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自転車部シリーズ  作者: はせがわ
高校時代編
3/9

空とレースと飛行機雲。

 スーッと風が肌を撫でる。その風がやってきた方向をちらりと見ると、やはり窓の外でも木々が揺れ騒いでいた。その背景には真っ青よりも少し薄いくらいの群青色が見え、入道雲の間をかいくぐって飛行機雲が主張している様子が目に入った。風が運んでくる空気は冷たいわけでもなく、かといって中途半端にぬるいでもない、あたたかい中に涼しさを孕んだ、ちょうど眠気を誘うような温度である。


「ふわぁ……」


 小さくあくびをして、教室内に目を戻す。

 木曜日の五時間目、しかも教科が日本史ということも手伝ってクラス全体にやる気の無さが充満していた。

 教師自身もなんだか億劫そうに、黒板につらつらと文字を書く。

 それを書き写しながら、私はちらり、と隣の席を見た。

 席替えでたまたま隣になった、私がマネージャーをやっている自転車部のエースである柳も、丁度良いタイミングで私のほうを見たらしく、バチっと目があって慌てて二人して逸らす。

 誰かに見られていたら、さぞ滑稽だろう。くすり、と小さく笑いを漏らして私はもう一度右隣を見た。柳もそれは同じだった様で、再び目が合う。

 普段、部活の際には掛けていない眼鏡のレンズががキラリと光を反射して目を細める。奴はそんなことを気にする様子も無く口をパクパクと開閉させ、私になにかを言おうとする。

 だけど、私はそれを理解できずに首をかしげる。

 柳は諦めて口を閉じて首を二回、小さく横に振った。

 私はため息を押し殺して、ルーズリーフを取り出して書く。


『さっきから、ナニ?』


 四分の一に折りたたんで隣に投げ、黒板を見た。思いのほか板書は進んでいた。

 慌ててノートに書き写す所為でぐちゃぐちゃになり、けれど、それを訂正する気力も無くそのまま書き続けた。

 そこへカサリ、と音を立てて先ほどのルーズリーフが投げ返された。


『いや…窓の外に何か見えたのかなって』


 シャーペンを持ち直して返事を書く。


『ヒコーキ雲がキレイだった』


 だけど、黒板にノートを書き終えた教師が、時代背景の解説に入ってしまったため、こちらを向いており紙を投げられなかった。

 もう一度、紙を広げてシャーペンを持つ。筆箱で小さな壁を作って、さっき書いた文字の下に続けて文字を書く。


『フランスにもキレイなヒコーキ雲あるかな?』


 折りたたんで投げようと思ったけれど、柳がこちらを向いたため、下のほうで手渡しした。

 返事はすぐに投げ返された。


『生で見ればわかるだろ、そんなの』

『そりゃ行きたいけどさ……』


 乱雑に書きなぐったら、ぴったりそのときに鐘が鳴った。くしゃり、と紙を握りつぶしながら挨拶をする。


「ありがとうございましたー」


 億劫そうな声がぼそぼそと教室中で発せられ、教師は帰り支度を始める。


「私、フランスで飛行機雲…てか、空よりもあんたがレースしてるとこが見たい」


 ちょっと言うのが気恥ずかしくて、言った後に慌てて席から離れる。

 少し自席から遠い友人の席で、ちらりと柳を見れば浮かんでいる表情は、呆然としていて。

 思わず、眼鏡を外してポカンと口をあけている様子にくすり、と笑みを漏らしてしまった。

 彼の向こう側、窓の外で小さな飛行機が泳いでいるのが目に入った。

これも!たしか!高二の時の作品です!

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