魔王軍入隊試験
遅くなり申し訳ありません!
魔王の間には、たくさんの魔物が集められていた。本来魔王とその側近しか入れないのだが、今回は特別であった。その様はまさに魑魅魍魎。
そして、全ての異形が視線を送る男。ロアである。
「よくぞ集まってくれた! 勇敢なる戦士達よ! 今日は魔界が大きく進歩する記念すべき日である…みな、励むが良い!」
ロアの最初の挨拶が終わり、ベルターが前に出る。
「それでは、皆様半数に別れていただきます。6000番までの御方は右の転移門へ、あとの御方は左の転移門にお入りください」
ロアが転移門を開く。右は訓練場へ、左は筆記試験所に繋がっている。効率を良くするために交互に試験を行っていく。
魔物達が別れ、誰もいなくなったことを確認してロアはベルターに言った。
「よし、そろそろリルとニンファのところにいくか」
ニンファは剣士の試験官でリルは魔法士の試験官だ。二人は右の転移門の先にいる。
左の転移門にはベルターの姿を模した中位アンデットのドッペルゲンガーに試験官を頼んである。
ロアはベルターと共に右の転移門に入っていった。
_──...···__·_──__──
「…はい、魔物の方々こ、こんにちは。剣士試験官ニンファ·カヴァリエーレです」
「魔法士試験官のリルだ」
二人はロアに頼まれた仕事を果たすべく、訓練場で魔物達に自己紹介をしていた。
二人とも自他共に認める美少女と美女なので、舞い上がる魔物達も多い。
中には下卑た目で見る者達もいる。
それを察したのかニンファは兜を即座に被り、リルは盛大に舌打ちをする。
二人共、ロアしか眼中にないらしい。
「……それでは、始めたい、と思います。試験内容は私達の攻撃を十秒耐え抜けられるかどうかです。剣士の方は私を相手に。魔法士の方はリルさんを相手に戦ってもらいます。…こ、超えられなくても才能次第では、筆記試験が酷くない限り、合格となる場合があります…」
一同、言葉を失った。たった十秒凌げば試験にほとんど合格できるなんて思ってもみなかったのである。
ちなみに、試験を受けているほとんどの魔物があの大会に出ている。しかし、自分より格上の相手や、デュラハンなどに倒され、選手控え室にいたため、リルやニンファの実力は全然理解していない。
そうとは知らずに試験を先頭順で始める哀れな魔物達。
「ニンファサンだっけ? 俺、結構強いから普通に戦おうよ、勝ったら一緒にご飯でもどぉ?」
そんなことを第一声に口走ったのは浅黒い肌に角が生えた魔族の男。
「…結構です、私には心に決めた御人がいるので…どうぞ? 始めて下さい」
いつもより低い声でニンファは言い放った。
「このアマ…後悔しても知らねぇぜっ!」
「…頭も残念な様ですね、貴方にはのちの筆記試験でも無理でしょう」
ニンファは最小の動きで攻撃を回避し、剣の鞘で後頭部を殴打した。
「ゴハァッ!」
魔族の男は顔面から倒れ、気絶してしまった。
ニンファは少しスッキリした様子で、
「はい…次の方、どうぞ」
__.·───...
リルはニンファから少し離れた場所で試験をすることになった。
「さて、先程言った通り十秒、私の攻撃に耐えたやつは筆記試験だけだ…しかし、私はニンファのようには優しくはない、手加減なんぞ期待するなよ?」
黒色の戦闘服を着ているリルは言った。
最初は宝石を散りばめたローブ纏った小汚いリッチだった。
「へっへっへ、貴様中々良い体をしているじゃねぇか!」
リッチは杖を前に向け臨戦態勢に入る。
リルは心底気持ち悪そうな顔をしている。
「気色悪い、お前のような豚がいたら魔王軍の品位が下がるな」
「な、何だと!? オデは魔公爵家、ピング家のご子息様だぞ! オデにかかれば貴様の主ぐらいどうってことなi」
「落ち着いてくださいませ!これ以上の魔王様への無礼は極刑だけではすまされぬ自体に…あ、ァァァ!」
「止めるな! 召使いの分際でオデに指図するき……」
リッチの従者が背後から制止させようとする。
突如、巨大で濃密な魔力がその場を渦巻いた。その根源は言うまでもなくロアであった。
「ほう…貴様の手にかかれば我を倒せると、そう言ったか…?」
ロアは、魔王スキル《シュレッケン》という、相手の自分に対する恐怖心を増幅させるスキルを使い、リルを抱き寄せる。
「あっ…」
リルは恍惚の笑みを浮かべる。
しかし、リッチ達は対照的に顔面蒼白だ。
「い、いや! そのようなことは …お、オデは用事が出来ましたのでこの辺りで失礼しますっ」
