表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/67

よろしくお願いします☆第一話

前話に続きお待たせしました……。


(あーあ……)


 ユニウと祈里達が出会うその日、ユニウは酒場の片隅でため息をついていた。


(まさか赤首に全滅とはね)


 元勇者の魔人という賞金首「赤首」。その膨大な賞金目的と、あるいは私情に駆られた賞金稼ぎ達がこぞって狙った首だ。それだけ多くの魔族に狙われれば、元勇者と言えどいずれ死にゆくだろうと考えられていた。

 だが赤首は想定されていた以上に強かったらしい。打ち取りに行った賞金稼ぎが死体になって帰ってきて、日に日に狙う人数は減っていった。それでも賞金稼ぎ達はしつこくやつを狙い続けたが、結局消息を絶ったという。完全な負け戦であった。


(途中で諦めればいいものを……これだから魔族ってやつはねぇ)


 自分も魔族であることを棚に上げて、ユニウは一人ごちる。


 さて、ユニウが考えるべきことは、今後の身の振り方であった。ユニウをして、この展開は想定外だったのである。

 ユニウはただの「覗き屋」だ。彼女の呪魔術はごく一部の未来を覗き見ることしかできない。予知夢や神託に近い能力なのである。


 賞金稼ぎが全滅した。この状況で、のうのうと賞金首を狙う度胸と実力を、ユニウは持ち合わせていなかった。賞金稼ぎは賞金首にとって敵である。賞金稼ぎが激減した今は、賞金首にとってのチャンスなのだ。恨みを買っている賞金首だっているだろう。油断すれば、逆にユニウが狩られる側に回ることになる。


 少なくとも一人でぶらつく訳には行かない。どこかに属する必要がある。その上で、この街を離れられる職業。


「傭兵、か」


 ユニウはあまり傭兵稼業を好まない。死ぬ確率が高いからだ。そして傭兵とは金で雇われるゆえ、自由度が低い。

 賞金稼ぎのときは情報を集めてより狩りやすい首を狙っていたが、傭兵となればそうも行かないのだ。負け戦に強制参加させられる可能性すらある。軍の意向で使い潰される可能性だってある。


 だが、今は例外だ。傭兵ならば手っ取り早く兵の中に身を置くことができる。そんな場所にいる彼女をわざわざ賞金首が狙いに来るとも思えない。

 そして今後、傭兵の需要は高まるとユニウは見ている。「神の怒り」は庶民の想定以上の影響があるはずであった。近々内紛が起こる可能性は十分にある。それこそ、魔王国の内部分裂もあり得るだろう。


 元賞金稼ぎの実績があれば、傭兵となるのは容易いだろう。ユニウの呪魔術を戦争に利用しようとする者がもしいれば、ユニウは高く雇われるだろう。勿論、未来視という能力を有効活用しようとする魔族がどれほどいるかは謎であるが。

 魔族はとにかく突撃を好む。正面突破は常。一騎打ちは華。それが魔族の風習であった。


(複数人で傭兵希望のグループを作りたいね。傭兵団に入るのはその後だ)


 傭兵は荒くれ者の集まりである。ただでさえ脳筋の魔族の中でもさらに荒くれ者といえば、すなわち大抵が度を越した馬鹿である。そんな奴らの集団に、女の身一つで入ろうとするなど無謀である。


 赤首の件で、賞金稼ぎから手を引こうとする奴は少なくないはずである。状況が見えずなおも賞金稼ぎを続ける馬鹿であっても、ちゃんとデメリットを提示すればユニウの勧誘に頷くはずである。頷くだろうか。頷かないかもしれない。

 ユニウは急に不安になってきた。なにせ魔族ときたら馬鹿である。デメリットという概念すら把握してないかもしれない。その癖表面上は馬鹿っぽく振る舞わないから、魔族というやつは厄介なのであった。


(……さて、多少なりとも頭の回りそうな元賞金稼ぎを探すことにするかね)


