表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
109/800

第109話

アーネスト達は、今日はなかなか魔物に遭遇しなかった

オークの集落やワイルド・ボアが食い荒らした跡は見付けたが、肝心の魔物は居なかった

オークはギルバート達の方へ向かっていたし、ワイルド・ベアは周りに見当たらなかった

実は前日のワイルド・ボアが食い荒らした跡で、付近には他には居なかったのだ

アーネストはさらに奥へ踏み込み、魔物を探していた

オーガが荒らした跡や、ワイルド・ボアの食事跡は見付かるが、肝心の魔物の姿が見えない

痕跡の感じからして、魔物が居たのは数日前だろうと判断出来た

昨日今日の痕跡では無い以上、その付近に魔物が居る可能性は低い

諦めと苛立ちを感じながら、アーネストは索敵の為に魔力を放つ

得られるのは野生動物の物と思われる、小さな魔力反応のみだった


「ダメだ

 痕跡は古いし、反応も動物の物だけだ」


アーネストはつい、苛立ちを声に出していた。


「そうか…」

「その魔力の反応は、本当に魔物じゃないのかい?」

「え?」

「魔力の反応はあるんだろう?」

「そうですねえ

 ゴブリンやコボルトにしても小さいんですよ

 それは人間よりも弱いので、恐らくは猪か何かでしょう」

「そうか

 ワイルド・ボアでもないのか」


兵士は残念そうにしていた。

オーガが居ないのなら、せめて肉でも捕りたかったのだろう。

しかし現実は、他の魔物も居なかった。


「なあ

 どうせなら、そいつでも良いから狩らないか」

「え?」

「どうせこうしていても、時間の無駄だろう

 ならせめて、魔術師達に的当ての練習をさせないか?」

「なるほど…」


兵士は尚も諦めきれないのか、その動物を狙ってみようと提案してきた。

オーガが狩れないのなら、せめて魔法を当てる訓練だけでもしておこうと言うのだ。


「そうです…ねえ

 良いでしょう

 ならその反応を確かめましょう」

「お、おう」


兵士は諦めかけていたのか、アーネストの言葉に喜びを隠せない。

しかし猪だったら、わざわざ狩っても大した肉にはならない。

その場でバラして焼いた方が良いだろう。

上手くすれば、その煙や匂いに釣られて魔物が来るかも知れない。

そんな打算を抱きつつ、アーネスト達は魔力反応を追ってみた。


「猪か熊か…」

「いや、小さいから栗鼠とか野鳥の可能性もありますよ」

「え?

 そうなのか?」

「ええ

 最初に言いましたよね

 反応は小さいと」

「う、うん

 そうだな」


栗鼠や野鳥かも知れないと聞くと、途端に兵士の様子は落胆に変わった。

それでも的にはなるだろうと、反応を追ってみる。

暫く音を立てない様に進むと、少し開けた場所に鹿の姿が見えた。

それは大人の鹿だったが、餌になる物が少ないのか、少し瘦せている様子だった。


「珍しいですね」

「そうか?」

「ええ」


「この辺には鹿は居ませんから、森の奥から出て来たんでしょうね」

「ふうん」


そんな話をしながら、魔術師が鹿に狙いを定める。

動いていないのなら、この距離でも外せないだろう。


「しかし、なんだな」

「え?」

「猟師をやってた爺さんの話だが

 普段見慣れない獲物を見付けたら、それは森の異変だって

 まさにこれがそうだろう?」

「ん?」

「魔物が来たから、こいつは逃げて来たんだろう?」

「そうか!」


兵士の爺さんの話で、アーネストは気が付いた。

しかしその声で、鹿が逃げ出してしまう。

何とかマジックアローが当たって、2匹は倒せたが、他は逃げ出してしまった。


「ダメですよ

 急に声を出しちゃあ」

「鹿が逃げたじゃないですか」

「あ…

 ごめん」


「で、何ですか?」

「ああ

 魔物から逃げているから、鹿は痩せているんだろう

 それなら、鹿の逃げて来た方に…」

「魔物が来ている?」


アーネストはもう一度索敵をしてみて、鹿が移動していた方角を確認する。

それは森の北東から南西に向けて移動していて、確かに反応はそういう動きをしていた。


「付近には居ませんが、北東から向かって来ていますね」

「そうか

 そうなると…そっちから魔物が」

「北東?

