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第2話 ぷにぷに

 俺はドアを押した勢いで体勢を崩し、そのまま前屈みにつんのめってしまった。


 倒れるっ!

 そう思った瞬間にはもう遅く、次に来るであろう衝撃を覚悟し、思わず目を閉じる。

 しかし、次に訪れたのは頭を包み込むような柔らかい感触であった。


 あれ?

 覚悟していた衝撃も無く、倒れる際に思わず前に出した掌にも、なにやら柔らかい感触がある。


 ・・・。

 嫌な予感がする。

 このシチュエーションは、漫画とかラノベの主人公が遭遇するお約束のアレなのでは。

 俺は人並みに漫画やラノベを嗜む方だ。

 思い浮かぶのはラブコメとかにありがちなラッキーでスケベな展開。

 ただし、あの展開で男が許されるのは二次元の世界だけである。


 俺は今、不法侵入の罪に婦女暴行がオマケで付いてくるという最大の危機に瀕していた。

 もう逃げられない。


 ある意味での悟りを開いた俺は、とりあえず目を開く前にこの感触を堪能しようと、数回掌を揉むように動かした。

 我ながら中々のクズである。

 ぷにぷにしていて、なんとなく水っぽい。ずっと触っていたい感触だ。うん。


 ようやく意を決した俺は、恐る恐る目を開けた。そこには予想通りというか、驚いた顔の女の子の顔が見える。

 腰まで届くほどの透き通るような金色の髪。パッチリとした大きな瞳。すぅっと整った鼻と唇。体型はほっそりとしているのに、やたらと主張している胸。真っ白な肌。気品溢れる服装も相まって、まさに絵にかいたような深窓の令嬢。絶世の美少女がそこにいた。


 俺の横に。


「あの・・大丈夫ですか?」

「へ?」

「はい?」


 思わず間抜けな声を上げる。

 あれ?どういうことだ?

 俺は目の前の彼女の胸にダイブしているはずだ。

 そして、あの柔らかそうな胸を・・・。


 いやいやいや、落ち着け。

 でも、彼女は俺の横にいて、じゃあ俺が倒れこんでいるのは?


“ぷよん”


 俺は目の前のモノを凝視する。

 これは現実なんだろうか。

 それともまだ夢の中で、起きたら元のあの公園にいるのか。


 ぷにぷにとした柔らかな感触。

 大きな液状?のそれは、まるで大きなウォーターベッド。

 いや、俺も使ったこと無いからわからないけど。

 たぶんこの感触はその表現で合っていると思う。

 そのまんまるとした透明な体に大きな目が二つ。


「うわああぁぁ!」


 俺は大きく後ろにのけぞり、尻餅をついた。

 これはあれだ。

 かの有名なRPGでも登場するモンスター。

 スライム・・・。それもキングが頭につくほどの大きさ。


 よくゲームセンターでクッションとして景品にされている愛くるしいキャラクター。

 しかし、目の前にいるのは二次元のキャラクターではなく、まさしく現実の生物としてそこに佇んでいる。


「どうされましたか?・・・もしや、どこかお怪我でも!?」

「あ・・・いえ、大丈夫です」

「でしたら良かったです。スラさんありがとう。私だとクッションになりませんでしたから」


 いや、なるでしょう。

 自然と視線は彼女の体の一部分にいってしまう。

 ゲフンゲフン。


 しかし、まだ状況が全く呑み込めていない。

 彼女は誰?スラさんとは?

 誰か答えてプリーズ。


「姫様あぁ!」


 そんな時、どこからか声が聞こえてくる。

 女の子とスラさん?が立っている廊下からだろうか。


「あら、シア。どうかしたのですか?そんなに血相を変えて」

「どうかしたではありません!」

 

 この場に飛び込んできたのは、またしても女の子だった。

 紫色のショートカットに力強い眼差し。顔立ちはかわいい系ではなく綺麗系と言える。俺よりも長身であり、なんとも近寄りがたい雰囲気がある。正直、俺の苦手なタイプだ。

 会社で、やり手の上司に睨まれるあの感覚に近い。俺の負け犬根性をビンビン刺激する。


 見るからに動きやすそうな服装をしており、布面積も少ない。なにかのコスプレなのだろうか。正直、目のやり場に困る。

 その腰元には短めの鞘のようなものが見えた。ほ、本物じゃないよね?

 一見ただのコスプレした女の子である。しかし、顔だけ見れば、彼女もまたとんでもない美女であった。


「あれほど1人で行動しないでくださいと言ったではありませんか!」

「ええ、ですのでスラさんと一緒に」

「そういうことではありません!!ただでさえ、あの者は得体の知れない人間なのですよ!帝国の間諜だったらどうするのです!」

「でも、お腹が空いてると可哀そうだと思いまして・・・」


 なんだろう。この場に居づらい。

 俺のことを言ってるのはわかるんだが、やはり歓迎ムードではなさそうだ。

 そりゃ、不法侵入者だし。当然ですよね。


 二人が口論している間に、脱出経路はないかと辺りを見回す。

 だが、外へ通じる道は目の前のドアだけのようだ。

 俺は脱出を諦め、二人が出す判決を待つ。

 死刑か、はたまた監獄行きか。まさか無罪放免とはいかないだろう。


趣味でゆっくり書いてます。

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