 ユニウは酒場を立ち、賞金首の張り紙が貼られている一角へと向かう。

 そこは元々賞金稼ぎの溜まり場であったところであり、もし敵討ちに狙われるとしたらここである。最大に警戒しながら、掲示板を遠目で伺った。


 掲示板の前に、二人の男女が立っていた。賞金首の張り紙を眺め、あーでもないこーでもないと言い合っている。

 一見して人間であるが、恐らく吸血鬼であろうとユニウはあたりをつける。薄っすらと彼等から血の匂いが漂ってくるからだ。男も女も、深い闇のような黒い髪をしていて、服装も上から下まで真っ黒だった。


(……新入りってところだろうか)


 元「覗き屋」であるユニウは、この街の賞金稼ぎの顔をすべて把握している。その脳内リストに、こんな二人組の容姿はいない。


 新入りであれば、もしかしたら赤首の件を知らない可能性もある。なんなら、賞金稼ぎをすること自体が初めてでは無かろうか。賞金首の張り紙を前にした所作から初々しさが感じられた。


 今のこの街の賞金首の事情を話したら、もしかしたら傭兵への勧誘に乗ってくるかもしれない。グループ候補ではある。

 だが勿論リスクもあった。ユニウは彼等の情報を持ち合わせていない。ゆえに、彼等が信用に足るかどうかも判別できないのだ。傭兵稼業に身を置く上で、隣の魔族が信用できるかは大きな違いになってくる。


(なにより……)


 ユニウの「覗き屋」としての勘が告げている。あの二人組は何かヤバい。くさい(・・・)ニオイがぷんぷんするのである。もし彼らと行動を共にすれば、大きな、とても大きな厄介事に巻き込まれる。そんな気がするのだ。


(だが、もしかして、この二人がそう(・・)なのかい……?)


 予感がした。

 ユニウはしばらく前からずっと、「何かしなければならない」……そんな焦燥感に駆られている。

 自分には為すべき使命がある。だがそれを為すために、致命的に過程が足りない。それは言ってしまえば「誰か」だ。出会うべき誰かに未だ出会えていない。だから使命が何なのかすら分かっていない。

 そして、その使命を果たせなければ……「自分の未来」は閉塞するだろう。


(あの二人を通した未来が見たい。もしそれを見れれば、判断できるってことだね)


 ここがユニウの分岐点であった。


 さて、ユニウの呪魔術で誰かを通した未来を見るためには、満たさなければならない条件がある。それは、「『覗き屋』と口に出して言ったあと、ユニウの額にある『眼』と対象の目を三秒以上合わせること」というものだ。これが中々きつい。

 大抵の魔族は、ユニウの目を見るとき普通の方……いわゆる2つの目を見てくる。額の3つ目の眼を見るときは、大抵チラッとしか見ない。三ツ目以外の魔族にとって、額の縦になった眼は気味悪く映るらしかった。しかも『覗き屋』という名前も悪い。問答無用で怪しまれる。正直使い勝手のいい呪魔術ではなかった。

 初対面ではまず見てこない。見るにしたって見つめ合ったりはしない。ユニウも、呪魔術を使うときは大抵見知った相手に対してのみだ。今まではそれで事足りてきた。


 だが今回は、関わったこともない男女二組の少なくとも片方に対して条件をクリアしなければならないわけだ。

 しかも、ユニウとしてはなるべく関わらない方向で行きたい。もし彼ら二人が、ユニウの使命のための「誰か」であるならば問題はない。だがもし違ったのならば、関わった時点で厄介事に巻き込まれる可能性ができてしまう。もし「誰か」でないなら、正直知り合いになりたくもないというのがユニウの本音であった。


(作戦を考えなきゃいけないね)


 ミッション:「偶然を装って、勘付かれずに、呪魔術を発動しながら、二人のどちらかと『眼』を合わせろ!」


 開始である。







 1stターゲット:黒髪の女


 賞金首に関しては後回しにしたのか、二人は連れ立って商店を眺めつつ道を歩いている。物珍しいのか、よく店に寄っては何かを話し合っている。


 ユニウはまずは女の方を狙うことにした。男の方は飄々とはしているが、警戒心が強そうであったからだ。というか、明らかにヤバい臭いがするのは男の方であった。

 対して女の方は澄ました態度ではいるが、ぶっちゃけ上機嫌である。私はあくまで男の付き添いですよ、と表面上見せかけつつ、何か気になった品があれば男の手を引いてその店へ向かい、品を見せて男の反応を伺っている。男は面倒臭そうに対応しているが、満更でもなさそうだ。その証左として、もう随分と彼女の買い物に付き合っている。


