No.14 銭日本検査局
ここは銭日本の銭化都市、東京。
優れた経済活動の行われる都市にだけつく、枕詞の銭化、そしてその都市の中でも一定基準の経済活動を行う地区、特区。
特区新橋。
リニアの駅から歩いて8分。
その巨大なビル、銭日本検査局があった。
企業が販売する機械やシステムが確りと機能しているかを検査する公共の機関である。
おにぎりひとつを販売するにも、ここで安全性を評価し、そこで標準価格が決まるのだ。
検査官の長、道端は本日の来客に少しどきまぎしていた。
決して更年期ではない。あの老ぼれーーー老ぼれでありながら、まがまがしい思想の持ち主、孫駅が来るのだ。
デバイスが鳴動する。
「もしもし、道端です」
「フロントです。本日アポイントの総合商社ナンデモの孫駅社長が来社いたしました」
「シークレットルームに案内したまえ」
ーなぜだ、なぜ、自分はあの老ぼれをシークレットルームに案内してしまうのか。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「久しぶりだねぇ、道端くん」
「ご無沙汰しています」
「君もまぁ、ずいぶん偉くなったね」
「前置きは良い。なんですか、あれは」
数日前、道端の講座に不正な入金があった。
「入金の件かね?遅ればせながらの君の昇進祝いさ」
道端は自分の頭に血がのぼる感覚を覚えた。
「あからさまな不正入金だっ!そんなものすぐ、見つかって、あなたは格好の的になる。会社を潰す事になるんだ!」
「道端くん、分かるよね? 総合商社ナンデモは、経済成長時期から銭化東京のサーバー業務を請け負っているんだよ?」
意味は分かる。いくらでも不正入金操作が出来るのだ。
「認めないぞ」
「まぁまぁ、落ち着いてくれ。ところで、記憶消去手術の技術申請や価格設定なんだが」
にやけながら孫駅は話しかけてくる。
なんなんだ、この男は。
どうして自分は、申請書や価格設定にサインをしているのか。
記憶消去の手術?
こんなものが、世の中に出て良いわけがない。
「道端くん。君が望んだ技術じゃないか。私たちが昔、働いていてーーー」
「やめてくれ。やめてくれよ」
道端には消したい記憶がいくらでもあった。