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エピローグ

十二月二十四日、水曜日。

クリスマスイブの今日が、優利子達が通う豊葉塚高校の二学期終業式。体育館内に合わせて千名以上の全校生徒と先生方が一同に集う。

校長先生が開式の挨拶をされたあと、校歌斉唱が行われ、

「えー、冬休み期間中の、生活のことについてなんやけどもぉ。えー、豊高生の子ぉらは今さら注意されんでも分かることやと思うねんけどな。髪の毛染めたり、ピアスしたり、深夜にふらふら出歩いたり、特に女の子は爪にマニキュアを塗ったり……コラそこぉ、ポケットに手ぇ突っ込むなっ! 寒いんはみんな同じやねん……《以下略》」

 強面な生徒指導部長兼体育教師から長々と諸注意があり、閉式となった。

この後は教室で、各クラスの担任からお馴染みのあれが配布される。

一年三組の教室。

どの科目も一学期と全く同じかぁ。まあ、こんなもんでしょ。

学佳は阪下先生から渡されたあと、すぐに開いて確かめた。彼女の通知表の評価は体育5と家庭科8、書道が平凡な6である以外はオール10。

「はい、房本さん」

「あー、すごく緊張するなぁ」

 優利子は渡された後もすぐには開かずに、自分の席へと戻った。そのあとに恐る恐る開いてみる。

おう、けっこう上がった!

 眺めたあと、優利子は思わず笑みを浮かべた。

「優利子ちゃん、見せてー」

「ゆりちょこ、一体どんだけ上がったんだ?」

 実希と千夏がすぐに近寄って来て覗き込んでくる。

優利子は、主要科目は数学ⅠAと化学基礎が6である以外はオール7、副教科については体育が5、家庭科が7である以外はオール6だった。

「おめでとう、優利子ちゃん。よく頑張ったねぇ」

 実希は嬉しそうな表情を浮かべ、パチパチ拍手する。

「すげえ! 7多っ。でも書道だけはうちの勝ちや。まなかにも絶対勝っとる」

 千夏は自慢げに言い、自分の通知表を優利子に見せ付けた。

「書道だけ9取っても、他が3、4ばっかり5僅かだったらあまり意味無いでしょ」

 優利子はすかさずコメントしてあげる。

「まぁね。今学期英語と古典は中間も期末も赤点取ったけど、再試と提出物のおかげで不可を免れたようなもんやからね」

 千夏は苦笑した。

 そのあとしばらくして、実希の通知表も配布される。書道8、体育5。他の科目は9か10を取っていた。学佳も実希も実技科目は小学校時代から苦手としているのだ。優利子も同じく。

「それじゃみんな、冬休みもお元気でな。I wish you a Merry Christmas and a Happy New Year!」

 阪下先生は全員分渡し終えたあと、いくつか連絡事項を伝えて最後にこう締めた。

 そして学級委員長からの号令があり、解散となる。 

今日は期末の個人成績表が配布されたあの日以来、優利子、実希、千夏、学佳の四人でいっしょに下校することにした。

千夏の三者面談が終わるまで他の三人は下駄箱前で待つ。

「やあ、お待たせ」

 十一時半頃、千夏はとても機嫌良さそうに三人のもとへやって来た。彼女の母は来賓用の玄関口から帰っていったらしい。

「予定よりも長かったね。千夏、理系は無理だって言われたでしょ?」

 優利子はさっそく気になったことを尋ねてみる。

「まぁね。でも希望者ぎりぎりで定員割れしたから入れることは入れるって」

「理系クラスで今の成績のままじゃ、追試地獄に遭うよ。千夏さんは私大文系志望者向けの文系Ⅱクラスの方へ進んだ方がよかったんじゃ?」

 学佳は爽やかな表情で助言する。

「文系Ⅱクラスなんてリア充、おバカなチャラい系男子、うちらとは正反対なビッチ比率が高なりそうやから絶対嫌やで。うちも国公立理系志望やって」

 千夏はにこにこ笑いながら主張した。

「社会科の選択、みんな地理だから二年生もみんな同じクラスになれるかもしれないね」

 実希はとても嬉しそうだった。

 四人は正門を抜けて、帰り道を歩き進んでいく。

「冬休みの宿題、めっちゃ多いよねぇ。ウィンターワーク五教科、分厚過ぎやわ~」

「確かに多いよね。私はもう、少しだけ進めてるよ」

「わたしは三分の一くらい終わったよ」

「ワタシはもう八割方済ませましたよ」

「はやっ。ワーク、ちょっとは見てみたけど分からない問題ばっかりだったよ。登校日に答配られるからそれから一気に写さないと」

「ダメですよ、千夏さん。自分の力で解かなきゃ」

「千夏、そんなやり方じゃ本当の実力は身に付かないよ」

 学佳と優利子は率直に意見する。

「ゆりちょこ、夏休みの時と打って変わって真面目な意見やね。数学と英語は元々多く出されてたのに、うちなんか成績不振者への追加プリントまで課せられたし。こうなったら母さんに頼んで宿題全部やってもらおっかなあ。絶対アホかあんた言われるけど」

