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あめのひ

作者: 桜香樹

『にわか雨はありますが、概ね晴れでしょう』

「こんなとき裏切られた気分になるのは人間特有の性質なのね」


 生憎のお天気に辟易した私。空模様と同居人、ふたつの意味で。


「傘をたたく音にあわせてステップ踏むの。わんつーすりーわんつーすりーって。

 ほら、途端にそらの指揮者みたい」


 しゃるうぃーだんす? 梅雨も盛りの7月始め、この子の春はいつ終わるのかしら。

 傘の柄で少しもめ、(似合うと言われてもピンク地に黄色の水玉は無理があると思う)並んで家を出た。


 区の指定した医療センターまで歩いて20分ほど。乳ガン検診のお知らせがポストに入っていたのはちょうど2週間前だった。タダより安いものはないのだ。

 こういうとき、新聞を読んでない私たちにはありがたい。普段は宅配ピザか高級マンションの広告ばかり呼び寄せるこの子(赤くないのに紅子と名付けられた)もたまには役にたつ。


「だんだんよわくなってきちゃったね」

「このままじゃ着くまでにびしょ濡れだったからちょうどいいって」


 明るくなる雲間と逆行してトーンダウンする同居人。


「またお医者さんに『今日のうんちの色は』とか聞かれるのイヤだなぁ」

「大丈夫、チラシには女医を揃えてますって書いてあったじゃない」


 内心、雨の日で通行人の少ないことに感謝した。正直慣れっこでもあるのだが奇異の目は浴びないに越したことはない。


「それはそうとちゃんとガスの元栓は閉めてきたの?」


 今朝の厚焼き卵は絶品だった。いつのまに腕をあげたのやら。

 築40年のボロアパートは今でも手動で扱う。もしもボヤ騒ぎで火の元を疑われたとしたら。せっかくの2人の箱庭をでていかなければならなくなるのは勘弁したいところである。防犯上の都合もあって家族以外の女性二人暮らしを認めてくれるところは貴重だ。


「あー、えーと。……うん! 確かにしめたよ。あれはボリュームのつまみだったから演奏の最後にきゅっとした」

「そう、ならよかったわ」


 やっと晴れ間が見えてきた横顔にこちらもいつもの調子を取り戻せる。畳んだ傘を振り水を払う。

 今度こそ予報通り暑くなりそうだった。

 空いた右手にしがみつく重さが覗いた太陽より声高に物語っていた。

読んでいただきありがとうございます。


30分で書き終わらなかったので細部修正しました。


久々にやると緊張感を持ちつつできるので即興小節も暇つぶしにはオススメ。書きの手癖も数本やるとぽつぽつ見えますね。


怪しい火ってどういう意図のお題だったんでしょう。

主題にするには難しく、単語として使うには……火の玉、肝試しネタとか?

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