私をフランスに連れてって。
目の前には選手達。
私は車の後部座席に乗って、自転車選手達を眺めていた。
「というかさ、兄貴。なんで私が、こんなとこにいなきゃいけない訳?」
「そりゃ、お前。俺の友達が出場してるからじゃねぇか。お前みたいな奴だったとしても、男よか女にサポートして欲しいって思うだろ、フツー」
「黙れ、ロリコンが」
「違ぇっ! 俺は一般論を述べただけだっつぅの」
せっかくの休日だって言うのに、なんで私が。
そう思うのも、無理が無いと思う。中学生は暇そうに見えて暇じゃないんだ。
もともと、私はスポーツには興味ないし、だいたいその兄貴の知り合いだって、私には他人だし。
ため息をついてあたりを見回すと、なんか知った顔が目に入った。
…………え、まさか。だって、あいつはスポーツすごく苦手そうで。
マラソンは出来てたみたいだけど、球技とかだったらもうからっきしだったのに。
「……柳? いや、でも…見間違い……?」
いくらクラスメートだといえ話したことなんかほとんど無いし、見間違いだという可能性も大いにある。
だけど、あのひょろりとしていて涼しそうな横顔はたぶん、奴だ。
「兄貴。自転車って、運動がからっきしでも出来るようになるの?」
「おー、なんか知らないけど、他のスポーツがからっきしでも出来るようになるらしいぞ。競輪はともかく、ロードレースは使う筋肉が違うらしいしな」
むしろ、ロードレーサーは他の運動が出来なくなるらしいぞ。
確実に何処かの受け売りなのに、自信満々に偉そうに言う様子に私は呆れてため息をつく。
そんな会話をしているうちに、試合が始まったらしい。
「給水ポイントまで先回りしとくぞ」
兄貴はそう言って、車を走らせだした。
公式の本当の試合だとサポートカーというのがあって、それが自転車選手の後ろにいるらしいんだけど、こんな民間の試合だとそういう訳にもいかないらしい。
ぼそりと、「結局、日本は自転車弱小国だしな」と兄貴は言う。
それを聞き止めて、私は聞き返す。
「弱小国?」
「そ。今度、お前にも見せてやるよツール・ド・フランスの試合風景。DVDだけど、驚くぞ」
こう言われて頷いた時点で、私はこの自転車と言う競技に興味を持っていたのだろう。
そして、最後の極めつけが、自転車で滑り抜けて行く柳だった。
力強くペダルを踏んで、そして、進んでく。徐々に徐々に加速していく姿は普段、絶対に見られない奴の姿。
必死に自転車を漕ぐ目の前の柳と、教室内での飄々とした様子は結びつかない。
けれど、自然と視線が引き寄せられて、目が離せなくなる。
「……頑張れ、柳!」
他の選手に飲み込まれていく、小さな中学生の、子供の身体。だけれど、私には凄く頼もしく大きく見えて、なんだかクラスメートが今までのように、かかわらなかったからという理由とは違う意味で遠く感じてしまい、私は思わず自動車のサイドウィンドウから顔を出して、小さく呟いた。
絶対に届いてはいないだろう。それでも、私は満足だった。
そして、二年後。
私は、きょとんとした顔の柳に自転車部マネージャーと書かれた入部届けを叩きつける。
さらに引き続き高二の作品。サブタイトルはうまく思い付かなかった。