「…待て、この我が聞き間違えをするわけがなかろう? 最初の一人からこれでは先が思いやられるぞ。そうだな、貴様にはそれ相応の処分をしてやろう、感謝するが良い」
ロアの目は本気だ。
汚物を見るような目で男を一瞥する。
「ッ!! クソっ! 俺だけでも…《エスケイプ》!」
リッチは懐から出したスクロールを地面に投げ、自身を登録した場所へと門を繋げる魔法を発動させた。
地面には魔法陣が展開され、男を下へと吸い込む。
しかし、そのようにみすみす見逃すようなヘマはしない。
「そのよう物で我に逃げ果せるとは思わないことだ…《神風》」
辺りに神々しい風が巻き起こる。
『パリンっ!』
という音とともに魔法陣は一瞬で掻き消えてしまった。
「ヒィッ! お、おい! おでを早く助けろ! 命令だ!」
「無理に決まっていますでしょう! 貴方が招いた結果です!」
このままではリッチとその従者の言い争いに発展しそうだ。
「はぁ…胸クソ悪い…おい、死ぬ覚悟は出来たか豚野郎」
「か、かひゅっ──」
「《エナジードレイン》」
ロアの頭を掴み、エナジードレインという魔力吸収魔法を使用し、リッチの魔力を全て奪い取った。
これで当分は動きも出来なければ魔法も使えない。
「…貴様の主か? これは」
「は、はいその通りでございます…」
「これの父親…公爵といったか?そやつに貴様の息子は魔王に無礼極まりない行為をした、とな。これを持って早急に立ち去るがいい」
「ッ!? ……わ、分かりまし、た」
従者はリッチを抱え、そそくさと魔王城から出ていく。
「…リル、すまなかったな。俺が横槍を入れるまでもなかったな」
ロアは申し訳なさそうにリルに言う。
「いや! 私は今幸せで死んでしまいそうだぞぉ…」
リルはハァハァと息を荒くし、頬を赤く染めあげている。その艶かしい姿にロアは変な気を起こさないよう目を逸らし、抱き寄せていた腕を話す。
「あぅ…」
「ま、また来る…続けてくれ」
暖かい目をしているベルターのを見て、ジト目で返したロアであった。
──··─..__.._─··
ニンファは淡々と志望者を相手にしていた。
「…疲れてきたなぁ、ロアさん、早く、来ないかな」
「ニンファー、来たぞ)…あれ? 馬どうした?」
「あっ…ロア、さん!…えっと、馬ならあそこで休ませてます」
ニンファはロアが来たことで兜を脱ぎ、駆け寄り花のような笑顔を見せる。
「どうだ? 順調に進んでるか?」
「は、はい、皆頑張って試験を受けてます」
あまりの対応の差に嫉妬の視線を送る魔物達。
「…おいおい、お嬢魔王様にデレデレだぜ」
「うわぁ、良いなぁ。それで姉御もいるんだろ? 両手に花じゃん」
「あぁー妬ましいわぁ」
「…もう完全に乙女の顔じゃね?」
「……」
「…」プシュー
「ニ、ニンファ?」
「…すいません、あと少しなのでちょっと行ってきます」
(いつの間にか二人の呼び名がお嬢と姐さんになってることが一番今気になる)
最初に見せてくれた笑顔とはまた少し違う笑顔を送ってきたニンファ。ロアは少し寒気がした。
「べ、ベルター? そろそろお暇しようか」
「…そうでございますね」
ロアとベルターはそそくさと魔王の間に戻った。
_……·─··─_……_.._──·
「あと少しって感じだな」
前半と後半も交代し、もう終盤に差し掛かっていた。
唐突にロアは真剣な声色になり、ベルターに投げかける。
「──ベルター、囲まれてる」
「…左様でございますか」
「しかし、俺の索敵スキルが半径1km地点でやっと引っかかるとは…何か阻害魔法でもかけてたのか?」
「確認に行ってまいります」
そう言うとベルターは人化を解き、紫色の炎と共に転移していった。
それから数秒後。
人化を解いたベルターが戻ってきた。
[ロア様、聖騎士の軍勢がこの魔王城を取り囲んでいるようです…旗はロア様が仰っていた例の王国のものでした]
「……そうか。あっちから来るとは思いもしなかったな」
ロア俯く。なにかあったのかとベルターは声をかける。
「…ロア様?」
ベルターが見たのは獣のような笑みを浮かべるロアの姿であった。
「…ベルター、ここは俺に任してはくれないか? 魔王城の警備を頼む」
「承りました」
「感謝する」
ロアは翼を広げ、魔王城上空に転移をした。
「…ロア様、どうか悔いのありませんように盛大に」
─·───·………
「…さぁ! 本気でいかしてもらうぞ王国の犬共! 俺の受けた屈辱と両親の怨念、両方倍にして返してやる!」
魔王は高らかに宣言し、不敵な笑みを見せた。
…__…_.···|───.
次はやっと王都との因縁の対決です。