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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第104話

魔物の侵攻が進み、魔物の分布図も様変わりしていた

ゴブリンやコボルトは平原に追いやられて、代わりに森にはオークやオーガが住み着いていた

ゴブリンやコボルトは弱い魔物なので、平原の奥に集落を構えて、そこへ定住を始めた

オークは森に残ったワイルド・ボアを狩り、そこで集落を構える

そこへオーガが侵攻してきて、オークやワイルド・ボアを狩っていた

東の森のオーガは逃げて来た個体で、北に比べると小さくて痩せていた

だから城壁に近付けば、警備の兵士達で狩る事が出来ていた

今朝はそんな魔物が森から出て来ては、兵士に狩られていた

朝の7時の鐘が鳴る頃、多くの兵士や魔術師達が城門に集まって来た

昨日のエドワードの檄が効いたのか、兵士は魔術師達を見ても、顔を険しくする事はあっても文句は言わなかった

それが逆に居心地を悪くするのか、魔術師の一部は緊張して小さくなっていた

ギルド長にも叱られて、少なくとも数日は、このまま大人しくなるだろう


事前に相談してあった為、魔術師の編成は滞りなく行われた。

ミリアルドはフランドールの部隊に入り、ミスティは将軍の傍らに待機していた。

その視線は鋭く、昨日のミスを犯した魔術師達を見張っていた。


「そんなに睨まなくても…」

「いいえ

 彼等は反省が足りません

 普段からこうなんですから…ぶつぶつ」


ミスティは魔術師達が、再び粗相をしないか気が気では無かったのだ。

折角自分がフランドールに認めてもらえたのに、一部の馬鹿者のせいで信用が落ちたのだ。

これ以上の失態は許せないと、しっかりと見張るつもりの様だった。


「はあ

 まあ、気負い過ぎない様にしてください

 あくまで今日も、侵攻に備えた訓練です」

「はい」

「本番で失敗しない為の訓練です」

「ええ、そうですね」


「あまりここで気負っていては、向こうでもちませんよ」

「あ…

 そうですわね

 すいません」


将軍の言葉に、ミスティの視線が和らぐ。

それを見て、魔術師達は救われた気持ちになった。

失敗した魔術師達だけではなく、他の魔術師まで委縮していたのだ。


ミスティはそこまで気が強いわけではないが、年長の魔術師の一人でもあった。

婚期の18を過ぎてもギルドに所属して、いつも下の者を厳しく指導していた。

それで行き遅れて、相手が現れない苛立ちをぶつけているとまで言われていた。

実際は彼女の心根は優しく、厳しい指導は彼等を心配して心を鬼にして行っていたのだが、彼女の思いは彼等には伝わっていなかった。

ギルド長は、そんな彼女の行く末を心配していて、良縁が無いか心を砕いていた。


「ここで何を言っても始まりません

 現地でしっかりと指導しますわ」


キリッと目を光らせて、彼女は魔術師達を見た。

瞬間、再び魔術師達は委縮したが、先ほどんの様に長くは睨まれなかった。

ホッと胸を撫で下ろして、魔術師達は兵士の支度を待っていた。


今朝は昨晩からの魔物も多く、城門の中にはオークとオーガの遺骸が並んでいた。


「これは昨日のではないね

 今朝までに狩られたのかな?」

「はい、そうです」


エドワードが尋ねると、警備の兵士はうんざりした様子で答えた。


「昨日から、また増えまして

 オーガだけでも8匹出ましたよ」

「そうですか」


「明日はもっと増えるでしょうね」

「そうなると、訓練をしていて良かったですね」

「え?」


「だって、君達でオーガを狩れなかったら、大事になっていたでしょう」

「あ…」

「君達が立派になってくれて、私も安心です」

「隊長…」


思いがけないエドワードの言葉に、兵士は感動していた。

見ている人は居るんだなと、そんな思いに胸が熱くなる。

そんな些細な事でも、警備の兵士の士気が上がる。


エドワードは他の兵士達にも声を掛けて、頑張ってくださいと言った。

兵士達は疲れも吹っ飛んで、再び周囲の警戒に戻って行った。


「あれで平常運転なんだ、さすがだよな」


そんなエドワードの労いを見ながら、フランドールも自分の部隊の準備をしていた。

側にはギルバートが立っていて、ミリアルド達を見張っていた。


「そうですね

 あの人は、昔からああみたいですよ

 だから、付いた渾名が人誑しだとか…」

「ぷっ

 それは酷いなあ」

「まあ、悪口でしょうね

 あの人ほど部下を掌握出来る人は居ませんでしたし

 街の住民にも慕われていますからね」

「へえ」


「ですから

 なんであんな人が、離れた砦を守っていたのか不思議なんですよね」

「うーん」


フランドールは考える。

それは有能だからでは?

