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ご当地戦機 イバラギア  作者: くぴどー
第六話 灰虎繚乱!
26/32

6-1

鷲宮が格納されたダイサイタマを見てから3日、彼女は本部の会議室に呼ばれ、事務的な説明をされていた。どちらにしても国の管理下に置かれるのだろうが、彼女は採用ということになっていた。だがその理由を想像して、彼女は本日18度目の溜息を微かについた。

「申し訳有りませんが我々は国家にとって重要な存在であり、絶対に機密事項の漏洩はあってはなりません。なので身辺調査をさせて頂きました。試験から三日間、監禁のような対応をとらせて頂きましたが、何卒ご容赦ください。最後にこの機密事項の守秘義務同意書にサインと印鑑をお願いします。」

鷲宮は疲れきった顔をしていた。決して茨城県の扱いが酷かった訳ではない。むしろ今までの暮らしより遥かに優遇されていた。しかし彼女はこの3日間、自分を責め続けていたのだ。


「我々のせいにしておけば楽だろうに…」巖十郎は司令長官室のモニターでその様子を見ていた。だがやがて、思いついたようにいつもの下衆笑いを浮かべた。

「しかし彼女という存在を採用した事が我々にとって予想だにしない結果をもたらすかもしれん。彼女を生かすも殺すも我々次第、楽しみではあるな。」

彼の秘書はその様子に頭に疑問符を浮かべた。


鷲宮は「はい」とだけ言い、その書面にサインと印鑑を押した。それを回収し、確認すると、男は鷲宮に向き直った。

「それでは、この際ですから我々がどういった組織かという事と、あのダイサイタマがなぜここに在るのかについてご説明しておきましょう。」

そう言うと、男は部屋にあるモニターの電源をつけた。


「定、今回の我々の目標、いや、やらねばならない事は、犠牲者を1人も出さずに、横浜市壊滅という事実を作る事だ。こちら側でそれぞれ攻撃を加えるタイミングの指示を出すが、それ以外の発砲は固く禁ずる。まあだが今回は言うなれば余興だ。あまり気負うな。以上」定の元に巖十郎からの通信が入った。「我々」というのは日本の国家中枢機関。定は一国家の作戦という事もあり、緊張していた。

その日、定は特機に乗っていた。くぐもった機関音を周囲に轟かせていたその特機の名は「ダイサイタマ」今回の作戦の要となる存在である。「Σ-TECH」と呼ばれる埼玉県の技術結集計画の名の下に開発されてはいたが、実際の開発目的は今回の作戦と、これからの来るべき重大国家作戦の礎となる為のものであった。定はこの機体の唯一のパイロットであるが、世間にはまだその存在は認知されていない。

定は、機体が輸送機からのロックが解除されるのを確認すると、機体各所の電磁推進装置を使い即座に姿勢制御を行う。最初の頃は立つ事だけでも一苦労であったが、今となっては人馬一体の如く機体を完全に制御下に置いていた。この感覚を定は「モードに入る」と呼んでいたが、彼以外にパイロットがいない為、共感できる者は1人もいなかった。

ダイサイタマは操縦方式がPMCSである事により、数多のパイロットを拒み続けた特機であったのだ。

「こちらダイサイタマ、これより作戦行動に入ります。」ダイサイタマの背中には風でたなびくマントがあった。そのマントには埼玉県の県旗が描かれており、メディアや国民への印象付けには最適であった。

定の作戦内容は以下の通りである。


(まず最初は指定された交差点に着陸、周囲の交通がはけるのを待つ。)


(その後両肩に搭載されたスピーカーを展開。録音された知事のスピーチを再生する。)


(知事のスピーチが終了し次第スピーカー格納、胸部の2連装重粒子砲に非解放電力供給をする。)


ここまでがまず最初に定がやるべき事である。重粒子砲は基本的に3〜4秒のチャージで発射できるのだが、今回は市民の避難の時間稼ぎという事で非解放電力供給という見た目だけチャージする方法で脅しを掛けている。