(公衆の面前でイチャイチャしてまぁ……)


 ユニウから黒いオーラが出そうになった。二人は恋仲のように見える。やたらと距離感が近い。


(別行動になるタイミングはあるかね)


 流石に二人いる時に姿を見せたくはない。だが、明らかにデートといった様相の二人が、これから別行動をとる瞬間があるのかどうか……。無ければ何かしらこちらから行動しなければならない。

 そうユニウは考えていたのだが、機会は彼女が思っていたよりも早く訪れた。男が一言二言彼女に伝え、路地に消えたのである。


(便所か……?)


 だがそれにしては女の様子がおかしいようにも見えた。困惑しているようだ。


(だがチャンスだね)


 ユニウは作戦を実行する。

 所在なさげな黒髪の女に、ユニウはさも偶然のように近づいた。


「ごめんください」

「え、あ、はい。なんでしょう?」


 黒髪の女は丁寧な口調で答える。賞金稼ぎになろうとする魔族なのだから、さぞ粗野なのかとユニウは思っていたが、どうも育ちが良さそうである。


「すみません。わたくし、知り合いを探しておりまして。黒髪の若い女性なのですが」

「はぁ……黒髪? もしかして私ですか?」

「はい。大昔の知人なのではっきりとは言えないのですが、あなたにとても良く似ていた気がして」

「なるほど……」


 ユニウは中々出ごたえを掴めずにいた。先程までの上機嫌な様子はどこへやら、会話こそ聞いているものの、まともに相手をしようとしていないのがユニウには見て取れた。


「あなたは、私に見覚えはございませんか?」

「すみませんがあいにく……」

「ほら、よく見てくださいませ。私はユウ。『覗き屋』というあだ名で、あなたは昔呼んでくださいました」


 ユニウは、包帯を巻いた顔がよく見えるように黒髪の女に近づけた。

 ……そう。今ユニウは両目に包帯を巻いている。失明している設定である。黒髪の女がユニウの顔を確かめるには、3つ目の眼を見るしかない。

 一応、とでも言うように黒髪の女はユニウの3つ目の眼を凝視する。

 1……2……

 ふっ、と彼女は顔をそむけた。


「すみませんが、やはり人違いでは?」


(失敗か……)


 ユニウは落胆する。黒髪の女にとって、ユニウの話はどうでもいいようだ。デート中とは打って変わって、警戒心が現れている。なにより彼女は、急に路地に消えていった男の方を気にしているようだった。

 先程までの無警戒な様子は、男が近くにいるから安心していたのだろうか。


「いえ。すみませんね。お手間をとらせました」


 ユニウは印象が薄いうちにさっと離れる。作戦失敗であった。






 ターゲット:黒髪の男


 ユニウは意識を切り替える。路地に消えた男の方を捜索しよう。

 失明した旧友を探す三ツ眼魔族作戦はもう使えない。後に二人が合流したとき、同じ魔族が全く別人に旧友に似ていて……などと話しかけたのがバレたら怪しまれるに決まっているのである。


 ユニウは何かの風習がある包帯を落とした三ツ目魔族作戦を使うことにした。詳細はこうだ。


 まず3つ目の眼の周囲に紋様を描く。軽い変装用の顔料があるため、それの中で派手な色のものを使う。

 次に、3つ目と紋様を隠すように包帯を巻く。今度はさっきとは逆に、両目の方を見せるようにするのだ。結び目は緩くする。

 あとは男とすれ違ったときに、包帯を落とせばいい。


 その包帯を拾い上げ、ユニウに渡そうとしたとき、紋様に初めて気づいた男はしばらく目が離せないだろう。それでも三秒以上目を合わせていられるかは別だが、その時はその時である。紋様について解説してやればいいのだ。「ああお恥ずかしい。これは故郷の村の古い風習で〜〜」とか「実はこの紋様にはこんな意味が〜〜」とか解説していれば、男の目は自然と紋様の方に向くだろう。その解説の中で『覗き屋』という単語を上手く忍ばせれば、呪魔術は発動する。


(我ながら完璧な作戦だね)