「千夏ちゃん、冬休みの宿題で困ったらわたしに相談してね。お手伝いするよ。みんなで西高行けるように、いっしょに頑張ろうね」

「いっ、いやぁ、そっ、それは、悪いし、なるべく自分の力でやるよ」

「そう? えらいね千夏ちゃん」

 ガチガチに緊張してしまった千夏の頭を、実希は優しくなでてあげた。

「あっ、あのう…………」

 すると千夏は放心状態になってしまった。

「千夏、相変わらずだね」

「……あっ」

 優利子に肩をパシンッと叩かれると、千夏はすぐに正常状態へと戻った。

「千夏ちゃん、なんかかわいい」

 実希はにこにこ微笑む。

「うっ、うち、この性格だけは、どうしようもないわ」

 千夏は苦笑いを浮かべた。

「ワタシも実希さんに頭をなでられると同じようになってしまいそうだよぅ」

 学佳は照れくさそうに伝えた。

 途中の分かれ道で千夏と別れ、学佳と別れ、家まであと五分くらいの場所で、実希と優利子二人きりとなる。

「優利子ちゃん、今日はクリスマスイブだね。今年はサンタさんに何をお願いした?」

「うーん、特にないなぁ」

「わたしはエ○モのジャンボぬいぐるみだよ。初詣もいっしょに行こうね」

「うん」

「どこに行く? 生田神社? 住吉大社? 伏見稲荷? 北野天満宮?」

「その中だったら、住吉大社かな」

「千夏ちゃんと学佳ちゃんだけじゃなく、あの五人も誘おうよ。きっと賑やかでより楽しくなるよ。学力向上のご利益もありそう」

「いやぁ、それはちょっとまずいかも」

「そう言われてみればそうだね。千夏ちゃんと学佳ちゃんは存在まだ知らないもんね」 

「でも、あの子達なら実希ちゃんみたいにすんなり存在受け入れてくれるかも」

「じゃあ、もうバラしちゃえば」

「そうだねぇ。近いうちにバラそうかな」

二人は楽しそうに取り留めのない会話を弾ませながら、帰り道を進んでいった。

       *

「優利子、今学期は7が増えたわね」

「まあね」

「三学期はもっとええ成績が取れるように、担任の阪下先生も言ってたように冬休み必死で頑張なあかんよー」

「分かってるって」

 優利子は家に帰ると、母に言われる前に堂々と通知表を見せてあげた。

上機嫌でお昼ご飯の味噌ラーメンを取り終え自室に向かうと、

「Welcome home! ユリコちゃん。Merry Christmas! Show me your report card.」

「おかえりなさいませ優利子さん、通知表を拝見させて下さい」

「おっかえりーっ、ユリコイル。通知表、通知表」

「おかえりなさい、優利子お姉ちゃん。メリークリスマス♪」

「おかえり優利子君。担任からのクリスマスプレゼント、通知表とやらをさっさと見せろこのメスブタ」

 いつもと変わらず教材キャラ達がテキストの中から飛び出し出迎えてくれる。今日はみんなクリスマスイブらしく、サンタクロースのコスプレをしていた。怜央が大型スーパーのチラシから取り出したらしい。

「はい、はい」

優利子は快く通知表を、代表してクリフに渡してあげた。

「一学期より全体的にアップしてるね。英語は期末だけの評価なら9だったかも」

 クリフはにっこり微笑み、嬉しそうにコメントする。

「得意科目の現社、世界史で10が付いてないのはいかんなぁ。さあ優利子君、冬休みはお正月休み返上で、毎日欠かさず一日最低五時間はお勉強しようぜ」

「ボクもエブリデイ付きっ切りでユリコちゃんをスタディーサポートするよ」

「優利子お姉ちゃん、この冬休みに数学ⅠA完璧にマスターして、三学期は最高評価の10を狙っちゃおう!」

「理系進むなら化学と生物も10を目指して総復習と先取り学習頑張ろうぜ、ユリコイル」

「国語も怠けちゃ駄目ですよ。かしこく遊ぶ日があってももちろんいいですけど、家庭学習時間は毎日きちんと確保しましょう」

「えー、それは、ちょっと。正月三が日くらいは休ませてよ。受験生じゃないんだし」

 優利子は苦笑いを浮かべる。

「No way! ユリコちゃん。今から一生懸命勉強を頑張っておけば、基礎学力がしっかり身に付いて二年後の大学受験だって楽に乗り越えられるよ」

「優利子君、ここで気を抜いては絶対ダメだ。一日サボったら怠け癖が付いちゃうからな。ライバル達にすぐに差を付けられちまうぜ」

「ユリコちゃん、シッダウン! 今日はこれからディナータイムまで勉強頑張ろう。きっとマミーがご褒美にっていうかクリスマスイブだし美味しいケイクとローストティキンとローストビーフと、クラムチャウダーとパンプキンパイとスモークサモンのマリネサラドを用意してくれるよ」

「分かった、分かったから私を吊り上げないで」

 クリフは力ずくで優利子を椅子に座らせた。

「ユリコイル、逃げられないようにしっかりと結合しておくね」

「やっ、やめてぇ~っ」

 優利子は胴回りを剛流磁の手によってコイルのような物体できつーく縛られ、身動きを封じられてしまった。

「ユリコイル、気を抜くとデンキウナギ並の高電圧大電流がビリビリ走るぜ」

「ちょっと待て。それだけは、勘弁してっ! マジで死ぬから」

「それじゃ、シャンパンのボトルでユリコちゃんのお顔ぶん殴ろうかな。割れて血のクリスマスイブになっちゃうかも」

「クリフくん、さらっと恐ろしいこと言わないで」

「ユリコちゃん、I mean it.」

今日からは、教材キャラ達五人の指導による地獄の冬休み学習特訓が始まる。

主要科目を指導する二次元で三次元な彼らが手厚くサポートしてくれるから、優利子の成績はきっともっともっとアップするはずだ。

(おしまい)

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