既に埼玉県からの要請により市内各所に配置された自衛隊は指示どうりに動き、速やかに市民を避難させていた。恐らく後の説明会見では「本作戦は横浜市に対する奇襲であるが、横浜市の市民に危害を加えるつもりは無く、その為、この様に市民の保護を最優先する形となった」とでも言うのだろう。苦しい言い訳ではあるが、実際にその後の色々な事が起こればメディアもその様な事に構っている暇は無くなる。

「こちら司令本部、市民の避難を確認。ダイサイタマは指定された建物の、指定された箇所に砲塔を向けられたし、繰り返す…」定は画像と地点情報を頼りにその建物を探し出し、その映像を本部に流す事で確認をしてもらった。発砲許可は司令本部から出るものである。

「こちら司令本部、確認!目標の相違なし、撃ちーかたー始めー!」

「復唱、撃ちーかたー始めー!」ダイサイタマは重粒子砲に解放電力供給し、指定箇所に初弾を撃ち込んだ。


その後も数カ所地点を変え、砲撃を行った。

暫くすると予定通りに、敵となるサーバルが到着する。定も勿論その事は承知していた。

日本国内で初となる特機同士の戦いは、完璧な手回しと各員の完璧な働きの元に、当初の目標としていた結果どうりに横浜市の壊滅、そして特機同士の相打ちという形で幕を閉じた。だがここから歯車が狂いだすのである。


日本政府が当初目指していた目標、それは第二首都争奪戦を仕掛け、それにより日本国内での過剰な特機の技術競争を行わせ、有事に備えた日本の防衛力強化と、需要の増大による経済循環を加速させるというものであった。

しかし、そこで問題になったのが諸外国の争奪戦への介入である。これは各都道府県への根回しが行き届いていないが為に生じた問題であった。各地の有力な都道府県は外国から優れた機体の供与を受け、自県で改良、戦闘に投入しだしたのだ。彼らからすればそれが勝つ為に最も手っ取り早い方法であったが、それは日本の技術流出と第二首都の一国癒着の問題が生じる為、日本政府の思うところでは無かった。

やがて、諸外国の争奪戦介入に危機感を抱いた日本政府は方針を転換、自身も一県のバックに着き、その県を一位にする事で最終的に、日本全国の技術を結集した実質的世界最強の国産特機を作りあげる計画を立案し、それは後に「Ω計画」と呼ばれた。そして、ダイサイタマはその計画上の初期モデルとしてα型と呼称される事となったのである。


そして、時は流れる。日本が争奪戦に際して開発したのは、α型を元に作り上げたβ型の「イバラギア」。バックに着く県は、佐久間巖十郎知事の元、機体の開発を行っていた茨城県。こうして日本政府による負けられない戦いが始まったのである。


「と、いうことになっておりまして、鷲宮さんにはそのダイサイタマ(α型)のコックピットシステムを使い、イバラギア(β型)の技術試験を行って頂きます。現状では[一機一人]で様々な技術試験や開発を行ってきました。ですが、今後はパイロットにはより実践的な練習をしていただく為に[二機二人]の体制で主に鷲宮さんには技術試験や開発に携わって頂きます」

「はい、宜しくお願い致します」鷲宮は深々と頭を下げた。

「暫くはPMCSに慣れるための研修期間としてパイロットの定さんに指導してもらいます。彼は日々の訓練で忙しいですが、今後の事を鑑みて是非にと彼自身から申し出が有りましたので、」

「でも、私はPMCSには…」鷲宮は困惑の表情を浮かべた。しかし、男は不思議そうな顔を浮かべて言った。

「鷲宮さんは素晴らしい適性をお持ちでしたよ。普通は腕すら動かせないんですから。定さんだって最初は手を挙げただけで気を失ってしまいましたからね。これからは世界で二番目のPMCSパイロットとしての活躍を期待しています。」敬礼をする男に、鷲宮は暫く呆然としていた。彼女はやっと理解した。採用されたのは機密がばれたから仕方なくではなく、ただ単に合格したからであったのだ。直後に挨拶をする為に定が入ってきた時、自責の念から解放された彼女は3日分の涙を流していた。

「どういう事ですか、これは?」定は戸惑いの表情を浮かべた。

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