 ユニウは少し得意げになった。書いた紋様の出来に満足する。彼女は紋様が崩れないようにそっと包帯を巻いた。

 さてとにかく、男の居場所が分からなければ作戦は次に進めない。どうやら彼の用事は便所ではなかったようだ。まずユニウはそこを探したが居なかった。


(となれば……まさか)


 考えたくない可能性ではあるが、もしや彼はユニウの尾行に気づいていたのだろうか。そしておびき出すために自ら路地に入っていった。そうだとすれば……。


 ユニウの思考がそこまで行き着いたとき、彼女の頭上に影が差した。

 人影だ。

 そう思った次の瞬間、ユニウの目の前には黒髪の男が不気味に立っていた。


 ()が合った──







 ──男はにこやかに笑いかける。先程までの「ヤバい臭い」は消え、爽やかな表情であった。


「どうしたんですか? お嬢さん。こんなところで☆」

「……いや」

「尾行されていたことは存じておりますよ。お嬢さんにこちらを害するつもりがないのは分かりました。ただ、一応目的をお聞きしたいところですね☆」


 ユニウの目には随分と彼が輝いて見えた。それは勿論魅力的な男性に見えた……という比喩ではない。むしろ光りすぎて鬱陶しいくらいである。ユニウは顔をしかめた。何なんだその☆は。

 ただとにかく、もはや闇のような黒という印象は消えた。これがあくまで初対面に対する演技なのかはおいておく。

 ユニウは彼と目を合わせ、呪魔術を発動し、彼を通した未来を見た。そして恐らく、彼が使命のための過程。「光」につながる探していた「誰か」であることは間違いないようだった。

 そうと決まれば、特に隠す必要はない。


「いや、こんな格好ですまない。実はだね……」


 こうも作戦が不発となると、ユニウも晒された紋様が恥ずかしくなってきた。手に持った包帯で紋様を拭い取り、苦笑する。


 自分の未来を見る呪魔法のこと。

 探している人がおり、それが彼であること。

 一緒に傭兵になってほしいこと。

 賞金稼ぎの現状からして、彼にとっても傭兵の方がいい仕事になるだろうこと。


 これらの情報を、ユニウはスラスラと語った。男の不思議な輝きに当てられたのかもしれないが、先程までの警戒心は吹き飛んでしまっていた。


「なるほど……しかしお嬢さん。こちらにはわざわざあなたと組むメリットが今のところ無いのです」

「ああ、できることなら何でもするよ」

「ではそうですね。実は我々は、魔族領の外から来たんです☆」

「へぇ。珍しいね」

「それで、今まで呪魔法というものを知らずにきました。なので、できればあなたに呪魔術を教えていただきたい」

「それも珍しいけど……分かったよ。私なら基礎くらいは教えてあげられるだろうさ。私の名前はユニウ。これから頼むよ」

「ええ。私は高富士祈里と言います。よろしくお願いします☆」


 呪魔術は理屈を知っていたほうが覚えやすいが、魔族ならば魔力を使っていればいずれ使えるようになる技術である。とすれば随分と若い魔族なのだろうか。

 だが、わざわざ聞くこともない。いずれ聞くことになるだろう。これからはこの二人と一緒に行動するのだから──




 ──路地を抜け、ユニウと祈里は黒髪の女……アリーヤのところまで戻る。


「あ、祈里。用事は済みましたか……そちらは?」

「ああ、ユニウという魔族らしい。これから行動をともにすることになった」


 ユニウは首を傾げる。祈里の態度が随分と粗雑になったからである。先程の馬鹿みたいな輝きも消え、ただ真っ黒な青年になっていた。


「ユニウという。よろしく頼むよ。ところでイノリ……もしかしてそれが素なのかい?」

「は? ……あぁ、まあそうなるな」


 祈里は曖昧に頷いた。ユニウはその反応にどこか引っかかりを覚えたが、それが形になる前にアリーヤに突っ込まれた。


「もしかしてあなた、先程私に声かけて来ませんでした?」

「おお、よく分かったね。悪いね。ちょっと訳あって二人に接触を図っていたんだ」

「なるほど……? ……祈里。あとで説明してください」

「いやまあ、俺もよく分からんのだが」


 アリーヤは祈里をジトッと睨む。祈里は困ったように頭をかいた。


「……二人のデートを邪魔して悪かったね」

「デっ!? ち、違いますけど!?」

「あれ、違うのかい?」

「いや合ってる」

「祈里!?」

「ほらこう言ってるじゃないか」

「違いますって! あれはこの街の物価調査をですね」

「いやアリーヤ。多分傍から見てるとただのデートだったと我ながら思うぞ」

「祈里は一体なんなんですか! なんの立場なんですか! というかなんでこんな話に!」


(この二人もしかして面白いね?)


