No.02 入社式②
オートカフェを抜け出し、入社式の会場であるビルに向かう。
この街にはこんなにも人間がいるのか。
人々をくぐり抜ける。浮かない顔をした中年。重そうな荷物を抱える青年。デバイスを操作しながらしなやかに歩く女性。
ここは経済の中心、特区新橋だ。
走りながら時計を見る。
(あと、3分・・・)
予想通り、間に合わなかった。
遅れながらも総合商社ナンデモの自社ビルに到着する。
作り顔の受付嬢に誘導され、ビルの30階にエレベーターで移動する。エレベーターの扉が開くと、直ぐにまた半開きの大扉がある。フロアマップを見る。
どうやらこの階は大きめのホールになっているようだ。
承継は半開きの大扉から、こっそりと会場に入る。
ホールには椅子が並び、沢山の人間が座っている。
約300人はいるだろうか。
ホールの壇上から、一番遠い最後列に座った。
(遠いな・・・)
どうやら、まだ入社式は始まっていないようだ。周りがざわついている。
しばらく経つと、パチンとブレーカーが落ちるような音が鳴り、ホール内の明かりが消えた。皆はそれを察し、喋りをやめ、静まった。
けたたましい音が鳴る。
音楽隊のファンファーレだ。鳥肌が立つ。過剰演出にも程がある。瞬く間に壇上の明かりがつき、スーツ姿の男が喋りだした。
「これより、経済暦86年度、総合商社ナンデモの入社式を始めます。司会は私、人事田が進行させていただきます」
数秒の静寂。承継は緊張していた。
「では、はじめに、当社の代表である、孫駅社長より、ご挨拶があります」
壇上の隅から、初老の男が歩き出した。
なぜか承継は寒気がした。
なんだか、まがまがしい雰囲気のある人である。大企業を支える力量というものだろうか。
「よくぞ・・・よくぞ我が社を選んでくれた。改めて感謝しよう。私は孫駅。この会社の代表だ。代表と言っても、今は決裁権を持つだけの老体。これからの時代は諸君が作るのだ」
緩やかな口調で喋り出したが、孫駅は語調を荒げた。
「いいかね?経済暦という暦が出来てから86年。この国の方針である、超・競争原理、この原理の中で我々は成長してきたのだ。君たちは未来の担い手であり、そしてこれまでの我が社の礎を腐らせてはならんのだ。成長とは、競争の中で生まれる。勝て!勝ちたくば、考え、行動せよ!以上だ!」
会場を纏う空気が非常に重くなる。
この時代を成人まで生き抜き、大企業に就職できたのは、超競争社会をある程度生き残った証なのである。今日、この場に集まった人間は少なからず優秀であった。
「社長、ありがとうございました。続いてですが・・・早速、こちらに取り掛からせていただきます」
承継はそれが何かを分かっていた。
「職種選別テストを始めたいと思います!」
会場が騒めく。
最初の競争が始まろうとしていた。




