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カンパニーズ  作者: 大野春
chapter.01 新入社員
3/21

No.02 入社式②

オートカフェを抜け出し、入社式の会場であるビルに向かう。


この街にはこんなにも人間がいるのか。

人々をくぐり抜ける。浮かない顔をした中年。重そうな荷物を抱える青年。デバイスを操作しながらしなやかに歩く女性。

ここは経済の中心、特区新橋だ。


走りながら時計を見る。

(あと、3分・・・)



予想通り、間に合わなかった。


遅れながらも総合商社ナンデモの自社ビルに到着する。


作り顔の受付嬢に誘導され、ビルの30階にエレベーターで移動する。エレベーターの扉が開くと、直ぐにまた半開きの大扉がある。フロアマップを見る。

どうやらこの階は大きめのホールになっているようだ。

承継は半開きの大扉から、こっそりと会場に入る。


ホールには椅子が並び、沢山の人間が座っている。

約300人はいるだろうか。

ホールの壇上から、一番遠い最後列に座った。


(遠いな・・・)


どうやら、まだ入社式は始まっていないようだ。周りがざわついている。

しばらく経つと、パチンとブレーカーが落ちるような音が鳴り、ホール内の明かりが消えた。皆はそれを察し、喋りをやめ、静まった。


けたたましい音が鳴る。


音楽隊のファンファーレだ。鳥肌が立つ。過剰演出にも程がある。瞬く間に壇上の明かりがつき、スーツ姿の男が喋りだした。


「これより、経済暦86年度、総合商社ナンデモの入社式を始めます。司会は私、人事田じんじだが進行させていただきます」


数秒の静寂。承継は緊張していた。


「では、はじめに、当社の代表である、孫駅そんえき社長より、ご挨拶があります」


壇上の隅から、初老の男が歩き出した。

なぜか承継は寒気がした。

なんだか、まがまがしい雰囲気のある人である。大企業を支える力量というものだろうか。


「よくぞ・・・よくぞ我が社を選んでくれた。改めて感謝しよう。私は孫駅。この会社の代表だ。代表と言っても、今は決裁権を持つだけの老体。これからの時代は諸君が作るのだ」


緩やかな口調で喋り出したが、孫駅は語調を荒げた。


「いいかね?経済暦という暦が出来てから86年。この国の方針である、超・競争原理、この原理の中で我々は成長してきたのだ。君たちは未来の担い手であり、そしてこれまでの我が社の礎を腐らせてはならんのだ。成長とは、競争の中で生まれる。勝て!勝ちたくば、考え、行動せよ!以上だ!」


会場を纏う空気が非常に重くなる。


この時代を成人まで生き抜き、大企業に就職できたのは、超競争社会をある程度生き残った証なのである。今日、この場に集まった人間は少なからず優秀であった。


「社長、ありがとうございました。続いてですが・・・早速、こちらに取り掛からせていただきます」


承継はそれが何かを分かっていた。


「職種選別テストを始めたいと思います!」

会場が騒めく。


最初の競争が始まろうとしていた。

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