」


アーネストが代わりに前に出て、アモンとの舌戦を続ける。


「自信は良いが、こいつ等も強いぞ」

「そうですね

 でもギルバートや将軍も居ます

 それに、フランドール様は明日には疲れは抜けているでしょうから」

「ほう

 昨日は疲れていたから、負けたと言うか」

「くそお」

「フランドール様

 挑発に乗らないでください」


アーネストはフランドールに注意して、アモンから気を逸らさせる。

このまま挑発に乗ったら、明日での戦闘でも危険だろう。

フランドールがどうしても来たいと言うから連れて来たが、これは失敗したと思い始めていた。


「ふふふふ

 良いのだぞ

 このまま殺してやっても」

「アモン

 あなたも引いてください

 それは女神様のご意思ではないのでしょう?」

「ぐ…

 分かった」


「そもそも

 今日は顔見せのつもりなんですよね」

「そうだ

 そこの奴がワシに噛み付くから…」

「言い訳しない」

「ううむ」


「それで?

 明日は朝からの戦いという事で良いんですか?」

「ああ

 貴様らの時間に合わせてやる」

「それならば、こちらは7時の鐘で集まるつもりだ

 8時の鐘で開戦で良いかな」


将軍の言葉に、アモンも頷く。


「ああ

 それで構わん」

「そっれならば、それまではそちらはここに野営するのだな」

「ああ

 なんなら夜襲を掛けて来ても良いぞ

 それはそれで面白そうだからな」

「良いのか?」

「おい

 本気か?」

「冗談に決まっているだろう」


アモンの夜襲の話に、アーネストが即答した。

しかしこう答えた事で、アモンは夜襲を警戒しなければならなくなった。

冗談で口が滑ったとはいえ、オークには余計な警戒が必要となった。


「本当にしないな」

「さあ?」

「う…

 お前、本当にベヘモットに似ているな

 お前なら、あいつと仲良く出来るだろう」

「するか!」


その頃、遠く東の平原で、ベヘモットは人間の軍勢と向かい合っていた。

それは騎馬に乗った兵士達で、対するベヘモットの軍勢は、人間に似た狐の獣人の軍だった。


「あら?

 風邪かしら?」

「大丈夫ですか?」

「ええ

 私達魔王は、風邪など引かない筈だから」


じゃあ、何で風邪って言った?


そういう突っ込みを我慢しながら、狐の獣人はベヘモットに聞いた。


「奴等は攻めて来ますかね?」

「そうねえ

 彼等は移動する家だから、この場所に拘りは無いわ

 でも…いい加減飽き飽きしてるでしょう」


「ねえ…

 東の勇者さん」


そう言ってベヘモットが見詰める先には、一人の若者が騎馬の上でこちらを睨んでいた。

彼が騎馬民族を率いていたが、何度も魔物に襲撃されて、ここで反撃しようと待ち構えていたのだ。


「今回はネクロマンシー以外の許可も出てるのよねえ

 妖狐族の力を見せる時だわ」

「はい

 存分にご覧ください」


「さて

 東の勇者は、どんな戦いを見せてくれるのかしら…」


そう言ってベヘモットは、妖しく視線を細めて見ていた。

若々しい東の勇者は、まさにベヘモットの好みであった。

ベヘモットが男か女か、はたまたそれ以外なのか。

それは神のみぞ知るであった。


ベヘモットがそんな戦いに身を投じている頃、ノルドの森では会談が終わろうとしていた。


「それでは、明日開戦という事で」

「ああ

 それまで暫し、束の間の平和を楽しむが良い

 わっはっはっはっはっ」


「それは良いけど

 勝った後はどうなるんだ?」

「ああん?

 まだ勝ったわけでも無いのに、何寝惚けた事言ってる」

「いや

 お前や魔物は引き下がるのか?」


「そりゃあ…

 こいつ等に勝てたら、大人しく引き下がるさ」

「他の魔物は?」

「え?

 それは知らんさ」


「はあ…」

「やっぱり…」

「ん?」


「それじゃあ

 お前らが去っても、魔物は引き続き出るんだな?」

「そりゃそうだろ

 そもそも、こいつ等は元々ここに住んでいたんだ

 それをお前等人間が、攻め滅ぼして土地を奪ったんだろうが」

「そうなのか?」

「そうなのか…って

 ほんの数百年前の事だろ

 何でお前らは、そう忘れ易いんだ」


「…数百年って」

「オレ達は生きてないよな」


「そもそも、人間は70ぐらいまでしか生きられない

 100年も昔の事でも、覚えている人が居ないんだよ」

「はあ?」

「だから

 100年後にはオレ達も居ないの!

 当然今日の話も、100年後でも覚えていられないだろう」


「え?

 そうなの?」

「エエ

 ワレワレデモシンデシマイマス」

「シトサマノヨウニハイキレマセン」


側近のオークも、それが正しいと認めた。


「え?

 話せたの?」


将軍は別の事で驚いていたが。


「兎に角

 こいつ等以外には責任は持てない」

「それなら、その魔物が殺されても文句は無いな」

「ああ

 昨日も言ったが

 この世は弱肉強食だ

 弱い奴は殺される」

「分かった」


「他には無いか?

 これで良いのか?」

「ああ」

「後は、明日の戦いで決めるまで」


「そうか」


それで会談は終わりとみなされて、ギルバート達は帰って行った。

後に残されたアモンは、複雑な表情をしていた。


「アモンサマ?」

「ドウサレマシタ?」

「うむ

 いや…」


「ワシはあいつ等が、楽しみや利益の為にお前らを狩ると聞いていた」


「しかし実際は、あいつ等自身も何も知らずに、互いを憎み合って戦っているのだろうか?」

「ソウデスネ

 タシカニコノチニツイテハ、センダイカラモキイテイマセン」

「カコニナニガアッタノカ?

 ソレハトウニンシカワカラナイノデハ?」


そうオークの側近は言って、自分達が憎んでいない事を示した。


「しかし、小鬼どもはどうだ?

 あれも長命では無いだろう」

「ソウデスネ

 ヤツラノバアイハ、イキテイルモノスベテヲネタンデイマスカラ」

「カンガエカタガ、ソモソモチガイマス」

「そうか…」


アモンは納得したのか、してないのか、複雑な表情を崩さない。


「女神様は何を考えて…

 いや、そもそも、これは本当に女神様のお考えなのか?」


「それに、覇王の卵

 あれは本当なのだろうか?」


アモンは自身の判断に疑問が生じて、このまま明日の戦いをして良いのか悩んでいた。


「そもそも、あいつの言う事を信じていれば…」


「いや、止めておこう

 今さらどう言おうと、始まった以上は止められない

 それならばせめて、戦いを楽しもう」


戦いの魔王は、悩むのを諦めた。

元々頭を使う方では無いし、何も考えないで戦いを楽しむからこそ、戦いの魔王と呼ばれている。

だからこそ、次の瞬間には全てを忘れて、明日の戦いを楽しみにしていた。


そんな彼だからこそ、今日会談した面子の名前を憶えていないし、側近の名前も憶えていなかった。

側近のオークがダリとガルと何度言っても、未だに憶えれないのだった。

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