プロローグ これはピザのお話です
ピザ! それは人々を笑顔にするもの。
ピザ! それはとろけるチーズとソースと生地の織り成すハーモニー。
ピザ! それは幾百の時が流れ時代が移り変わろうと、いまだ進化し愛し続けられる至高にして高級な庶民の味。
―――ピーピピッ。
アラームのような電子音が耳元で鳴る。通信を受け取った合図だ。
耳にはめた通信装置をONにすると、優しげな女性の声が流れてきた。
『ここまでは無事に到着したみたいね。流石だわ、イツモくん。でもまだ気を抜かないでね。むしろ本番はこれからなんだから』
「分かってるって、リヨさん。心配しなくてもこの光景を目の当たりにしたら、イヤでも気が引き締まるよ」
そう溜息交じりに返事をしたイツモという青年。対して通信の声の主であるリヨは、フフッと笑った吐息をこぼして続ける。
『分かってるならよろしい。ここからは何が待ち構えているのか分からないし、何が起こっても不思議じゃないんだから、けっして油断はしないでね。いい?』
何度も注意をうながしたあと、リヨは一拍置いて、
『でもね、イツモくん。あなたなら大丈夫。絶対に乗り越えてみせると信じているわ。―――そして無事に帰ってきてね』
「簡単に言ってくれるなぁ、リヨさんは。まぁ、そう言われて悪い気はしないけど」
おだてられてご機嫌な笑みを浮かべるイツモ。
『それじゃあ、気を付けていってらっしゃい』
そこでリヨからの通信が切れる。
イツモは一つ深呼吸して、小高い丘のへりに停めてある、原付バイクのエンジンを起こした。
バイクは縦長のフロントガラスと屋根付きで、背もたれから後ろは箱形の荷台となっている。
荷台の側面には『Pizza Panic(ピッツァパニック)』の文字。その姿はまさしく、配達用のバイクであった。
眼下に広がるのは、地の果てまで続いていそうな広大なジャングル。
高層ビルほどの巨木が立ち並び、そこかしこで怪獣のような雄叫びがこだまし、時折り見たこともない巨大な鳥が、奇妙な鳴き声と共に飛び立っていく。
高性能ゴーグルを装着すると、様々な数値が浮かんでは消え、一瞬でジャングルの全体図から目的地までの最適ルートが表示された。
「ほんじゃあまぁ、時間も限られてることだし、行くとしますか!」
己を奮い立たせるように声を上げ、バイクは勢いよく走りだす。
ここはどことも知れない銀河の果て、惑星ナンデスカイ。
増え続けている1割の陸地と、減り続ける9割の海で覆われた、争いとは無縁の平和な星。
これは変わり続ける地形に幾多の困難と危機を乗り越え、無事にお客様の元へピザを届ける配達員たちの、愛と勇気と香しさの物語である。