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<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

死の世界の入り口はすぐそこに

 少女の声がする。――そんな気がした。だから僕は夜、眠ることが出来なかった。それが怖さによる怯えだったのか、異性の声を聞いたことによる興奮なのかはわからない。ただ、わかっているのは僕が眠れていないということだけだ。
 そして朝になった時には何も無くなっていた。枕も布団もベッドも。そして、寝室まで。
 全てが無くなっていた。――何故? 答えはきっとないのであろう。僕は脳内に直接響いてくるような少女の声で、不思議と意識が現実とは違う儚い幻想へと連れていかれそうになり、二つの世界を行き来して、それにより混沌の中で浮遊しているというような感覚で気持ち悪くなった。
 全ては今も耳に音を響かせ続けている、この声の持ち主のせいであるのは明らかであった。もし、そうでないのなら、この世界の謎の中には、その謎よりももっと深い謎が謎の核に存在することになり、大変ややこしいことになってしまうので、きっとこれは声の持ち主、つまり謎の少女のせいにするのが一番気が楽である。
 だけれど、何故、僕はこの少女にこのような世界に連れていかれてしまっているのだろう。皆目見当がつかないのである。
 これに選ばれてしまったのには、僕に何か特別なモノがあるからなのだろうか。それとも、選ばれたこと自体が特別であって、僕は元々は一般人であったのに、くじ引きのようなもののせいで、このようなことになってしまったのだろうか。それでは、僕は不運すぎやしないだろうか。
 ――――「コロシテ……殺ス……死ンデ……殺サレル……死ヌ――定メ」
 女の子の声ははっきりと、何か言っているのが聞こえた。そして、それは狂気じみていた。この空間に辿り着いた時点で異常な世界に来ているのだが、その世界はどうやら普通に生きていくのも難しそうな捻くれた世界なのだとここで僕は思ってしまった。
 そして、それに間違いはなかった。何もない空間から、次々と物体が現れていく。その物体は刀剣であり、重火器であり、原子爆弾でもあった。それが次々と空から流れてくるのを見るのは、流れ星を見ているように神秘的であった。
 だけれど、それが狂気に満ちていたことはすぐにわかった。わかったからといって、どうしようも出来なかった。
「この美しい私が見えるでしょう。今の貴方なら。さあ、こっちを向いて」
 聞こえる、鮮明に、狂った声が。そして、その声のトーンはだんだん強くなっていく。
「こっちを向きなさい、さあ、貴方もこの世界の住民に選ばれたのだから」
「うるさい! 何だって言うんだ、これは」
「決まってるじゃない、貴方みたいな人間を殺すための空間、そして現象よ」
「僕が何をしたって言うんだ?」
「貴方は、選ばれたの」
 その時の彼女の声は冷たかった。それで、僕は悟った。

 ――僕は、本当に選ばれてしまったのだ。
「さあ、ここから先は貴方が選ぶのよ」
 少女がそう言うと、大きな光で作られた階段が僕の目の前に浮き上がってきた。
 これから僕が行こうとしている場所を考えると、この階段というのはなかなかのミスマッチっぷりを発揮している。
 僕は階段を一段と、また一段と、二段飛ばし等はせずに上っていった。
 この階段を上る度に感じる現実世界にも存在する湾曲された歪み。それが、この世界によって作られたことを、この世界に来た事により知ることができた。
 階段を一番上まで行くと、そこには大きな扉が幾つもあって、その先に行くことが義務であるかのようなオーラを醸し出していた。
 赤の扉。青の扉。緑の扉。紫の扉……。まだまだ数え切れないほどの扉がそこにはあった。
 でも、何故か僕にはその扉の向こうに何があるのかがわかった。
 どの扉にするかなんてものには迷わなかった。僕は赤の扉を開けた。
 すると、少女が言った。
「数時間の猶予がある。好きにしろ」
 そう言って少女は消えていった。

 ――復元、否、再生されて行く。枕、布団、ベッド。元あるべきものが元あるべき場所に存在している。
 だけど、知っていた。僕自身には元あるべき場所なんて存在しなかった。
 僕は少女に与えられた猶予を、とある手紙、否、書を書くのに使った。その時に使用したペンは、手元にあったぺんてるの筆ペンであった。
 そして、猶予の時間が過ぎた時、僕という魂は、肉体というものを失った。
 肉体と魂が切り離されていく。包丁で切られたようにストンと。
 魂として浮遊し続ける僕は、死んだ目になって動いている自分の肉体を眺めていた。
 そして、その肉体には、赤の扉を開けたものの宿命がもう既に用意されていて、それが用意されている場所に、魂の抜けた肉体が移動するのを待つだけであった。
 肉体は、駅に辿り着き、何もしなければ過ぎ去っていくはずの電車に飛び込んだ。
 バラバラに飛び散った肉体は、当然の如く無惨な姿であった。
 僕の猶予時間に書いた例の書は、遺書として扱われて、僕は自殺という扱いを受けた。
 赤の扉は、電車での自殺を意味している扉であった。数ある扉の向こうにはそれぞれの自殺方法が用意されていた。

 ――――少女の声がした。
「運命の時に、満ちるべきものが満ちただけさ」
 僕は魂として浮遊しながら、自殺者になった自分を思った。
 これを自殺という言葉で表すには語弊がありそうで、かと言って他殺ではなく、これは紛れもない自然死のようである。
 その自然死というものにより、僕が世界を離れる時が来てしまっただけのことだ。それは別によかったのだ。
 僕はそれを望んでいた。だから、それは満ちるべきものだったのだ。
 世界に選ばれたことにより、自分の手ではない自殺という行為によって、それが行われただけのことである。
 自殺者が自殺をする時の心理なんて生存する人間には誰にもわからないことであろう。
 それが自分を自分の手で殺す自殺ではないのに、便宜的に「自殺」と呼ばれているだけのものなんて、貧困な発想では辿り着かないだろうから――――。


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