No.19 300のブレット④
「よう、にいちゃん、察しが良ければ分かるよな?」細田が尋ねる。
細田の靴を舐める女、そして銃口を向けられている状況。察しが良くても理解に苦しむ状況だ。
「ちょっと分かりません」
「悪いなぁ、300の銃弾の件はもう終わっちまったんだよ。。。」細田は残念そうな顔をしている。
「ま、良かったのか、良くなかったのか。。。」
「こりゃあもう、決まり切った案件でねぇ。ツバをつけてくれるならナンデモさんを採用してあげても大丈夫ですよ?」
「ツバ・・・?とは?」
「さすがお若い。分かりませんかねぇ。直接、私の口座に振り込んで下さいって事ですわ」
「なるほど」
「なんなら、間違えたふりをして別の武器を持ってきてもいいですよ」にやける細田。
その時、またしても事務所の扉が開く。
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承継はカーセナル社の扉を開く。
事務所は見渡せるぐらいの面積しかない。
3人いる。
1人は拳銃を持ちながら立っている。
1人はその男の靴を舐めていた。
さらに、もう1人、見慣れた姿。
「乗間先輩?」
乗間は男に拳銃を突きつけられていた。
「今までの会話は全て、送信済みだ。コートリに送信済み。細田さん、貴方の今の発言は明らかにアウト。それじゃあ帰りますから」
乗間は踵を返す。
「承継、走れ!帰るぞ!」
乗間が走り出す。承継はワケが分からなかったが、言われるままに事務所を抜ける。
銃声が鳴る。
入り口付近の窓ガラスが割れた。
乗間のジェットボードに乗った。
取り急ぎ、会社に戻る。
帰社し、承継と乗間は会社の会議室に入る。
剥離課長がいた。
「おい、バカタレ」と説教が始まった。
承継から報告が無いため、怪しんだ乗間は承継の行動を調べた。少しして会社に1億近くの請求の通知があった。乗間は案件を探し当て、承継が向かうであろうカーセナル社に向かったという。
「今回、ひとりでやる気を見せたようだが、お前には3つの失敗がある」
ーーーまずひとつ、報告が無かった事。
承継は焦りと先輩を驚かせたいがために報告を怠った。そもそも、報告していればこの案件をやらせる事は無かったのだ。
ーーーふたつめ、お前は契約書をちゃんと読まなかった。
武器屋での購入時、承継は契約書を確りと読んでいなかった。よく読むと、【買取返品は不可】と書かれていたのだ。承継はそのまま検収ボタンを押し、取引が成立してしまったのである。
ーーーみっつめだが
「人の命を奪う製品を平気で販売しようとした」
300の銃弾。
その使い道は分からない。
だが、銃弾は人の命を奪う事の出来るモノだ。
お前はそれを平気で仕入れ、販売しようとした。躊躇いもなく。。。
ぐうの音も出なかった。
涙が溢れてくる。
「今回は、カーセナルをコートリ行きに出来たから、案件は消滅。正当に返品し金は帰ってくる。結果的にはセーフ。でも、承継くん、大いに反省したまえ」
剥離課長はそれ以上、何も言わなかった。
「まぁ、お前が無事で良かったよ」
乗間先輩がほろっ、と漏らす。
承継は何も言えなかった。ただ、涙が出た。
「涙が出るって事は、人殺しの道具を売ろうとした自覚があったって事だな。見捨てないでやるから、明日から元気を出せよ」
承継は泣きながら、先ほどの話の要点と、コートリが商売上の警察のような働きをする機関である事をメモした。
メモはしたものの、
視界が滲んでいて、なにを書いているかは分からなかった。




