第8話 異世界観光
そして場面は戻る。
無理やり部屋から連れ出された俺は、レクリア城の外にある巨大市場にいた。
てか、今までいた部屋はあの城の中だったのか・・・。
振り返ると、正面に映り込む巨大な城。
一際高い場所に聳え立つそれは、ヨーロッパ風の造りに似ていて、赤っぽいレンガのようなもので出来ている。
ヨーロッパ風の城って、何造りって言うのだろうか?
今はネットも使えないし、目に見える情報しかわからない。
え、スマホはどうしたって?
とっくに充電が切れて、今はただの板になってるさ。
太陽が真上にあるのを見ると、今は昼時であろうか。
市場内の活気は最高潮の盛り上がりを見せており、随所に見える食事処?のような建物には行列もできている。
何処からともなく美味しそうな匂いも漂ってきており、腹の虫が騒ぎ始めた。
俺の両隣にいるこの国の重要人物たちも、どこそこの飯はうまいだのお洒落だのと闊達な議論を交わしており、よそ者は全くついていけない。
迷子だけにはならないように、2人についていくだけで精一杯である。
ちなみに、近くにいるのはガルダさんとハルカの2人だけであるが、周辺には2人護衛が何人かいるはずだ。
こういったお忍びでの外出は珍しくないようで、護衛の手配も迅速に行われた。
あんな自由な人が王様と王女様だと、周りの人も大変だな。
「きゃっ!」
「あっ! すみません!」
「こっちこそゴメン! 怪我はない?」
「あ、大丈夫です・・・」
「じゃあ良かった! ・・・おっといけない。ボクはこれで!」
前から人が歩いてくるのに気づかず、体がぶつかってしまう。
しまったな。完全に俺の不注意だ。
これだけ人が多いんだし、周りにも気を付けないと。
しかし、この世界の女性は綺麗な人ばっかりだな。
今の女の人も、仕草と振る舞いの1つ1つが様になっていて、なんか格好良い人だった。
「キョ―タローさん。大丈夫でしたか?」
「すみません。よそ見していたみたいで」
「もう、気を付けてくださいね!」
「ここは王都の中心地で人も多い。我らを見失って、迷子にならぬようにな」
「わかりました。気を付けます・・・」
ちなみに、ガルダさんはお忍びの時は少し変装をしている。
と言っても、胡散臭い古物商のような片眼鏡をしているだけであるが。
あんまり意味が無い気がするけど・・・。
ガルダさん曰く、「ふふふ。知的で格好良いだろう?」とのことだ。
全く、お茶目な王様である
この世界では、カメラもなければ写真もないので、ガルダさんの顔を知っているのはレクリア城で働く一部の者と、とある人種だそう。
市中で身元がバレる心配は殆ど無いみたいだ。
国民の前に姿を見せるのは、有事があった時にだけらしいし。
それもレクリア城の上からなので、国民からは顔までは見えていないのだとか。
しかし、今は戦時中である。
どこの間者が潜んでいるかもわからないので、常に護衛の皆さんは目を光らせている。
本当にお疲れ様です。
「あの、お腹空きませんか? あっちに美味しいご飯屋さんがあるんです。そこでお昼にしましょう!」
「いいですね。ちょうどお腹が減ってきました。でも、ご相伴にあずかってもいいんですか?」
「勿論です! お店はもう少し先にありますので、今度は人にぶつからないように気を付けてくださいね!」
少し歩くと、目的の場所が見えてきたようだ。
辺りには、香ばしくもいい匂いが嗅覚を刺激し、益々腹の虫が騒ぎ立てる。
そういえば、ハルカに食べさせてもらったお粥しか口にしていないな。
あれから結構時間も経ってるし・・・。
店先の看板には、ナイフとフォークのようなものが描かれており、ここが食事処であることがわかる。
真っ白な外観で、周囲の建物と比較しても、新しい建物に見えた。
「着きましたよ。“パーシェ亭”ここのお魚は絶品なんです!」
「うむ。余もここで食べたことがあるが、とても旨かったぞ」
店内に入ると、円卓が10席ほどあるだろうか、ほぼ埋まっているように見える。
やはり昼時なのだろう、店員さんと思しき女の子が右へ左へと忙しそうに駆け回っている。
「あ、いらっしゃいませ!」
こちらに気付いた店員さんが駆け寄ってきた。
白と黒を基調にしたウェイトレスの恰好で、短めの腰巻が動きに合わせてひらひらと翻っている。どこかメイド服っぽくも見え、とても可愛らしい。
「3人なんですけど、空いてますか?」
「大丈夫ですよ! こちらへどうぞ!」
唯一空いていた円卓に通された。
あとは料理を注文するだけなのだが・・・。
しかし、ここで大きな問題に突き当たる。
・・・文字が読めねえ。
そう、ここまで目を瞑っていた問題だったのだが、さすがに困った。
口で話す分の言葉は何故か通じているようなのだが、文字は全く分からない。
店員さんから渡された、メニュー表と思われるものには謎の言葉がびっしり。
「キョータローさん? どうかしましたか?」
「どうした? 心配せんでも、この店の料理はどれも旨い。遠慮せず注文してよいぞ」
「えっと・・・、実は文字が読めなくて・・・。ハハハ」
とりあえず、笑ってごまかしてみた。
逆立ちしたって知らないものは知らないし、分からないものは分からないのだ。
「そ、そうでした! キョータローさんは異世界から来られたのですもんね。すっかり忘れてました。気づかなくてすみません」
「いやいや、こっちこそ、文字も分からないなんて申し訳ないです」
「あれ? でもなんで話は通じるのでしょう?」
「さあ・・・?」
どうしてだろう?
普通に日本語をしゃべってる感覚なんだが。
まぁ、通じる分には便利だし、ラッキーだったと思っとくか。
「じゃあ私がメニューを読んでいきますね!」
「お手数かけてすみません」
「気にしないでください。上から読みますね。えっと・・・」
困ったときの神様仏様ハルカ様だ。
いや、女神様かな?
この娘には足を向けて寝られない。
でも、これから生活する上で、文字が読めないのは厳しいよな。
どうにかしないと。
「上から、焼きニーム、ファイの煮付け、ポルタスープ、ブルックとキャラットの・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「余は、やはりモースが一番だな! 特にここの焼きモースは絶品だ!」
大きな問題がもう一つあったようだ。
この世界の食文化は、教太郎にとって全く未知のものであった。
趣味でゆっくり書いてます。
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