仲間とは家族である
今回はデュラハン回ですね。
やっぱりデュラハンはカッコイイ。
ロア達にすっかり忘れられていたベールフルはいつの間にか、部屋に戻っていた。
魔王の間には、デュラハンを加えた四人がいる。
「改めておめでとう、歓迎するよ」
「……ありがとうございます」
(あっ、喋れるのかこの娘。しかも可愛い声だ)
デュラハンはか細いながら、声を発した。
「素晴らしい剣技を見せてもらったよ。……早速本題で悪いが是非我が軍の騎士団長になってもらう。これに対して異論は?」
「…い、いえ。ありません……魔王様! 一つ、どうか私の望みを叶えては頂きませんか!」
ズイッ! 顔を近づかてくるデュラハンにたじろぐ。
「お、おぉ。 許す。何でも言ってほしい。君の剣技にはそれだけの価値があると思っている」
ロアは勇者時代に遭遇しなくて良かったと思う程にデュラハンの力を評価していた。
その言葉を聞いて照れくさかったのか身じろぐデュラハン。
声が上擦りながらも自分の望みを言う。
「…ぁ、えっと…わ、私にな、名前を…頂けませんでしょうか!」
デュラハンは被っていた兜を脱ぎながらロアに願う。デュラハンの風貌は水色の髪に青い目の可愛らしい顔立ちだった。特にロアの目を引いたのはデュラハンらしく頭と胴体が離れている事だった。
兜に隠れてわからなかったが頭だけフヨフヨと浮いている。
首との結合部分からは淡い紺色の炎が噴き出していた。ロアはどこにでもいる内気な少女のような印象を受けた。
「名前、か」
「…はい、わたし…は親と呼べる人が居りません、なので私、には名前というものがない…のです。だから!」
(デュラハンは普段無口なのだろう、いや…親の居ないという境遇に押し潰されないために無口になったのだろうか…)
「心配するな、名前くらい幾つでも考えてやる…恐らく、お前は努力をしてこの大会に出たのだろう? そうでなくともあれだけの物を見せてもらったんだ、もう仲間……家族のようなものだ。 この二人にも俺が名前を与えたんだ。お前に与えないわけないだろう?」
そっと、包み込むようにデュラハンを抱きしめる…ロアは今までデュラハンが与えられなかった愛情を出来る限り注ごうと決めたのであった。
(変わらないな、人間も魔族も。…いや、魔族の方が素直か…)
「ベルター、部屋の用意頼めるか? 仲間が増えた」
ベルターは微笑み、
「はい、喜んで」
「主の抱擁か…羨ましいぞ」
リルは羨ましそうな目でロア達を見ていた。
「…さて、夕御飯の時間帯だな…デュラハン、とびっきり旨い物を食わせてやる」
「……?」
「名前は考えとくから。それまで休んでろ、な? 《転移》」
________..·
(今日は何を作るか…帝国から結構食べ物送られてきたが…そういえば、あれがあったな)
ロアが冷蔵庫から出したのは肉のブロック。
「これで、ローストビーフ作れたっけな」
「まぁ、やってみるか」
~魔王のローストビーフの作り方~
まず、冷蔵庫から出した肉を室温で30分置きます。今日は時間が無いので時空魔法《時操》を使って、肉の空間時間を早めます。
※魔王か某フェンリル程の魔力が必要となります。
肉を炙り、焼き色をつけます。(初級魔法程度の火力で)
焼き色がついたら、肉を三重程度葉っぱで包みます。(空気が入らないように真空魔法を覚えましょう)
その肉を沸騰したお湯の中にぶち込み、三分煮ます。三分を超えたら火を止め、再び時空魔法を使い、時間を経たせます。
そして肉をさまし、薄く切ります。
ソースを作り、完成。
極東の国から帝国が取寄せたハクマイというものを炊き、器につぐ。それにローストビーフをのせたらローストビーフ丼の完成である。
__·__···...·__·___··──__
「おぉーい、出来たぞー!」
この前のビーフシチュー以降、料理は落としては行けないので浮遊させて運ぶようにしている。
「おぉ、主の料理はいつも美味しいからなぁ!」
「えぇ、ロア様は料理の腕も天下一でしょうからなぁ」
「そうな、んですか?」
「照れるからやめろ、ほら食え」
ロアはデュラハンの分の机とイスを創り、料理をおく。
各自、席について行く。デュラハンだけが席に座ってはいない。
「あぁ、デュラハン様。こちらにお座りを、最初は混乱するでしょうが…」
そう、一応ロアはこの国の王であるため、一緒に席について食事をするなんてまず考えられない。ベルターも最初はロアに強制的に席に座らされた口である。
「デュラハン、俺等はもう仲間だ、気兼ねなんてするんじゃないぞ? これはお前が大会優勝者だからでもないからな」
「は、はい!」
嬉しくも戸惑いながらもデュラハンは席につく。
「それでは、食べようか」
クロッシュを一斉に開ける。
「わぁ…」
キラキラと光るニンニクベースのソースが食欲を誘う。デュラハンは皆が食べ始めたのを見ると自分も料理を口に運んだ。
