No.03 職種選定テスト①
総合商社ナンデモの花形は営業職だ。
この世の中では、営業職がモテはやされる。
超・競争社会。
これは受験戦争のちっぽけな理論ではない。この国が成長する為に、企業同士が競り合ってきた結果なのである。
仕事を取るためならば、他社を妨害しても構わないのでる。各社営業職が会社の代表となり、競り合うのだ。
少しアンフェアなスポーツ選手のようなものである。
故に、人気の理由のひとつなのだ。
壇上の人事田が職種選定テストの解説を始めた。
「ご存知の通り、ナンデモで働く諸君には様々な業務に携わってもらう。営業、経理、総務、制作などなど・・・今からまずは君たち希望の職種別にテストを受けてもらう。本日の参加者は298名。営業職の募集は、50名だ。そして、すまないが、時間が押している。営業希望の者は、早速、試験を受けてもらおう」
承継の希望は、もちろん営業職だ。
(もう、試験が始まるのか!?)
心の準備とは裏腹に、人事田が話し始めた。
「さて、営業希望の人は今からすぐに、本日発売のプレミアム緑茶500mlのボトルを購入してきてほしい。但し、未開封に限る。単純な試験だ。買ってきて持ってきた先着50名が営業職。よろしいかな?」
(え?飲み物を買ってくるだけ?これが試験?)
「どんな手段で入手しても構わない。当社からは、先着70名に、ジェットボードを貸そう」
人事田は指ぱっちんをする。
ごごごご、と大きな音。
壇上の中央に線が入る。
そして、左右二つに別れた。
壇上の奥の壁も、スライドドアの様に左右に別れた。
その先に見えるのが、エア・ゲート。そして青空。
「ジェットボードを貸そう。そして、このゲートから発進可能だ。自由に使うといい!」
超、競争社会。
ビジネスに必要なスピード。
このジェットボードは空を飛ぶ乗り物だ。
経済暦89年。今やビジネスパーソンは空を飛ぶ。
営業職が人気の理由のもうひとつがこれ。
空を飛ぶのだ!
少し考えて、ごく単純な事に気付く。
(あれ、俺、不利じゃない?)
承継は壇上から一番遠い席にいた。つまり先着70名のジェットボードのある、エアゲートからも遠い。
人事田が力を込めて言う。
「それでは、試験開始!」
ホールにいる、目算で200人近くが立ち上がり、ジェットボードを入手すべく、壇上の奥のエアゲートに向かった。
皆が空を飛びたいようだ。