 そっちは殿下が居る方向に近く無いか?」

「え?」

「確かに

 殿下が問題無く前進していたら、遭遇する可能性はあるな」


「大丈夫かな…」

「大丈夫でしょう

 あっちはおじさんも居るし、ミスティも着いています

 こっちより安心でしょう」

「将軍だろ」

「そうかなあ

 あれで将軍も色々と…」

「あ…」


急に不安になってきたが、それをここで心配してみても何もならない。

無事を祈るしか無いのだ。


「それで

 こいつはどうします?」


魔術師が鹿の死体を引き摺って来て、それを目の前に置く。


「ここで解体するしか無いな

 持って帰るのも邪魔だし」

「そうだな

 すぐにバラそう」


兵士がナイフを抜くと、さっそく鹿を解体し始めた。

猟師が居たというだけあって、慣れた手つきで鹿を解体して行く。

それに耐えられないのか、魔術師達は視線を逸らして待っていた。


「慣れたものですね」

「爺さんの手伝いをしてたからな」

「へえ

 何でならなかったんです?」

「ん?

 ああ、漁師にか?」

「ええ」


兵士はあっという間に2匹の鹿を解体して、肉を木の枝に刺し始めた。

即席の串焼きを用意しつつ、質問に答える。


「それはな

 ここでは猟が不安定だったからだ」


「当時は魔物が居なくて、猟に出ても狩れない日があったからな

 おふくろはそんな爺さんを見てて、オレには安定した仕事をしろって」

「それが兵士?」

「いや

 オレは元々、警備兵だったんだ

 それが腕を買われてな

 今は中隊長ってわけだ」


その兵士は、他の兵士と変わらない仕事をしていたが、実は中隊長だった。

今は有事なので、部隊の編成が変わっている。

だから本来は歩兵を率いている彼も、他の兵士に混じって訓練に参加していた。


「え?

 中隊長さんなの?」

「知らなかった」

「これは無礼を…」


「はははは

 いやいや、今回は一般の兵士として参加している

 そこは気にせんでくれ」


兵士はそう笑いながら話し、串焼きを地面に刺して行く。

そこへ他の兵士が枯れ木を集めて来て、簡単な焚火が用意される。


「さあ、こんなもんだろう」

「ええ」

「さっそく火を…」


火口箱を探していると、魔術師が魔法で火を点けた。


「おお

 これは便利な」

「いえ

 私も早く味わいたいですから」


以前の火口箱は、木屑や火打石を入れた物であった。

それが最近は、コボルトの魔石で火を点ける火口箱が流行していた。

この兵士も持っていたが、魔石の使用回数を考えれば、些か高額な物であった。

彼の給料が良い証だった。


そんな便利な魔道具も、魔術師が目の前に居たら霞んでしまう。

魔道具とは、魔術師が居ない時に、その代わりを果たすだけの物だからだ。

魔術師が魔法で火を点ける方が早い。


焚火のパチパチという爆ぜる音と、肉の立てるジュワジュユワという音が響く。

そのハーモニーに、肉の焼ける旨そうな匂いが食欲を掻き立てる。

アーネストがポーチから小瓶を取り出して、肉に振り掛けて行く。

するとハーブの利いた香辛料の香りが、辺りに漂い始める。


「こ、これは…」

「随分と旨そうな匂いが…」

「って大丈夫か?

 こんな匂いを出してたら、それこそ魔物が…」

「でも、その為の焚火でしょ?」

「あ…うん」


「しかし、どこにそんな物を仕舞っておくんだ?」

「へ?」

「本とか、小瓶とか

 お前は色んな物を出してるだろ?」

「ああ

 このポーチの事かな?」

「ああ

 …って小さい!」


アーネストが小物を仕舞っていたポーチは、小脇に抱える小さなカバンの様な物だった。

そこから本や小物を出していて、杖も普段は仕舞われている。


「これは収納魔法を掛けてあってね

 魔術師なら結構持ってますよ」

「一緒にするな!」


「オレは高くて買えないぞ」

「そうだ

 それにギルド長のポーチでも、本が2、3冊ぐらいしか入らない

 お前のは特別だ」

「え?

