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西暦2XXX年、日本は好景気の真っ只中にいた。それは、最初のころはメディアに叩かれていた新経済政策が基盤に乗ったことによるものであった。“日本国内の徹底的な効率化”の名のもとに日本各産業界の全面的な協力により半ば強引に政策を強行した佐久間政権は、その後に退陣に追い込まれたもののその時に残されたものは確実にこの日本を変えることに成功していたのだ。
そしてその徹底的効率化の風潮が日本国中に根付き、国内の様子が一変し始めたのもまたこの頃のことであった。物や金はめまぐるしく動き、人々は街に溢れ、科学技術は目覚ましいほどの発展を遂げていた。
だがしかし、そのことにより日本はまた未曽有の危機にも立たされていた。
そう、首都東京の機能が限界を迎えたのである。
この時の圧倒的な東京の土地面積不足は予想以上に深刻だった。最早東京は狭い国土が故の逃げ場としてあった空も、地下も、すべて埋めつくされていた。だかしかしそれでも尚、我々は東京の機能に満足はしていなかった。繰り返される増改築に増え続ける人口、交通。この時の東京は無駄な余裕など一切ない,生きながらにして死んでいる様な状態にあった。
そんな中やがて国会はこの事態を危険視し、急遽ある計画の発動を決定した。その名は「第二首都計画」。パンク寸前となった東京の首都機能を移転し、分散させようという計画である。そこで早急に候補地の審査が行われ、その結果候補地は神奈川県の横浜市となった。理由は横浜市なら東京に近く、また都市の機能も成熟しているためコストと時間をかけずに首都機能を移転できるということ、また交通面から見ても非常に有利であるということからである。
このことは瞬く間に日本全国に知らされ、横浜では発表から1か月後には首都機能の移転に向けて様々な場所で着々と準備が進められていた。一挙に活気づく横浜、メディアもこぞってこの様子を取り上げ国民は新しい日本の行く末に期待を膨らませていた。
だがしかしその暫くしないうちに大きな事件が起こったのである。
その日、横浜の中心地には巨大な人型ロボットが立っていた。くぐもった機関音を周囲に轟かせていたそのロボットの名は「ダイサイタマ」。大柄な機体に先鋭さを強烈に主張する外装、そしてその前面にはそれがご当地ロボ(地域の主に広報目的で開発された人型巨大ロボット)であることを知らしめるには十分である県名とさいたま市の文字の大きなペイントが施されていた。テレビや雑誌でも度々紹介されたその機体の知名度は非常に高く、今となってはさして驚かれることはない。だがしかしこの時のダイサイタマはいつもと様子が違っていた。普段は機体各部に付けられていた安全装置が外され、その胴部には巨大な二つの砲塔のようなものが備え付けられている。そしてその後ろにたなびく巨大なマントは埼玉県の県旗で、風にあおられるごとにその影の形を刻々と変えていた。だがそのマントの中には対戦車機関砲が隠しもたれていたのには、この時はまだ誰も知る由はなかった。
「我々は埼玉県である!我々は横浜が第二首都になるのを不服とし、いかなる手段を用いても横浜の第二首都化を阻止する!」
やがてダイサイタマの肩に値するあたりに搭載されたスピーカーからはゆっくりと、だが力強い埼玉県知事の音声が流れ始めた。ビル群に反響するその声に、横浜市民は皆この様子を何事かと思いつつ、照りつける太陽に眩しさを感じながらも不安と困惑の目でこのロボットを見上げていた。
「これは埼玉県の総意である!我々埼玉県こそが第二首都に相応しい!決してさいたま市は横浜になど劣っていはしないのだ!」その場の誰もがきっと何かの企画か何かだろうと思って疑わなかった。日本人の数百年にわたる平和主義を貫き続けた「日常」は彼らから危機感という感情を奪っていたのだ。だがしかし、次の言葉で彼ら、いや、日本全国の「日常」は崩れることとなる。ダイサイタマのスピーカーからしばしの沈黙の後、声高らかに知事の声が横浜市中に響き渡った。
「…我々はこれより、横浜市を破壊する!」その声が聞こえると、ダイサイタマは展開していたスピーカーを格納し、胸部に搭載された二連装重粒子砲に電力供給を開始したのだった。
横浜市中は逃げ惑う人々でパニックになった。電車は満員となり駅はこれまでにないほどの混雑を起こした。さらに地下道では逃げてきた人々による怒号と悲鳴によって指示をする警官の声をかき消し、道路は放置された車であふれた。そしてすべての人々が地上から姿を消した時、横浜の中心に聳えていたはずの神奈川県庁舎は跡形もなくなっていたのだった。
だが、ダイサイタマが勝利を確信し帰路につくため機体を反転させようとしたとき、その機体に強烈な衝撃が走った。ダイサイタマが何事かとその方向を向くと、そこには緑色の迷彩が施された巨大ロボが立っていた。崩れたビルの合間から見えたその機影は既に傾き始めた陽の光を背に浴びて深い影になってしまい詳しいところまでは見えなかったが、その特異な形状によってダイサイタマのパイロットにはそれが何であるのかを判別するのにはさほど時間がかからなかった。人型と呼ぶには少し物足りない武装一体型腕部に脚部は射撃時の安定性を持たせるためのキャタピラー搭載型、そして戦車の砲塔を彷彿させる胴部は地響きのようなエンジン音を響かせていた。それは十数年前にその形が確立された特殊戦略戦車と呼ばれるものの姿であった。
米軍汎用型特殊戦略戦車「ZTP-34サーバル」である。神奈川県が、横須賀基地から急遽応援を要請して横浜防衛に向かわせたものだった。
そして、その後横浜市が壊滅するほどの戦闘が行われ、その結果両者は相打ちとなった。また、第二首都をその手にしようとした埼玉県もその後の神奈川県の報復攻撃により第二首都の夢は潰えてしまった。だがしかし、このことが日本全国に大きな影響を与えた事は言うまでもない。
第二の首都、それはどの県でも喉から手が出るほどに欲しい地位。次の候補地はどこだ!やがて日本全国の都道府県は我が県こそが第二の首都に相応しいと主張し始めた。そう、ここからすべてが始まったのだ。「第二首都争奪戦」が…
各県一機のご当地ロボを作り、敵の県の“候補地”に乗り込みそこを破壊する。そしてその“候補地”で待ち受けるのはその県のご当地ロボ!そうして各県の壮絶なる戦いが始まったのである‼