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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第100話

アーネストが連れていた15名の内、攻撃魔法が得意なのは8名だった

そのうち6名がマジックアローで、残りがマジックボルトだった

マジックアローは発動時間が短く、ある程度の軌道修正が可能だった

つまり、撃った後でも多少は追尾が出来て命中し易かった

それに対して、マジックボルトは威力があって、当たった時には威力で押す事も出来た

その代わり、追尾性は無くて真っ直ぐにしか飛ばなかった

対象のオーガは単独で動いており、他の2匹とは数百mの距離が空いていた

その1匹に対して、正面から2人が眼や首を狙いにして準備をして、残りは首から上で狙いを定める

最初にマジックボルトを放ち、続いて追撃でマジックアローを放つ事となった

マジックボルトで眼や喉を潰せれば良し

そこまで出来なくても、追撃のマジックアローで止めが刺せるだろうという算段だ


「よく狙いを定めて、しっかりと放つんだ」

「はい」

「魔法は、発動してから放つまで、少しの時間が取れる

 タイミングを合わせて一斉に放つんだ」

「分かりました」


魔術師達は散開して、合図を伝える伝令の兵士が近くに待機する。

オーガは倒したワイルド・ボアを食べているらしく、食事に夢中で気が付いていなかった。

大きなワイルド・ボアの脚やあばらを引き千切っては、骨ごと肉を咀嚼している。

引き千切るベリベリという音と、骨をかみ砕くバリボリという音が辺りに響く。

その音と光景に気分が悪くなる者も居たが、外せば自分もああなるのだと思って、必死になって魔物に照準を合わせた。


魔術師達は呪文を小声で唱えて、魔力を周りに展開して行く。

マジックボルトが4本ずつ用意され、マジックアローは6本から8本が用意された。

それを命中しやすくする為に、兵士が小石を放り投げる。

小石はオーガの手前の小枝に命中し、その音でオーガはそちらに意識を向ける。

そして、最初の合図が送られる。


ウガ?

「マジックボルト」

シュバッ!

ザシュッ!

グガア


マジックボルトは両目に命中し、残りも喉に命中した。

そのお陰で、魔物の悲鳴はくぐもって小さな物になる。

続いて合図が送られ、マジックアローが放たれる。


「マジックアロー」

シュババ!

ザス!ザシュッ!

グ…


魔物はほとんど声を上げれずに、巨体を揺らしてから倒れた。

腰を落として食事をしていたので、倒れた音は大きく無かったが、物音に他の2匹が近付いて来る。


「みなは左の魔物を狙ってくれ

 右は私が倒す」


アーネストはそう小声で叫ぶと、呪文を唱え始めた。

アーネストの周りに魔力が流れて、金色の矢が8本作られる。

雷の弾を放つ、ライトニングボルトだ。

命中性ではライトニングアローの方が上だが、威力を考えるとライトニングボルトの方が高い。

それに感電するので、一時的に魔物の動きも封じれる。

もし倒せなくても、兵士が止めを刺すのが容易になるのだ。


「喰らえ

 ライトニングボルト」


シュババッ!

ズドドッ!

グ…ガ…


ライトニングボルトは見事に命中して、オーガの顔が矢で覆われる。

眼と首にも命中していたので、魔物は声も無く絶命した。

アーネストの魔法なら、他にも確実な物があったのだが、今回は音を出さない様に気付かっていたのでライトニングボルトが選ばれていた。


アーネストがオーガを倒している間に、向こうでも魔法が放たれて、無事に魔物は倒されていた。


「行けっ

 マジックボルト」

シュババッ!

グ…


「マジックアロー」

シュババッ!

ガ…


ズドドン!