 そうなの?」


言われてみれば、杖を持ったままの魔術師が多い。

それは杖を、歩行の助けに使っている事もあるが、収納する物が無い為でもある。

そんな便利なポーチを持っているのは、この場では3人だけだった。


「ああ

 お前の師匠さんが、国王から貰った物だ

 大事にしろよ…」

「え?

 そうなんですか?」

「ああ

 普通のポーチはそこまで容量は大きくないし、値段も高額なんだ

 それぐらいなら、金貨100枚はくだらないだろう」

「そんなに…」


金貨100枚とは、地方の領主の年収に匹敵する。

そもそも、普通は年収でも金貨数枚あれば良い方だ。

そして収納の魔道具等は高額で、数年分の年収になるのだ。

稼いでいる魔術師でも、なかなか買える物では無かった。


「オレが買うんだったら、数年は貯金しないと…」

「お前じゃ無理だろ

 すぐに本を買うから」


本1冊で銀貨数枚は掛かる。

銀貨数枚とは、街の宿屋で1泊出来る価格だ。

羊皮紙で出来た本で銀貨1枚、紙なら5枚以上になる。

本が如何に高額か分かる話だ。


「そんなわけでな

 魔物の討伐は、良い小遣い稼ぎなんだ」

「そうそう

 魔石は銀貨数十枚になるし、オーガのなら金貨1枚だぜ

 数が狩れれば、すぐにポーチが…」

「馬鹿

 人数で割るから、そんなに貰えないだろ

 せいぜい銀貨数枚だ」


魔物の討伐は、狩れば狩るほどお金になる。

魔物の数が報酬に影響するので、現実的ではないのだが、一山当てたくなるのは分からなくもない。


日々の暮らしには、銀貨1枚でも十分である。

銀貨1枚が、銅貨10枚の価値になる。

銅貨1枚で、黒パン1個やリンゴ2個に相当する。

宿屋や酒場で、酒1杯と食事をしても銀貨1枚ぐらいで足りる。


銀貨100枚が金貨1枚相当になる。

地方の税収の高さで、多少は前後する事もあるが、大体の硬貨の価値はこんなものだ。

だから金貨100枚となれば、余程の高額な物となる。

例えば大きな屋敷を建てるとか、国王に献上する武具1式等といった物だろう。


「へえ…

 そんなに高い物なんだ」

「ギルド長もちゃんと説明しとけよ」

「でも、そんな物でもアーネストだと…」

「ああ

 こいつは、そういうところは無頓着だからな」

「ん?」


そう言われている当のアーネストは、ポーチの中からガラクタと本を取り出してみてた。

空のポーションの小瓶や鳥の羽、わけの分からない物も混じっている。

幾つか悩みながらも捨てたが、ほとんどが再び仕舞われた。


「な…」

「ああ…」


物を大事にしているのか?

それとも価値は気にしていないのか?

高価なポーチにはガラクタが仕舞われていた。


「その…なんだ

 準備はもう、良いのか?」

「ええ

 私は良いですよ」

「そうだな

 結局魔物は出なかったし」


折角肉を焼いたのに、みなが雑談をしながら食べていても、魔物は現れなかった。

どうやら本当に、近くには居ない様だ。


「どうする?」


中隊長が改めて聞いてくる。


「もう少し、狩をしてみるか?」

「そうですね

 ここでじっとしていても、魔物は見付かりそうにないですしね」


一行は暫く歩き回って、見つけた鹿を狩ってみた。

中には気配に敏感な鹿も居たので、なかなか思うようには狩れなかったが、12匹の死体を解体した頃には、肉が余計な荷物になってきた。


「おい

 お前のポーチに入れれないか?」

「嫌ですよ

 肉の匂いが着きますから」

「そうは言っても、中はガラクタばっかりだろう?」

「ガ、ガラクタ?

