第6話 大男と王②
よろよろとシアさんが起き上がってくる。
どうやら無事みたいだ。
鼻から赤い液体が滴ってるけど・・・。
あ、涙目になってる。
なぜかこっち睨んでるし。
変な因縁付けられる前に目を逸らそう。
それよりも大男2人組のことだ。
ハルカが“父上”って呼んでたし、ダンディなおっさんはハルカの父親なのだろうか?
筋肉ムキムキな人も只者ではないはずだ。なによりオーラが半端ない。圧倒的ラスボス感である。
動物としての本能が警鐘を鳴らしていた。この人には逆らってはいけないと。
「ふむ・・・。シアよすまなかったな」
「儂も少し調子に乗っておったようじゃ。すまなかったの」
大男たちが平謝りしている図がそこにはあった。
その様子を見ながらハルカは微笑んでいる。
いや、あれは般若の笑みか。
この世界には逆らってはいけない者が多すぎるみたいだ。
「なな、なにをおっしゃいますか陛下! 頭をお上げ下さいませ!」
「いや、謝らせてくれ。・・・そうじゃないと私が困るのだ」
その男が横目でハルカをチラッと見る。
笑顔の般若がそこにいた。
「か、体もこの通り大丈夫でありますので、私のような下女に謝るなど・・・」
「儂からも謝罪させてくれい。・・・後ろからの不意打ちなど卑怯者のすることであったわ。次からは正々堂々と真正面からいくぞい」
「バンベルト様まで・・・! ハッ!このシア=エルロット!今後ともこの身を粉にし、レクリア王国のために全力で奉仕いたします!」
おい!この爺さん謝るとこ間違ってるだろ!
でも、シアさんは感激しているようだった。
それでいいのか!
ようやくハルカからの圧力が薄れたように感じる。
どうやら2人はお許しを得られたようだ。
「そういえば、父上たちはどうしてここに?」
「おお!そうだそうだ! 衛兵から聞いてな。なんでも、怪しいやつの身柄を抑えたとのことだったが・・・」
「儂も無性に気になってのぅ。陛下についてきたわい」
「ああ、それでしたら」
俺かよ!?
てか、さっきからこのおっさん・・・陛下って呼ばれてるよね?
もしかして、もしかする?
しかも、ハルカはその娘・・・。
嘘だといってよ、バ―○ィ。
「お主が?なんか思っていたより貧弱そうであるな」
「ぬぅ・・・。もっと骨のありそうな奴だと期待しておったわ」
大男達の不躾な視線を浴びた体は、反射的に縮み上がる。
そういえば、営業の仕事をしているときもそうだった。
自分では敵わない相手にはめっぽう弱い。
体が動かず、口も思うように開かない。
いつも営業成績は下の下。
上司からは、使えない部下として常に厄介者扱いされていた。
すみません。貧弱そうで。
すみません。骨のなさそうな奴で。
勝手に思考がネガティブに陥っていく。
「キョ―タローさんはとってもおもしろい方なんですよ!」
彼女の明るい言葉が、もやもやとした心の雲を晴らす。
繕っていない純粋な言葉。
なぜ自分が落ち込んでいるのかわからなくなる。
そんな不思議な力が、彼女の言葉には感じられた。
「それに父上、この方は“大丈夫”です」
「・・・うむ。 歓迎するぞ、青年よ。ようこそ!我がレクリア王国へ!余はガルダ=レクリア。この国の国王である。」
そうして、教太郎はレクリア王国に身を置くことになった。
この数奇な運命は、彼にとって非常に大きな意味を持つものになる。
「で? どうしてお主はレクリア王国に来たのだ?」
「それは・・・」
かくかくしかじかと事の顛末を説明した。
異世界から来たこと、この世界にどうやって来たのか方法は分からないこと。
ガルダさんは真剣に話を聞いてくれ、元の世界に帰れる方法が見つかれば、それに協力すると言ってくれた。
しかし、なんで俺なんかを信じてくれるのだろうか。
突然現れた素性のわからない男。
はたから見ても怪しさ満点である。
しかし、ハルカを始め、ガルダさんも俺を疑わない。シアさんは別だけど・・・。
いや、むしろシアさんの反応が通常なのだろう。
この国の中枢である国王や王女が、どこの馬の骨かもわからない人物に素性を明かすだろうか?
2人が途方もない日和見主義者なら別だが、今は戦争中らしいし、敵国のスパイの可能性を疑うのが普通だ。
「ほぅ。小僧、お前のおった異世界には如何程の猛者がおるのだ?」
「え?猛者・・・ですか?」
「そうだ。武勇で名を馳せた者が1人や2人はいるのだろう?」
「えっと・・・」
この人だけは友好も敵対もしていない感じだ。
いや、この人だけは絶対に敵に回してはいけない。
シアさんも十分怖いけど、この人は全く別次元の生物。
その気になれば、俺なんて一瞬でペチャンコだろう。
「私のいた世界では猛者と呼ばれる人物はいないですね・・・」
「なんと!? では、軍は誰が動かしていたのだ?将軍となれば並大抵の強さでは部下もついて行かぬであろう」
「戦争は銃を使って行う場合がほとんどなんです。銃の戦争では、軍を担うほどの人としての強さではなくて、いかに軍隊を統率できるかで決まるんだと思います」
「銃だと? あんな物、戦争ではものの役にも立たんぞい。それに思うとは・・・なんとも煮え切らん答えだのう」
あ、銃はこっちでもあるのか。
俺は戦争なんて経験したことないし。軍の詳しい組織図なんかも知らない。
司令官ってなんていうの?元帥だっけ?
「私はその、戦争を経験したことが無くて・・・」
「戦争を知らない・・・。キョータローさんの居た世界は素晴らしい世界だったのですね」
そう呟くハルカの口調は穏やかであったが、やや声が震えていた。
「ぬぅ・・・。スキル持ちの強者の1人もおらんかったのか?」
「へ? スキルですか?」
「うむ。儂は持っとらんが、スキル持ちには中々手強い者もおるでのう。そいつらの鼻っ柱を折るのも戦争の楽しみよ」
スキルだって!?
この世界にはスキルがあるのか!?
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