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ご当地戦機 イバラギア  作者: くぴどー
第四話 over man
18/32

4-3

間も無くイバラギアは稜線を越える。迫りつつある眼前の山に定はひとつ深呼吸をした。だが定には一つ気がかりなことがあった。彼は前回の戦闘を思い出した。あの時といい中国での戦闘といいまたあの抑えが外れる現象に恐れを感じていたのだ。きっと使いこなせれば戦いを有利に進めることも可能であるのだろうが、その時には自分が自分で無くなりそうになる気がする。それに極力それを抑えたいと考え、意識していたのだが最近はそのことが効かなくなってきていた。最早自分の制御の範囲を超えつつある。もし、あのまま流されてしまったら一体私はどうなってしまうのだ?それを思うと次第に自分自身が怖くなってきたが、思いつめていても戦闘はじきに始まる。眼下の景色が山並みに変わると、定はまるで意を決したかのようにEVIMを作動させた。


玲はその時を息を潜めて待っていた。間も無くイバラギアが顔を出す。その瞬間に第一射を行うのだ。心臓の鼓動が早くなる。あと、3秒、2秒、1秒、...

来た!イバラギアが姿をあらわすと同時にアンシエントのレールガンからは秒速12キロメートルの弾丸が打ち出されていた。凄まじい衝撃波とともに打ち出されたそれはイバラギアへと寸分狂わず突き進む。だが、その弾がイバラギアに当たることはなかった。

「どうして!?」華麗な機体さばきでイバラギアは見事にその弾丸を躱して見せた。

玲は動揺していた。何故なら今まで当たらなかった敵などいなかったからである。確かに今までの相手は足の遅い特機ばかりであったが、それだけではない。イバラギアは前回に比べて機動性が増している。しかもあの尋常ではない加速は何なのだ。一体どんな電磁推進装置を使っているのだ?彼女は予想を上回る性能を見せる敵機に動揺していた。


「クッ、危ない...」定は寸前のところで何とか躱すことが出来た。イバラギアは弾丸による衝撃波に少々体勢を崩したものの、尚も強烈な推進力で飛行を続けた。敵との距離が縮まる程躱すのは困難になる。定はレーダーを指向性アクティブモードに変更し、奴の動きにこれとないほどの注意を向けた。そうすれば定は奴の姿を細部に渡って認識することが出来た。こちらから見ればレールガンしか装備していないように見えるその機体の全高は、どうやらそうでもなさそうだ。戦車を基として開発されたのだろうか、薄く平たいその機影は正しく戦車のそれとよく似ていた。定はアンシエントがレールガンを動かすそのわずかな動きさえもすぐ目の前で見ているかのようにわかった。あとは発車のタイミングさえ分かればそれに合わせて砲口の向きから機体をそらせばいいだけだ。奴のレールガンのチャージ時間は2.67秒、機体を動かすのは...今だ!

定は機体を僅かにずらして射線から機体を反らす。イバラギアはその急な挙動に各部から軋みがあがる。定はイバラギアに申し訳ないと思いつつ急な挙動に暴れる機体を抑え込んだ。すると丁度その瞬間にまたもや衝撃波が機体を揺らす。もう少しで市内に入ることが出来る。そうすればきっと戦いを優位に進められるはずだ。そう考えふと気が抜けた。だかその拍子に定はふとあることに気がつき、冷や汗を流したのだった。

(またあの時のように自分に抑えが効かなくなっている!)

定の中にある禍々しい何かが彼の表層に現れ始めていた。だが押さえ込もうとすると意識が持っていかれそうになる。それではいつものパターンだ、絶対に自分を見失いたくない。その考えが定に僅かな判断の遅れを生じさせていた。戦場では僅かな気の迷いが命取りになる。睦から教科書の受け売りのように教えられていたのに、...

だが後悔しても遅かった。イバラギアの回避運動がワンテンポ遅れた。そしてそれを待っていたかのように超音速の弾丸がその機体に衝突したのだった。LLPのバッテリー格納部に当たったそれは質量こそセラミック故に少ないものの、その高すぎるほどの弾速はダメージを与えることもさることながら、イバラギアの姿勢を崩すのには十分すぎるものであった。

時速800kmを超すその機体で姿勢が崩れれば最早定でも立て直すのは困難を極めた。暴れる機体を制御し、収束し終えた時には、機体は地面と激しくぶつかっていた。

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