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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第101話

アーネスト達は1時間近くの休息の間に、干し肉や水で軽く食事をした

食事をする間も話題は尽きず、魔物の生態を考察していた

魔物は何で魔石を食べるのか?

そして、それはどの様な影響を与えているのか?

考察を話している間に時間は過ぎて、応援の兵士達がオーガの遺骸を回収に来た

兵士達がオーガの遺骸を回収する前に、あの魔術師が羊皮紙を取り出す

そこにはギルドへの伝言が記されており、口頭で伝えつつもくれぐれもよろしくと頼んでいた

羊皮紙は黄ばんで粗悪な物だったが、字は何とか読める程度の代物だった

紙は木材から作られていたが、製法に手間が掛かる為に割高だった

だからこうしたメモを書くには、安価な羊皮紙が主に使われていた

無くしてしまう心配があったのか?

魔術師はしつこいぐらいに熱心に、兵士に伝言を伝えていた


「分かりましたから

 必ずギルド長に伝えますんで、こちらはよろしくお願いします」


兵士はうんざりした様子で答えて、メモを懐に仕舞うと、仲間とオーガの遺骸を抱えて立ち去った。

アーネストは後に、この時に彼に注意をしておけば良かったと思った。

そうしていれば、彼はあんな事にはならなかっただろうから。


兵士が帰って来たところで、再び魔物を狩る為に移動する事になった。

魔術師が見付けた反応のあった場所を目指し、一行は移動を開始する。

10分ほど掛けて、反応があった場所に近付くと、今度はアーネストも魔力を感じれた。


「どうですか?」


兵士の一人が聞いてきて、アーネストは眉根を顰める。

確かに反応があり、それはコボルトよりは大きく、オーガより弱かった。


「恐らくワイルド・ボアで間違いないでしょう

 数は…大体12匹ってところでしょうか?」

「そうですね

 私も12匹に感じます」


他の魔術師も頷き、魔物の数は間違いなさそうだった。

問題は、これ以上近付くと、魔物に感づかれそうだという事だった。

そこは少し開けた場所で、遮蔽物も無い。

それに相手は野生の魔物だ。

匂いや気配でバレてしまうだろう。


「ここから距離を取りつつ、兵士と魔術師で囲みましょう」

「そうですね

 それが一番間違いが無いでしょう」


「だとすれば、誰がどう動くかですね」


等間隔で広がって囲み、一斉に魔法で狙い撃つ。

漏れた魔物を兵士が牽制しつつ、兵士に当たらない様に魔法で戦ってみる。

無理そうなら合図を送って、兵士達で魔物を掃討する。

言葉で言えば簡単そうだが、今日組んだ急造のメンバーで連携が取れるのかが問題だ。


「兎に角、合図は重要です

 これに関しては危険を冒してでも伝わらないといけない

 だから兵士のみなさんには、声を出して伝えてもらいます」

「分かりました

 他の魔物を呼び寄せるリスクはありますが、同士討ちをするよりはましでしょう

 問題がありそうな時は、声に出して伝えます」


その他にも連携について話し合い、先の8名が8方向から囲み、アーネストと残りの7名が一人ずつ同行する。

7名は魔術書を読みながらでやっとだが、数本のマジックアローを放てる。

狙いに不安があるが、そこは練習あるのみなので、最初の攻撃は彼等がする事となる。

その中に、先の魔術師も入っていた。

兵士は2名ずつ付き添い、何かあったら魔術師を守る事になる。

残りの兵士は待機して、不測の事態に備える事となった。


「それでは散開しますが、合図があったら魔法を放ってください

 それ以外は声を上げて伝えます」

「くれぐれも無茶はしないでください」

「無事に街まで戻る事が重要です

 怪我等をしない様に気を付けてください」


兵士はそう言うと、それぞれの持ち場に向かった。

魔術師達もそれに従い、それぞれの配置に着く。

移動位置に到着したら兵士達が合図を送って、魔術師達は呪文を唱え始めた。

それぞれが呪文を唱えて、魔力が周囲に漂い始める。

それに気付いたのか、不意に魔物達が周囲を警戒し始めた。

やはり野生の動物と同じで、周囲の魔力の変化に感づいたのだろう。


「不味いな

 奴等が警戒を始めた」

「そうですね」


「上手く当たれば良いが、みなさんも気を付けてください」

「はい」


魔物の様子を見つつも、兵士達も緊張して、剣の柄を握る手に力が入る。

再び合図が伝わり、魔術師達が一斉に魔法を放った。


「マジックアロー」

シュババッ!


