第7話 大男と王③
「キョータローさんの世界にはスキルが無かったのですか?」
「は、はい。私の世界で、スキルという存在は聞いたことがありませんので」
いや、正確にはゲームとかラノベの中では知ってるんですけど。
そんなことを言ってもきっと理解してくれないだろう。
果たして、俺はスキルを持っていないのだろうか?
異世界転移したんだし、やっぱり特典の1つあってもおかしくはないはずだよな・・・。
しかし、それを確かめる術が今はない。
スキルの使い方はもちろん。この世界でのスキルが、一体どんなものかもわからないし。
「この世界でも、スキルの存在が確認できてから3年程しか経っておりませんので、実はまだわからないことの方が多いのです」
「そうなんですか?」
「はい。“スキル”は、3年前この世界に突如発現し、その力によって世界は大きく変わっていきました・・・」
ハルカが静かに話を始める。
それはこの世界が、血を血で洗う悲惨な戦争に陥るまでの経緯であった。
いかに異世界であろうとも、人間同士(この世界では獣人やエルフ等もいるが)が戦争する理由など変わりはしない。
食料、領地、資源、金、宗教・・・。
その根幹は欲望なのだ。
一部の権力者、または民衆の反乱によってそれが暴走したとき、過ちは起こってしまう。
この世界も決して例外ではない。
「スキルによって人々の生活は変わりました。確かに便利になったことも多くあります。しかし、スキルの力ばかりに頼ることで、人々の心まで変わってしまったかのようでした・・・。その力は我々にとって大き過ぎたのかもしれません」
「奴らがスキルの力を使い、いきなり我らに攻撃してきたのだ! 襲われた人々に何の罪があった!」
シアさんが叫ぶ。
その表情は、この戦争の悲惨さを物語っており、誰にも届かない悲痛な思いが混じっていた。
「私たちは、この国の民を守らねばなりません。例えそれがどんなに苦難な道であっても、この戦争を一刻も早く終わらせ、平和だった日々を取り戻したいのです」
「うむ。ハルカの言う通りよ。この戦乱を決着させ、民が安心して暮らせる世を再びもたらすこと。それが余の使命である」
「そうだの。帝国の連中のやり方は気に食わぬ。儂は戦うことしかできんが、陛下の剣となって、行く手を阻む者を退け、その道を切り拓いてみせようぞ」
浅はかだった。
異世界だとか、スキルが使えるとか、そんなことで浮かれていた自分を後悔する。
この世界にも元の世界のように、普通に人々が生活していて、その当たり前の日常を壊したのは戦争であった。
その原因の1つがこの世界に突如現れた“スキル”。
それは、人々にとってのまさしく希望の力であったのかもしれない。
しかし、“希望の力”はある日に“絶望の力”に変わってしまう。
元の世界でもそうだったじゃないか!
行き過ぎた科学の力は、時に人々に恐怖を与えてきた。
スキルが人を傷つける能力であれば、それは軽々しく使えるようなものではない。
浅ましい自分を苛める。
「まぁ、ここで愚痴を言っていても仕方あるまいよ。・・・ところで、お主はここでは無い世界から来たのであったな?」
「は、はい。そうですが・・・」
「よろしい。ならば行くぞ」
「は? え? ちょっと待ってくださっ」
俺は引きずられるようにして部屋から連れ出される。
他の皆も突然のことにポカンとしていた。
「父上! どこに行かれるのですか!?」
「陛下! 護衛も付けずに何処へ!?」
「ほっほっほ。陛下とおると、まっこと飽きんのう」
一瞬の静止の後に動き出した3人は、正に三者三葉の反応であった。
俺はこれからもこの人たちに振り回され、また固い絆で結ばれていくことになるとは思いもしなかったのである。
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