No.18 300のブレット③
じりりと痛む。
首元にたくさんつけられた、爪痕。
個人事業主である、坂山育江はカーセナルの社長である細田に首を絞められた。昨日の話だ。
細田社長の手の爪が育江の首の皮や肉にめり込んだ。
「おいおい、ツバつけてくれるんだよな?」
「単価が決まってます」と育江。
「だからよ、プラスして何かにして出せや」爪がめり込む。
細田社長は頭が沸いている。
銭化東京は標準単価が決まっている。
それ以上の値段での買取は出来ない。
増してや、不正な入金も出来ない。
細田社長はそれを知らないわけがない。
「うっ、苦しい」育江の意識が薄れてくる。
「明日までに用意しろよ」
手が離れる。
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育江は構わず日々の業務を続けた。
連絡が入る。武器商店不殺の店主だった。
「おい、バカな虫が一匹入ったようだぞ」
「え?」
「例の件、銃弾を300発、買って行った奴がいる」
「面倒な・・・嘘をついて在庫がない事にしてくれれば。。。」
「そんな事は知らん。うちも商売だ」
通話が途切れた。
細田社長のカーセナル社は、銃弾300発の納入の依頼を出した。
育江は事前に銃弾を保有しており、すぐに納入するのである。常にやってきた流れだ。
依頼を出すということは、各社に競争をさせるということなのだが、それは表向きの話だ。競争をせずに、受注者は競争敗北のリスクなく、金を手にすることができる。だからこそあの細田社長はツバをつけろと言うのだ。
育江は今回も納入する予定だ。
(変な奴が混ざると困るな・・・)
育江は直ぐにカーセナル社に向かう。
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商業区台場。
輸入会社カーセナル。
小さな倉庫と小さな事務所を構える会社だ。
育江はすぐに細田に面会する。
「予定より早えじゃねえか?」
「虫が入ってくるみたいで」
「あん?そんなバカがいるのか?」
「総合商社ナンデモの人間らしいのですが」
「おバカだねぇ。ところで育江よ。ツバ、つけてきたの?」
「・・・・」
「殺されたいの?」
細田が拳銃を引き出しから取り出す。
もはや何度も見た光景である。これがいつもの脅しのやり方なのだ。撃つことは無いし、おそらく銃弾も入っていない。
「すみません、不正入金もバレてしまいますし、銃弾は標準単価が決まっていて。。決められた額以上は。。。」
「てめぇ。靴磨きしろ。分かってるよな?舌でペロりと汚れを舐めろ」
いつものやり取りだ。育江は細田の黒革の靴を舐め始めた。これで金が入るなら楽なものである。
その時、事務所の扉が開く。
虫が入ってきた。
細田社長はその虫を見る。
若そうな男だ。可愛がり甲斐がありそうだ。
「総合商社ナンデモですが。。。」
細田は銃口をその男に向けた。