第33-1話 〜其々の生き方〜
白く艶々な石の床。
それとは対照に艶を消した天井と壁。
しかし、その両方ともがやはり、白かった。
壁には水辺に集う動物たちの絵が掛けられていた。
そして窓から覗く景色は、その絵に匹敵するくらい美しかった。
潤い輝く緑の葉、色を競り合う花たち。そして、大きな池は澄み渡り、そこにカンムリカイツブリが優雅に泳いでいた。
(ここはアラコールとは比べ物にならない)
ベラはこの部屋に通されてから、半日以上は経っているが退屈どころか目を奪われるものばかりだった。
コンコンコン、ドアが鳴った。
窓辺に立って、その鳥を眺めていたベラ。
慌ててソファに戻り、そして姿勢を正した。
が、入って来たのはなんと、アマリスだった。
「……!?」
と、呆然とするベラ。
てっきり尋問か拷問にセリナがやって来るのだと思っていた。
そんなベラを見て、
「どうしたんですか?驚いた顔をして」
と、驚きを返すアマリスの声。
その声に、涙が溢れそうになった。
このアマリスの娘がテオドラにより、殺されたのは聞いていた。
直接ではないにしろ関与したことに間違いはない。
そんな自分を憎むどころか、包み込むような目で……
「赦されはしないだろうけど、人にはそれぞれ事情があるのでしょう」
そう語り出すアマリスの言葉に、もう限界だった。
ボロボロと大粒の涙を溢し、泣き崩れるベラ。
(こんな人たちを、苦しめて来たなんて……)
ベラが泣き止むのを待ったアマリスが、
「ねぇ、これ以上私たちのような人を出さないためにも、ここの人たちに協力してもらえたら……」
アマリスは柔らかくそう加えるのだった。
だが、その程度では罪滅ぼしにもならないと思い悩むベラ。
「ベラさん、私はいつまでも悲しんでなんかいないわ。娘がきっと見ているから笑っていないと……」
何が言いたいのか、ただアマリスの顔を呆然と見るベラだった。
「だからいつまでも人を恨んだりなんてしません」
そう言いつつもスカートをきつく握り締めるアマリスの震える手。
「アマリスさん……」
ただ名前を呼び俯くことしかできないベラだった。
そこでまたドアが開いた。
入って来たのは少し遣る瀬無い表情のセリナだった。
聞こえる話し声に入るタイミングを失っていたようだった。
最愛の娘を奪ったその一味にさえ、赦しとも取れる言葉をかけるアマリス。
そんな彼女に対して自分はどうだったであろうか——
自責のような自問に立ち尽くしていたというわけだった。
そして、出てきた答えは汚辱そのものだった。
(やはりまだ私は未熟者だ、許せリヴィア、クリス)
今は遠い地にいる二人を、気にかけながらそう思うセリナだった。
気を取り直すセリナ、顔は大将軍の厳しさに戻った。
「ベラとやら、サングィナトーレスの企みを洗いざらい話してもらうぞ、いいな」
と、敢えて強く問い掛けるのだった。
「私の知り得ることはなんなりと」
強くセリナを見つめ返すベラの目。
しかし、彼女の持つ情報は余りに少なかった。
が、自身のこれまでの経緯を話すベラに偽りの心を見つけられないセリナ。
「そうか、ではユトレーデルも……事情は聞かされていないんだな?」
そう聞くセリナに、
「はい、私には何も」
そういいつつ左に顔を向けるベラは何か思い出したのか、
「確かシリウスと呼ばれる方が、リヴィアという名前をと……」
ベラの話に目を見張るセリナ。
「シリウスだと——」
一歩ベラににじり寄るセリナは続けて、
「ハイ・コンシリウスのことか、他にはマルセルと言う名は聞いていないか!」
と、捲し立てるのだった。
「いえ、そのような、ただシリウスという名は聞き覚えのない名でございましたので」
記憶を振り絞るように答えるのだった。
「そうか!?」
また落ち着いた冷たい顔に戻るセリナ。
そして、立ち去り際に、
「そういえば、其方は今後どうするつもりだ」
と、肩越しにベラを見据えた。
(どうする?)
理解が追いつかないベラは呆けたようにセリナを見つめた。
「ベラさん将軍様は……」
アマリスの声に半分理解したようなベラ。
「閣下、、、」
そう呼ぶ声は震えていた。




