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ピッツ・ア・パニック!  作者: 一条篝峰 幽現
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第4工程 ピザストーリーは突然に(4)

 三人とも時が止まったように、その状態から凍り付いていた。


 マイドゥに両手で壁ドン、片膝で股ドンされているイツモ。慌てて入ってきた女性も、扉を開けた格好で固まっている。


 長い髪を後ろで一つに束ね、ピッツァ・パニックの制服をキレイに着こなしている女性。年齢はイツモと同じくらいだろうか。しかし年齢よりも落ち着いて、少し大人びた雰囲気。そして制服姿が映える身長と顔立ちをしている。


 マイドゥがこの状況をどう説明したものか迷っていると、女性はポケットから携帯端末を取り出して写真を撮り始めた。


 「ちょちょちょっ、ちょっと待って! 今なぜ写真を撮ったのかな? ねぇ、リヨくん!?」


 さすがに焦ったマイドゥは、イツモの拘束を解いてリヨと呼んだ女性に抗議する。


 「あっ、心配しないでください。別に迷惑とかかけないので。ただ少しだけ、ネットに拡散させようと思っただけですよ」


 と言って、携帯端末を操作し始めたリヨ。


 「それ一番タチ悪いやつ! 少しだけじゃ収まらないから、取り返しのつかないことになっちゃうから! お願い話しを聞いて? だから端末を一旦置こう?」


 狼狽して声を荒げるマイドゥをよそに、はっと要件を思い出したリヨは、携帯端末の画面から弾けるように顔を上げた。


 「そんなことより店長、大変なんです!」


 一大事をあっさり一蹴されて「そんなこと!?」と目を丸めるマイドゥを無視して、さらなる一大事を突きつける。


 「今さっき、ペドロ様から注文が入りました!」


 「本日二度目の!? ……いや、まさかこんな時にくるとは予想外だが、別に誰が何度注文したっていいじゃないか。確かにあそこはシャーセくんの担当で、特に難しい。だからって、うちのスタッフなら届けることは可能だろう? いったい何が問題なんだ、リヨくん?」


 宅配ピザの料金はけっして安いものではない。なので同じ客が一日に何度も注文することは滅多にないので少し驚いたが、特に慌てる事例でもなく、何が大変なのかといった調子のマイドゥ。


 しかしリヨは苦い顔で言いにくそうに口ごもると、次に言い放った言葉はやはり一大事だった。


 「問題はそこではなくて、その…………全員配達に行ってて、今現在、配達に行ける人が誰もいないんです」


 「んなっ……――――んんなぁにぃいいいいい!?」


 耳をつんざくような驚愕の声を上げる。さすがのマイドゥも、この事態は想定していなかったらしい。


 そして頭を抱えてよろめきながら壁にもたれかかる。そして注文が一番人気のパニックスペシャルと、好きなピザをハーフ&ハーフにできるパニックコンビであること。それをもう作り始めていることを確認した。


 その注文が入る直前に、ちょうど全ての配達員が出払ってしまったようで。誰かが戻ってくるのを待ってそれから配達に行ったのでは、ピッツァ・パニックが売り文句にしている『40分以内にお届け』が難しくなってしまう。


 「なんたる事態だ。こんな不運が立て続けに起こるなんて。今日は厄日か何かか? しかも同じ日に同じ相手に配達が遅れるとなったら、うちの沽券に関わるぞ。すぐに噂は広まって、信用を失って終わりだ。……ああ、くそっ! あんな事故さえ起こらなければ――――」


 その頃、状況が飲み込めずに立ち尽くしているほかなかったイツモは、マイドゥとリヨのやり取りをただ呆然と眺めているしかなかった。


 動いていいものか分からず、壁ドンされていた時のままの姿勢。しきりにマイドゥが大声を出したり、頭を抱えだすと、少し身構える。


 やがてわなわなと震えながら、ぶつぶつ呟いていたマイドゥが「ああ、くそっ!」と怒りだすと、その途中でイツモの存在を思い出し、鋭い眼光を向け再びイツモを標的に捉えた。


 「ひっ!」


 すでにイツモのトラウマとなっているのか、短く息を呑んで警戒する。


 だがそんなことはお構いなしに肩を鷲掴みされ、体を強張らせてマイドゥと向き合う形に。


 「お前さっき、なんでもやる、と言ったよな? 金が払えないなら、代わりに体で払ってもらうぞ。原付の免許持ってて運がよかったな。お前を配達員として、たった今採用してやる。初仕事だ、配達に行け」


 「………………はへ?」


 やはり展開に付いていけず、この日何度目かの間抜けな声を出すイツモ。


 「別にタダ働きをさせるわけじゃない。給料はしっかり払ってやる。ただし、お前が1500万ネメル分の働きをしたと俺が判断するその日まで、無期限で配達に行ってもらう条件付きだがな」


 「え、いや、ちょ――――」


 「ぐだぐだ言ってんじゃねー! お前に拒否権があると思ってんのか。配達に行くか、指を詰めるか、今すぐどっちかに決めろ!」


 鬼気迫るマイドゥの迫力に、もはやイツモの選択肢は一つしかなかった。


 その後ろではリヨがやれやれといった感じで、溜息交じりに呆れていた。

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