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ご当地戦機 イバラギア  作者: くぴどー
第三話 心身の休息
14/32

3-3

「親父が?」再び病室で目を覚ました定が問診を終え、早々に支度をしていると慌てたように医師が病室に入ってきた。

「玄関の方で待っていらっしゃいますよ。」そう言った医師にまだ何のことかわからぬまま定は支度を終え病室を後にした。

複雑だがわかりやすく案内が施された院内を通り正面玄関に向かう。

清潔感のある院内から外に出ると、容赦ない陽射しと虫の音が降り注いだ。腕時計端末の情報を一通り確認し、その様に顔を幾分かしかめていると定の横から聞きなれた声がした。

「よくぞ生きて帰ってきたな、定...」

横を振り向きながら言葉を返す。

「こんな所で遊んでていいのか、親父?」いつもの見慣れた顔が笑っていた。相も変わらずの下素笑いである。だがその後ろにあるものを見て定は暑さなど忘れてしまうほどに驚いたのだった。


「これ、どうしたんだ?」

 そこには国産車最速と謳われるスポーツカーがあった。薄く平たい中にもさらに無駄を削ぎ落とし、実用性を完全に無視した中央縦一列のツーシーターはその車の強烈な個性を演じていた。

「どうだ、こいつでドライブにでも行かないか?もちろん定が運転席だ。」

定がノーという筈が無かった。


挿絵(By みてみん)


「どうだこの車は?」特に後部座席のスペースが絞り込まれているため、快適とは言えないその車内で巌十郎は嬉しそうに聞いてきた。

「最高だね、だけどこの車一体どうしたんだ?」筑波山のワインディングを走りながら、定は当然の疑問を口にした。

「どうしたんだって、今日は定の誕生日じゃないか。プレゼントさ、何をとぼけた顔をしているんだ?」巌十郎は度重なる横Gに肩を車内に張られたフレームとぶつからせながら答えた。

「ん?誕生日は明後日じゃ無かったのか?」定は車内の複合モニターを確認する8月4日、確かにその日は定の誕生日だった。だが戦闘があった日は8月1日、という事は…

「まあ無理もない、お前は2日間以上も気を失っていたんだからな」それを聞いて定はたった一回の戦闘でこのザマかと苦笑いを浮かべた。

「だがこの車が楽しいのは解るがそう簡単に壊してくれるなよ、今回のは安物じゃないんだからな?」そう言いながらも巌十郎も楽しそうである。

定は今まで安物の車を弄っては廃車にするのを繰り返していた。無論それも巌十郎は知っていたが自分で買った車というのもあり、特には口は挟んでこなかった。そのためそろそろいい車を買って壊さずに乗ることを覚えろということであろうか?いや、親父のことだから何か裏があるはずだ。定は車に乗りながらもそんな事を考えていた。

そうこうしているうちに、山の頂上手前の駐車場まで来てしまっていた。この道が短いのか、定のスピードが速いのか、巌十郎は考えるのを止めておいた。


「定、最近の調子はどうだなんだ」山の頂上まで登り、二人で夕陽が赤く染める山の麓の市街地を眺めながら巌十郎は聞いてきた。だかその「調子」の意味を察した定は少し俯いた。

「前より酷くなりつつある、かな。親父も分かるだろう...」

「勿論だ。こちらとしても対応策は考えている。いざという時はお前の心身を安全に保護する用意がこちらにはあることは知っておいてもらいたい」その言葉に深く感謝をしつつも定は暫く沈黙していた。

「だけどそれを使うとしても最終的には俺に決めさせてくれないか?」定は巌十郎を正面から見つめた。

「何だ?迷っているのか?」巌十郎からの問いに、定はもどかしいような表情をしていた。

「まだ自分自身でも分からないんだ。どうするべきか、或いはどうしたいのか、」その問いを出すのは戦いの中の極限状態でしかできないと考えていた。

「そうだな、極力私としてもお前にもしもの最悪な事態は避けたいが、その時は躊躇ってくれるなよ、」巌十郎は横にいる定を見た。

「その時になったら、な...」だが定は少し不安を抱いているようであった。

「そういえば親父、もう次の相手は決まっているんだろう?」話をそらすかのように定は話題を変えた。

「あぁ、勿論だ。」そう答えはしたものの、さっきから黙ってこちらを見てくる定の目を見て仕方ないといった表情を浮かべた。

「次の県は」既に赤く染まった太陽を眺めながら、巌十郎は何か悪いことを企んでいるかのような眼差しをしながらその名を口にした。

「京都だ」


古き良き文化を継承しつつもその高く安定した経済力で、今日に於いても第二首都争奪戦の有力候補地として生き残る強豪である京都府。周りを山々に囲まれ、区画によって性格の異なる街並みは、一見豊富な戦闘パターンが予想されようものだが、実際には違ったのであった。

今までの京都が経験した戦闘は6回。相手の数は和歌山と鳥取の2県であったが、そのどちらにおいてもほぼ一方的な戦闘であったようである。

京都府のご当地ロボ、「アンシエント」は高度な制御システムと火器管制システムにより、多種多様な武装を同時に操作することが可能であった。その中でも特筆すべきなのが弾丸の一部に耐熱性が高いとされるセラミックを搭載することで、限界弾速の飛躍的な向上に成功した大型レールガンである。レールガン特有の応答性の良さと高い砲口初速を活かした遠距離砲撃は、戦った両2県を最も苦しめた武装であった。特に武装の出来も機体の制御能力も劣っていた鳥取県は再戦と撤退を繰り返し、その度に改修を続けるも、自身もアンシエントと同等の砲口初速を実現した弾丸を開発したが、4度目の再戦に於いて激しい打ち合いの末、計26発の被弾をして機能停止となった。その時の鳥取県のご当地ロボ、「さみだれ改」は、高い防御性能を実現した自走砲ベースの特機でありその移動速度の遅さもあってか、その時京都市街の最も外れの場所までしか到達はしていなかった。

そして未だに中近距離戦闘が行われていない京都府は難攻不落の都とされ、アンシエントの真の実力はまだ未知数であることもあり、各都道府県は尻込みをしたまま今日に至っていた。


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