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束の間の第十話



「イノリ、今戻りました」

「おう。ちょっと待ってな」

「……なにやってるんですか?」


 俺の現在の行動に疑問を持ったのか、アリーヤが聞いてくる。

 まあ部屋の中で物を落としては持ち上げ落としては持ち上げを繰り返してたら不思議に思うわな。


「ニュートンごっこですか?」

「近からず遠からずってとこかな。重力加速度を調べてる」


 本来はもっと回りくどく計測しなきゃならんだろうが、俺の場合は《闇魔法》で「支配」した物を落下させ、《視の魔眼》の「絶対目測」で加速度を見ればいいだけだ。


「はあ、それが何か?」

「地球での重力加速度は頭に入っているよな?」

「ええ。9.8m/s^2でしょう?」

「ああ。だがこの世界だとどうも違うらしい」


 疑問を持ったのは昨日だ。重力加速度を10として計算したのだから、正しい結果など出るはずない。それで9.8065くらいの値で正確に計算してみた。もちろん流石に距離による重力減少も踏まえてやるのは面倒くさかったのだが。

 で、どうも計算が食い違ったので、今測定してみたのだ。


「大体9.83くらいか」

「……誤差の範囲では? 世界が違うなら、そう言うことも有り得るかと」

「ここまで地球に似た世界で、この微妙な違いは気になる。その上、9.83という数値だからこそ」

「9.83ですか?」

「地球の、北極の重力加速度だ」


 地球は自転している。そのため地球上の全ての物体には遠心力が働いており、緯度ごとに重力の大きさ、方向が少しずつ変わっていく。


「北極ということは、地球が自転していないと考えたときの重力加速度ということだな」


 他にも不自然に思った点はある。地球の自転速度は472m/s。ここがどれほど高緯度であっても、北極点で無い限り五分の間に数メートルはずれていいはずだ。実際あの岩を落としたときも、その程度の調整は必要だと思っていた。

 だが調整は、ほとんど要らなかった。岩は真っ直ぐ真下に落ちてきたのだ。コリオリ力など全く無かったのである。


 ……この世界、本当に自転していないんじゃないか?


「あとは、『黒風』の限界高度が1000kmだったのも」

「ああ、イノリなら出来る限り高いところから落とそうとしますもんね」

「高度1000kmといえば、熱圏をこえたあたり……空気がないところには『黒風』を動かせないのかもとも思ったのだが、その外側、外気圏は高度10000kmまで広がっている。丁度1000kmで壁にでもぶつかったように止まるのは気味が悪い」


 その時感じたのは、これ以上外には何もない、という感覚であった。


「確かこの世界では、天動説が有力だったよな?」

「ええ。地動説はまだ鼻で笑われる存在で……まさか……」


 何かに気づいた様子のアリーヤに俺は頷き、地面の下を指差した。


「これ、星じゃないかもしれん。マジで海の先が滝になってて、奈落があるかもしれんな」


 なるほど、「箱庭の世界(ボックス・ワールド)」……言い得て妙だな。

 神の管理なくしては成立しない世界か。


「正直この世界で、地球の物理法則は当てにならんのかも知れない。……ファンタジーに物理を持ち込むのは浪漫なんだがなぁ」

「……世界レベルの話に浪漫でオチをつけないでください」


 アリーヤはため息をついた後立ち上がり、宿屋の部屋のドアノブに手をかけた。


「そうだ。アリーヤ、お前大丈夫か?」

「ええ。一晩経ったら落ち着きました。もう大丈夫で……」


 途中で言葉を止めた後、一瞬顔をしかめ、


「……大丈夫じゃないかも知れません」


 と言い残し、背を向けて部屋を出て、扉を閉めた。


「まあ、大丈夫かね」


 なんだかんだ彼女は「強い」。妙に心配を回す必要は無いだろう。







 扉を後ろ手にしめた後、アリーヤは悩ましげなため息をもらした。

 トボトボと歩き、鍵を開け自分の部屋に入ると、着替えもせずにベッドに倒れ込んだ。

 固いシーツの感触を顔に感じながら、アリーヤはため息をつく。


(……駄目でしたね)