 ユニウはひそかにほくそ笑んだ。








 謎の魔族のお姉さんが仲間になったよパチパチパチパチ。

 こんにちは祈里です。

 予定通りに魔族領に入り、もはやどうどうと翼も牙も隠すことなく生活できます。まあ翼は常時展開してると普通に邪魔なのだが。

 そして何も考えずいつもどおり冒険者になろうとして、驚愕。冒険者ギルドがない。

 当たり前である。あくまで冒険者というのは人間の職業なのだから。ある方がおかしい。盲点であった。


 じゃあ類似の職業を見つけようと、とりあえず賞金稼ぎという線を考えてみた。

 俺的には魔族領に入って魔族の仲間入りしたのにこういうのもアレだが、ガンガン魔族を殺していきたい。経験値美味しいスキルうまうま。是非とも積極的に同族殺しを推奨する。


 ただ情報を集めていくと、どうも賞金稼ぎは時期が悪いらしい。

 しょうがないのでアリーヤとぶらぶらしていたところに、あの三ツ目魔族が現れた訳である。

 彼女が持ちかけてきた話は渡りに船といったもので、まあ色々と予防線を張った上で受け入れることにした。

 彼女の呪魔術とやらはよく分からん部分が多く、とりあえず放置である。今後色々と試させていただこう。

 あと俺が彼女にどう見えているのか謎である。なんだ☆とかキラキラしてたとか輝いていたとか。3つも目があるのに節穴だろうか。


 彼女は傭兵団に入ることを推奨してきたが、さすがに集団に与するというのは束縛が大きいので、フリーの傭兵になるということで方針を一致。まあ戦力的には俺とアリーヤで十分やっていけるだろう。

 傭兵という選択肢は思いつかなかったが、中々素晴らしい。どれだけ魔族を殺してもお咎めなし。敵兵狩り放題のボーナスステージである。なんなら乱戦のどさくさに紛れて味方も殺しちゃっていい。

 しかし魔族領内でも戦争ってあるんだな。てっきり魔王一強かと思っていたが。


 で、本題である。何かの戦争に参加する前に、まず把握しなければならないものがある。

 辺りには魔物も魔族の気配もなし。ここでいいだろう。


「呪魔術ってのは、ただの呪いじゃない。より原始の魔法って言ったほうが分かりやすいだろうね」


 そう、三ツ目魔族のユニウは言う。


「原始の魔法?」

「そう。魔法ってのは論理が組まれた上で成り立ってるわけだけど、その論理が組まれる前の魔力の使い方ってことだね。より多くの魔力とセンスが必要だけど、魔法陣とかそういうメカニズムはないわけさ」


 よくわからんがもしかすると、女神達がこの世界の魔法というものを決める前の、太古の魔法って感じだろうか。古代兵器(アーティファクト)もその太古の時代のものと言われているが。


「歴史とかはよくわからないけど、私なりに調べて何となくわかったことがある。多分魔法よりは、『加護』に近い感じだねぇ」


 アリーヤは首を傾げる。俺も首を傾げる。よくわからなくなってきた。


「まあ呪魔術に関しては、歴史とかその本質とかは正直どうでもいい。習うより慣れろってことだね。ただ二人は普通の魔族よりも理論派みたいだから、基本だけ教えることにするよ」


 それ魔族さんが脳筋って言ってませんか魔族(ユニウ)さん。


「呪魔術に必要なのは、『名前』と『媒体』だ。名前で箱を作り、媒体で中身を満たす。そうして人工的な加護の簡易版を作り上げるってわけさ。アリーヤ、少しの間、私の額の眼を見てくれないかい」

