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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
105/800

第105話

ギルバート達がオーガと戦っている時、フランドールもオーガに遭遇していた

今日は狩はしていなくて、獲物を探して森を徘徊していた

3匹が前方を歩き、周囲を確認している

後ろにも2匹居て、こちらは前方の3匹より大きく、一回り強そうな個体だった

フランドールは斥候の報告を聞くと、直ちに部隊を戻らせた

3匹に見付かっては、残りの2匹も加わって一気に来るだろう

その前に状況を確認して、策を練る必要があったからだ

5匹を一度に相手にするより、3匹と2匹に分けて戦った方が安全だろう


「どうしますか?」


兵士は小声でフランドールに相談する。

あまり声を出すと、オーガに見付かってしまうからだ。


「そうですね

 先ずは手前の3匹を倒しましょう

 それも出来れば、後ろの2匹に気付かれる前に」

「え?」

「何故だい」


フランドールの提案に、ミリアルド達が反論をする。


「ん?

 ミリアルド、どうしたんだい?」

「あんな化け物、オレ様の魔法に掛かれば…」

「魔法?

 どうするつもりだい」


「そりゃあ簡単でさあ

 オレが魔法でぶっ飛ばせば、簡単に片が付きますぜ」

「そうかなあ」

「え?」


フランドールはミリアルドの、簡単そうに言う発言に聞き返す。


「君の魔法は、確かに強力だろう」

「そうでさあ

 一度に2発の火球を出せる

 こんな事は他の奴には出来んでしょう」

「2発ね…」


「それなら、2発が当たるとして、残りは?」

「え?」


「オーガは全部で5匹居る

 残りはどうするんだい?」

「そりゃあ…」


「火球が飛んでる中で、兵士は危険だから近づけないよね」

「…」


「それに、魔物がそれで倒せるのかい?」

「ええ

 倒せる筈です…」

「本当かなあ」

「…」


「オークは消し飛んだらしいけど、あれはもっと大きいよ

 倒せなかったら、あいつ等は確実に君達に迫って来るよ

 その時、兵士だけで対応出来るのかな?」

「え…」


本当は、兵士達はオーガ5匹ぐらいなら倒せただろう。

しかし、魔術師が居る以上、何が起こるか分からない。

それこそ、昨日の様に魔法の暴発があるかも知れない。


「君達は、魔法で妨害が出来るよね」

「はい」


「後方の魔物には、魔法は掛けれるかな?」

「いえ

 さすがにそこまでは…」

「ほら

 こいつ等じゃあ役に立ちませんぜ」

「こ、このお…」

「言わせておけば」

「まあまあ」


ミリアルドの暴言に、他の魔術師が怒り始めた。

しかし、フランドールはそんな彼らを宥めつつ提案をした。


「それなら、手前の魔物には掛けれるよね

 奴等に不意討ちを掛けて、黙らせるんだ」

「どうやってです?」

「足元に仕掛けて、転倒させましょう

 そこで止めを刺すんです」

「ふうむ

 それなら出来そうです」

「転倒だけでなく、茨で拘束もしましょう

 上手くやれば、口も塞げるかも」


魔術師達の言葉に、ミリアルドは歯噛みをして睨み付ける。

自分の活躍を奪いそうな事に対して、悔しそうにしていた。


「ミリアルド

 君は他の魔法は使えないのかい」

「他の魔法?

 そんなの役に立たんでしょう」

「そうかい?

 例えばマジックアローとか、威力は低いけど、魔物の損傷を抑えれるよ

 そうすれば魔物の素材は無事に取れる」

「素材?」

「そう、素材だ」


「そんな物が、何の役に立つんですか」

「君のその杖…

 何の素材が使われているのかな?」

「え?」


「オーガの魔石が取れたら、それを使って杖を強化出来るだろう

 その為にも、魔物の遺骸はなるべく損傷が無い事が好ましい」

「損傷…」


ミリアルドはここで、昨日の事を思い出した。

昨日は真面目に聞いていなくて、聞き流していたが、確かにギルバートは言っていた。

魔物の素材が駄目になると。


「それじゃあ…

 オレ様の魔法は…」

「他には使えないのかい?」

「え?」

「フランドール様

 そいつは火球しか使えないんです」

「そうです

 火球を覚えてからは、そればっかり使って…

 他の魔法は馬鹿にして覚えなかったんです」

「それはまた…」


「君達は?