「……美味しい」
温かい炊きたての白飯にジューシーなローストビーフはデュラハンの顔を綻ばせた。
「そうか! たくさん食べろよ! 帝国から米が沢山届いたんだ」
「コメ?…初めて見ました」
「そうか! これはな?──」
互いに談笑しながら食事をする。
この日の夕食はこれまでよりちょっとだけ暖かい気がした。
──·_..._····....·.:.._
その日の夜中、ロアの部屋に一つの人影があった。
…デュラハンである。夜這い…というわけではなさそうだが…
そろりそろりとロアお手製の白い寝巻き姿のデュラハンは部屋の前に立つ。そして、ドアノブに手をかけた。
その瞬間
「何をしているんだデュラハン」
「ッ!?」
声をかけてきたのは赤い寝巻き姿のリル。
こちらは完全にそっち目的だ。
アイコンタクトで火花を散らし、ドアに入ろうと牽制をし合う。
「…分かった、デュラハン。君は右だ、私は左に行く」
リルは目的を諦め、デュラハンと協力関係となることを決断した。
「…分かり、ました。…リルさん」
二人はこっそり中に入る。足音など完全に消し去るその忍び足はまさに神の所業。
ロアは一切気付かず、ぐっすり眠っている。
(では…)
(お休みだ、デュラハン)
二人の絆が固くなった。
───··──··...─..····───
コンコンコン
朝、ベルターはロアに紅茶を届ける為、ロアの部屋に入る。
「ロア様、まだ眠っておられるの、です…か」
ベルターが見たのはロアと例の二人がベットで寝ている姿だった。ベルターは思わずため息をついた。
「まったく、貴女たちは…ほら! 起きなさい、ロア様の御前ではしたない! リル! 寝間着が気崩れています、着替えてきなさい! ほら、デュラハン様も」
「「……あい」」
二人は目を擦りながらそれぞれの部屋に行く。
(いつの間にあんなに仲良くなったのか…)
「ん、むぅ…おぉ、ベルター、おはよー」
「ロア様も早く起きられた方がよろしいかと思いますよ、今日は魔王軍志願兵がたくさん来るのですからね。デュラハン様の名前もまだでしょう」
「おう、そーだなぁ」
執事というよりオカンのようなベルターであった。
──····─..……──···
一時間後、全員魔王の間に集まっていた。
「さて、これから名付けの魔王と恐れられたロアさんが命名式を執り行う」
「ありがとう、ございます!!」
デュラハンは頭を下げる。心の底から嬉しいという表情をして。
「うむ、時間が無いのでな。手短にやるが、心の準備は?」
「お願いしますっ…」
「よろしい。今日からお前の名前は…
『ニンファ·カヴァリエーレ』だ!」
「ニンファ・カヴァリエーレ…」
その後、何度も名前を噛み締めるように復唱しているニンファに若干の不安が出るロア。
チラッとニンファの顔を見ると、涙を流していた。
「…ッ!! そんなに嫌だったか? そうか、ならまた考えるからな!」
「いいえ!…嬉しいんです、やっと、私は種族としてではなく、個人として扱われることに」
ニンファの炎は赤みを帯びている。
「…そうか、そうだな」
ホッ、と胸を下ろすロア。
「じゃあ、これからよろしくな? ニンファ」
「はい!」
「ところで、ネームドモンスターになった特典みたいなのがあるはずなんだが、何か変わったところはないか?」
「えぇ、と。…むむむむむっ!」
ニンファは力んでみる。
しかし、何ら変わりはない。
「ま、まぁ、いつか分かるさ。なにか気づいたことがあったらいってくれな」
「す、すいません…」
─.·….─___.─_.……
「さてと、名前も決まったところで今日の予定は魔王軍志願者が、来るんだよな?」
ロアは今日の予定をベルターに確認をとる。
「はい、志願者の筆記試験と体力測定でございます」
「王都の入団試験でやったな…」
「そうでもしなければ、人数だけ多く、質が悪い軍となってしまいます故」
ベルターはモノクルをクイッと上げて言う。
そしてロアはそれぞれに指示を送る。
「ニンファには剣術試験官を担当してもらうから、模擬試験に出てほしいんだ、俺もそこには行きたいと思ってる」
「ッ!! 分かりました…せ、精一杯頑張ります…」
「リルは魔法試験管だ、この中で魔法に一番秀でているのはリルだからな」
「了解したぞ」
「ベルターは俺と一緒についてきてくれるか?」
「何処までも、ロア様」
「……ベールフルは、いったい何処に行ったのかね」
一応後で場所くらい知っておこうとロアは思った。
(外が騒がしい、そろそろ集まってきたな)
「よし、行くぞ。まずは開会式もどきでもやろう」
__……·─……·──·.……·
さて、どうだったでしょうか?
ロア様の料理風景をイメージしていると、何故か「あぁ、いいなぁ」と思ってしまいます。
ニンファ·カヴァリエーレは『妖精の騎士』といった名前です。
次回もまたお会いしましょう!