 彼女は魔王イグノアと話した後、乱れる心を叩きつけるように魔物を狩りまくった。無論それほど素材を持ち帰ることは出来ないため、大抵その場で埋めることになったのだが。

 一晩暴れた挙げ句、アリーヤは祈里から精神的に離れようと考えた。

 どこまで行っても結局、アリーヤは自由になることを捨てきれなかった。自由になるというその一心で今まで過ごしてきたのだ。当然である。

 そして自由になるためには、祈里を超えなければならない。彼と別離しなければならないのだ。

 例え自分が彼に恋慕を抱いていたとしても、物として扱われる、奴隷のような今の関係は真っ平御免であった。

 なら彼を、嫌うまではしなくても、恋慕を抱かないように、ただの友人のように思い込めば良いと考えたのだ。


 だがそう考えた矢先、アリーヤは先程祈里と話すとき、その決意を忘れたのだ。

 なんだかんだ言って、彼と過ごすのは楽しかった。祈里と話すとき、それ以外のことは忘れられた。

 離れようと思って初めて、皮肉なことだが、アリーヤは自覚した。

 元々分かっていたのかもしれない。ただ、目をそらしてきた。それは──


『自分が狂ってるって、思いたくないのかしら?』


 突然声が聞こえた。

 窓の方を向くと、真っ暗な夜景に半透明に重なっている彼女の鏡像が、彼女の目を見て笑っている。


『そんなの今更でしょうに』


 窓の向こうにあるアリーヤの幻覚は、偉そうな口調で彼女に話しかける。

 その口調はまるで──


「黙ってください。気味悪い喋り方で」

『懐かしいでしょ?』


 まるで(いもうと)のようだった。


「アマンダは死にました。彼女がもどってくる訳じゃないんです。真似なんかしないでください」

『別に好きでやってる訳じゃありませんわ。だって私はあなただもの』

「……」

『第一王女があなたに影響していない訳がない。根底に、じっとりと刻みつけられている』

「……黙れ」

『本題じゃないものね』


 鏡像は、薄く笑った。


『彼のことで悩んでるのかしら?』

「違います」

『素直じゃありませんわね。あなたは私。何でも分かりますわ』


 じゃあ聞かないで下さい、とアリーヤは内心で舌打ちする。


『彼を忘れようとしたの? 馬鹿ですわね。無理に決まってるでしょうに』

「何故無理って」

『分かりますわ。その気持ちは、あなたの根底から来るものだもの』


 鏡像は薄い笑いを貼り付けながら、続ける。


『あなたが自由を追い求める限り、彼を諦めるのは無理でしょう』

「……なにを根拠に」

『私はあなただって、言ってるでしょうに』


 ため息をつく鏡像に苛立ちながら、悔しさを飲み込んで、アリーヤは聞いた。


「どうすれば……いいんですか?」

『知らないわね』

「なっ」

『私はあなたが知っていることしか知らないもの』


 笑みを深くする。


『私は苦しむあなたを傍観するだけ』

「言うだけ言ってっ!」


 苛立ちのあまり、アリーヤは鏡像を殴った。

 パリンという甲高い音とともに、もう一人のアリーヤは砕け散る。


「あ……」


 粉々になった窓ガラスを見て、アリーヤはしばし呆然とした。


「宿屋の人に謝らないと……」


 少し憂鬱な気分になりながら、下の階に降りる為にベッドから立ち上がろうとしたとき、突然アリーヤの部屋の扉が開く。

 そこでアリーヤは、鍵を閉め忘れていたことに気がついた。


「なにやってんのお前」


 扉の向こうから顔を出したのは、いつもの無表情な祈里の顔だった。


「イノリ……その、すみません」

「何悩んでブツブツ言ってたのか知らんが、物に当たるのはよせ」

「はい……。……? まるで、見ていたような口振りですね」

「まあ『透視』で見ていたからな」

「勝手に見ないで下さい!」

「はいはい。まあさっさとこれ直しちまおう」


 そう言った後、祈里は窓から外を見て誰も居ないことを確認すると、飛び散ったガラスの破片を拾いに飛び降りた。

 一分もしないうちに全ての破片を拾い集め、音も立てずに再びアリーヤの部屋に戻ってきた。


(本当に、夜は無敵ですね……)


 そんなことをアリーヤが考えている間に、祈里は《武器錬成》で粉々になった窓をあっという間に修復した。


「……防弾ガラスになったが……まあいいだろう」

「その、手間をかけてすみません」

「ん、ああ。気にすん……」


 祈里は途中で言葉を止め、アリーヤを見つめた。


「えっと……?」

「そういや、《性技》のスキルアップを最近やっていなかったな、と」

「ひっ!?」


 祈里の言葉に、アリーヤは体を震わせる。

 だがそんなことお構いなしに、彼はアリーヤの体へと手を伸ばした。

 この状況を、ほんの少しながら嬉しく感じてしまう事に気づき、アリーヤはもう駄目だと、軽く自己嫌悪に陥ったのだった。







「さあ今日も元気に狩りに行こうか」

「サー。イエッサー」


 翌日。これから街の外へ実戦訓練に向かいます。

 シスター師匠はいつもの神官騎士の正装と各部の鎧、俺はいつもの服にセバスチャン製のロンクソードを背負っている。そして黒シャツの下に、セバスチャンが偽装用に作ってくれた魔動具っぽい奴を着ている。ただ邪魔なだけだが。


