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ご当地戦機 イバラギア  作者: くぴどー
第五話 その瞳に光はあるか?
23/32

5-3

「益々激化して参りました、第二首都争奪戦!今回の戦闘場所は大阪になります。我々は今、その危険性に伴い計36台のカメラを様々な場所に設置し、その戦いを報道しているわけですが、ついに残り都道府県も京都が敗れ、片手の指で数えられる程にまでなって参りました。その事からも今回の戦闘、大変激しいものが予想されます!…」

木枯らしが吹く大阪市の外れのこの地では、ご当地ロボによる戦闘が行われようとしていた。

防衛側が大阪、対する侵攻側は長野。長野のご当地ロボはマレーシアで開発中のスタンダードな性能の特機を基本構造はそのままに、改修をすることでその強さを手に入れた「GVFN(ゲヴィフォン)」。主な武装はレールガン一門と対戦車機関砲一門、そして建物越しからでも発射可能な地対地ミサイルを搭載していた。その特異な形状から特機らしく無いと導入当初は言われていたが、その開発コンセプト、機能は特機そのものであり、GVFNが勝利を重ねる毎にそのような事も言われなくなった。そして今では長野の希望として幅広く支持を集めていた。その左端の装甲にはGVFNのロゴがペイントされていたのだが、他のところが黒文字なのに対し、Vのところだけ赤文字になっていたのは、名前の由来である"長野の為に勝利を手にする"(Get Victory For NAGANO)の"勝利"(Victory )の部分であるからであった。

この場にたどり着くまでには、とても一筋縄ではいかない物語があったのだが、ここで述べられることでは無い。

ただ一つだけ言えるのは、この特機と長野が日の目を見ることは本来無かったのだが、類い稀なる努力の結果として、今日の現実が確かに存在しているということであった。


「こちらGVFN、間も無く目標地点に到達。これより戦闘を開始します」

GVFNは通信の直後、飛翔形態から戦闘形態へと変形を開始する。モーターの音が鳴り響きながら、脚部が展開され急減速が行われる。また、武装保持器も回転し、背面に隠していた武装を全面へと向ける。高速度からの変形により機体全体が多少撓むが、GVFNは待ち構えている敵の姿を既に捉えていた。

既に広場でその独特の体制(フォーム)で待ち構えている特機が今回の敵機、「ハングラビオン全力闘魂(フルブースト)」である。奴がこの距離から戦闘を仕掛けてこないのは分かっている。だが彼は、逆にこの距離からでは奴に攻撃を当てる事が出来ない事も理解していた。GVFNは挨拶代わりにまずレールガンでの先制攻撃を行った。コックピットに重々しく、くぐもった衝撃音が響く。球は真っ直ぐに飛んで行くが、敵機は軽々とそれを躱す。

「…事前に分かってはいた事だがショックだな」GVFNはそのままの速度を維持し、敵との距離を縮めていくことにした。


「スー…ハー…」ハングラビオンに乗る飛島一騎(とびしまいっき)はそのコックピットで前方の敵機を睨み続けていた。

大阪のご当地ロボ「ハングラビオン」その強いて見える武装らしきものは頭部の機関砲のみのように見えるが、彼がそれを使った事は無い。先ほどから敵の攻撃を避けてばかりいて一向に仕掛けないでいるのは、まだ敵が彼の間合いに入ってきていないからである。敵はハングラビオンの周りを周回しつつ攻撃を浴びせる。だがその距離は徐々に詰まっていた。

ハングラビオンは一瞬だけ電磁推進装置を点けて、足裏のギミックでその力を更に増大させる。その動きは素早く、そして正確であった。GVFNは砲口の向きから素早く機体を逸らされるため、近づいても尚、球を当てられずにいた。

「まだや、まだや…」飛島ははやる気持ちを抑え、その時を息を呑んで待っていた。急加速と急減速の繰り返しで体の限界が近づく。それでも彼は周りをしつこく飛び回るGVFNに全ての意識を集中していた。

