No.20 ほころび①
総合商社ナンデモ。
第2営業課。
そこに、配属された新人は1名。
彼の名は灰城誠。
職種判定テストでは第2位だった。ナンデモの自社ビルのサーバーにアクセスし、他者のジェットボードの運行を妨げた強者である。
その功績が認められ、2課に配属された。
2課は銭化東京のサーバー専門部隊である。
総合商社ナンデモは古くから銭化東京のサーバー運用・保守を請け負っている。
銭化東京のサーバーは都市機能の要だ。
全てを管理しているのである。
幾人のも個人情報や、数多ある企業情報、そしてそのカネの流れを管理する機能、ビジネスネットワーク。
サーバーも無数に存在している。
冗長化しており、サーバー拠点は銭・日本国内だけで8拠点。全世界で合計12箇所あるという。
それぞれのサーバーの拠点は、各担当のみがそれを知りえているだけで、社員同士であってもその場所を教えることはできない。
総合商社ナンデモの最重要機密の一つだ。
ーーーーーーーーーー
灰城は営業兼、システムエンジニアの役割を担っていた。
新人の仕事としては、顧客(銭化東京)からの小さなバグ等の指摘を修正するのが主である。
ある日、灰城は入金システムの些末なバグを修正していた。
(ん?なんかおかしい)
ログを辿っていた。
入出金のログだ。銭化東京の金銭のやり取りは1秒どころかコンマの世界で行われている。
(16時37分25秒02と16時37分25秒04)
この僅かな03の隙間が無い。
全くあり得ない事では無いのだが、灰城は気になってしまった。
(ログが削除されたのか?)
灰城は整頓された文字の羅列が好きだ。プログラミングは簡単にこなせるし、汚いソースコードは嫌いである。
気になりだしたら突き詰める。これが彼の流儀だ。
サーバーの削除履歴を確認する。
無い。
16時37分25秒03の履歴を消した、という履歴は存在しなかった。
それでも疑い深い灰城。
削除履歴のログ、数字の羅列を覗く。
(16時45分28秒08と16時45分28秒10)
削除は頻繁に行われるものではないため、コンマ02の開きなどよくある話である。
しかし、彼は常に自分の直感を信じるタイプだ。
何事も無ければそれで済む。とことんチェックしたい性格なのだ。
(予感がする。削除履歴すら、削除したような、そんな悪寒がする)
誰が?何のために?
灰城は銭化東京の900日前まで遡れる、電脳履歴博物館へ向かう事にした。