「じゃあ行くよ。『召喚!』」


 シスター師匠が取り出した魔動具から光が溢れ、眩く白い動物が現れた。

 聖獣ユニコーン。神官騎士が騎士と呼ばれる由縁はこれだ。

 昨日も見たが、シスター師匠は外での移動にこれを使うらしい。


「後ろに乗って」


 そう言うとシスター師匠は、軽やかにユニコーンに飛び乗った。

 俺も追従し、シスター師匠にしがみつく。

 一昨日はアリーヤを後ろに乗せたが、今度は逆だな。


「行くよ」


 という声とともにユニコーンが駆け出す。

 その光り輝く様は本当に生き物のようであるが、どうやらこれも魔動具の一種らしい。

 このユニコーンは魔物の類ではなく、生物とも違う。自由意志を持たない存在らしい。

 今まで見てきた魔動具とは違う気がする。他の魔動具は魔物の筋肉に魔術回路を併用した物や、魔法補助の魔術回路を刻み、規定通りの形で魔法を使う物がほとんどであった。

 だがこの聖獣とやらは、そのどれもと違う。

 それで昨日の狩りの時点でシスター師匠に聞いてみたのだが、神の加護云々って答えが返ってきた。

 ああ、うん。神様ね。それなら納得。

 基本的にファンタジーは「魔法って凄いね」で片付く訳だが、それでも理屈に合わないときは「神様って凄いね」とやるわけだ。


「しかし、神官騎士が何故処女で無ければならないのか疑問だったが、ユニコーンに乗るためだったのか」


 ユニコーンは処女しか背中に乗せないという話を思い出す。お陰でユニコーンは「想像上の馬の形をした処女厨」などと揶揄されているが。

 一人納得していると、


「え? それとこれとは関係ないよ?」


 という答えが返ってきた。


「なんでそういう話になるのさ?」

「あれ? ユニコーンって処女しか乗せないって話では?」

「どこから聞いてのそれ。だいたい君が乗っている時点で違うだろう?」


 そう言われてみればそうだな。

 となるとあれか、ユニコーンは処女しか操れないとか?


「男性の神官騎士だって乗っているのはユニコーンだしね」


 ……処女云々は関係ないらしい。

 それともユニコーンとしては処女=童貞という認識なのだろうか。


「別に男性の神官騎士には、『童貞で無ければならない』なんて規約はないしね」

「は? つまりなんだ。女性神官騎士だけなのか。生涯性行為禁止ってのは」

「そうだね。当たり前のことだと思っていたけども、改めて言われると不自然な気がしないでもない」


 いや不自然すぎる気がするがね。

 女性だけ処女ってわけでも、神官騎士だけ処女ってわけでもなく、女性の神官騎士だけ処女でなければならないなんて、限定的にも程があるだろう。


「ていうか、私と密着している状態で、性行為とか処女とか連呼しないでくれるかな?」

「ん? 気にするようなタマなのか」

「気にするも何も、私は生粋の生娘なのだけど?」

「奇遇だな。俺も生粋の童貞だ」

「あれ意外」


 何が意外なのかね? アリーヤと宜しくやっていると?

 貴様のところの処女厨神官騎士と一緒にしないでもらえますかね?


「ちなみに、その処女制度って誰が決めたか知っているか?」

「元々曖昧にはあったみたいだけど、厳しくなったのは最近だね」

「厳しくなった原因は?」


「レイブン・ヴィージン第四隊長が提言したから、だったと思うよ?」











「さあ狩り(ハンティング)の時間だよ」


 目的地についた途端、シスター師匠はユニコーンから飛び降りた。


「やっぱ騎乗したまま戦いはしないんだな」


 そう言いつつ、俺もユニコーンから降りる。

 昨日も目的地までの移動はユニコーンに乗っていたが、戦う時にはユニコーンから降りていたのだ。


「場合によりけり、だね。足が速かったり、巨大な魔物と戦うときは騎乗したまま戦うけど、このあたりの魔物なら寧ろ地上に降りた方がいい」


 俺が降りたのを確認してから、シスターはユニコーンを魔動具に戻し、しまった。

 そして次に取り出したのは、一本の長い棒である。


「顕現せよ、聖鎚アンリータ」


 彼女がそう呟くと共に、棒の先が光り、ハンマーのような形をした突起が現れた。

 これが彼女のメインウェポンらしい。

 まあ確かに、神官の武器と言えばメイスってのはあるが、彼女のそれは完全にハンマーだ。人の頭を叩き潰す形をしていらっしゃる。ハンマーの本来の用途は釘の頭を叩くことだと思うが。