 君達も使えないんですか?」

「オレはマジックアローなら…」

「私は拘束の魔法なら」

「そうか…」


「どうやらミリアルド以外は、戦闘の役にたちそうですね」

「そんな

 オレでも火を起こしたり出来ますぜ」

「いや

 それじゃあ役に立たんだろう」


ミリアルドは反論したが、火を起こすのは戦いには役立たない。

フランドールは冷静に諭す様に、ミリアルドに伝えた。


「君には必要になるまで、後方に待機していてもらうよ

 残念だが、これは決定事項だ」

「そんなあ…」

「まだ活躍する場が無くなったわけではないよ

 ただ、今は君の魔法は使えない」

「うう…」


ミリアルドはガックリと落ち込むと、後方に下がった。


「それでは作戦を立てよう

 先ずはどうやって倒して行くかだ」


フランドールは魔術師の編成を組んで、護衛の兵士と共に移動させた。

合図と共に魔法を放ち、先ずは手前のオーガから狙う事にする。


「良いか

 先ずは魔法で拘束し、兵士が倒しに行く

 これは連携を訓練する為の行軍だから、せいぜい奴等には、良い練習相手になってもらおう」

「はい」


「後続の魔術師は、マジックアローで頭を狙うんだ

 良いな

 兵士に当てない様に気を付けるんだ」

「はい」


「兵士達は魔術師の邪魔にならない様に、頭の近くには行かない様に

 射線を避けつつ、手足の切断に専念する様に」

「はい」


「では、合図で攻撃を開始する

 3匹を倒したら、後続の2匹も同様の戦術で倒す

 各自合図に注意しつつ、魔物との距離を空ける事」

「はい」


それぞれが配置に移動して、フランドールの合図を待つ。

オーガがゆっくりと前進して、力任せに木をへし折って行く。

魔物が予定の地点に差し掛かった時、フランドールが合図を送った。


「今だ、撃て!」

「スネア―」

「マッド・グラップ」

グガ?

グゴオッ!


3匹のオーガは、不意に起こった足元の異変に気付くが、そのまま避けられずに転倒する。

そこで次の魔法が発動する。


「ソーン・バインド」

グ…

ゴア…

グガガガ…


地面から茨が伸びて来て、オーガの顔に絡みついた。

1匹は抵抗しようとしたが、それでも顔を覆われては、声を上げる事は出来なかった。

必死になって茨を引き千切ろうとするが、次々と生える茨に成す術は無かった。

それに兵士が近付き、腕や脚を切り付ける。

最初こそは抵抗出来たが、すぐに腕の腱が切られて、抵抗は出来なくなった。

やがて頭に数本の矢が立てられて、オーガは沈黙した。

時間にして5分ぐらいだっただろう。


後方のオーガが気付いて、そこまで来る頃には倒せていた。


「残りもやるぞ」

「はい」

「スネア―」

「マッド・グラップ」

グゴア!

ゴアア…


走って来たオーガは、そのまま勢いでずっこけた。


ズシイン!

ドガアン!


大きな音を立てて、巨体が盛大に転がる。

今度は茨を出すまでも無く、兵士が接近して切り刻んでいった。


「喰らえ」

「うりゃああ」

グゴ…ガア…

ガアア…


倒れたオーガは動揺し、訳が分からないままに倒された。


「ふう」

「無事に倒せましたね」

「見事だったよ」


「私達でも、十分に役に立てるんですね」

「あんな巨体が宙を舞うなんて」

「く、くすくす」


兵士も魔術師も、無事にオーガを倒せた事を喜び合った。

そこには昨日の蟠りも無く、大きな事を成し遂げた成果を喜び合う仲間が居た。


「みんな、ありがとう

 おかげで無事に倒せたよ」

「いえ

 フランドール様の指示が的確だったからですよ」

「そうですよ

 上手く事が運びましたね」

「さすがは王都の英雄です」

「そ、それは違うよ…」


フランドールは王都での渾名を言われて、照れて真っ赤になった。

王都での戦いでも、確かに指揮は執っていた。

しかし、今ほどは上手い采配では無かったと、自問自答している。

ここでアーネストやミスティの指揮を見て、自分でも新たな作戦の案が浮かんで来ているのは分かっていたのだ。

一人で考えるより、やはり実戦で試したり、誰かの策を見るのは大きな糧になる。

今日の実戦も、後の作戦の礎になるだろう。


「兎に角

 上手く怪我もしないで勝てて良かった」

「オレの…

 オレ様の活躍の場が…」


勝利に喜ぶ後ろで、ミリアルドは落ち込んでいた。

自分が馬鹿にしていた魔術師達が、自分では出来ない勝利をしていた。

それが悔しいと同時に、とても信じられ無い事だった。


「ミリアルドさんよ

 ミスティの姉御が言ってた言葉の意味、今なら分かるんじゃあないかい?」

「ミスティ姉の?」


「そう

 魔術師の道は一つじゃあ無い

 みんな何かが出来る

 役に立つ場所があるんだ…って」

「オレの…役立つ場所?」

「そうだぜ

 あんたにゃあんたの、役に立つ場所がある筈だ」


「例えばゴブリンやコボルトなら、素材が要らんから問題は無かろう」

「それなら、火球で吹っ飛ばしても問題無いじゃろう」

「そうですね

 それに…」


「それに?」

「火球は使い方次第では、魔物の牽制にも使えます

 要は当てなければ良いんですよ」

「それでは…」

「例えば、攻めて来る魔物の前に落とせば、魔物は恐れて歩みを遅めるでしょう

 そこを突けば、魔物に不意討ちを与えれます」

「なるほど」

「そういう使い方もあるんですね」


「今日の様な戦いには使えませんが、使い方は色々考えれます」

「そうか…

 使い方は、一つじゃあ無いんだ…」


ミリアルドは何かを得たのか?

