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第3話 判決と現実

 しばらく続きそうな二人の口論を横目に、自分が置かれている現状を改めて思案してみる。

 まず、一体ここはどこなのか?

 無論日本のはずである。


 さすがに酔った勢いとはいえ、海外に移動することはまずありえない。酔っ払いが国境超えるなんて、どこぞのコメディ映画じゃあるまいし。

 それに俺はそこまで酒癖は悪くない。まぁ、記憶が無くなるぐらいは何回かあったが、それぐらい誰でもある話だろう?


 しかし、目の前の彼女たち・・・。やはり、どう見ても日本人の風貌ではない。

 どちらかというとヨーロッパ系の顔立ち。しかも、二人ともとびきりの美少女ときている。


 ドッキリ番組かとも思ったが、なによりも一番説明できない生物が目の前にいる。

 彼?は今、その丸くて大きな瞳でこちらをずっと窺っており、微動だにしない。

 すげー怖いんだけど。

 こっち見んな。


 しかし、アレは本物のスライムなのだろうか?

 それとも、進化を続ける最先端のCG技術を目の当たりにしているのか。

 でも、さっきの感触は間違いなく本物だったはず・・・。


 そんなことを考えるうちに、どれぐらい経っただろう。

 数分?もしかしたら数十秒だったのかもしれないが。

 突然意識を引き戻される。


「おい!貴様!」

「はひぃ!」


 思わず声が上ずってしまった。

 執行猶予とも思えた二人の言い合いは既に終わったようで、その矛先はとうとう俺へと向けられる。

 いつの間にか目の前に立っている、気の強そうな彼女が尋問官のようだ。

 ここが勝負所だろう。

 この場をなんとかやり過ごすしか、俺の生きる道はないのだ。


「お前は一体何者なのだ?」

「に、西村教太郎と言います」

「どこから来た?」

「公園のベンチで寝ていて、気が付いたらこの部屋にいまして・・・。ごご迷惑をかけて大変申し訳ありませんでした!」


 我ながら見事な土下座である。

 こういう場合、とりあえず全力で謝ればこちらの言い分を聞いてくれるはず。

 営業職で培ったノウハウを活かし、一瞬のうちに両手と額を地面につけた。


 しかしそれほど世間は甘くない。

 謝って済むなら警察はいらないのだ。


 首元にひんやりとした感触が走る。

 与えられたのは最悪の判決。

 首元に添えられたそれは、刃渡り50cm程の短剣であった。


「ひいぃ!」

「何をわけのわからないことを・・・。真面目に答えろ!次は喉元を掻っ切ってやる!」

「ごめんなさいごめんなさい!本当に何もわからないんですぅ!」


 嘘だろ!?

 視界に入った鋭利な刃は、紛れもなく死を具現化したもの。

 迫りくる死への恐怖に飲み込まれていく。

 

「やめなさい!」


 その時、救いの手が差し伸べられた。

 両手を広げ俺を守るように立つのは、もう一人の少女。

 その姿は背中に羽の生えた天使にも見えた。


「この方はまだ混乱しているようですし。脅迫してもなにも聞くことはできません」

「しかし、姫様」

「二度は言いませんよ。シア」

「・・・わかりました」


 首元の短剣が離れていく。

 どうやら俺は命拾いしたようである。

 死ぬかと思った・・・。


 グゥ~

 

 安心すると同時にお腹が鳴ってしまった。

 そういえば起きてから何も食べてない。

 いつの間にか二日酔いの症状もだいぶ良くなってるし。


「とりあえず、お粥。食べますか?せっかく作ってきましたし」


 くすくすと笑いながら。彼女は魅力的な提案をしてくれるのであった。

 


「でも、どうして城門の前で倒れていたのですか?」

「それが、まったく記憶が無くて。私は門の前で倒れていたのですか?」

「はい。門番の方が見つけて、ここまで運んでくれました」

「私は反対したがな」


 イラついた声で横やりが入る。

 どうやら気の強そうな彼女は俺を信用していないようである。

 まぁ、このお姫様?が俺を信用してくれるのが不思議なぐらいなんだけど。


 落ち着いて話ができたことで色々わかってきたことがある。

 まず、どうやら俺は異世界転移したらしい。

 29歳のアラサーが何言ってんだと思ったか?

 俺だって信じられないさ。

 いや、信じたくない。


 しかし、会話に出てくる単語や地名が明らかにおかしいのが一つ。

 そしてスラさんというスライム型モンスターの存在。

 とどめはふと目をやった時、窓の外から見えた都市の景観である。


 まるで漫画に出てくる中世ヨーロッパ時代ような建物。行き交う人々も明らかに現代的な姿ではない。

 そして、商人の乗る馬車を引くのは馬ではなく謎の生物。

 そもそも馬が引いてないんだから馬車じゃないのか。

 これがドッキリだったら、むしろこのセットを作ったことを称賛できるレベル。


「本当に何も覚えてないですか?ご出身は?」

「えと、日本の東京なんですけど」

「ニホン?トー、キョー?聞いたことない地名ですね・・・。レクリアの地にそんな名前の邑があったかしら?」

「フン、どうせ出まかせを言っているだけだろう」

「もう、シア!茶々を入れないで」


 日本や東京は海外でも名は知られているはずだし。

 レクリアなんて国は聞いたことが無い。単に俺の知識不足かもしれないが。

 いや、やはり異世界転移したと考えるべきだろう。

 そう思えるだけの現実が目の前にはある。



 もし、自分が知らない世界に飛ばされた状況になったら何を考えるだろうか。単純な不安や恐怖?それとも、これから始まる異世界ライフへの期待や好奇心かもしれない。

 俺はどちらかというと後者であったようだ。


 現実世界では毎日、自宅と職場を往復するだけの日々。

 たまの休日も、特に趣味と呼べるものは無く、自宅でゲームやネットの世界に逃避するだけであった。

 なんとなく連絡を取らないうちに、学生時代の友人とも疎遠となり、一緒に飲みに行く連れさえもいない。


 こんな毎日が続いて、いつか仕事を辞めた時に自分に何が残るのか。

 それが無性に不安だった。

 こんなはずじゃなかった。もう一度人生をやり直したい。戻れるなら小学生のあの頃に戻りたい。

 俺は心のどこかで、あるはずのないそんなチャンスを期待していたのかもしれない。

 人生を変えるチャンスを。


趣味でゆっくり書いてます。

どんな評価でも感想でも書いて頂けたらありがたいです。

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