第5話 大男と王①
「今日はキャラットが安いよー!」
「本日のオススメは新鮮なニーム!2尾で500レクだ!どうだい?」
巨大な街道に立ち並ぶ様々な店。その喧噪の中を俺たちは歩いていた。
ここはレクリア王国最大の市場。
なぜ、俺がそんな場所に居るかだって?
それは後で話すさ。
それよりも問題は、俺の両隣にいる人物だ。
「キョータローさん、見てください!あんなに立派なキャラットは中々見ないですよ!」
俺の左側には、ハルカ=レクリアと名乗った彼女が居た。
ちなみにキャラットっていうのはこっちの野菜らしい。見た目はなんとなくニンジンっぽい。
「見てみろ!こっちのニームも立派ぞ!これもわが国の自然が成せる業よ!」
右側にいるこちらのお方は、ガルダ=レクリアさん・・・いや、様か。
見た目はあごに無精ひげを蓄えたダンディなおじさまである。
ちなみにニームは魚だ。なんとなくアジっぽい。
こうやって外に出てみると、ここが異世界だということが実感できる。
街を歩く人も様々で、犬や猫っぽい耳をしている人もいれば、商人を乗せた爬虫類型の魔物も行き交うカオスな空間であった。
こんな状況、本来ならばテンション上がりまくりで街中を隅から隅まで探索したいさ。
ただ、俺はこの状況を素直に楽しめないのだ。
もうお気づきだろう。
ここはレクリア王国というらしい。
そして俺の両隣の人物の名前にはレクリアの文字。
・・・そう。
俺の左側に居る彼女は、このレクリア王国の第二王女であるハルカ=レクリア様。
そして右側にいらっしゃるのは、レクリア王国の現国王。ガルダ=レクリア様その人である。
なんでそんな人達と一緒に市場を歩いてるのか、だって?
そんなの俺が聞きたいさ!
どうしてこうなった!?
話は数時間前に遡る。
スラさんののしかかり攻撃からなんとか逃れた俺は、この世界の情報を知るため彼女に質問することにした。
「なぜ、自分がここにいるのかも全くわからないのです。ここは一体どこなのですか?」
「そうですよね。違う世界から来られたのですもんね・・・。不安になるのもわかります。 ここはアデルス大陸にある、レクリア王国という国ですよ」
「アデルス大陸ですか?」
「はい。このアデルス大陸には、この国の他にもアルケミス連邦国、オルデリコ帝国という2つの国があります」
「オルデリコ帝国!名前を聞くだけで反吐がでるっ!」
その名前にシアさんが過剰に反応する。
あの、目がとても怖いです。こっちを見ないでください。
「申し訳ありません。レクリア王国とオルデリコ帝国は長らく戦争状態にありまして、我が国はアルケミス連邦国と同盟し、なんとか戦線を維持できてはいますが・・・」
「奴らなど人間ではない! 兵士でもない一般市民を蹂躙し、財産を奪い、挙句には奴隷として戦場の肉壁として扱うんだぞ! これを鬼畜と言わずになんと言う!」
「あの、ちょっと落ち着いてくださ・・・」
「奴らは私が一人残らず殺してやる!ぜったい・・・ンっ!」
その時、シアさんの体が突然床に沈んだ。
あまりの一瞬の出来事にその場が凍り付く。
その止まった時間を打ち砕いたのは豪快な笑い声だった。
「ぐはははは!シアよ、何を熱くなっておるのだ。この場で怒りを出しても仕方なかろうて!」
そこに立っていたのは、2人の大柄な男達。
1人は180㎝程の上背で、背中には真紅のマントが翻っており、豪華な装飾が施してある服装によく似合っている。年の頃は40代ぐらいだろうか。あごに無精ひげを蓄えており、顔立ちはダンディな俳優といった趣である。その目は優しげでありながら、なぜか全てを見透かされるような気持ちにさせ、教太郎をゾッとさせた。
「確かにそうですな。怒りを制御できないようではまだまだ未熟。儂が一から鍛えなおしましょう」
そう言ったもう1人の男は、190㎝はあろうかという体躯。胸当てのみの鎧を装着しており、鎧の上からでもわかるぐらいに体中の筋肉が異常に発達している。その体には無数の生傷が見られ、正に歴戦の戦士といった風格を持つ。頭髪が白んでいることもあり、先ほどの男よりも年齢は上に見えるが、肉体的な衰えは全く無い。その鋭い眼光で睨まれたら最後、蛇に睨まれた蛙よろしく、恐怖に支配され動けなくなることだろう。
その大男がシアさんの後頭部に手を置き、床に押さえ込んでいる。
「父上!バンベルトさん!」
「おぉ、ハルカ息災であったか!」
「姫様、ご機嫌麗しゅうございます」
「2人とも何をやってるのですか!今すぐシアから手を離してください!」
「なぜだ?お前の側仕えはこれからバンベルトに教育してもらうのがよかろう」
「はい。このバンベルトの名に懸けて、最高の兵士に育てて見せましょうぞ」
「い・い・か・ら! 早く手を離してください!」
ハルカが怒っている・・・。
普段怒らない人が怒ると本当に怖いものだ。
今のハルカには有無を言わせない迫力がある。
例え2人の大男といえども、その迫力には勝てなかったのか、渋々ながらシアさんは解放された。
「まったくもう! 2人とも悪ふざけが過ぎますよ。いつもいつも・・・」
「ハルカもう勘弁してくれないか?」
「誠申し訳ありませんのぅ」
大の男2人が1人の少女に説教されている姿がそこにはあった。
俺は展開についていけずに呆然としているだけである。
一体なんなのこの人達?
俺の問いに答えてくれる人は誰もいなかった。
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