彼はブツブツと考えに沈んだ。

この辺りは、彼もまた、研究馬鹿な魔術師なのだろう。


「さあ、先は長いですよ

 次に行きましょう」

「はい」


フランドールはオーガの処分を伝令に任せて、周囲の索敵を始める。


「すぐには移動は出来ないので、今の内に回復に努めてください

 魔力が無くては危ないですから」

「はい」

「簡単ですが、干し肉でも食べましょうか」


フランドールは兵士の一人に指示して、干し肉を用意した。

それはワイルド・ボアを干した肉で、普通の物よりも美味しかった。


「これは?」

「ギルバートが用意してくれたんです

 みなさんが頑張る様にと」

「殿下が?」

「これは頑張らねば」


魔術師達は、思わぬ差し入れに士気が上がった。


「出来れば我々でも、また狩ってみたいですね」

「そうそう、昨日の肉は旨かった」

「いいなあ

 こっちは何も狩れなかったから、無しだったよ」

「そりゃあ…なあ」


事情を知っているので、魔術師仲間も言い辛そうにする。

もうミリアルドを責めるのは止めたのだ。

ここで話を蒸し返すのは、あまりにも可哀想だ。


「さすがに毎日は狩れないと思いますが…

 魔物の分布も変化していますからねえ

 もしかしたら…」

「そうですね」

「居たら狩るという事で」

「分かりました

 発見したら狩りましょう

 その代わり、オーガとの戦闘ではしっかりお願いしますよ」

「はい」


食事が終わるのを待って、兵士が報告をする。


「フランドール様

 向こうでオーガが居た痕跡が有ります」

「それはどっち?

 ここに来た奴?

 それとも他に居るのかな?」

「それが判別出来ませんので、今も周りを確認しています」

「そうか…」


「距離が近いのなら、他のオーガの可能性は低いね

 そんなに近かったら、魔物同士で喧嘩になるだろうから」

「ええ

 ですから、仲間が近くに居ないか調べています」

「なるほど

 5匹以上居た形跡があるんだね」

「はい

 10匹は居たと思われます」


「そうか

 そうなると、周囲に狩に出た可能性があるね」

「ええ」


「それでは…

 その痕跡の向こうも調べようか

 もしかしたらそっちに居るかも知れない」

「分かりました

 少し時間をください」

「頼んだよ」


兵士がそう言って駆け出すと、魔術師の一人が話し掛けて来た。


「あのお」

「ん?」

「私も索敵してみましょうか?」

「ああ、そうか

 君も索敵の魔法が使えるんだね」

「はい」

「お願い出来るかな」

「はい

 それでは」


魔術師は立ち上がると、呪文を唱え始めた。

周囲に魔力が広がって行く。

最近は身体強化を訓練しているからか、フランドールも魔力の流れを感じられた。

索敵の魔法とは、これを周囲に広げて、魔力の触覚で他の魔力を感じるものだそうだ。

アーネストの説明では、魔力を広げて行き、皮膚の様に触れるのを感じるんだそうだ。

慣れればその感覚で、ある程度の距離や数、大きさを感じれるみたいだ。


「そうですねえ…

 近くには居ないみたいですね」

「そうですか」


近くに居ないなら、やはり痕跡の向こう側に居るのだろう。

兵士の報告を待ちながら、魔術師達はポーションや備品の点検をする。

時間が十分にあったので、魔力は十分に回復していた。

後は兵士が帰って来た時に、オーガの居場所が分かっていたら、すぐに出発になるだろう。

それまでに準備をしておくのだ。


それから20分ぐらい経った頃、ようやく兵士が戻って来た。

その顔は上気して、走って戻って来た事が分かった。


「居ました

 オーガとオークが」

「居ましたか?」

「はい

 これから案内します

 ただ、オークを狩っていますので、気を付けてください」

「ふむ

 やはり狩をしていますか」


「どう致します?」

「そうですねえ

 オークの相手は面倒ですし

 暫く様子を見ますか

 それでオークが居なくなれば、オーガを狩りましょう」

「分かりました」


大体の予定が決まったので、兵士はオーガの居る場所へと案内を始めた。

先ずはオーガが来た方向へ向かい、大きく開けた場所に出た。

それはオーガが集団で暴れた跡で、木が倒れてちょっとした広場になっていた。


「これが先ほど話した痕跡で、魔物はこの先になります」

「それではここからは、周囲を警戒しながら進みましょう」

「はい」


フランドール達は、緊張しながら進んで行った。

この先にはオーガが居て、オークを相手に暴れているのだ。

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