3匹目のオーガが倒れて、兵士が死んだか確かめに向かう。

慎重に近付いて、頭に剣を突き立てたりして確かめる。

死亡が確認されると、兵士は合図して伝える。


「3匹とも死亡が確認出来ました」

「そうか」


わっと魔術師達が歓声を上げて、勝利に喜ぶ。


「オレがオーガを倒せたんだ」

「私の魔法が、役に立てた」

「やった

 あんな魔物を倒せたんだ」


歓声が上がるが、アーネストは慌ててそれを止める。


「静かに!」


あまり大きく無いが、しっかりと全員に伝わる様に声を出す。

そして指を口の前に立てて、静かにする様に伝える。


「ここはまだ、魔物のテリトリーですよ

 あまり大きな声を出したら、魔物を引き寄せてしまいます」


「みなさんは今、オーガを倒せました

 しかし、魔物が集団で来たら、みなさんは対処出来ますか?」


魔術師達は自分達の起こした浅慮な行動に気付き、無言で首を振った。

いくらオーガを倒せたと言っても、奇襲で3匹を倒せただけだ。

いや、正確には1匹はアーネストが倒したので、倒せたのは2匹だけだ。

ここでそれ以上の魔物が出て来ては、彼等には成す術も無いだろう。


「分かってもらえたなら、静かに行動しましょう

 喜びは街に帰ってからです

 無事に帰って来るのが狩ですから」

「はい」


魔術師達は、今度は小声で返事をした。


「それで…

 倒した魔物はどうするんです?」


「これは兵士達で運びます」

「え?」


「大丈夫

 兵士のみなさんは身体強化で魔物を運べます」

「こんな大きな物が…ですか?」

「ええ

 これぐらいなら4人で運べます」


魔術師達が驚いていると、兵士が返事をして、ひょいと4人で魔物を持ち上げた。


「…すごい」

「ははは

 これぐらい

 殿下ならお一人で持ち上げますよ」

「あれは人外だよ

 どこまで強化されるのやら…」

「それ…

 殿下に言ったら、また喧嘩になりますよ」

「言うなよ」


先日も砦の壁が崩れかけて、外壁の岩が落ちた時に、ギルバートはそれを軽々と持ち上げた。

大人が2人がかりでやっとの岩を、一人で軽々と持ち上げたのだ。

さすがにアーネストも思わず驚き、段々人間じゃ無くなって来てると言ってしまった。

それは恐がって危険視する者も出るので、諌めるつもりでもあったのだが、この発言でギルバートは怒ってしまい、一日口を利かなくなっていた。

一日で収まってしまうのが、二人が仲が良い証拠なのだが、それでも喧嘩にはなってしまう。


因みに、ギルバートでも一人ではオーガは持ち上げれない。

さすがに身体強化があっても、そこまで強化は出来ないのだ。

兵士は若干、大袈裟に話していたのだ。


「そうなると、その間は我々はどうしましょう?」

「どうするって?」

「え?

 だって、兵士のみなさんが居ないと、我々だけでは…」


「ああ

 兵士が持って行くのは1体だけだよ

 後は応援に来る兵士が片付けるから

 それまでは休憩しよう」


アーネストはそう言うと、周囲に魔物が居ないか索敵を始めた。


「良いんですか?」

「ん?

 今の内に休んで、魔力を回復しておかないと」


「足りない様なら、マジックポーションも使うんだよ

 いつ魔物に遭遇するか分からないからね」

「は、はあ」


「またオーガが出ますかね」


「そりゃあ分からないよ

 オークやコボルトだって居るだろうし

 アーマード・ボアやワイルド・ベアだって現れるかも知れない

 そういう時の為に、我々魔法を使う者は、万全な状態にしておかないと」


アーネストはそう言うと、自分もマジックポーションを呷った。


「うへえ、不味い」

「ぷっ」

「くすくす」


アーネストの魔力からしたら、これぐらいで補充の必要は無い。

しかし他の魔術師達の手前、自分が率先しなければならない為に、不味いポーションを飲んだのだ。

マジックポーションは、その精製過程で使われる薬草の味が残るので、どうしても美味しくない。

それは苦みとえぐみを凝縮して、そこに薬草独特の匂いが入って来る。

分かり易く言えば、ブラックのコーヒーに煎茶を混ぜた様な味なのだ。

もっとも、この世界ではコーヒーは珍しく、煎茶も一部の国でしか取れないのだが。


そんな美味しくないポーションを、まだまだお子ちゃまなアーネストが大人しく飲むわけがない。

不味い不味いと連呼して、いつか美味しくしてやると意気込んでいた。

さっき静かにしろと言っていたアーネストが、ポーションの悪口で煩くなっていた。


魔術師達だけでなく、兵士達もこの様子に失笑して、みながリラックスしていた。

狙ったわけではないだろうが、結果として、アーネストがポーションを飲んだ事で、魔物との戦闘での緊張が緩和されていた。

兵士達は周囲の警戒に戻り、4人の兵士がオーガの遺骸を運び始める。

その間は移動を控え、周囲を警戒しながら待つ事になる。


魔術師達はポーションを飲んで魔力を回復すると、魔物の死体を検分し始めた。

オーガの死体ではなく、食事していたワイルド・ボアの死体の方だ。

それを調べて、オーガの食事に対して考察を始めていたのだ。

これは死体だけでは判別できない、現場で出来る調査であった。


「これは…すごいな」

「生で貪っていたのか」


「これだけの巨体だ

 食事もこれでは足りないだろう」

「そうなると、常に他の魔物を狩りながら、食事をして移動していたわけだ」


「どう思う?」

「そうだなあ

 移動しながらだから、近くで魔物を狩っていたんだろう?