 これまた魔動具らしく、神の加護云々が関わっているとか。とりあえず不思議現象を全て神の奇跡の一言で片づけるのやめないか。


 ハンマーの先からは白い炎のような光が出ており、これがアンデッドに対して高い効果を発揮するとか何とか。つまり俺の天敵ですか? あ、こっち向けないで。


「君もさっさとその剣構えて」


 その剣、というのは俺が背負っているセバスチャン製大剣のことだろう。

 ステータスが上がったことで、体感軽くなったその身の丈程の剣を両手に構える。

 彼女のハンマーに関して云々言ったが、俺の持っている大剣も威圧感だけなら負けていない。性能に関して問われると答えに詰まるが。だっていくら腕がいいセバスチャンが作ったとはいえ、魔動具みたいなギミックが有るわけでもない鉄の塊ですもの。

 まあ元々、見た目での威圧のために買ったようなものなので問題ないわけだが。

 あれだね。大剣ってのは浪漫だね。戦争では銃剣以外の剣は廃れたと言っても良いのに、フィクションの世界では無くなることがないのがその根拠と言えるだろう。

 そう言えば、か弱い見た目の少女が身の丈以上のドデカいハンマーを武器にするってのも浪漫かね。


「じゃあお手頃なスケルトンを探そうとしよう」


 と言われ、しばし探索。

 まあこの辺はスケルトンが頻繁に出没する地域なので、そう時間もかからず見つかることになる。


「む、チームだね」


 冒険者パーティーまるまる一つがここで死んだ場合、スケルトンとなった後でもチームを組んで人を襲うようになる事がしばしば起こるらしい。

 どうやら今回見つけたのもそれだ。


「多対一戦はまだ早いと思うから、君の相手に丁度良さそうな剣士以外は先に潰しておくとするよ」


 と言うのが早いか、シスター師匠はチームスケルトンに飛び込んでいく。

 シスター師匠の接近に、シーフスケルトンが気づく。すぐさまメイジスケルトンが詠唱開始。同時にナイトスケルトンが前にでる。

 シスター師匠とナイトスケルトンが相対した瞬間、メイジスケルトンの魔法がシスター師匠を襲う。

 あっさりと回避して、持ち前の機動力でナイトスケルトンの脇を通り抜けたシスター師匠は、手に持ったハンマーでプリーストスケルトンを破壊する。


 ヒーラーを先に潰すのが定石、とも言われるが、チームスケルトンの場合は逆である。ヒーラーは出来る限り残した方がいい。

 この世界の回復魔法は光属性な訳で、アンデッドは回復魔法でダメージを受けるって言うファンタジー有る有る設定がこの世界でも適用される。そしてアンデッドになったら魔法が魔物用になるなんて都合の良いことが起こるわけもなく。

 結果、他のスケルトンの傷を癒そうとプリーストスケルトンが頑張って回復魔法をかける度に、スケルトン達がダメージを負うという悪循環が発生してしまうのである。

 そこ、馬鹿じゃねとか笑うんじゃない。只でさえ笑い物にされているのだから。

 これ故に、プリーストスケルトンがいるチームスケルトンは、単体スケルトンより与しやすいという話が有るくらいである。ぶっちゃけ運が良ければ、一撃与えた後何もしなければ勝手に倒れてくれるのだ。

 教会なんかは「死んでも尚、神敵であるアンデッドを倒そうとする、神官の強固な意志」なんて言ってはいるが、スケルトンの知能の低さが生んだ不幸なスパイラルであることは周知の事実である。


