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「…!」イバラギアが煙の中を抜けると、振り向いたすぐ後ろには斬金が迫っていた。咄嗟に構えたレールガンで射撃を行うも、斬金はそれに構うことなく前進してきた。そしてその右腕からは青白い粒子の固まりが形成されていた。
(何だあれは?)
(スモークの使用とこの距離、有効範囲の少ない武装か?)考えを巡らせているとその粒子の固まりが10メートル程の細長く纏まった形状を帯び始めた。見たこともない武装であったが、何となくそれが何であるのかを定は理解した。
(不味い、このままでは追いつかれる!そうすればこの機体は間違いなくやられる!)
圧倒的に危機的な状況、定の精神は本能的に死というものを理解した。
だがそのことにより彼の精神は何かの抑えを外したのだった。その瞬間、定の全神経が覚醒する。周りの世界が遅くなり、音がなくなった。そして異質なこの世界で異様なまでの冷静さをを持った定は、その武装をしかと捉えていた。
スラスター腕を上方に突き出し、その反動で胴体を下げる。更に電磁推進装置を着けて下方に加速。胴体を高度3メートル程にまで急速に下げた。
だがそれだけでは逃れられない。もう敵の武装は目の前にあった。
足裏の電磁推進装置を点火し時間を稼ぐ。その間で、片足をを上方に突き上げることでさらにその反動で機体を下方に沈め込んだ。イバラギアは特機としては御法度の走行中に機体を地面に付けるという行為を行った。機体が地面に接している部分から、激しく火花が散っている。
後に「粒子刀」と呼ばれる様になるそれは、イバラギアの胸部装甲と左の武装腕を引き剥がして通り過ぎていった。
目の前を流れる"それ"を捉えた定は自身の脳が急速に消耗しているのが理解できた。
(このままでは意識を失う…)
だがここで気を失っては負ける!そのことだけが定に最後の力を振り絞らせた。
最早言語を発することもできなくなっていた定は、残りの意識で残しておいた残る右武装腕のレールガンを斬金に向けた。チャージは既に完了している。
そして乱れる視界の中で、定は機体に射撃の命令を送ったのであった。
双方のご当地ロボはその動きを完全に停止した。同じ機能停止でも、斬金は敵陣の中で機能停止をしたのだ。つまりは茨城の勝ちである。周囲には損壊した建物があり、戦いの激しさを物語る。
「えー、今回の戦闘、ご当地ロボの相打ちということで茨城の勝利ということに…なりました」完全に当初の予想外の結末に、レポーターも言葉を失った。
テレビではひとしきりその様子が映された後、画面が切り替わった。そこに映されたのは、演説台に立つ佐久間司令であった。茨城県の県旗を後ろに掲げ、全国の生き残る都道府県に向けた宣戦布告が行われた。
「我々は茨城県である、その人気の低さから、最下位の県などと呼ばれる時もあった。相手にされないこともあった。この戦いにおいても除け者にされていたのは事実だ。そして県民も半ばその事に諦めを抱いていたことだろう。だがしかし、我々は勝ったのだ!あの愛知に!…だが我々はこれだけでは終わらない。終わるわけがないのだ。今まで誇りを失っていた我が県民たちよ、臆するな!私には勝算がある。この戦いを勝ち進み、第二の首都をその手にする事が可能なのだ!知名度という打算を、勝利という事実で塗り固めてやる!…そうだ、我々が"あの"茨城県だ。我々はこれより、全国の生き残りを全て打倒する!我が県こそが第二首都に相応しいという事を、思い知らせてやる。生き残る都道府県に告ごう!これからが本当の戦いであると!」
そう、ここからが始まりである。第二の首都をその手にするために、「茨」の文字を携えた、これは一機のご当地ロボの物語である!
最後の一県となるまで、まだその道のりは長い。
現在の生き残り都道府県…6