一斉に魔法の矢が飛び、魔物の眼や頭に突き刺さる。

普通の矢では刺さらない場合もあるが、これは魔力で作られた矢だ、目標の魔物の身体に深々と突き刺さってゆく。


ブモオオ

プギイイ


あちこちで悲鳴が上がり、ワイルド・ボアの頭に魔法の矢が刺さった。

しかし倒れたのは3匹で、残りは健在だった。

眼をやられた魔物は闇雲に駆け出し、他の魔物や木にぶつかった。

中にはその場で激しく暴れて、牙を宙に突き上げている魔物も居た。


第2射が放たれて、さらに6匹の魔物が力なく倒れた。

ここで3匹が走り出して、囲みの外へ向かって行った。

慌てて魔術師達は呪文を唱え始めるが、その内の1匹が、囲んでいる一角に向かって進んだ。


「危ない!」


兵士が魔術師の前に出て、寸でで魔物にタックルをかました。

そこで魔術師が大人しくしていれば良かったのに、彼は慌てて逃げ出そうとした。

彼は先ほどのメモを渡していた魔術師で、呪文を唱える事も出来ずに、恐怖で逃げ出していた。


「ひっ!

 うわあああ」


その声に反応したのか、魔物は彼に向かって最後の突進を敢行した。


「くっ!」

「不味い

 マジックアロー」

シュババッ!

プギイイイ


慌ててもう一人の魔術師が、マジックアローを放った。

魔法は狙いを外さず、魔物の身体に突き刺さる。

それでも突進していた勢いは殺せず、魔物は絶命しながら、魔術師に突っ込んで行った。

彼が後方に気付いていて、それを躱せば良かった。

いや、そもそも悲鳴を上げず、その場に踏み止まっていれば、兵士が魔物を押さえていただろう。


「ぐっ、がああ」


魔術師は跳ねられ、木に打ち付けられた。

兵士であれば、身体強化や日頃の鍛えもあって、軽傷で済んだだろう。

しかし、身体を鍛える事の無い魔術師では、木に打ち付けられただけでも大変だ。


「う、うう…」


「大丈夫か?」

「おい!

 すぐにポーションを!」

「は、はい」


連れの魔術師は、慌てたのかマジックポーションを取り出す。


「違う!違う!

 そうじゃない!」

「え?」

「もういい、変われ」


もう一人の兵士がポーションを取り出して、駆け寄った兵士に手渡す。


「う、ううん…」

「おい、大丈夫か?」

「息はしているな

 だが…」


魔術師は生きていた。

額から血を流して意識は混濁していたが、どうやら即死は免れた様だ。

大きな猪の魔物の突進を受けたのだ。

生きているだけマシだろう。


「これは酷い」

「うん

 すぐに街に戻ろう」


魔術師は何ヶ所か骨折している様子で、口から血も出ていた。

しかも左脚は変な方向に向いていて、右手も骨が見えていた。


「これは…」

「ああ

 もう、右手は満足に使えないかも知れないな」

「そんな…」


同僚が重傷を負い、魔法が使えなくなったかも知れない。

仲間の魔術師は、彼の様子を見て震えていた。

内心は自分も逃げ出しそうだった。

一歩間違えれば、ああなっていたのは自分かも知れない。

改めて、魔物の恐ろしさを味わったのだ。


応急手当で、折れた木を括って押さえて、兵士達は魔術師を抱えた。

その間にも、他の魔物は倒されて、兵士や魔術師達が駆けて来る。


「おーい

 大丈夫か?」

「ああ

 だが、魔術師の一人が重傷だ」

「至急街まで運ばないといけない」

「そうか」


兵士達は魔物がへし折った木を使って、急造の運ぶ為の台を作る。

それを担架の様にして魔術師を乗せると、街に向かって運んで行った。


「大丈夫かなあ」

「ああ

 腕や脚が曲がっていた」

「あれは相当な勢いで突っ込まれたな」


「骨が見えていたよ」

「あれではもう、まともに腕が動かせないんじゃ…」


魔術師達はひそひそと話して、同僚の様子を心配していた。

魔法の発動には、触媒か発動する媒体の杖が必要だ。

そして正しい呪文と、それが行うイメージを作る必要がある。

正確には手の動きは必要無いのだが、イメージや媒体の杖を持つ為に、手は不自由ではない方が良いだろう。

でないと、魔力が向かう先に杖を向けられないし、何か触媒を用いる時にも不便だろう。

彼は油断をしていたのか、魔物の恐怖に負けて、大きな代償を払う事となったのだ。


「みんなも、魔物の危険性は改めて認識したと思う」


「少しの油断が判断を狂わせて、大きな怪我になってしまう」

「はい」


アーネストは改めて魔術師達に告げて、気を引き締めようとした。

ここはまだ森の中で、いつ魔物が出て来るのか分からないのだ。


「今日はもう、終わりにしましょう」

「そうですね

 少し予定より早いですが、このまま続けるわけにも…」

「倒した魔物の死体は、また兵士達で運びます」

「応援が来ましたら、街に帰りましょう」


兵士も賛同して、今日の狩は終わる事となった。

まだ日の加減から、二黒は時頃だろう。

しかしこのままやってみても、成果は上がらないだろうし、意識が他に行って怪我をするかも知れない。

それなら、多少は早くても帰った方が良いだろう。


「怪我をした彼は心配だが、みんなも自分の心配をする様に

 いつ魔物が来るのか分からない

 油断していたら、次は自分だと思っていて欲しい」

「はい」

「分かりました」


アーネストの注意を素直に聞き、魔術師達は魔物の危険性を再認識した。


「付近に魔物の居る様子は無いかい?」

「そうですね…」


魔術師が二人、周囲の索敵を始めた。


「あ!」

「ひっ!」

「どうした?」


「何ですか?

