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ご当地戦機 イバラギア  作者: くぴどー
第五話 その瞳に光はあるか?
22/32

5-2

長く続いた曇り空から一転、雲ひとつ無い青空が広がる茨城県つくば市、その疎らな施設群の中で茨城県作戦司令本部はまだ真新しい外壁の色を見せていた。そしてその離れた場所にある地下シェルターの様な入り口を下った先にイバラギアのハンガーはあった。そこでは暖色系の混じった照明の元、エンジニアたちが改修作業を行っていた。取り敢えず今行う事は制御系のセッティングと機体の無駄な部分を削ぎ落とすこと。やはりいつの時代でも軽さは最大の武器である。イバラギアの目標は他の特機と比べてその重量を軽くすること。小柄で武装も少ないが、前後で腕が計4本あるのが最大のネックであった。彼らの目標は最低限の強度と最低限の機能。メディアなどで騒がれている強さとは裏腹に、その開発思想は至って堅実そのものであった。

作業者は全員安全メガネの形をとった複合電子デバイスを装備している。それにはPCと同等の機能が搭載され、情報を目の前に投影する。またヘッドライトにカメラ、インカムの機能を搭載しているので機械の大音量が響く中でもそれは、正確にコミュニケーションをとり、的確に状況を把握する為の重要なツールとなっていた。だがそんな中でも一人一人の作業者の元に行き、声を掛けて回っている者がいた。一人だけ帽子の色が異なるのは彼が現場監督であるからであった。

「長塚さんお疲れ様、何か分解していて気づいたことはあるかい?」その監督は長塚と呼ばれる男が振り返るとにこやかに手を挙げた。

「川原さん、お疲れ様です。そういえばさっき見て思ったのですが、この奥の右側にセンサーボックスがあるのですが、そこの機密性があまり無いのでもし雨などで戦う際に構造上中に水が入る可能性があるかと思ったのですが、」

「ふんふん、なるほど」そう言う間にも川原はカメラで問題箇所の写真を撮りだした。

「それと、一つお伺いしたいことがあるのですが、」

「なんだい?」

「ここの作業順序を逆にしても良いでしょうか?自分はそちらの方が早いかと思ったのですが…」

「うーん、確かにねぇー。どうして最初の人はこうしたんだろうか?」

「ちょっと順を追ってみないかい?…あ、そうか!ほら、前までは先にこっちのガイドプレートを外さないといけなかったんだけど、改良して干渉しなくなったから確かにそうかもしれない。いやー質問してくれてありがとう!マニュアルを書き直しておくよ!」

「いえ、こちらこそ色々言ってしまってすいません…」

「いやいや、これが結果的に効率的なんだと私は司令に教わったんだ。遠慮することは無い。長塚さんもどんどんインカム使っていいんだからね、それじゃあ頑張って」川原の仕事は面倒で大変だ。だが怠ってはいけない仕事である事は、彼自身が人一倍分かっていることであった。


「私はちゃんとできてますかね?司令…」イバラギアを見上げ、そう呟いた。だがその時にインカムから通知が鳴った。本部から招集が掛かったのであった。

話を聞くと、どうやら次の対戦相手が正式に決定したらしい。新兵装の開発も企業に依頼していた事から、川原は事前に情報は得ていたためそれが何処なのかは知っている。恐らく今回の会議ではより具体的な戦略を構築するという事になるのだろう。

川原はハンガーを出て、本部へと続く連絡通路を進んでいった。その壁には県民からの応援メッセージが貼られている。それは本部のエントランスにも貼られているのだが、ここのものは全て我々エンジニアに宛てたものだ。エンジニアたちは毎日必ずここを通るので全員が増えていくメッセージを見て、仕事にプライドを見出す。まあ「これ、うちの娘が書いたんですよ!」なんていうのろけ話も少なく無いが…

だが川原が毎回通る時に目に留めるのは、司令からのメッセージだった。最早目立たなくなりつつあるが、彼には一発でその場所がわかる。そこにはこう書かれていた。

「私には私の仕事があり、諸君らには諸君らの仕事がある。そして当然であるが諸君らの仕事は私には到底できないのだ。だからこそ私は諸君らに対し、最大限の敬意の念を持って、諸君らの長となる事をここに誓う。 茨城県知事兼茨城県戦闘司令本部司令長官 佐久間巖十郎」あまり長い文では無く、変わり映えもしないものであったが、その宣誓に近い文を巖十郎は確実に守り、多くの者から信頼と敬意を集めていた。あの奇特な倫理観と言動や行動、そして不敵な笑みとは裏腹に、やるべき事には誠実に取り組む姿勢は見習いたいと川原は考えていた。

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