「まだや…」ハングラビオンは軽快なステップを続ける。

そして更にハングラビオンが数度の球を交わした時、その時がやってきた。痺れを切らしたGVFNがついに彼の間合いに入ってきたのだ。飛島はその一瞬を逃さなかった。

既に腕部のサイドに搭載された電磁推進装置は展開され今まさに飛びかかろうとせんが如く、そのチャージを完了していた。

ハングラビオンは今までの動きから一転、ジグザグに進みながら急速にGVFNとの距離を詰めてきた。それに対しGVFNは電磁推進装置を前方に向け始めた。だが動作を終えた時はもう手遅れであった。その時ハングラビオンはすぐ目の前に来ていて、その重く頑丈な腕部を目の前に突き出していた。その腕部の先端のピックと呼ばれる超硬金属槌がGVFNの機体に触れた瞬間、内部の圧力センサーが

反応し、サイドではち切れんばかりに身構えていた電磁推進装置は一気にその全推進力を放出する。機械的旋棍(メカニカルトンファー)と呼ばれるそれは、その恐るべき衝撃力をGVFNの機体に叩き込んだ。

とてつもない爆音が周囲に轟き、その光景にテレビの前の人々は驚愕する。GVFNは一瞬にしてスクラップになっていた。時が止まったかのようなその瞬間の後、ハングラビオンは静かに機械的旋棍を格納した。

「シューッ!…」

挿絵(By みてみん)

一撃必殺にして、最強の特機。それが飛島一騎の乗るハングラビオン全力闘魂であった。


「…と、このようにして次の対戦相手大阪のハングラビオンは一撃必殺の格闘戦を得意とし、全戦全勝を繰り返しております。」茨城県作戦司令本部の会議室では皆冷静にその映像を見つめていた。

「ですが我々は一つここで重要な事を見逃してはなりません」司令補の睦は更に戦闘後の写真をピックアップした。そこには何の変わりもない街中の様子が映されていた。

「戦闘後というのに何の変わりもない街並み、ここが重要なのです。基本的に防衛戦の戦闘後は建築物の損壊はあって当たり前。そう捉えられてきました。」続いて愛知との戦闘の後に取られた被害報告書を基に作られたマップが映された。

「ですが大阪においては全てが防衛戦なのに対し被害はほぼゼロ、これはつまり防衛戦における格闘戦の有意さを証明しているということになります」

「なるほど」巖十郎が深く頷いた。

「次回も我々が攻撃側に回る訳ですが、ハングラビオンに対処する為のみならず、プロジェクト「Ω」の中においても、格闘戦を意識した武装の試作設計、開発を行う必要が出てくると考えました。」

「ですが戦闘までに「β」に大幅な改良を行うのは現状として試作に難航している状況で、我々は中規模での改良で大阪戦を乗り切らなければなりません」

「なぜそこまでして急ぐのですか?司令補」川原は当然の疑問を口にした。それに対し、睦は巖十郎を見つめたが、彼が頷くのを確認すると、おもむろに話し始めた。

「ここに来てラグナロクの活動が活発化してきました。そのことから最終戦闘はラグナロクと戦いたい我々としては残された時間は少ないと判断した為です」

ラグナロク、その言葉はそこにいる全員に重くのしかかっていた。

そんな中巖十郎が重い口を開いた。

「何を冷や汗をかいているんだ君達、我々は最善以上の事は出来やしないのだ。我々は全力で目的に向かって突き進めばそれで良い」

「そうですね司令、最善を尽くしましょう」睦も同意した。

「ではまず対大阪戦に向け、敵の機体ハングラビオンの我々の知りうる全ての情報をここで共有したいと思います…」


会議が終わり、その場には巖十郎と定、睦、川原が残っていた。

「定、お前は次の戦闘どう考える」

巖十郎は不意に定に質問した。それに対し定は答えた。

「間違いなく今のままでは負ける。戦闘の映像を見て分かった。奴もPMCSを使っている。憶測だから公言は出来ないけど…」

「PMCS…」三人が口を合わせた。

「俺自身がもっと何か根本的に変わらなければいけない気がするんだ、奴に勝つ為には…」定は俯きながら言い、その様子を巖十郎はしかと見続けていた。

「定、私に考えがある。お前をもっと根底的に変えてくれる人物に合わせよう」巖十郎はいつもの下衆笑いを浮かべていた。

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