有能だから、危険な砦の指揮を任せていたし、街から離していたんだろうと。

何故なら、当時は領主を追い落とそうとする勢力もあったから、彼も狙われていた可能性がある。


「君の父上には、何か考えがあったんだろう」

「そうですかねえ?」

「きっと、そうだと思うよ」

「はあ」


ギルバートは納得していなかったが、フランドールがそう言うのだから何かあるんだろうと、そう思う事にした。

大人には大人の、考えや理由があるんだろうと。


「それよりも

 君は支度は良いのかい?」

「ええ

 将軍が居ますし

 何よりも…

 フランドール殿の一押しの、ミスティさんが居ますしね」

「ん?」


フランドールは、そう言ってニヤニヤ笑うギルバートを怪訝そうに見た。


「まあ、確かに彼女は有能だと思うよ

 よく周りを見ているし」

「そうですね」

ニヤニヤ


「んー…?

 それより、ここに居て良いのかい?」

「ええ

 あいつ等が気になりますし」

「そんな!」

「信じてくださいよ」


ギルバートにあいつ等と言われた、ミリアルド達が悲壮な声を上げる。


「昨日の事は十分に反省しています」

「もうしません」

「勘弁してください」


「うーん…」


尚もギルバートは、信用出来ないとジト目で見ていたが、時間が来たので諦めたのか去って行った。


「一応、信頼はしていないが、フランドール殿が指揮するから

 今日の行動次第だな」

「はい」

「誠心誠意、頑張らせていただけます」


「大丈夫か?」


そう言いながら、ギルバートは自分の部隊に戻って行った。

後には、頭を下げて固まったミリアルド達が残された。

そんな彼らを慰める様に、フランドールは声を掛ける。


「さあ

 結果を出せば良いんだ

 頑張って行こう」

「はい」


ギルバートの行動が、思わぬ結束を生み出していた。


8時の鐘が鳴り響き、城門が開き始める。

兵士達は準備も出来ており、順番に出撃して行く。

エドワードもいつの間にか戻っており、東の門から出撃していた。


北の城門ではまたオークが現れていて、警備の兵士が梅雨払いに出て行く。

狩に出る部隊は、これから森の中でオーガと戦わないといけない。

その為にも、ここで消耗するわけにはいかないのだ。


「今日のオレ達の仕事は、街を守る事だ」

「付近の魔物はオレ達が狩るぞ」

「おお!」


エドワードの巡回が効いたのか、警備の兵士達も気合が入っていた。

あっという間にオークを倒して、周囲の安全を確保した。


「頼もしいね」

「ええ」

「この前まで、オークにも怖がっていたのが嘘の様だ」

「はははは」


将軍やギルバートの前で、兵士達が生き生きと戦っている。


「オーガだ

 オーガが出たぞ」

「任せろ

 うおおおお」


群れからはぐれたのか、1匹のオーガが現れた。

しかし警備の兵士が向かい、3人で腕や脚を切って倒した。


「この分なら、城門にオーガが来ても大丈夫そうですね」

「そうですな

 問題無く戦えています」


訓練の成果が出ているのか、兵士はオーガが1匹ぐらいでは動じなくなっていた。


「それでは、オレ達も行きましょうか」

「ええ

 今日は魔物を狩れれば良いんですが」

「そうですね」


行軍は問題なく、森に入ってから少し経つと、早速オーガが現れた。

その数は4匹で、先のオーガの仲間かも知れなかった。


「付近には他の魔物は居ません

 しかし気を付けてください」

「はい」

「先ずは先頭の1匹に狙いを定めます

 マジックアローの準備を」

「はい」


「こちらの部隊は拘束の為に、地面に泥濘を作ってください」

「はい」

「そっちのあなたは、蔦の魔法が使えましたよね」

「はい

 左奥のオーガでよろしいですか?」

「ええ

 お願いします」


次々とミスティの指示が飛び、オーガに魔法が放たれる。

昨日と違って、今日は直接攻撃が出来る魔法がある。

その分オーガを仕留める手段が増えてくる。


「マジックアローは魔物の喉と眼を狙って放って

 足止めは私がします

 ウインド・カッター」


ミスティが風の魔法を放ち、2匹のオーガの脚を切り裂いた。

ミスティの使える魔法の中で、一番威力がある魔法だが、それでも威力はファイヤーボールには負けていた。

脚に切り傷を与えたが、少し怯んだだけで転倒までは出来なかった。

しかし泥濘に足を取られたり、小さな岩塊や蔦を使って動きを止める事に成功した。


「今よ

 ありったけの魔法を頭に集中して」

「おう」

「マジックアロー」

シュババッ!