 それなら、この魔物も近くに居るんじゃないか?」

「そうだな

 これだけでは無いだろう

 ワイルド・ボアは猪の魔物だ

 群れで動いている筈だ」


ワイルド・ボアの残骸は8匹ぐらいだろう。

これだけ襲われているなら、残りが近くに潜んで居る可能性は高い。

索敵が出来る者が、再び周囲に魔力を放ち、魔物が居ないか確認を始めた。


「居ました

 あっちの方向

 小さな群れだと思います」


その魔術師はアーネストよりは索敵の魔法が上手かったのだろう。

少し離れた場所に集まる、数匹の魔物の魔力を探知した。


「ワイルド・ボアか?」

「ええ…っと

 ここからでは判別出来ません」


魔術師はさらに意識を集中してみるが、それ以上は顔を顰めてみても、魔物の数や種類までは判別できなかった。


「すいません

 距離もありますし、ここでは数匹の魔物が集まっている様子しか…」

「そうか…

 すまない、ありがとう」


アーネストは魔法を行使して疲れた顔を浮かべた魔術師に、マジックポーションを手渡した。

魔術師はポーションを受け取り、微妙な表情を浮かべたが、黙ってポーションを飲んだ。

ここで断っても良いんだが、それでは戦闘になった時に足手纏いになるかも知れない。

今の内に回復した方が良いだろう。


「どうしますか?」


兵士の一人が、アーネストに近付きながら尋ねる。

仲間が応援を連れて戻るまで、まだ時間が掛かる。


「そうですね

 彼等が戻るまでは、ここで待機しかないでしょう」

「はい」


「今の人数でも、ワイルド・ボアなら倒せるでしょう

 ただ、他の魔物が居たら…」

「そうですね」


「戻ってきたら、移動しましょう

 戦ってみるかはそこに行ってからです」

「はい」


兵士は持ち場に戻り、他の兵士にも今の話を伝える。

アーネストが強行して向かわないと聞いて、兵士達は安心した。

これが将軍だったら、大丈夫だろうと向かってしまい兼ねないからだ。


それから暫く、1時間ほどをその場所で過ごした。

魔術師達はワイルド・ボアの死骸を調べて、新たな発見をしていた。

新鮮なしたいからは内臓が削ぎ取られていて、オーガは肉だけを食していた。

どうやらオーガにはワイルド・ボアの内臓は好みに合わない様で、筋肉質な脚や背中の肉が主に食べられていた。

皮の辺りも吐き捨てられており、どうやら得物で皮を剥ぐまでの知性は無い様だった。


「獲物を殺したら、そのままかぶりつくんだな」

「そうだな

 それから内臓を引き出して、皮は吐き出す」

「まるで肉食の獣と変わらないな」

「それでも臓物は食わないんだろ?

 肉食の獣なら、栄養のある臓物は好んで食べる筈だぞ」

「うーん

 これは草食の魔物だからだろうか?

 他のサンプルが無いと分らないな」


資料のワイルド・ボアは雑食で、虫や小動物も食べると記されてあった。

しかし、実際のワイルド・ボアの内臓には草や木の実ばかりしかなく、草食が主になっている事も判明した。

草食の獣の内臓は独特の臭みがある。

これは好みが別れるので、オーガの好みには合わなかったのだろう。


他にも気になる事があった。

ワイルド・ボアの死体には、魔石が無かったのだ。


「魔石が無いのなら、それはやはり…」

「食っているんだろうな」


「どうしたんだ?」

「ええっと

 どうやら、オーガはこいつの魔石も食ったみたいなんです」

「食った?」


「はい

 全ての食事の跡を見ましたが、1匹を除いて全ての食べた後に、魔石はありませんでした」

「その魔石があったのも、まだ食べてる途中でしたから

 恐らくはそれも、魔石は食べられたでしょう」

「魔石を食べる…」


アーネストは考えてみた。

そう思い返すと、食べられた後の魔物の死体には、魔石は無かった。

それに魔石を集めている様子も無かったし、そう考えると納得がいった。


「今まで考えていなかったが、魔石を食べるのか」

「はい

 この食事跡を見る限り、恐らく間違えないかと」


「そうなると、魔物は何で魔石を食べるんだ?」

「それは…」

「栄養じゃないですか?」

「栄養?」


「そうです

 肉や内臓が身体の栄養になる様に…

 魔石も栄養になるんです

 例えば魔力の元になるとか?」

「なるほど、魔力か」

「はい」


「これは調べないとならないな」

「はい」

「ギルドに残っている魔術師達で、こいつ等の死体を検分してもらおう

 魔石が体内でどうなっているか

 内臓の中に残っているのか」

「そうですね」

「早速、持って帰ってもらう人達にお願いしましょう

 ギルドに伝言してもらうんです」


魔術師はポーチから羊皮紙を出すと、その場で伝言を書き始めた。

まだまだ狩は続くのだが、彼の中では新たな研究で一杯になっていたのだ。

アーネストは苦笑いを浮かべつつ、魔術師の熱心な横顔を見ていた。

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