 これは…」

「大きな魔力が…

 こっちに向かっています」

「何?」

「何だって!」


「先ほどのオーガよりも大きい」

「倍くらいの魔力が一つ

 急速にこっちに向かってます」


「ひっ」

「まさか…

 ワイルド・ベア?」


魔術師の報告に、兵士達も顔を引き攣らせる。

オーガより強いとなると、アーマード・ボアかワイルド・ベアしか居ない。

しかもオーガの倍ぐらいとなると、恐らくワイルド・ベアだろう。


「オレ…まだ戦った事が無いんだ」

「大丈夫なのか?」


兵士達が緊張する。

その中で、アーネストだけは、不敵な笑みを浮かべた。


「丁度良い

 魔術師でも工夫すれば、戦えるんだって証明してやる」

「え?」

「アーネスト?」


「ここは私が

 オレがやります

 みなさんは下がってください」


アーネストの言葉に、兵士達は武器を出して身構えつつも、アーネストの後方で待機する。


「大丈夫かな?」

「いや

 あのアーネストだぜ」

「任せよう」


兵士はアーネストの技量を信用して、不測の事態に備えて、魔術師達を守る為に身構える。

そんな中、アーネストは呪文を唱えて雲を呼びだした。


「何だそれ?」

「スリープクラウド

 効かないとは思うけれど、動きを押さえれるでしょう」


続いて呪文を唱えると、地面から小さな岩の棘が突き出る。


「これは足止めのロックスピアー

 踏んだら突き出ますから用心してください」

「なるほど

 これがあるから、オレ達は邪魔なんだな」

「そういう事です」


更に呪文を唱えていると、轟音と共に、木々が折れて魔物が飛び出して来た。


ゴガアアアア


その姿は大きな熊で、オーガに近い巨体と赤黒い毛皮が特徴的だった。

熊は挑発的に咆哮を上げながら飛び出て、数人の兵士と魔術師達が恐怖で腰を抜かした。


ガ…グガア


しかし眠りの雲に突進して、少しだがよろける。

続けて前に出たところで、地面から岩の槍が突き出た。

槍はワイルド・ベアの脚に突き刺さり、膝上まで突き上げた。


ゴ…ガアア


堪らずワイルド・ベアの動きが止まり、そこでアーネストの呪文が完成した。


「喰らえ

 ライトニングジャベリング」


輝く稲妻が宙を走り、大きな熊の巨体を貫いて行く。

その数は4本。

2本が胸を貫き、残りは喉と右腕を貫く。

右腕は二の腕で貫かれて、そこを焼き切ってしまった。


ズドーン!

ゴ…


ワイルド・ベアは口から煙を吐き出し、少しふらついてから倒れる。

その際に、魔法の効果が切れたのか、地面から突き出た槍も消えていた。


ズシンと音を立てて、熊の魔物は絶命して倒れた。

辺りには焦げた様な匂いが立ち込めて、魔物は動かなくなった。


「た、倒したのか?」


兵士の一人が近付き、剣で魔物の顔や腕を刺してみる。

しかし魔物は絶命しているので、ピクリとも動かなかった。


「す、すげえ!」

「本当に一人で倒しやがった」

「さすがはアーネストだぜ」


兵士は喜んでいたが、アーネストは腑に落ちない顔をしていた。


「どうしたんだ?」

「いやあ

 あまりにも呆気なかったんで」

「おい!」


「ワイルド・ベアは初めてだったんで

 気合を入れてやり過ぎちゃいましたね」

「そんな事言えるのは、お前や殿下ぐらいだって

 将軍でもやっとなんだぞ」


「そうですね

 素早い動きと咆哮が厄介らしいですから

 将軍では相性が悪そうですね」


アーネストはそう呟きつつも、初めて遭遇したワイルド・ボアを無事に倒せて、ほっとした様子だった。


「どうです?

 魔術師でも上手く立ち回れば、こんな魔物でも倒せるんですよ

 みなさんももっと冷静になって、落ち着いて対処…」

「そんな事出来るのはお前だけだ!」

「こんなの相手に出来るか!」

「腰が…腰が抜けた」


アーネストはにこやかに微笑んで、魔術師達の方を向いたが、彼等はそれどころではなかった。

恐怖に腰を抜かし、中にはこっそり、失禁している者も居た。

だから誰でも出来そうな発言に、些か切れ気味に反論していた。


「オレの母ちゃんよりも…怖かった」


一人の魔術師に至っては、酔って帰った時の奥さんの、鬼の形相より怖かった様子だった。

少し長過ぎるので、章タイトルを変えて分けます

思ったより長くなりました

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