魔法の矢が飛んで行き、オーガの頭に突き刺さる。


グゴア…

グガア…


4匹の魔物は、頭に矢を受けてよろめく。

さすがに大型の魔物でも、頭を集中して狙われては一溜りも無い。

絶命して倒れて行った。


「凄い…」

「4匹とは言え、魔術師だけで倒せるとは…」


魔力で作った矢は、時間が経てば分解されて消えて行く。

後には頭から血を流した、魔物の死体だけが残った。

いつの間にか、地面から生えた蔦や岩塊も消えており、遺骸の状態も良かった。


「素材の損傷も少ないな」

「ああ

 これが火球だったら、焼け焦げていただろうな」


「それはミリアルドが馬鹿なだけです

 あれほど素材を大切にしろと言っておいたのに…

 本当に申し訳ありません」

「いや、ミスティさんが謝る事では…」

「いえ

 私の指導が甘かったんです」

「え?」

「あれで?」


一部の魔術師が反応するが、ミスティに睨まれて視線を逸らす。


「はははは」

「指導ですか

 失礼ですが、ミスティさんとミリアルドの関係は?」

「え?

 …あれは不肖の弟弟子ですわ」

「弟弟子?」

「ええ」


「私がギルドに入った翌年に、あの子は入ってきました」


「当時は火を起こせるぐらいでしたが、アーネストさんの魔法が公開された頃から、あの子は変わってしまったわ

火球を使える様になってから、急に強気になって…」

「ああ…なるほど」


今まで地味だった魔術師が、急に派手で強力な魔法を身に着けた。

それで気が強くなって、粗暴な態度を取る様になったのだと。


「何度か叱ったんですけど、言う事を聞かなくなって

 ですから、今度の事は良い反省の材料になるでしょう

 派手な攻撃だけが、魔術師の本領では無いんだと」

「そうですね

 そうなると良いんですが…」


「しかし、弟弟子ってだけで、そんなに心配するものなんですか?」


ギルバートは素朴な疑問を感じて、質問してみた。

アーネストの話で、フランドールがミスティに関心を持っていると聞いたからだ。


「え?

 …そうねえ」


ミスティは小首を傾げて、暫し考える。


「馬鹿な弟って、それだけで可愛く見えるものなのよね」

「ぷっ」

「くすくす」

「なるほど」

「え?」


兵士は笑いを堪えて、将軍はしたり顔で頷く。

ギルバートは理解出来なくて、不思議そうな顔をしていた。


「殿下

 出来の悪い弟や子供って、それだけで心配で可愛く感じるものなんです」

「そうそう

 つい構ってしまって、世話を焼きたくなるんだ」

「そう…なんですか?」


ギルバートは自身が子供だし、弟は居なかった。

だからその意味が、今一分からなかった。


「手間が掛かるから、余計に可愛く思えるんです」

「殿下は妹しか居ませんしね」

「それも出来の良い…

 あ!

 でも、イーセリアは可愛く思いませんか?」

「イーセリア…

 確かに、セリアが困った事をする時、心配したりしますね

 それで可愛く…

 なるほど…」


よくセリアが、庭で一人でゴソゴソしていて、心配して見に行っている。

そんな時に、ニコニコしているセリアを見て、愛しく感じる事がある。

ギルバートはそんな感じかと、何となくだが理解した。


「そうだな

 オレも子供が出来たら、そういう気持ちになるんだろうな」


将軍も愛する妻を思い出し、その子供を想像して頷く。


「だが、今は出来の悪い部下で一杯一杯だ

 常に心配でならん」

「え?」

「そんなあ」


ニヤリと将軍は笑い、部下達の顔を見る。

兵士達はそんな将軍を見て、不満そうな顔をする。


「ほら

 そういうところだぞ」

「それは酷いですよ」

「そうですよ」


「はははは

 まあ、次の魔物で力を示せよ

 次はもっと沢山の魔物がいいな

 連携も確かめたいし」

「そうですね

 数が多くなれば、直接狙うよりは牽制に回りましょう

 頭を狙えば、オーガも前進を躊躇うでしょうから」


将軍の提案に、ミスティも頷く。

今のは数が少なかったから、直接叩く事が出来た。

しかし、数が多くなると、魔術師だけでは倒せない。

如何にして魔物の群れと戦うのか?

それで生存率も大きく変わってくる。


「アーマード・ボアやワイルド・ベアが出て来たら

 兵士が前線で戦いましょう」

「それでは私達は、牽制の魔法を中心に、後方から支援しますわ」

「ええ

 それでお願いします」


「オーガが多数出て来た場合は?」

「それは数と状況によるな

 兵士が前に出る事にはなるが、場合によっては兵士が牽制に回り、魔術師の攻撃魔法で倒しても構わんだろう」


「それに…

 オーガはそれほど多くの群れを作らんからな」

「そうですね」


具体的な対策は現地で考える事にして、少しの休息の後に、部隊は再び前進した。

魔物が襲来するまでに、後2日しか残っていない。

時間は有限なのだから、少しでも実戦を積む必要があった。

今日はもう1本上げます

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