第33-2話 〜其々の生き方〜
それは恐怖からではない。
(私にも権利が——)
サングィナトーレスに連れ去られてから、意思など持ったことがない。
いや、許されなかったのだ。
それを今、この大将軍はこの敵国のスパイかも知れぬ女に——
尋ねたのだ。
一気に惹かれた。
——これが、理想の共有
これこそが、真なる強者なのか——
跪くベラはセリナの顔を仰ぎ、
「セリナ様、許されるのならここに置いていただきたく存じます。そしてこれまでの……」
罪を償いたいと言いかけ、涙をグッと堪えた。
”泣けばいい”
そんな安直な人間では無いと、自分に言い聞かせたかったからだった。
「そうか、其方への処遇は一任されておる故、追って知らせを寄越そう。それまではここを居室と使って構わん。アマリス殿も異論は御座いませんな?」
と、切り捨てるような言い方を選んだセリナ。
彼女にはまだベラへの接し方に迷いがあると見えた。
そして去り際に、
「クロエ様への感謝、忘れるなよ」
と、セリナらしからぬ余計なひと言。
しかしそれが、多くを語らずとも、ベラへの『赦し』を表しているのだった。
そしてその足でエリシアに、お目通りを願ったセリナ。
その部屋に通されるとアベラルドもそこに居た。
「わしがお邪魔なら遠慮は要りませぬぞ」
と、気さくな笑顔を見せた。
「いえ、司祭様にも」
そしてベラから得た情報と、彼女の処遇について話し出すのだった。
「うーん彼女の役目ねぇ」
決めあぐねるエリシア。
そこへ、
「特に無いのなら、わしにくれんかの?」
アベラルドが何かを所望するのは珍しいことだった。
それに驚いたセリナが、
「司祭様には、若すぎるのでは?」
と真顔のまま返すのだった。
「なぁに馬鹿な事をいいよるかのう?わしの後継者候補にと言っとるのじゃ」
笑いつつも呆れるアベラルド。
「だって、あなたが『くれ』と言うから、私もついセリナと同じ事を考えてしまったわよ」
と、半分本心だったエリシア、これまた彼女も真顔だった。
アベラルドは、熾烈な過去を背負った者ほど、エレスミア様の教えを心から受け止めるのではないか?
そしてそれこそが、ベラ自身が自分を赦せる未来を、掴めるのではないか?
そう素直な思いを告げた。
「そしていずれは、多くの人をも救える存在になってくれようて」
と、白い髭をさするのだった。
ベラの一件はアベラルドに任すこととなったのだが、
「やはりマルセルが絡んでいる様でして……」
シリウスという名が出たことを切り出すセリナ。
「そうねえ、一度マルセルに問い正してみるしか無さそうね?もうここまで来たら」
と、エリシアがこれもアベラルドに任すと言わんばかりの顔で言う。
「ちと、荷が重いがやるしかなさそうじゃな」
恭しく答えるアベラルドに、
「お待ち下さい」
と、声を強張らせるセリナ。
顔を見合わせる二人。
「その役目、この私にお任せいただけませんでしょうか?」
と、セリナ。
それに対して、
「その理由は?」
と、つき離すエリシア。
当然だ、総帥の下したモノを覆すのだ、それなりの根拠が必要だった。
「此度の一件、到底赦される事にございません」
と前置きを置いた上で、
「お恥ずかしながら」
と話を続けるセリナ。
内容としては、先程アマリスの思いに触れ、今までの自分の傲慢さに気付いたこと。
その身を捧げても、罪滅ぼしをしようとするベラの姿に、心を洗われたこと。
それらを、相対していた両者から受けた事を踏まえ、マルセルに向き合う機会をいただきたいと言うのだった。
これまでの頭ごなしの彼女からしたら、大きな進歩と言えた。
「そう、それがあなたの意思なのね?」
優しい姉のような顔になるエリシア。
「はい、但しまだ犠牲者が増えると判断した時は、彼を幽閉致します。そのお許しだけは戴きたく存じます」
毅然と言うセリナ。
最高機関に属するマルセルを、確証無しに牢に入れるのは、民衆への心象もよくないという配慮だった。
「いいわ、この一件をアークセントリオン・ヴァルテリウスに委ねます」
と、その役職を呼ぶ度に心を震わすエリシアがいた。