「キリくーん、準備できたよ!」


 そんなことを考えているうちに、シスター師匠がナイトスケルトン以外を全滅させたようだ。

 前述のように、基本的にプリーストスケルトンを先に倒す理由はない。

 ではなぜシスター師匠がわざわざ先にプリーストスケルトンを潰したのかと言えば、俺に生きのいい剣士を残しておくため、という理由に他ならない。

 なんというか、親切なんだか親切じゃ無いんだか。


「さあさっさとやっておしまい」

「はいはい」


 こちらに狙いを付けるナイトスケルトンに、俺も剣を両手に持って駆け出す。

 迎え撃つように放たれるナイトスケルトンの斬撃を、軌道を予測してから避ける。紙一重とは行かないものの、昨日の練習でそこそこ慣れてきた。


 今朝明け方検証したところ、どうも爵位が上がってから、昼間使えるスキルを四つ選べるようになったことが分かった。

 今までは、《視の魔眼》、《探知》と《闇魔法・真》の「影空間」しか使えなかったのが、四つに増えた上、どれを使うか選べるのだ。選ぶタイミングは朝のみで、一度選択したら変更不可らしい。まあ変更可能であれば、何度も選択を変更すれば実質スキル制限無しのようなものだし、当然であろう。

 そして、現在選択中のスキルは、《視の魔眼》《探知》《闇魔法・真》《スキル習得》である。これは、今日の修行用に考えたスキル構成だ。

 俺は今日の修行で、《予測》かそれに類するスキルを習得するつもりである。そういうスキルがあるかは分からんが、例えば《見切り》や《予測》と言ったスキルは、《吸血》による《スキル強奪》では手に入りにくい。

 何故かと言えば、これは《スキル強奪》の性質に起因する。

 《スキル強奪》は、対象が生前最も得意としていた技術をスキルとして得るものである。すると、見切りや予測なんかが得意な人間は大抵、最も得意なことが《剣術》なのだ。つまり、それぞれの戦闘スキルを確立するためのプロセスとなる技術は、《スキル強奪》によって得ることが難しいのだ。

 となると、自力で《スキル習得》するしか無いわけだが、これまでの自分の行動を思い返してみると、スキルが生えたのは大抵、実戦でピンチになったときにがむしゃらに覚えたか、人に習ったかの二択になる。

 《飛行》なんかは、俺に元々羽があるからイメージしやすいのだが、ふつうのスキルに関してはイメージしにくいのだ。

 つまり、効率を考えれば、人に習うのが最適解と言える。


 よって俺にとってはこのシスター師匠の修行は本来有り難いものなのだが、《予測》などのスキルを狙っている以上、《視の魔眼》の「映像記憶」で夜中に再現しつつ修行、という真似は出来ない。見て分かるような物では無いからだ。

 今まではそのせいで全く無駄な時間を過ごしてきたわけだが、今は爵位があがったおかげで昼間もスキルを習得する事が出来るようになった。

 実戦しつつ教えを請えるこの時間は、貴重なものとなったわけである。

 ナイトスケルトンは知能が低いため、フェイントは殆どはない上、あってもバレバレな場合が多い。つまり攻撃が素直なため、《予測》スキル習得に向けた初歩としてはうってつけだ。


 ちなみにその他の選択スキル──《視の魔眼》《探知》と《闇魔法・真》の理由だが、《予測》というものはまず優れた動体視力が前提となるため《視の魔眼》を選択した。《闇魔法・真》に関しては、その汎用性が臨機応変な対応を可能とする事が出来るのが理由だ。《探知》も同じだな。

 修行でない場合もこの三つは選択するだろう。臨機応変に対応できる汎用性をもつ二つはもちろんとして、《視の魔眼》も汎用性に関しては申し分ない。つまり修行用セットスキルと言いながら、修行用に選択したのは《スキル習得》だけな訳だが。

 通常選択するセットスキルは、上記の三つのほか、《スキル習得》の代わりに《武術・極》を入れるべきだと考えている。ステータスが非常に低下している中で、武術に関して万能なこのスキルは必要であると考えている。


 何度か剣筋を予測して避けを繰り返し、隙を見て一太刀。

 流石にこの大剣の威力には、骨だけのスケルトンでは耐えきれず、粉砕される羽目となる。


「よし」

「うーん、結構余裕出てきたね」


 そりゃ昨日は高くあがった昼間のステータスを少し持て余していたが、これだけやれば慣れるものだ。

 しかしまだスキルは生えてこない。《獲得経験値10倍》やら《成長度向上》のスキルがセットされていないためだろう。まあ地道にやっていこうか。一度生えたら、スキルレベルを上げるのは容易だということは経験から知っている。


「じゃあ次は二体くらいのこして置くかな。二対一だと予測する動きも増えるから、頑張って」

「うぇーい」


 気のない返事をして、俺はシスター師匠と共に新たなスケルトンを探すのであった。




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[気になる点] 「これ、星じゃないかもしれん。マジで海の先が滝になってて、奈落があるかもしれんな」  なるほど、「箱庭の世界ボックス・ワールド」……言い得て妙だな。  神の管理なくしては成立しない世界…
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