No.17 300のブレット②
承継はあるひとつのルールを思い出した。
仕入れ品が返品可能な物であれば、90%の値段で返却可能なのだ。
銃弾の原価は1発約33万電銭合計1億電銭だ。
購入し、仮に他社に負けた場合でも、損失は1,000万電銭で済むのである。もっとも、1,000万電銭は安い額ではない。
(仮に負けたら1,000万の損失か。。。勝てば5,000万の利益。。。)
承継はリスクとリターンを天秤にかける。
もちろん、リスクが傾いた。さすがに1,000万電銭の損出は笑えない。5,000万の利益に目が行きそうであるが、勝ちは確実ではない。しかし、勝負に挑んだ時点でリスクが生まれるのである。
ましてや新入社員が扱える額でもない。これまで良くて3桁の案件しかやってこなかったのである。
(あれ?待てよ?)
待て待て、これが一般的な思考だ。
じゃあ、どの企業もやらないんじゃーーー
つまり、他社はリスクを見て撤退する。その中で、勇気を出したものが、仕事を手にするのでは?
最初の一歩を踏み出したものが勝つのである。
承継は武器を販売する店へ向かう。
その姿を見る、乗間。
「剥離課長、あいつ、大丈夫でしょうか?」
「彼はね、なんだか不思議だよ。発想がちょっとだけ違う。なんとかやれそうじゃない?ところで何やるんだ?」
「承継くんからは、何も報告が」
「それはマズイね」
先輩上司への報告を忘れるな、と乗間は承継にメモを取らせていたのだが。。。
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商業区池袋。
様々なモノを販売する店が連ねる街だ。
承継はどことなくわくわくしながら目的の店へ赴いた。
武器商店不殺。
なんとも矛盾した名前である。
小さな雑記ビルの一角に構えた店舗だ。
「いらっしゃい」
小柄な老人が現れた。首元に入墨がある。昔はやんちゃだったのかもしれない。
「この型名の銃弾300発分を探してます」
承継は型名を見せた。
「あー、これね。450発在庫があるね。買うの?」
「はい、すぐに」
「えーと、33万の300発だから、9,900万電銭だね。5,000万超えちゃうから、売買契約書ちゃんと読んで、同意出来るなら、君のデバイスの検収ボタン押してね」
流し読みし、検収ボタンを押す。
迷いは無かった。この時点で会社には9,900万電銭の請求が行く。
(あっ・・・・)
承継は乗間先輩に言われたことを思い出した。
「他にこの銃弾を買いに来た人っていますか?」
「うーん、記憶にないねぇ。それも300発だろう?」
競合はいない様だ。
しかも在庫は450から300購入し、150。
後追いされても300はすぐに用意出来ない。
「ありがとうございます」
「銃弾だけじゃなにも出来ないけど、危ないから気をつけてな」
ダンボール一箱分の銃弾を渡される。
承継はそれを受け取り、店を出る。
商業区池袋からリニアで客先へ向かう。
行く先は商業区台場。
15分で着く予定だ。
勇気を出した者、判断の鈍らない者、それこそが競争に勝つのだ。
転ぶ事を恐れぬ、児童の徒競走のように、承継は300の銃弾を抱えながら走る。




