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「定、今だ起きろ!」
そう叫んだのは佐久間司令。長い沈黙を守っていたはずがその声に反応して定の意識が覚醒する。微かな動作音が鳴った後、頭部にあるレーダーライトが点灯した。機体を若干屈ませると同時に覚醒した定は前方にある機体を捉え、即座に状況を判断したのだった。
それは一瞬の出来事、気が付いた時には斬金が最初の被弾をしていた。
(今…一体何が起こった?)
有馬は弾け飛ぶ装甲を片目に急速退避を行なった。
(嘘だ)
その衝撃的な光景にそれを見ていた人々は言葉を失い、まるで時が止まったかのようだった。そして、当の茨城県民は皆お互いの頬を抓る始末である。
その一連の動作は例えようのない滑らかでどこか気味の悪い動きだった。それは今までの特機の常識を覆す機動だった。
「遂にきたぞ!これが本物の戦いダァ〜ッ‼︎」ナレーターが興奮冷めやらぬ表情で実況を再開した。
そして、ここに来て始めて茨城県民の声援が始まったのであった。
「イバラギア…イバラギアだ、」
「?」佐久間司令の言葉に松井は疑問符を浮かべた。
「何のことでありましょうか?」その言葉に司令はさも面白そうに答えたのであった。
「我々のご当地ロボの名前だよ」二人の会話が聞こえていたのか、定が呟いた。
「イバラギア…悪くない」定も司令と同様の口調であった。
(やっぱりサダ君は父親に似てきたなあ)
私は何を迷っていたのだ。やる限り常に最善を尽くす。またもや忘れてしまっていた。松井はその言葉を胸に、決意を新たにしたのであった。
(私は、一体?)
(何かが完全に吹っ切れた状態だ。戦うことに使う感覚が研ぎ澄まされ、それ以外のものはことごとく鈍くなっている。不思議な感覚だ…)定は、負ければ死にも繋がるこの戦いに於いて恐怖など微塵も感じていなかった。
(敵のご当地ロボが姿を見せる。鮮やかな動きだ、良くもまぁあれ程の巨体を軽々動かすものだ)そう感心しつつも、自身も機体の制御を行う。
イバラギアには胴体前部に武器を持つための「武装腕」が二本、そこまでは普通だがさらに胴体後部には先に電磁推進装置が付いた「推進機腕」が二本の計4本の腕を持つという独特な機体構成をしている。その事により、より自由度の高い機動を実現しているというわけであった。
斬金が建物の陰から飛び出して射撃を行うと、定はその「推進機腕」を巧みに使い、その球を交わしていく。そして「武装腕」に搭載されたレールガンで僅かな動作の合間に射撃を行う。
二人は先程からこの様な撃ち合いを繰り返していた。
だが軽微な損傷のみのイバラギアに対し、斬金は打ち付けられた弾丸によりかなりのダメージを負っていた。
「なるほど、ジョーカーは茨城だったか…」愛知県の作戦司令本部指揮所の中央の座席に座っていた幾多司令は険しい顔でそう呟くと、何処かに電話をかけたのだった。モニターには茨城のその機体が大写しになっていた。
「……、……、……、」何処の国の言葉だろうか?少なくとも日本語や英語ではない。司令は一通り通話を終えると、モニターの機体をしかと見つめ、斬金に通信を行った。