「分かりました」

「『覗き屋』」


 三ツ目魔族の呪魔術は『覗き屋』という名前らしい。今その名前を口に出して告げることで、呪魔術を発動した……ということだろう。

 詠唱が必須の能力となると、俺とは相性が悪そうだ。


「……よし。これでアリーヤの未来が覗き見えたよ」

「どんな未来でした?」

「漠然とだけど、全身真っ赤に染まっている未来だね」

「どんな未来なんですかそれ」

「その後水があふれる」

「意味わからないんですけど」


 マジで意味わからないんだけど。とりあえずミニスカサンタコスに身を包んだアリーヤが池に落ちる映像を思い浮かべる。寒そう。

 まだ全身返り血の方が可能性がありそうだ。


「しかもそれが二回ある」

「いや、もう、いいです」


 この三ツ目魔族の未来を覗き見る呪魔術とやら、正直わけがわからないのである。占いとかそっちのほうが近い気がする。そういう意味ではまさに呪いなのか?

 ちなみに三ツ目魔族はこんな占いでも何となく形がつかめるとか。経験の違い……で片付けていいものなのかは知らない。


「私の呪魔術は、『覗き屋』という名前に『眼』という媒体で構成されているわけさ。私の一族は古くから『眼』を使って未来を占っていてねぇ。だからこそ媒体として機能するのさ。そして『覗き屋』という名前で形を縛ることによって、より発動を容易にしているわけだね」


 うさんくせぇ。どこまでが本当なのだろう。


「まあこの『媒体』のせいで大分使いにくい呪魔術になってしまったわけだけど」

「その『名前』や『媒体』というのは、何でも自由に設定できるんですか?」

「いや。まず『名前』はその本人を指す名前じゃなきゃだめだ」

「そうなると、たとえば俺だと『祈里』とか『祈り』とか……」


 いや似合わねぇなおい。

 しかし三ツ目魔族は首を振る。


「実は本名だと呪魔術は弱くなるのさ」


 おや意外である。テンプレだと呪術において真名は重要……みたいなのがよくあるのだが。


「本名ってのはあくまで親がつけた名前だろう? それはその魂の本質を捉えていない。だから生誕後に他の人に呼ばれた名前……つまりあだ名とか二つ名の方が、呪魔術の枠は強くなる。それもより多くの人から呼ばれたものだったり、怖がられている名前の方がいいね。一応偽名でも、まだ本名よりはマシに使える」


 二つ名やあだ名は、いわば世界からの認識らしい。世界からその魂がどう見られているのか。そしてその認識を、加護の枠組みとして利用する。

 呪魔術の能力の方向性は、その枠組みで定められるらしい。


「たとえば私だと、『黒薔薇』とかが有名ですね」

「おお、強そうな二つ名じゃないかい。いい呪魔術になりそうだ」


 その流れだと俺は『腰巾着』とか『金魚の糞』とか『ゴブリン』とかになるんだが。強くなる未来が見えないんですけど。


 ……まあこの世界の魔法に関してはもう諦めムードなので、俺はいい。呪魔術に関しては、アリーヤの強化に繋げたいというのが俺の狙いである。闇魔法の本場ということで元々闇魔法の知識を集めようとしていたのだが、なんならそれよりもいい武器が手に入りそうだ。


「『媒体』は肉体の一部であることが多いね。その生命や種族の根源に近いものがいい。私だったらこの『眼』になる。君達だったら……」

「俺達は吸血鬼だから、普通に『血』でいいんじゃないか?」

「あぁ、やっぱり吸血鬼なんだね。それでいいんじゃないか」


 アリーヤの方は『黒薔薇』と『血』の呪魔術になるわけか。……なんだか既に強そうである。アリーヤは『天才』の加護持ちだ。すぐに習得してもおかしくはない。

 さて、俺の方も一応できるだけ頑張ってみますか……。



なんなんだその☆は。(本当になんなんだ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新をありがとう
[良い点] 最新話まってました! [気になる点] 全体的にであるばかりだとかだいぶ雑に書かれてる気がします。
[一言] 更新まってたぞ!期間あいたせいで今までどんな話だったのか忘れたけどw まあ、とにかくアリーヤちゃんが可愛いかった回だった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