スポーツ少女の箸休め。
目の前の純粋な笑顔に、私は思わず視線を逸らした。
私と違ってスポーツ万能少女、陸上部のエースであるリカちゃんが私をキラキラした目で見ている。
こういう視線には心当たりがある。
きっとおそらく、このあとに続く言葉は、
「ねぇ、ミノッチ。とうとう柳と付き合うことになったんだって?」
……やっぱり。嫌な予感が的中した。
柳とリカちゃんは、いわゆる幼馴染という関係で。そもそも私とリカちゃんと仲良くなったのも、私が自転車部のマネージャーになってから、柳を通して紹介されたのがきっかけだ。
「………なんで、そんな話に?」
私がそう聞けば、リカちゃんは綺麗に笑う。まるで、花が咲いたみたいに。
「だって、ミノッチ、柳についてフランスに行くって宣言したんでしょ?」
きょとん、と本気で信じて疑わないような表情だ。
「…あのね、リカちゃん。それ、たぶん柳もそう言う意味で言ったんじゃないと思うよ」
もちろん、私も。あんなプロポーズ紛いの言葉だけど、その意味が含まれてはいなかったと私は思う。
「嘘よ。だって、柳は絶対ミノッチのこと気にしてるって。ミノッチもとうとう、受け入れたんだと思ってたのに」
「あのね……」
思わずため息をつくと、リカちゃんは微笑む。一見天使にも見える微笑みだ。百点満点、お見事だ。
だけど、私には何故か悪魔の微笑みに見えてしまった。
「いいわ。ミノッチがそのつもりならそれでいい。だけど、柳って結構モテるのよ」
「知ってる」
予想できていた言葉だったので動揺すること無く、淡々と返事をする。
いくら球技が出来ないと言っても、勉強できるしその上ルックスもそこそこだ。
短距離は苦手みたいだけど長距離では、飄々(ひょうひょう)と上位を攫っていくのでそこで注目もされていた。
リカちゃんは私の淡々とした様子がお気に召さなかったのか、頬を膨らませて言う。
「でもね、ミノッチは柳にとって特別な存在よ。だってあの子、人に触れるのすごい嫌がるのに、ミノッチにだけはそうでもないんだもの」
………そう、なの?
たしかに、私に対してはわりと普通に触れたりする。
私の体調が悪かったら額に手を当てたり、言葉を遮るときは口元に人差し指………あ。
あのときの真剣な柳の顔を思い出してしまって、血液が逆流するのを押さえられない。
そんな私の様子を見て、リカちゃんは微笑んだ。
「ふーん、ミノッチも脈無しって訳じゃないんだ」
満足そうにしながら携帯を取り出したリカちゃんに、一本とられたと思って思わず大きくため息をついた。
「もしもし、柳。ミノッチがね、柳のこと好きだって」
………ッ! そんなこと言ってないから!
引き続き高二の作品。