 これは触媒でもあるんですよ」

「へえ

 そうには見えないがな」

「それは勉強不足でしょう

 この羽1枚でも、魔物の接近に…」


アーネストがそう言った時に、魔力に反応して羽が淡く輝き始めた。


「っ!」

「何?」


「みなさん、すぐに円陣を組んでください

 早く!」

「え?」

「お、おう」


アーネストが慌てて告げて、魔術師達が集まって来る。

それを囲む様に、兵士が周りを見回す。


「みなさんも集まって

 どこから来るか…

 あっちか!」


兵士がゆっくりと円陣を組み始めている一角を、アーネストは指差す。

慌てて兵士達はそちらに向いて身構える。

剣を抜いて身構え、視線を森へ向ける。

しかしそこには何も無く、静かな森が鬱蒼と続くだけだ。


「何だ?

 何が来るんだ?」

「移動が速い?

 狼…なのか?」

「何!

 狼だと?」


ウオオオオン

ワオオオオン


狼の遠吠えが聞こえる。

しかしそれは、聞きなれない異様さを感じた。

ここ数年は、森では狼は見られず、他の場所へ移動していると思われていた。

しかし狼にしては、その声は些か大きかった。


遠くからガサガサと音がして、何かが駆けて来る音がする。


「みんな備えて

 いきなり襲って来ますよ」

「おう

 分かっている」

「来るなら来い!

 狼なんざあ…!!」

「な、なにい!」


ズザザッ!

アオオオオン

ガルルル


飛び出して来た狼は大きく、先の鹿が可愛く見える大きさだった。

それが大きく跳躍し、兵士の一人に襲い掛かる。


「くっ!」

「マジックアロー」


咄嗟に魔術師が魔法を放ち、それを受けて狼の攻撃が逸れた。


ズドドド!

ギャワン


威力は低かったが、空中で刺さった矢の勢いで、魔物の爪は宙を掻いた。


「あ、あぶねえ…」


キャインキャイン


頭から胸元まで矢を受けて、狼は地面にのたうつ。

それに兵士が止めを刺し、再び身構える。


ガサガサ!

ウウウウウ…

ガルルルル…


繁みを掻き分けて、大きな狼が8匹、兵士達の前に現れた。


「何て大きな…」

「美しい…」


その姿は美しく、森の中に居たとは思えなかった。

灰色の毛は美しく波打ち、身体は野生の動物らしくがっしりとした筋肉に覆われていた。

しかしその大きさは大きく、全体に1m以上の大きさの狼が並んでいた。

その爪は鋭く地面に突き立てられ、牙は大人の指ほどもあった。


「フォレスト・ウルフ…」

「え?」

「狼の魔物、フォレスト・ウルフです」

「こ、これが…魔物?」


「ええ

 ランクG、最低ランクの魔物ながら、その中では強力な魔物になります」

「これで?」

「最低ランク…」


「そうです

 ゴブリンやコボルトと同じ、弱い魔物になります」

「マジか…」


「魔力はほとんど持っていません

 攻撃は単純な牙と爪だけ」


そう言われた意味が分かったのか、狼の内の1匹が、目を細めてアーネストを睨む。


グルルルル


「しかし単体でも素早く危険で…

 群れになると1ランク上がって、ランクF相当です」

「だろうな…」

「へ、へへ…

 肌でも感じるぜ

 こいつは強敵だ」

「気を付けてください

 まだ周りにも居ます」


言われて数人の兵士が、後方や左右に向いて備える。

魔術師達は狼と気付いてからは、周囲に潜む危険を感じて身構えていた。

どちらから来ても良い様に、魔法を展開して準備をしている。

予想外の魔物の出現に、アーネスト達は窮地に立たされていた。

すいません

書き直していたら朝になりました

このまま夕方の分も書いておきます

17時にアップ予定です


硬貨は金貨、銀貨、銅貨

それから特別な価値のある白金貨です


銅貨が基本になり、銅貨が100円ぐらいと思ってください

銅貨10枚で銀貨になり、約1000円になります

金貨が銀貨100枚で約10万円相当です

白金貨は金貨100枚に当たり、約1千万円になります

白金貨自体は珍しい物になり、滅多に出回りません

帝国が国庫から出していて、保管や褒賞に使っていました

今も王族や国の管理の元、褒賞として与えられます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